WEB・モバイル2021.12.01

その情熱は美馬市の人気ラーメン店を復活させた。「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」だからこそできる、持続可能な地方創生の取り組み

徳島
株式会社MIMAチャレンジ 代表
Hisanori Kataoka
片岡 久議

徳島県美馬市の活性化に挑む、その名も「MIMAチャレンジプロジェクト」。これを運営する株式会社MIMAチャレンジは、地元の経営者、自治体、都市部の経営者も関わるジョイントベンチャーとして設立されました。

1707(宝永4)年に建てられたという古民家が残る、美馬の「うだつの町並み」。地元の人に愛されているものの、実際は後継者不足に悩む店舗や事業が多く存在します。美馬が抱える課題に取り組み、そうした地元の資産を活用した新たな価値を発信するために奮闘しています。

代表を務める片岡久議(かたおか ひさのり)さんは、日本銀行勤務後に海外MBA留学を経て、外資系金融機関などのプロフェッショナル領域で活躍した経歴の持ち主。

2014年にMIMAチャレンジの母体にあたるG&Cコンサルティング株式会社(以下、G&C)を設立し、地方創生支援に携わっています。その行動力の源泉にある思いや、地方を活躍の場とすることの可能性をお聞きしました。

 

空き家ばかりの景観を「活動する町並み」に変えたい

「MIMAチャレンジ」を立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。なぜ美馬市の活性化への取り組みを決意されたのでしょうか。

 

私自身が行政に近い業務に携わっていましたので、公的な分野での仕事や、社会の役に立つ仕事にずっと興味を持っていました。MIMAチャレンジの母体にあたるG&Cを立ち上げたのは、地方の過疎化や高齢化の深刻な現状を目の当たりにして、課題解決に貢献したいと思ったからです。

G&Cのコンセプトは「民間と自治体、地方と都会、若者とシニアなど、立場の異なる人たちをつないで社会課題を解決する」こと。さまざまな勉強会を開き、都市部の経営者や若者とともに地方創生の現場を訪れる、スタディツアーも行ってきました。

その訪問先のひとつが美馬市だったのです。初めて訪れた際には古民家が軒を連ねる、うだつの町並みの景観に感銘を受け、周辺の豊かな自然環境にも魅力を感じました。そこで、行政や地元関係者との関係構築を進め、うだつの町並みにある森邸という古民家を紹介してもらって、2017年3月からサテライトオフィスとして運用しています。ここからMIMAチャレンジのさまざまな活動が始まりました。

 

片岡さんが考える、美馬市の課題と解決方法とは。


ひとつは、空き家として放置されてしまっている古民家の活用です。うだつの町並みには85棟の趣ある古民家が並んでいますが、私の見る限りはその4割程度が空き家。親の代は地元で暮らしていても、子どもが進学や就職で県外へ出てしまい、家を相続しても地元に戻らないといったケースが増えているのです。

うだつの町並みは新幹線「のぞみ」16両編成と同じくらいの長さです。とてもコンパクトにもかかわらず空き家ばかりでは、せっかく観光客が来ても15分ほどで町並みを一通り見終えて、次の目的地へ向かってしまう。

したがって、これらの空き家を活用し、いろいろな人がビジネスに取り組み「町並み全体が活動している姿を見せられると、観光客の滞在時間を伸ばせるのではないか」と考えています。

もうひとつの課題は、地域の事業承継です。私たちはこれを支援しています。美馬市では、業績が好調であるにもかかわらず、後継者不足のために廃業してしまう事業者が少なくありません。「地域に必要な事業の担い手を見つけられれば、地域の活性化につながる」と考えています

 

「10年越しの事業承継」で人気ラーメン店が復活

 

サテライトオフィス(森邸)

 

MIMAチャレンジの具体的な取り組みを教えてください。


私たちが拠点としているサテライトオフィス(森邸)には、東京の企業5社と地元で新設された企業1社が入居しているほか、兵庫県から移住してきた方が開業したカフェもあります。美馬市を拠点に活動する事業者をさらに増やせるよう、コワーキングスペースとしても使えるようにしました。

また、「町並み一体型ホテル」という構想も進めています。うだつの町並み全体を一軒のホテルととらえ、宿泊場所や飲食店、小売店などの機能を小分けに提供していくという考え方です。

宿泊業や飲食業を開きたい方は、個人で一から古民家を改修したり、地元とのネットワークを作ったりする必要はありません。私たちが改修を進め、地元金融機関や企業とのつなぎ役を務めます。

 

県外から来た人でも事業を立ち上げやすいように支援されているのですね。


はい。こうした取り組みは事業承継の支援にもつながります。ひとつの事例として「人気ラーメン店の復活プロジェクト」を紹介しましょう。

美馬市には、長く地元で愛されていた「天竜」というラーメン店がありました。「美馬のソウルフード」と呼ぶ人もいるほど愛されていたのです。ところがこの人気店も、約10年前に惜しまれつつ閉店に。その後も地元には「もう一度天竜のラーメンを食べたい」と願う人がたくさんいました。

そこで立ち上がったのが「天竜復活プロジェクト」です。後継者として名乗りを上げたのは神奈川県からの移住者。もとのオーナーさんにラーメンのレシピや運営方法をご教授いただき、2020年6月に二代目「天竜」として復活しました。実に10年越しの事業承継が実現したわけです。

二代目「天竜」のオープン当初は、一度に入店できないほどの行列ができました。コロナ禍での時短営業など、苦労も少なくありませんが、新たな店主は日々、初代の味に近づけるべく頑張っています。

 

地方創生を「持続可能な取り組み」とするために必要なこと

株式会社MIMAチャレンジWebサイト:http://mima-challenge.com/

MIMAチャレンジプロジェクトの各事業には、大企業も含めた多様な競合相手が存在すると思います。そうした競合と比べて、御社だからこそ提供できる価値をお聞かせください。


私たちはちゃんとしたプレイヤーであること、つまり実際に地域と関わって働く存在であることを大切にしています。地元の人たちとのネットワーク作りや、地域への溶け込み方にも非常に気をつかっています。

一方で大企業は「枠組みを作ったから今後は地元が頑張って」と、実際にプレイヤーとしては関わることなく去っていってしまう。すべてとは言いませんが……。そして事業は中途半端に終わるケースもあります。

どんなに素晴らしい地方創生のプランを立てても、持続可能な取り組みにつながらないのなら何の意味もありません。

 

「地方創生」という言葉自体、いろいろな場所で掲げられていますが、その意味するところが曖昧になっている印象もあります。地方創生に必要な本質とは何でしょうか?


私は「地方創生を進めるためのプラットフォーム」と、「国や自治体の補助金に依存しない取り組み」が大切だと考えています。

プラットフォームとは、まさにMIMAチャレンジプロジェクトのような場所です。都市部の経営者や若者が地元の人とジョイントベンチャーを作り、地域課題の解決へ取り組んでいく。そこには、地元の既成概念や常識に縛られない、いわゆる「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」が積極的に参画します。彼らが新しいアイデアを生み出しつつ、ジョイントベンチャーを持続性の高い組織として動かしていく、それが大事なのです。

そして一時的な補助金に頼らず、地方創生の取り組みをビジネスにして利益を上げていくことも、持続性のためには欠かせません。もちろん最初のきっかけ作りには、国や自治体の支援が欠かせない場面もあるでしょう。ハード整備など、お金のかかる部分は特にそうですよね。しかし、ビジネスを回していく段階になれば補助金などに頼らず、自分たちで利益を上げていくべきです。

そうして地元のニーズを満たせれば、自然と持続可能なビジネスになるのではないでしょうか。

 

地方の現実は「圧倒的に人材不足」、大きな可能性が眠っている

地方創生に興味を持っている人、あるいは地方で働くことに興味を持っている人も多いと思います。そうした読者に向けてのメッセージをお願いします。

間違いなく言えるのは、地方は圧倒的に人材不足だということです。「地方には仕事がなさそう」と何となく思っている人が多いかもしれませんが、現実は逆です。

特にクリエイターやシステムエンジニアは重宝されるはず。そうしたポジションの人を探してほしいという相談は、私たちのところへひっきりなしに寄せられていますよ。

美馬市への進出を検討している企業からは、「クリエイター人材やエンジニア人材を確保できるなら、進出に踏み切りたい」と聞くこともあります。

具体的にはどのような人材ニーズがあるのでしょうか。

クリエイティブについて言えば、Web周辺の仕事ができる方はもちろん、映像関連(制作・編集など)の経験がある方まで幅広く求められています。

なおMIMAチャレンジでも、G&Cとの連携事業としてWeb制作やライティングを手掛けています。最近では、東京や大阪など都市部の企業からの記事制作依頼も増えていて。地元の皆さんと協力して進めていますが、正直に言うとまだまだ手が足りていません。

そうした状況にあるのは美馬市だけではないはず。地方で働くことに興味があるなら、ぜひ挑戦していただきたいですね。

今は地方に大きな可能性が眠っている時代です。迷ってやらずにあとで後悔するよりも、思い切ってやってみるほうがいいと思いませんか?

2021年10月8日 ライター多田 慎介

株式会社MIMAチャレンジ

  • 代表者名:片岡 久議

  • 設立年月:2018年5月

  • 事業内容:サテライトオフィス運営、事業承継支援、町並み一体型ホテル運営、インバウンド観光支援などの各プロジェクト

  • 所在地:〒779-3610 徳島県美馬市脇町大字脇町字突抜町108番

  • URL:http://mima-challenge.com/

  • お問い合わせ先:http://mima-challenge.com/contact/

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