スペース2021.09.01

立山を望む地にアロマとハーブをテーマに、隈研吾氏が設計を手掛ける体験型施設「Healthian-wood(ヘルジアン・ウッド)」を開設。

富山
前田薬品工業株式会社 代表取締役
Daisuke Maeda
前田 大介
拡大

拡大

拡大

拡大

拡大

拡大

立山連峰を望む田園の中、国内最大級のハーブ園に囲まれたVillageが広がります。富山県立山町で施設を運営するのは売上高38億円(2020年9月期)と、ジェネリック医薬品の外用剤では国内トップ5に入る、前田薬品工業のグループ企業。前田薬品工業は2014年に薬の検査結果書き換えから行政処分を受けて経営に大きな打撃を受けていました。3代目の社長に就任した前田大介(まえだ だいすけ)さんは就任後、V字回復を成し遂げます。今は予防医学の面からアロマに着目し、アロマオイルの工房やハーブ畑を整備、建築家・隈研吾(くま けんご)氏の設計によるVillage、「Healthian-wood(ヘルジアン・ウッド)」を核とする美容と健康の体験型施設の完成を目指しています。取材はこの「Healthian-wood」で行いました。

 

製薬会社が手掛けるアロマ工房とハーブ園

目の前に広がる美容と健康の体験型施設「Healthian-wood」について教えてください。

いろいろあってからの社長就任後に無理がたたって寝込んでしまったことがあるんです。そんな時にアロマの癒やし効果で救われたことがありました。アロマやハーブは日本では香りを楽しむ雑貨品として扱われますが、ヨーロッパでは薬局で販売されています。予防医学の一環でもあり、「薬都とやま」の製薬会社としてアロマ事業に取り組んでみようと考えたのが始まりです。

約4万平方メートルのエリアに、アロマオイルを抽出する工房と原材料のハーブ園、富山の旬の食材を味わえるレストランや、敷地内で収穫したハーブから精油を抽出する工房などを開設しました。

隈研吾さんの建築を象徴する木組みの柱とガラスの大屋根の下で、マルシェや音楽イベントやウエディングなどの催し物に活用できる広場も開設しました。運営は、関連企業の株式会社GEN風景が担当しています。

新たな計画もあるそうですね。

施設内で抽出した精油を配合したオイルによる、オリジナルのボディ&フェイシャルトリートメントが受けられるスパや、香りと音によるリトリートサウナ施設、一棟貸し切り型のヴィラの開設も予定しています。

 

立山のふもとの自然を大事にしたいと隈研吾氏に設計を依頼

新国立競技場も手掛けられた建築家の隈研吾さんに設計を依頼された経緯を教えていただけますか。

Healthian-woodの近くで、富山市の酒造メーカーである桝田酒造店の社長・桝田隆一郎さんが参画して酒蔵の建設計画を進めていました。その建築設計を担当されていたのが隈さんでした。桝田さんのご紹介で隈さんとのご縁がつながり、設計を依頼することに。立山のふもとの自然を大事にした施設を作ってほしいとお願いし、隈さん自身何度も足を運ばれ、美しい建物ができあがりました。隈さんはHealthian-woodのグランドデザインと、各施設のデザインと設計を担当され、「立山連峰のふもとに広がる田園風景、その環境に建物をなじませるために、この地域の伝統的な散居村(さんきょそん)のように分散した配置としました」とコメントされています。

Healthian-woodの世界観を説明いただけますか。

「予想外に込み上げる美しい村」。これがHealthian-woodの目指す世界観です。国内外から立山のふもとまで足を運んでいただき、アロマオイルの抽出を見学し、精油製品を手にしていただきたいと考えています。

さらに畑で採取したハーブを使ったお茶や旬の食材を使ったお食事を味わっていただきたい。そしてせっかくなら宿泊して星空や立山からのご来光を仰ぎ見て、田園地帯を散策する。そんな、日常から離れた時間を過ごしていただきたいと、今もプロジェクトを進めています。

2021年4月には、近くにある休校中の小学校(日中上野小学校)の校舎活用に向けた、町の跡地利活用事業の運営管理責任者に採択されましたね。

施設を利用し、弊社をはじめ県内外から20を超える企業や個人に参画いただいたうえで共同運営体制を整え、2025年に「インターナショナルスクール」の開校を目指します。

「学ぶ」「働く」「遊ぶ」をテーマに、政治・経済、文化・アート、スポーツ、金融など各界のトップが講師を務める教育プログラムを提供できるよう準備しています。富山から世界で生き抜く力を持った人財育成の一翼を担えるように努めていきたいと考えています。

 

存亡の危機を迎えた1958年創業の医薬品会社の社長に就任

前田さんの経歴を教えてください。

富山県出身で、父母はもともと自分たちで塾を開き、地域の子どもたちに英語や数学を教えていました。前田薬品工業の創業者で初代社長の前田實は母方の叔父に当たります。跡継ぎがいないこともあって父は請われて家督を継ぎ、前田薬品工業に入社します。初代社長が亡くなった後、父が社長に就任、私は京都の大学を出た後、富山に戻って会計事務所で働いていました。29歳の時に前田薬品工業に入社し、最初は工場の製造現場で働きました。高校を卒業したばかりの社員や年配のパート従業員の方と工場で箱詰めをし、薬品の原料が入った30キロほどのドラム缶が重くて移動させる際に汗を流していたことなどを思い出します。

製造現場の経験を経て社長に就任されたのですね。

その後、執行役員に就任。それから2013年に富山工場で大きな問題が起きました。大手医薬品メーカーから受託製造した薬の検査結果が書き換えられていたことが分かったのです。まさに青天の霹靂(へきれき)でした。当時計画されていたM&Aは中止となり、監督官庁の調査も入りました。翌2014年には富山県から10日間の操業停止の行政処分が下されました。当時の社長であった父も把握していなかった事態でした。振り返れば当時、受注が増える中で現場は納期を守るために大切な品質基準をおざなりにし、幹部とのコミュニケーションもとれていなかった状況でした。

大変な危機を迎えました。

父は引責辞任をし、会社再建のために人事刷新を求められる中で私が社長に就任しました。就任から2年半は、社内全体で検査データの見直しや管理体制の徹底的な見直しを進めました。それまで会社で積み上げた30年から40年分の利益が吹き飛び、社員が半分くらい辞めていきました。地獄の日々でしたね。どこまで赤字が広がり、どこまで人が辞めていくのか、品質改善にはいったい何年かかるのかと考えると底なし沼のような日々で、毎日つぶれると思っていました。

そこからはどんな思いで回復にこぎ着けたのでしょうか。

自分が踏ん張らなくてはと思ったのは、半分くらいの社員が辞める中、残ってくれた半分の社員がひたむきに頑張る姿に尽きます。

コストを削ることに尽力し、小さい子どもを抱えた社員も夜遅くまで残って体制立て直しに力を尽くしてくれました。会社再建中は、社外から厳しい目が注がれ、私自身は社長室に幽閉されたような状態で仕事をすることを求められました。映画「ショーシャンクの空に」*1のような状態でした。

*1「ショーシャンクの空に」1994年公開のアメリカ映画。監督フランク・ダラボン、原作スティーヴン・キング、出演ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン。冤罪で収監された元銀行副頭取をめぐる刑務所内の人間関係を描いたドラマ。

 

「選択と集中」からV字回復を成し遂げる

回復の決め手となったのはなんでしょうか。

2年が経った頃、ようやく光明が見えてきました。選択と集中ですね。当時の売上20億円のうち、内用剤と呼ばれる「飲み薬」が5億円、外用剤といわれる「塗り薬」が15億円でした。

その中で、成長分野であり、価格下落が起きにくい外用剤の製造に絞ることを決断しました。その結果、無駄なコストも削減され、安定成長に入れました。

その後、過去最高益を記録し、世間でいうところのV字回復を成し遂げ、新規事業にチャレンジできるようになりました。それでも社長でいる限り、次は何が起こるかという不安は消えないと思います。災害や事故も起こりうるかもしれないと考えると経営者として安心する日はこないですね。

新規事業であるHealthian-woodを運営するために、新たな会社として、株式会社GEN風景(げんふうけい)を設立されました。

皆さんが原風景として感じ取る「原っぱの風景」、目の前に広がる「現在の風景」、それらをうまく組み合わて「Goodな縁(en)」をつなぐ、そして共同経営する建築家で知人の「大工のゲンさん」。この四つの意味をかけ合わせて「GEN風景」と名付けました。雄大な立山連峰ときらめく富山湾、見渡す限り続く田園の中で、お客さまが心身ともに本来の豊かな姿を取り戻し、日常から解放される原風景であってほしいと思っています。

次の一手を教えてください。

地域限定旅行業者の登録を受ける準備を進めています。国内の観光客に加え、新型コロナウイルスの収束後には海外からのお客さまにも、Healthian-woodを訪れてほしいと考えています。レストランやアロマ工房を楽しんでいただき、レストランで富山の食を味わった上で、産業観光に対応した弊社の工場見学や、周辺の施設で「薬都とやま」のものづくりや地域の魅力を感じてほしいと思っています。

会社の目指す方向性についてどのように考えていますか。

人生100年時代といわれる時代に、健康寿命を延ばし健やかで豊かなライフスタイルを人々に提供したいと考えています。外用剤の製薬メーカーとしてだけでなく、あらゆる面から健康に貢献する「全方位型健康寿命延伸コンテンツ創造企業」に転換を図り、世の中に必要とされる100年企業を目指します。

仕事をするうえでいつも気にしていることはありますか?

サザンオールスターズの桑田佳祐さんの歌詞にある「まじめに好きなようにやんな」*2という言葉が気に入って大事にしています。2010年に食道がんが見つかり、音楽活動を休止し、手術・治療に専念した桑田さんが命の瀬戸際から復帰し、最初に出演したステージが紅白歌合戦でした。そこで最初に歌ったのが「それ行けベイビー!!」。最初に発した歌詞の中にこのフレーズがあります。遊びもあり、優しさもある言葉だと思っています。自分自身もどん底にあった当時を振り返りながら、「まじめに好きなようにやんな」*2と言い聞かせながら新しいことに挑戦したいと思っています。

*2 引用元:「それ行けベイビー!!」、作詞桑田佳祐、2011年、アルバム「MUSICMAN」より。

取材日:2021年7月8日 ライター:加茂谷 慎治

前田薬品工業株式会社

  • 代表者名:前田 大介
  • 設立年月:設立1966年2月、創業1958年
  • 資本金:9,300万円
  • 事業内容:医薬品・医薬部外品・化粧品の企画、開発、製造、販売
  • 所在地:〒930-0916富山県富山市向新庄町一丁目18番47号
  • 電話番号:076-451-3731
  • 連絡先:https://www.maeda-ph.co.jp/contact/
  • URL:https://www.maeda-ph.co.jp/
  • 関連施設:Healthian-wood(ヘルジアン・ウッド)
    所在地:〒930-3213富山県中新川郡立山町日中上野57−1
    北陸自動車道「立山IC」から車で約10分/JR富山駅から車で約35分
    電話番号:076-482-2536
    連絡先:info@healthian-wood.jp
    URL:https://healthian-wood.jp/

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP