アニメ2021.12.15

CGアニメ制作プロダクション・ファイブのグローバル戦略「台湾の地から日本、そして世界へクリエイティブを」

大阪
株式会社5 代表取締役
Makoto Honda
本多 真
拡大

五號影像有限公司 Studio5(1)

拡大

五號影像有限公司 Studio5(2)

拡大

五號影像有限公司 Studio5(3)

拡大

五號影像有限公司 Studio5(4)

大阪に本社を置き、台湾に現地法人を構え、多くの台湾CGクリエイターを擁している、3DCGアニメーション制作プロダクションの株式会社5(ファイブ)。現地で指揮を執る代表取締役の本多真(ほんだ まこと)さんは、日本の映像業界でキャリアをスタートし、多くのアニメーション作品でCGI監督を務めた実績を持っています。なぜ台湾なのか? 台湾ならではの強みとは? ご自身のキャリアも含めてお聞きします。

 

仕事を通して生まれた台湾との縁

 

CG制作に興味を抱いたのはいつ頃でしたか?

国内でCGアニメーションが大きく動き出した2000年頃、私がまだ18歳くらいでしょうか。第一次CGブームと言われていた時代ですね(※)。フリーランスCG監督/アートディレクター・青山敏之さんが、1997年に東京造形大学の卒業制作として発表した作品「PROJECT-WIVERN 」に衝撃を受けてCGに強い興味を持ちました。

その後、地元である大阪の専門学校を卒業し、府内の映像制作会社に就職しました。

 

東映アニメーションの野口光一氏は、映画「トイ・ストーリー」(1995)の影響を受けて、国内でCGアニメーション制作が大きく動き出した2000年頃を、第一次ブームと位置付けている

キャリアのスタートはアニメ業界ではなかったのですね。

興味はあったのですが、当時はまだアニメの仕事をするなら東京に行くしかないという感じでしたから。最初の勤務先では、テレビ番組のテロップなどに加え、Adobe After EffectsでCGによるテレビ番組のオープニング映像を手がけることも。

アニメ業界に入ったのは26歳の頃、日清食品(株)によるアニメーションを軸としたカップヌードルのプロモーション企画「FREEDOM-PROJECT」(2006-2008)に応募して合格し、上京したのがきっかけでした。

 

アニメ業界に入られてからのキャリアを教えてください。

「FREEDOM-PROJECT」で、第86回アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた森田修平監督とご縁ができて、その後も、オムニバス映画「SHORT PEACE 」内作品のひとつ「武器よさらば」(2013年)、「ガッチャマン クラウズ 」(2013年)、「牙狼 <GARO> -炎の刻印-」(2014年)など、いくつかの作品でCGI監督を担当しました。

その間に森田監督から「ユニットとして活動してきたYAMATOWORKS を起業するから一緒にやらないか」とお誘いいただき、YAMATOWORKSの所属になっています。

最初や劇場アニメやOVA(オリジナルビデオアニメーション)作品に携わることが多かったのですが、YAMATOWORKSに所属してからはTVアニメがメインになりました。当時はフルCGのアニメーションはまだほとんどない時代でしたので、作中のメカを担当することが多かったです。

 

台湾との縁はどのようにして生まれたのでしょうか。

ちょうどその頃、知人を介して世界的に人気のトレーディングカードゲーム(TCG)の、アニメ企画の立案にも携わっていました。

その企画のひとつに「さまざまな国の制作スタジオと作品を手がける」という案があり、台湾に興味を持ってくれそうな制作スタジオがあると聞いて、単身で現地を訪れました。これが起業する大きなきっかけになりましたね。

そこで手がけたのが、西遊記をモチーフにハードボイルドな世界観で描いたパイロット映像「Monkey Gang Anarchy」です。ただその後、TCGのアニメ企画そのものは、なくなってしまいましたが。

 

それが、2017年のファイブ設立へとつながっていくのですね。

「当初の企画はなくなってしまったけれど、他にもこういう仕事があるんだけど」と、当時4名ほどのスタッフに話をしてみたら、「会社として起業してくれるならついていきますよ」と言ってもらえたんです。

これがファイブ設立の決め手になりました。最初から「いつかは起業したい」という考えがあったわけではなく、仕事を通して生まれた縁でこうなった、という感じです。

 

現地スタッフとのコミュニケーションはどのように取られていますか?

基本的には通訳を介していますが、現地スタッフもある程度は日本語が分かる人が多いです。「会話はできずとも、ある程度のヒアリングはできる」というところですね。

それでも足りないときは英語で補うこともありますし。設立当初はまだ規模も大きくありませんでしたので、私が直接クリエイティブを手直しして意図を伝えることもありました。

“背中で語る職人”という感じですね。

かっこよく言うとそうなりますかね(笑)。私が言葉だけで意図をきちんと伝えられれば一番いいのですけどね。

 

アニメーションにおける日本と台湾の親和性は極めて高い

 

 

御社の現在の事業についてお聞かせください。

日本で制作されるCGアニメーションや、作品のCGパートの制作。そしてオリジナル作品を手がける部署の二つのラインが動いています。これが事業のベースですね。

 

公式サイトを拝見したところ、プリプロダクション(脚本や絵コンテ、設定資料の制作など実作業に入るための準備作業の総称)に関するソリューションの提供もされているのが目を引きました。

今でこそCG制作は分業制ですが、私たちの世代……たとえば私がYAMATOWORKSに所属していた時代は、モデリングから最後のレンダリングまですべて手がけるのが普通でした。ただ、業界全体の考え方がまだ成熟しておらず、モデリングする際にキャラクターの三面図をもらうことさえも、ほとんどなかったです。

そんなときはこちらで適宜補完したり、逆にこちらから三面図を持ち込んで提案し、承諾を得ることもめずらしくありませんでした。プリプロダクションの不足や遅れは、その後の制作期間に大きく影響してしまいます。

それならばプロダクションを請けるだけでなく、私たちが一部だけでもプリプロダクションを補えるようになればいいのではないか…という結論に至り、そうした経験を生かしてソリューションの提供も行うことにしました。おかげさまで、こちらも好調です。

これまでに手がけた案件の中で、印象に残っているものはありますか?

TVアニメ「アイドリッシュセブン」(2018年)ですね。キャラクターのモデリングをすべて任せていただきましたから。

またダンスパートに関しては、こちらがカメラワークを駆使して撮った何百カットというデータを、別所誠人(べっしょ まこと)監督に編集していただき、それを絵コンテとしてブラッシュアップしていくという手法を取りました。CGアニメーションというよりも実写映像作品のやり方に近い挑戦的な試みでした。それゆえに楽しさもあり、印象にも残っています。

 

御社の台湾進出に関してもお聞かせください。設立からこれまでにどのようなメリットがありましたか?

まず、台湾には、優秀な人材が多く人手にはまったく困らないことです。ファイブ設立当初はまだ、台湾で日本のアニメーション作品を手がけるスタジオが多くなかったので、社員募集をすると力のある人が大勢応募してくれました。

また、台湾はカルチャー的には日本と近く、台湾人のセンスや感覚は日本人に通ずるものがあります。そのため日本のアニメーションを手がけるうえで親和性がとても高いです。さらに、彼らは日本だけでなくさまざまな国の作品をよく見ているので、多様性もあります。

 

日本で流行っているようなアニメーション作品は、台湾の人たちにも人気がある?

人気があると感じます。今はNetflix をはじめ動画配信サービスも充実していますから、タイムラグもありません。日本で話題のTVアニメは、台湾の人たちもほぼ同タイミングで見ていますよ(笑)。

 

それでは反対に、デメリットの方は。

「日本のアニメーション制作をメインに手がける台湾の制作スタジオ」というのはあまり前例がなく、それがそのままデメリットになった面もあり、体制をどのように固めていくかは苦労しました。これは現在進行形ですね。今も、常によりよい形を模索し続けています。

それと、台湾は労働時間にとりわけ厳しいので、定時できっちり仕事を終えるという考えが強いです。

それはもちろん悪いことではないのですが、日本のアニメ業界は”残業してなんぼ”という現実もありますので、どうバランスを取るかよく悩みます。

 

台湾の制作スタジオが日本と肩を並べる存在であり続けること

 

日本のアニメ業界の労働環境については、業界におらずとも漏れ聞こえてくることがあります……。

ただそうした厳しい環境も手伝ってか、日本のCGアニメーションの進歩には、目を見張るものがあります。

そして、台湾がそれにいかに取り残されないようにするかに苦心していて。これからも日本のアニメーション制作に携わりつつ、オリジナル作品も作り続ける。これが今後の目標ですね。

 

そのビジョンを達成するべく、台湾の社員たちにはどのようなことを期待されていますか。

日本のアニメ―ション作品を手がけていることに対して、下請けのような意識は持ってほしくないと思っています。あくまで立場は対等なのだと。言われてただ作るのではなく、日本の制作スタジオと勝負していくのだという意識でいてほしいですね。

最後に、CG業界やアニメ業界を志す人たちに向けてメッセージをお願いします。

この業界を目指すということは、おそらく「好きなことを仕事にしよう」という思いや信念がベースにあると思いますが、それが何を意味するのか、しっかり考えたうえで自分の道を選んでもらえたらなと思います。

労働環境が過酷かもしれません。才能という壁にぶつかるかもしれません。いろいろな意味でアルバイト感覚というわけにはいきませんので、覚悟があるにこしたことはないです。

ちなみに、台湾はすごく住みやすいところですよ。治安がよく、物価も高くはありません。日本でおなじみのコンビニもありますし、私は住みにくいと思ったことは一度もありません。地理的にも近いですし「台湾でアニメーションを作る」という選択肢もありかも、と思っていただけたらうれしいです。

取材日:2021年9月21日 ライター:蚩尤

株式会社5(ファイブ)

  • 代表者名:本多真
  • 設立年月:2017年2月
  • 資本金:555万円(海外子会社含むグループ資本金:16,350,000円)
  • 事業内容:アニメーション、CM、映画、テレビ、PV、ゲーム等の映像制作/アニメーション、映像などのコンテンツの企画開発と配信/著作権および知的財産権などのライセンス取得、管理、運用
  • 所在地:
    大阪本社 〒540-0012 大阪府大阪市中央区谷町2-8-1大手前M2ビル5F
    東京支社 〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西一丁目33番6号JPnoie恵比寿西 1F 

  • URL:https://5-inc.net
  • 問い合わせ先:上記サイト「CONTACT」のお問い合わせフォームより

五號影像有限公司 Studio5

  • Address: 2F.-2, No.73, Zhouzi St., Neihu Dist., Taipei City 114, Taiwan (R.O.C.)
  • URL:https://ch.5-inc.net
  • Telephone number:886-2-2797-1993

©Disney
©2006 FREEDOM COMMITTEE
© SHORT PEACE COMMITTEE
©タツノコプロ/ガッチャマンクラウズ製作委員会
©2014「炎の刻印」雨宮慶太/東北新社
©アイドリッシュセブン

※記事内記載の社名、サービス名、作品名などは、各社の商標または登録商標です

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP