フランス料理のシェフからインナーレースの企画・生産・販売へ。お客さまに合わせて何を作るか、どんなデザインにするかで相通じる仕事
一度はフレンチレストランのシェフを目指して料理人の道を歩むものの、ふるさとの石川県小松市に戻り、女性用インナーファッションレースの企画・製造・販売を行うメーカーの経営者に就いた𠮷田英男(よした ひでお)さんにお話を伺いました。
𠮷田さんは2021年10月に、国内外の有名女性下着メーカーをはじめ、さまざまなチャンネルにレース素材を提供する株式会社クロダレースの社長に就任。子会社で企画・デザイン・販売部門を担う株式会社YOSHITA TEX(ヨシタテックス)の専務も兼任し、新たなデザインの発信と技術開発に重点を置いた企業経営を目指しています。
かつては「繊維王国いしかわ」と呼ばれ、繊維産業が石川県の基幹産業であったことも今は昔。多くのメーカーの製造拠点が海外に移る中で、𠮷田さんは自社の企画力と技術力にこだわる姿勢を強調します。
女性用インナーファッションレースの国内トップ企業へ成長。国内有名ブランド下着メーカーや海外へ素材提供
小松市は昔から絹織物を中心に、北陸の繊維産地の中核でした。その中でクロダレースがインナーファッションのレースメーカーとして、産地を代表する企業となった経緯を教えてください。
クロダレースは1968年にレース工場として創業し、当初は人形につけるレースやインドネシアの民族衣装向けレース、カーテンレースなどの製造が中心でした。その後、細巾レース(ほそはばれーす)の専門工場に切り替え、女性用インナーファッションレースに特化していきます。1994年には小松市郊外に新社屋と工場を移転新築し、編み機のコンピューター化や最新鋭の製造機器への更新などを行いました。
取引先も広がっていったんですね。
小松市での製造にこだわりながら、売り先はグローバルに拡大しました。国内メーカーはもちろん、誰もが知っている国外の有名下着ブランドやカタログ通販、量販店など多岐にわたる商品に使われています。さらにパリなど海外で開かれるランジェリー展示会を通して、取引先が欧米をはじめ、中国や台湾といったアジアの大手下着メーカーに広がったんです。
父が社長に就任、サポートするため料理の道から転身
社長ご自身の就任までのいきさつを教えてください。
小松市に生まれ高校までを過ごし、福岡の大学に進みました。料理が好きで大手ファミリーレストランチェーンの店舗でアルバイトをするうちにますますのめりこみ、料理人を目指してホテルに新卒で入社しました。早朝から深夜まで調理場で働いて修業を積んだ後、フランス料理のビストロに移ります。
さらに経験を重ねるうちに自分が考えるメニューを提供したいとの思いが強くなり、オーナーから料理メニューを任せてもらえるバーへと移りました。
料理人からレースメーカーに入社されたきっかけは何だったのでしょうか。
27歳になった時に「このまま料理人として道を究められるのだろうか」と考えるようになりました。そんな時に、クロダレースの社長だった父から「中国に工場を出そうと考えているからお前も入社して手伝わないか」と声が掛かったのが、入社のきっかけです。2005年春のことでした。
経営者のご子息だったんですね。なぜ大学卒業時に会社に入られなかったのですか。
もともと父はクロダレースの創業者に請われて、ともに起業時から一緒に会社を発展させてきました。ただ私が大学を卒業した当時、父はまだ役員の一人でしかなかったので、私自身はこの会社に入社することは全く考えませんでしたね。
その後、創業者が急逝され、父が社長に就任します。父としては気を遣うことなく、事業を手伝ってくれる人材を探していたところで、私に白羽の矢を立てたのでしょうね。
料理人から全く異なる分野への挑戦ですね。
料理とレースの企画・製造には「無からモノを作って形にする」という点で相通ずるものがあり、料理人の経験は今に生かされていますよ。例えば、このお客さまにはどんな料理をご提供すれば喜んでもらえるだろうと考えて調理を始めるように、レース作りでも顧客の違い、国内向けか海外向けか、店舗販売の商品か、通販向けの商品であるかなどによってデザインも変わります。
別の例えをすると、ハンバーグを作る際に特徴を出すために牛脂を細かく刻んで入れるとジューシーな仕上がりになります。これをレースに置き換えるとアクセントとなる花柄に、二色づかい三色づかいのレースを用いると見た目が非常に華やかに。花を置く位置、大きさなどで印象は変えられます。これをミリ単位で細かく計算してデザインできるのが弊社の強みで、私たちの商品の付加価値ですね。
国内製造にこだわり高付加価値のものづくりを目指す
中国の工場開設を担うために入社されたとのことでした。計画はその後どうなりましたか?
当時、多くの繊維メーカーがそうであったように、弊社も生産拠点の一部を中国に移すことを計画していました。入社後はその事業を担当する予定でした。しかし計画は急きょ中止になります。現地で工場用地も準備していましたが、中国国内の製造環境や販売経路を検討すると困難な部分が浮かび上がってきたのです。
そこで改めて小松市で足場を固め、他に負けない競争力を持つ付加価値の高いものづくりを目指す方向に舵を切りました。2006年に新しい製造機器を導入するため、本社工場の増設に踏み切ります。さらに多品種、差別化、少ロット、独自化、特許取得といった、自社の技術力や開発力をより高めることに力を入れてきました。
そのための企画やデザイン、知財の管理が、子会社であるYOSHITA TEXの事業です。
技術力と企画開発力でシェアを拡大してきたのですね。
女性用インナーのファッションレースに特化した、いくつかのヒット商品があります。ひとつは、弊社が生み出した ポリウレタンを編む技術を使った、一般的なレースに比べて高い伸縮性を持つ「ストレッチレース」。着心地が良く動きやすいことから、弊社の多くのインナーに採用しています。
また最近では、レース生地の弱点だった切り口のほつれを克服した「カッティングフリーレース」を開発。これは切り口を加工処理しなくても使用できる画期的な商品 で、今後さらに売上が伸びていくとみています。
これからのものづくりの方向性を教えていただけますでしょうか。
技術力を高め、企画開発力を伸ばしたい。「クロダレースを使えば価格は少し高くても必ずヒット商品につながる」「さすがクロダレースの品質は違う」と、お客さまに思っていただけるようなものづくりを目指したいと考えています。そしてその企画・開発を担う YOSHITA TEXを強化していきます。
強みを生かすための、若い発想とベテランの知恵の融合
さらなるシェア拡大に向けての課題はありますか?
最近の若い人は一見、考えていないようでいろいろと考えています。ネットを使って私たちよりもある面では知識も持っている。情報の活用や収集にも長けています。
そうした若い人の発想や考え方を生かし、ベテラン社員の持つ知恵や経験と融合させて、時流に合った商品を開発できる体制を築きたいですね。トップダウン型ではなく、社内の多様な意見や強みを生かせるよう工夫していきたいです。
どのような人材を求めていますか。
まず頭が柔らかい人ですね。さらに自分で考え、自分で行動し、常にチャレンジ精神を持って前向きに発言して実践する人。成功するにこしたことはないけれど、成功しなくてもそれは自分のためになるはず。
一度で投げ出さず、継続してチャレンジし続ける人材を求めています。
デザイナーの感性を磨く ため、毎年ヨーロッパで開催される世界規模の見本市に営業担当だけでなくデザイナーも派遣しています。
最先端の空気を直に感じることで、新しいデザインを作り出してほしいですね。私たちの業種も、しばらくは売上が厳しい時期が続くと予想されますが、これから回復し、右肩上がりになるよう新商品開発は止めずに、お客さま目線で必要とされる商品企画・デザイン・開発を今まで以上に強化しています。
具体的な次の手はどのように考えていますか。
これまで弊社は女性用インナーファッションレースを中心に展開してきました。もちろん、この部門ではオンリーワン企業を目指し、商品企画・デザイン力をさらに向上させていくつもりです。
同時にアウター、スポーツ、医療、フィットネス分野に適した素材開発を進めていて。カッティングフリーレースも積極的に活用していきます。5年先10年先、中国をはじめとするライバルになりうる国の市場や製造現場を考えると、もっと新たな仕掛けが必要になると思っています。
取材日:2021年11月9日 ライター:加茂谷 慎治
株式会社 クロダレース
- 代表者名:代表取締役会長 𠮷田茂男 / 取締役社長 𠮷田英男
- 設立年月:1978年10月
- 資本金:5,635万円
- 事業内容:女性用インナーファッションレースの企画・製造・加工・販売
- 所在地:〒923-0061 石川県小松市国府台5丁目30番地
- URL:https://kuroda-lace.co.jp/
- お問い合わせ先:TEL 0761-47-8111
株式会社YOSHITA TEX
- 代表者名:𠮷田 茂男
- 設立年月:2005年10月
- 資本金:1,400万円
- 事業内容:女性用インナーファッションレースの企画・デザイン・開発
- 所在地:本社と同じ