職種その他2021.09.15

株式会社かたちの挑戦。障がいを持つ方の就職に“IT”という選択肢を

大阪
株式会社かたち 代表取締役
Rinsuke Nishimura
西村 凛介

株式会社かたちが運営する「未来のかたち」は、障がいを持つ方が就職を目指してスキルを身につける「就労移行支援事業所」です。障がい者が働く事業所というと、焼き菓子やパンなどの製造や、内職のような作業をする場所だとイメージされている方も多いのではないでしょうか? しかし、未来のかたちは、まったく違います。

ここは、「IT」の分野に特化した専門教育を行い、経験者・未経験問わず一般のIT企業への就職を本気で目指せる“プロ養成スクール”なのです。「パソコンが好きで、仕事にしたい!」そうお考えの障がいのある方々に新しい選択肢を示し、全力で就職をサポートしている、代表取締役の西村凛介(にしむら りんすけ)さんにお話を伺いました。

 

「なぜ、福祉事務所の多くは作業系だけ?」障がい者の方々とのふれ合いで気づいたこと

御社が手がけていらっしゃる事業の内容を教えてください。

就労移行支援事業所「未来のかたち」では、障がいのある方を対象に、一般企業への就職に必要な知識やスキルを向上させるためのサポートをしています。彼らの仕事というと、作業系をするイメージを持たれている方も多いと思います。しかし、私たちがこだわり、他の施設と大きく異なっているのは、“IT分野”での就職を目指しているところ。一般的なビジネスソフトの使い方はもちろん、プログラミングなどの専門スキルを身につけるための環境が整っています。就職活動をサポートするための、面接の練習や履歴書の書き方指導、適職診断、企業探しなども行っています。

利用者の方はどのように学んでいるのでしょうか?

現在は、Osaka Metro本町駅徒歩1分の本校と、そこから徒歩10分ほどの本町第2校に教室が2つあります。通われている利用者さんは、2校合わせて登録80名ほどでしょうか。精神に障がいをお持ちの方、IT系のエンジニアとして働いていたけれど心が疲れてしまって休職中の方などが通われています。皆さんそれぞれ、学ぶスピードや学んでいるプログラミング言語が違いますので、授業形式でいっせいに教えるのではなく、ひとりひとりが与えられた課題を個別に進めるスタイルです。教室にはIT分野に特化した元エンジニアの講師が常駐していますので、進めていてわからないところがあれば、手を挙げてもらい個別に質問を受け、理解していただくかたちです。

ここで学んだあとは、皆さんどのような企業へ就職されるのでしょうか?

やはり、IT系の企業に就職される方が多いですね。プログラミング言語ができるのが大きな強みになります。また、事務系の仕事に就労する際にも、一般的なビジネスソフトに加えてプログラミングの知識が少しでもあると、重宝されることが多いです。社内で簡単な業務システムを作って仕事の効率化に貢献できたりしますので。就職した企業にはなるべく長く勤めてほしいので、1ヶ月に1回くらいは企業と利用者さんの間に入って話をしています。利用者さんが働きやすい環境づくりをするため、企業に日数や時間の調整をお願いすることもあります。

なぜ、IT分野に特化した就労支援事業を行いたいと考えたのですか?

もともと僕は、就労支援施設の支援員として働いていました。仕事を通して障がい者さんたちとお話をするうちに、パソコンが好きな方がたくさんいらっしゃることに気づいたんです。「パソコンを教えてください」「パソコンが使える仕事に就けませんか」という声を多く聞いていました。しかし、当時自分が働いていた就労支援施設には、パソコンが得意な支援員が誰もいませんでした。パソコンが好きな障がい者さんに対しても、作業しかお願いできなかったんです。他の事業所でパソコンを教えているところもありましたが、学べるのは一般的な表計算やテキストエディタなどのビジネスソフトのみ。しかも、就職先は清掃業だったりして、スキルを活かせる仕事にまったく就けていない実情がありました。それならば、もっともっと専門的な知識に特化し、プログラミングやシステムが組めるようなところまで力をつけてもらえたら、それを強みにIT企業などに就職できるんじゃないか。そう考えたんです。

そこで、独立して自身で就労支援事業の会社を興されたわけですね。

株式会社かたちを立ち上げたのは、今から3年ほど前です。当時自分は20代でした。いつかは独立したいという気持ちは持っていたので、少しでも早い方がいいと思ったんです。仕事をしている中で「これとこれを組み合わせたら面白い事業ができるかも」という発想を持つことがあって、それを自分の手で試してみたくなってしまうんですよね。今やっている事業も、「ITのスキルアップをサポートできるエンジニアの人材」と「メンタルケアやコミュニケーション能力を高めるのが得意な福祉の人材」、この2つが組み合わさったら新しいものができるんじゃないか、という思いつきがきっかけでした。

 

心身ともに成長できる場所づくりを目指して

プログラミングを習得して仕事にするのは、ハードルが高いようなイメージもあります。

利用者さんは精神に障がいをお持ちの方が多いですが、一般の方々との習熟度の差はまったくありません。健常者の方でも、パソコンが得意な方と苦手な方がいますからね。私たちの事業所には、もともとパソコンが好きで、積極的に学びたい方が来てくれているんです。ですから、学びの上では障がいの有無はほとんど関係ないように考えています。

確かに、障がいの有無に関わらず、パソコンが好きな人は得意ですし、苦手な人はとことん苦手ですものね。利用者さんは、ゼロからプログラミングを学ばれるのでしょうか?

ゼロからの方と経験者の方の割合は、半々くらいですね。もともとエンジニアで働いていた経験のある利用者さんもいらっしゃいます。精神的、体調的なコンディションを整えて社会復帰しようと、ブランクを埋めるために来られていますね。今までは、IT企業経験者の方々が通えるような就労支援施設がほとんどありませんでした。せっかくITのスキルがあるのに、作業系をする仕事しか選べなかったら、再就職先で力を活かせないですよね。このような方々のためにも、もっと仕事の選択肢を増やせるような施設が必要だと考えました。

障がいやブランクの有無に関係なく、その人の能力を活かした職に就けるわけですね。

一般的に、就労支援施設を出た方の就職は、法で定められた「障がい者雇用率」を満たしていない会社からの引き合いであることが多いんです。

でも私たちの施設では、一般企業への就職がほとんど。つまり、純粋にその人のスキルを評価して採用してもらっているんです。

これは、障がい者雇用の新しいかたちが叶った、ともいえるのではないでしょうか。とある企業さんに、うちから1人就職してもらったことがあります。すると、1カ月後くらいにその企業さんから再び問い合わせがあって、その方が優秀なので、もう1人お願いできる方はいないか、と言われたんです。

最終的には、その企業さんには4人ほどの利用者さんが就職していきました。うちに通っている利用者さんのスキルにお墨付きをもらった気がして、嬉しくなりましたね。

「未来のかたち」では、オンラインではなく、校舎に通って学ぶスタイルをとられていますね。

2021年時点ではともかく、私は何かを学ぶのには「通ってみんなで学ぶ」スタイルが一番だと考えています。家にこもって独学で学ぶのも、インターネットが発達した今ではもちろんできます。

しかし、教室に来て、人としゃべって、わからないことを教えてもらって、雑談をして…そういうささいなコミュニケーションをとるのが、モチベーションの維持・コミュニケーション能力に実は一番大切なんじゃないでしょうか。

講師が常にそばにいていつでも質問できるのも、教室運営でこだわったポイントです。オンラインのチャットやzoomで質問を受け付けている教室もありますが、その場で質問できた方が絶対にいい。ただでさえ質問することのハードルが高いと感じている方もいるのに、オンラインでは余計距離を感じてしまいますよね。いつでも気軽に質問できる環境づくりを心掛けています。

学習のほかに、ヨガや体操、ゲームなどのレクリエーションを通した交流も積極的にされているそうですね。

心身の不調を防ぐためには、「何かある前」のケアが肝心です。休みがちになってから気づくのでは遅くて、日々のささいなことから、不調のサインをキャッチしたい、と考えています。だから、必ず挨拶し合う、休み時間に雑談をする、お昼をいっしょに食べる、といった交流も、学習と同じくらい大切にしているんです。うちにはメンタルケアの専門家がいますので、いつもと少し様子が違うな、と思った利用者さんへはいち早く声かけをし、話をするようにしています。パソコンのスキルを身につけるのはもちろんですが、心身のバランスを整えてもらうことも、この施設の大きな役割ですから。

 

やり切った経験が、自信になる。

日々のお仕事の中で、大変だな、難しいなと感じるときはありますか?

「IT業界に就職したい」という夢を持ってここに来てくれても、中には離脱してしまう人もやっぱりいます。そんなときは、難しいなあと思ってしまいますね。

講師は半年くらい勉強を見ていたら、その人が技術の習得に向いているか向いていないか大体わかるみたいなんですね。就職できるかもわからないのに、このまま教え続けるのが本人のためになるのか? 向いていないと伝えるべきなのか? と不安になることもあるそうです。

そんなとき、僕はいつも講師に言っています。「もし向いていないと思っても、その人が満足するまで、さまざまな学習方法で、変わらない提供スタイルで教えてほしい」と。例え就職につながらなくても、人生で1回でも本気で学んだ経験は、その人の大切な糧になります。「あのときに、とことんまで頑張った」と思えば、たとえIT企業の就職先にはつながらなくても、あのときは楽しかったと思えるはずなんです。高校野球のようなものでしょうか。優勝できなくても、頑張ったことはきっとその人の自信につながり、生涯の思い出になる。だから、本人がやり切ったと思うまで、ここで学んでほしいんです。

逆に、嬉しいのはどんなときでしょう?

1つの就職例ですが、生活保護をもらいながら通っていた利用者さんがいたのですが、就職が決まり、卒業していきました。「これまではお金を与えられる側だったけど、今度は自分が収入を得て、納税者の側になる。それが嬉しい」と話してくれて。心配していた家族も喜んでくれたそうで、良かったなあと思いましたね。その人だけではなく、その人の周りも幸せになっていくのは、とても嬉しいです。

今後、手がけてみたい事業の構想はありますか?

今までは対象が大人だけだったので、子どもに関わる事業ができたら、と考えています。発達の遅れがある子どもたちが学べるプログラミング教室を作りたいです。プログラミングは、何をすればいいかをステップを踏んで考える必要があるので、ロジカルな思考が自然と身につきます。例えば「友達を作ろう」と思ったときには、まずは笑顔であいさつする、次に、一緒に遊ぶ、名前を覚える、名前を覚えてもらう、といったステップが必要ですよね。コミュニケーション能力が高い人はその流れが自然に身についていますが、なかなかそれができない人もいます。ひとつひとつ段階を踏んで考える練習には、プログラミングがぴったりなんです。これは、「未来のかたち」を運営しているうえで、利用者さんたちの姿を見て感じたことでした。

事業を広げるとしても、常に福祉の目線をお持ちなのですね。

はい、対象となる年代や取り組みの内容が変わっても、軸が「福祉」なのは変わらないでしょうね。働いているスタッフもみんな、家族や周りの人から「いい仕事をしているね」と言ってもらえる。これほど嬉しいことはないと思います。これからも人のためになる仕事を、新しい目線で“創って”いきたい。そう考えています。

取材日:2021年7月9日 ライター:土谷 真咲

株式会社かたち

  • 代表者名:西村 凛介
  • 設立年月:2017年12月
  • 事業内容:就労移行支援事業所「未来のかたち」運営
  • 所在地:〒550-0005大阪府大阪市西区西本町1-7-7CE西本町ビル901
  • URL:https://miraino-katachi.co.jp/
  • TEL:0120-777-422

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