便利なだけではなく「人や会社を幸せにするシステム」を作り、地元の人口増加に貢献したい
ITやシステムというと、どこか無機質でクールな印象を抱く人も少なくないかもしれません。しかし香川県高松市でシステム開発に取り組む三好製作所はちょっと違います。掲げる理念は「思いやりのある情報社会の創造」。その背景には、人や会社を幸せにするシステム作りにこだわる代表取締役・三好幸司(みよし こうじ)さんの原体験がありました。
現在ではシェアオフィス「J.A.M FACTORY」の運営を通じて異業種企業やフリーランス人材との連携を進め、「最終的には地元の人口増加に貢献したい」と話す三好さん。現在までの歩みや、これからの展望を伺います。
「それなりに出世してそれなりに楽しい人生」は嫌だった
三好製作所を立ち上げるまでの三好さんのキャリアについて教えてください。
大学時代に電気関連を学び、卒業後は「ものづくりの仕事がしたい」と考え、四国内では規模の大きい電気系の会社へ就職しました。ハードディスクの生産で業容を拡大した会社です。私もハードディスクの部署で働き、アメリカへの赴任も経験しました。
その一方で、私は独学で学んだソフトウェアのプログラムにもはまっていきました。ハードディスクの開発基盤はとても複雑で、「開発」といっても自分一人の力だけで作れるわけではありません。それに比べてソフトウェアは、自分で作って目の前で動かせる。そんな分かりやすいやりがいに魅せられたんですよね。やがて私は、電気屋としてだけでなく、「ソフトウェア屋」としても仕事をする機会を得ました。
当時手がけた仕事の中で、特に印象に残っているものは?
病院のNICU(新生児集中治療室)に入っている赤ちゃんの様子を、両親と共有するシステムでしょうか。集中治療室は簡単に立ち入れませんが、このシステムによって医師と親が情報交換できるようになりました。両親からも大きくなった子供の様子を医師に伝えることで、医師にとってもモチベーションの向上につながります。
これは決して複雑なシステムではありません。それでも私はこの仕事から、「システムは使い方を工夫することで人に喜ばれるものになるのだ」と教わりました。世の中にあるシステムは、使い方によっては人を喜ばせ、一歩間違えば人を傷つけるものになってしまう。SNSなどは分かりやすい例ですよね。当時の学びは起業後の現在にもつながっています。
当時の三好さんは会社員として順調なキャリアを積んでいたのではないかと思います。なぜ起業を考えるようになったのでしょうか。
実を言うと、20代のころから「いつかは独立しよう」と考えていました。なぜなら、会社員としてのキャリアも出世も、ある程度先が見えていたからです。
それなりに大手の会社だったので、真面目に働いていけば、それなりに出世してそれなりに楽しい人生になっていたかもしれません。
でも私は「先が見えない面白さ」を追いかけたかったんです。せっかく生まれてきたんだから、自分自身の力で何かをゼロから作り上げてみたいと。
そんなことを考えているうちに私がいた事業所が閉鎖されることになってしまい、そのタイミングで会社を退職。インターネットの世界の知見を得るためにITベンチャーへ転職し、2009年に35歳で起業しました。
「半年間売上ゼロ」の危機的状況から、紹介の連鎖へ
創業は順調なスタートでしたか?
いえ、まったく(笑)。人脈無しの状態でのスタートだったため、最初は全然仕事がありませんでした。なんと創業から半年間、売上ゼロだったんです。
しかも私は当時、結婚したばかりのタイミング。実家の離れを事務所にしていたため最低限の固定費で済んだものの、妻にはかなり不安な思いをさせていたと思います。
「半年間売上ゼロ」は厳しいですね……。その状況からどのようにして好転させていったのでしょうか。
初めていただいた仕事のことは一生忘れないでしょう。うどんチェーン店さんから「パソコンや携帯で発注管理ができるシステム」の開発を委託されました。当初はそんなに大規模なシステムではありませんでしたが、店舗の現場で働く方々の要望に応えて少しずつ機能を追加していき、現在でもそのチェーン全店で活用されています。
その仕事ぶりを評価していただき、うどんチェーン店の経営者が別の方を引き合わせてくれて、紹介の連鎖につながっていきました。おかげさまでどんどん仕事が増え、1人では開発しきれない状況になって、組織作りを考えるようになりました。
「思いやりある情報社会の創造」を進めるため、1人目の社員から新卒採用に挑戦
1人でも回せる状況で落ち着いていくのか、それとも仲間を増やして規模を拡大していくのか。フリーランスや個人経営を続けている人の多くが悩む点だと思います。三好さんはなぜ組織作りへと舵を切ったのですか?
システムは勝手に動いてくれるかもしれませんが、トラブルや不具合が絶対に起きないとは保証できません。もし私に何かあったら、お客さまの安心を大きく毀損してしまうことになります。経営者の健康で左右されるシステムなんて、お客さまから見れば怖くて任せられないのでは? とも思いました。
それに、1人でできることの限界が見えつつあったことも事実です。しっかり安定しようと思うなら、覚悟を決めて組織にしていくべきだと考えたんですよね。
とはいえ、志を同じくする仲間を見つけるのは簡単ではないように思います。
最初から新卒採用! それだけ理念への共感を大切にされていたのですね。ITやシステムには無機質なイメージがある中で、「思いやりある情報社会の創造」という言葉を掲げられているのは印象的です。
「創造」には弊社のこだわりとして、「人が作ったものを代わりに売ることはしない」「自社開発を貫く」という思いを込めています。
「情報社会」は、私たちとして弊社はあくまでもIT関係の仕事を続けるのだという決意を示すものです。このものづくりとITをどのようにつなげていくのか。考え抜いた末にたどり着いたのが「思いやり」という言葉でした。
情報社会は間違いなく進んでいきます。誰がなんといっても止まらないでしょう。それなら私たちは、ITでこの世の中が良い方向に進むように貢献したいと考えています。
システムによって時間を短縮したり、ミスをなくしたり、面倒なことを解決したりするのは当たり前の価値です。その上で、どうせ使うなら面白いシステムのほうがいいじゃないですか。人や会社を楽しい雰囲気にできる、そんなシステムを私たちは作りたいと思うのです。
ともに働く社員にも、「こんなシステムがあれば人を笑顔にできるはず!」という思いを大切にして、どんどん新しい提案を出してほしいと期待しています。
ITやクリエイティブに関わる人の活躍の場を増やし、地元の人口増加に貢献したい
御社ではシステム開発だけでなく、シェアオフィス・コワーキングスペースとして「J.A.M FACTORY」の運営も手がけています。なぜこの事業に取り組んでいるのでしょうか。
三好製作所自身は、会社の目指す方向として強みとするシステム開発に特化しています。そんな私たちが“システム以外を得意とする人や会社”とチームを組んでいくために、この場所を作りました。
そもそもITにはいろいろな仕事があります。システム開発をはじめ、ソフトウェア制作やデザインやハードウェア関連業務など、多岐にわたります。
そのなかで三好製作所は、強みとするシステム開発に特化し「10名全員がシステムエンジニア」の会社になろうとしており、会社の目指す方向として「10人規模」を1つの目標としています。
そんな私たちと別の得意分野を持った方が組めたら……と考えていて。J.A.MのJは「ジャパン」、Aは「AI・IoT」、Mは「メーカー」。ここは「AIやIoTを開発するメーカー」を輩出する場にしていきたいのです。
互いの強みを生かし合える場所として「J.A.M FACTORY」があるということですね。
一方では、誰もが活用できるコワーキングスペースとしての機能も持たせています。フリーランスの方にも気軽に訪れていただきたいですね。
この場所があることで「香川で働くのもアリだな」と考える人が増えるかもしれません。
UターンやIターンなどを通じて、実際に地方で働きたいと考えているIT人材やクリエイターへメッセージをいただけますか?
東京にいても、香川にいても、インターネットさえつながっていれば同じ価値を提供できます。香川から世界を相手に働くこともできるでしょう。その意味では、得られるチャンスにも差はないはずです。
また、地方で働くからこその幸せもあるのではないでしょうか。東京には多くの人がいて、競合も多いぶん、たくさん稼げる可能性があるのかもしれない。
でもここなら仕事場に近いところで家賃が安い物件に住めます。多少残業しても通勤時間を短縮できれば、早く帰宅でき、生活に余裕が生まれますよね。
仕事ばかりしていて、家族との時間をろくに確保できないようなら、「何のために仕事しよるん?」という話にもなりかねないですよね。まずは自分と家族が幸せであることが大前提。
その上で、人生の3分の1を費やす仕事にどう向き合うか。仕事=お金稼ぎではなく、仕事が楽しいこともまた重要です。「仕事は楽しくないといけない。」これが最近の口癖になっています。
取材日:2021年8月24日 ライター:多田 慎介
株式会社三好製作所
- 代表者名:三好 幸司
- 設立年月:2009年6月
- 事業内容:Webシステムの設計・開発、ホームページ制作、コンサルティングサービス
- 所在地:〒761-0446 香川県高松市東植田町2014番地2
- URL:https://www.miyoshifactory.co.jp/
- お問い合わせ先:上記サイト内「お問い合わせ」より