さまざまな仕事を経験し身に着けた技術で、VRコンテンツのクリエイターに。移住した金沢でビジネス拡大を狙う
守田大介(もりた だいすけ)さんは、自分が本当に打ち込める舞台を探し求める日々を経て、営業として走り回った北陸でお客さまの役に立つ情報発信のお手伝いがしたいと、金沢で起業して移り住みました。現在は株式会社トゥモローズランチの代表として、そして映像クリエイターとして、事業を拡大する日々。今までのキャリアから、現在、そして今後について伺いました。
スキー場、ホテル、IT企業、土木工事……転職を繰り返してたどり着いた起業
金沢へ移住し、法人を設立した経緯を教えてください。
岐阜県の大垣市で生まれ、地元で大学の付属高校に通いました。進路も深く考えることなく、首都圏にあるというだけで系列大学の学部を選択し、エスカレーター式に大学へ進んだのですが、自分がやりたいことを見つけられずに、そのまま退学してしまいました。
地元へ戻られたのですか?
学費を出してもらっていた手前、家へ帰るのも親に申し訳なく、高校時代から得意だったスノーボードの技術を生かして長野県のスキー場で冬季従業員として働きました。その次はホテルで勤めました。いわゆる「黒服」と呼ばれるスタッフで幅広いサービスを受け持ちます。そこでサービス担当としての心構えやおもてなしの精神、言葉遣いなど社会人として必要なことを学びましたね。この時の経験は今も営業する際に本当に役立っています。
独立まではさらに紆余曲折があるそうですね。
3年が過ぎたところで、突然リーマンショックが起こります。ホテルの顧客であった企業のパーティーが続々と取り止めた。ボーナスがカットされ、考えた末に転職することに。自分ががんばった分だけ評価される企業がいいと考えて、次に選んだ仕事はIT企業の営業。体育会系の厳しい雰囲気のなかで、ひたすら営業成績を上げることに集中しました。会社は大きく成長しますが、同時に社内で問題も噴出。私は別の道を模索するため、再び転職しました。建設業で働いていた兄のアドバイスで土木工事業の世界に身を置くことに。個人で工事を請け負う、いわゆる「一人親方」でした。体力には自信があったので、舗装工事や型枠工事などいろいろこなしました。がむしゃらに突き進んだ3年間は楽しかったのですが、どこかで物足りなさも感じていたんです。そんな時IT企業時代の同僚が、大手検索サービスの地図用画像を撮影する会社を設立することになり、手伝ってくれないかと誘われます。
現在の仕事に近づきました。
まずは営業担当として加わりました。各地の店舗や施設を回り、「インターネットの地図上に画像を出してお店をPRしませんか」「店舗の内部も撮影することでお客さまの来店機会が増えますよ」と提案を行いました。本社は名古屋で、私は岐阜や福井、そして石川、富山と営業の範囲を広げていったんです。
撮影はどうされたのですか。
当時は別にカメラマンがいたので、私は営業に専念しました。ですが以前から趣味でカメラ撮影は行っていたので、自分でも凝り出して技術に磨きを掛けるようになりました。契約を重ねるにつれ、もっとお客さまの要望や意向に沿ったサービスができるのではないかと考えるように。
地図サ-ビスにとどまらず、ウェブサイトとの連携や最新のVRコンテンツも提供できないかと構想を練り、2019年の9月に独立。「明日のランチ」という屋号で個人事業主となります。
「明日のランチ」を考えるようなワクワクを提供したい
ユニークな屋号ですね。
仲間と起業の準備を進めていた時、お昼ご飯を食べながら打ち合わせをすることが多く、そのうちに「明日のランチはどうする?」が合言葉のようになりました。そこでチャット上のグループ名も「明日のランチ」にしました。そのまま社名にもして、法人化するにあたって、英語に変えて「トゥモローズランチ」に。「明日のランチをどうしようか」と考える時と同じように、事業を通してみんなをワクワクさせたいという思いも込めたんです。
法人化する際に、拠点を金沢に置いたのはなぜですか。
一言でいえば、金沢の土地と人柄にひきつけられたということですね。独立前から金沢で営業をしていたので、機械メーカー、伝統工芸、小売業、飲食店などさまざまな業界のお客さまの関係がすでにありました。
皆さんとても親切で、懇意になると次は知り合いをご紹介いただきました。
また東京や大阪、名古屋は営業ができる事業者が多い一方で、ライバルも多い。対して金沢は自分の強みを出しやすく、お客さまのニーズもしっかり把握でき、ビジネスチャンスが広がると確信したのです。そして何より食べ物がおいしいです。これが一番の決め手かもしれませんね。今は家族を岐阜に置いて、単身赴任の形ですが、いずれ近いうちに金沢で皆一緒に暮らしたいと考えています。子供を育てるにも緑豊かで文化施設も多い金沢の環境は最適だと思いますし、食べ物を妻や息子に日常的に味わってほしいですね。
営業拠点の事務所で、制作も行っているのですか。
当初は金沢市内に自分の部屋を借りて事務所兼スタジオにしていましたが、機材も増え、手伝ってくれるメンバーもいると手狭になってきて……。2021年夏に金沢市が、起業や新しいビジネスモデルにチャレンジする人材を支援する「金沢未来のまち創造館」を開設しました。その入居者を募集していると知って、応募したところ、運営者による面接を経て無事、入居することができたんです。
行政によるスタートアップの支援はありがたいですね。
閉校となった小学校の校舎を増改築して整備された施設だけに、シェアスペースや入居者が無料で使える貸室もあり、本当に助かっています。元が小学校の校舎なので天井も高く、撮影には好都合です。
リアル店舗での買い物のような疑似感覚をWeb上で
中心となっている事業を教えてください。
ホームページやパンフレット用に一般的なスチール撮影をはじめ、企業紹介や商品PR用の動画撮影がメイン事業。ドローンも使いますし、実際と同じような立体空間を再現するVRコンテンツも制作しています。
独立時、法人設立時、新型コロナウイルス感染症拡大が終息することなく続いています。影響はいかがですか。
独立から半年後くらいにコロナ禍による影響が厳しくなってきました。それでも法人やお店のお客さまのなかには、アフターコロナを見据えて準備をされる方も多かったように思います。非接触型で疑似体験ができるVRへの関心も高く、自分のビジネスにとっては“がんばりどころ”だと、とらえるようにしました。
現在、具体的にはどのようなコンテンツ制作で成果が上がっていますか。
例えばお店の場合、店舗内を3Dで撮影し、Webサイト上にバーチャル店舗を映し出すことで、お客さまはリアルに店舗を訪れたような感覚を体験できます。さらにそこに並べられた商品をECサイトと紐付け、そのままオンライン上で購入できるようにしました。
単にクリックして購入するのではなく、実際に店舗を訪れて購入しているような疑似体験を味わえることで、お客さまの満足度も高まります。
また機械メーカーでは工場内を3D撮影することで、そのメーカーがどのような環境でどんなふうにものづくりを行っているのかを、Webサイト上で見られるようにしました。これにより、求人に大きな効果が表れています。就職先を探す学生にとって、現場に足を運ぶことなく企業を知ることができたようです。就職活動をする上で分かりやすい仕組みを構築できましたね。
メーカーの担当者からは「コロナ禍で就職活動が制限されるなか、学生にアプローチするのにとても役に立った」とうかがっています。
金沢に腰を据えて事業を拡大していく。今後狙うは教育、健康・美容分野
現在の社内体制を教えていただけますか?
まだ社員を抱えるというところには至っていませんが、ビジネスパートナーとなる仲間が2人います。彼らは個人事業主で、私から業務のサポートを依頼することもあれば、仲間からも依頼を受けてお互いに相手の業務をサポートする関係性です。互いに強みを生かしながら仕事を受発注するバランスのいい関係が続いており、双方が協力しながら発展できるようにしていきたいですね。
トゥモローズランチのこの先の事業展開を教えてください。
VRコンテンツ制作をさらに発展させて、教育事業に応用したいと考えています。コンテンツをオンライン配信することで、自宅にいてもVRで体験や学びができるようにと。フィットネスやヨガなど、健康や美容の分野とも相性がいいと思っています。動きのあるVRコンテンツに親しんでいただける仕組みを構築したい。事業がさらに安定し、拡大していけるように頑張っていきます。
取材日:2021年12月28日ライター:加茂谷 慎治
株式会社 トゥモローズランチ
- 代表者名:守田 大介
- 設立年月:2021年7月
- 資本金:100万円
- 事業内容:4K VRコンテンツ撮影・編集制作、スチール撮影、動画撮影、ドローン撮影、高画質Google360°ビュー撮影・編集
- 所在地:〒921-8031 石川県金沢市野町3丁目11-1 金沢未来のまち創造館内
- URL:https://asulun.com/
- お問い合わせ先:TEL 090-9179-8154