介護・子育て・住宅——大手にはできない「地域メディア運営」で、地元へ価値ある情報を提供
介護や子育て、住宅など、幅広い分野でメディア事業を展開するメディカグループ。代表取締役の石崎隆志(いしざき たかし)さんは「情報のバリアフリー化社会を創る」という企業理念を掲げ、丁寧な取材活動に基づくメディア運営を続けています。 手元のスマートフォンでありとあらゆる情報を入手できるようになった現在においても、「メディアの役割はますます重要になっている」と話す石崎さん。理念に込めた思いとこれまでの歩み、そして将来への展望を聞きました。
「限られた情報しか得られない」介護業界を変えるために
起業に至るまでの石崎さんのキャリアをお聞かせください。
私は薬剤師としてキャリアをスタートしました。調剤薬局と民間病院、大学病院での勤務を経て、病院の経営メンバーの1人として働いていた時期もあります。
当時は世の中にインターネットが普及し始めたころでしたが、病院内ではまだ口頭や紙で情報共有していました。私はそれを効率化するためにデータベースソフトを導入し、病院内のコミュニケーションをデジタル化する取り組みを進めました。今で言うところのDX(デジタル・トランスフォーメーション)のはしりですね。
仕組みを整備したことで、スタッフが無駄に病院内を走り回らなくても最新情報を手に入れられるようになりました。成果に手応えを感じた私は、「インターネット上にこうした仕組みがあればもっと便利になるのではないか」と考えました。その思いがメディカグループ設立の原点です。
メディカグループ(設立時:メディカ)の事業は、愛媛の介護情報を届ける「メディカサイト」から始まっています。石崎さんはなぜ介護業界に注目したのでしょうか。
2000(平成12)年に介護保険制度が始まり、民間企業も含めた多くの事業者が介護業界に参入できるようになりました。利用者から見れば、自分に合ったサービスや施設を幅広い選択肢の中から選べるようになるはずでした。
しかし実際は、世の中にたくさんのサービスや施設が登場する一方で、利用者側は自治体や介護関係者が提供する限られた情報しか得られないままでした。ただでさえ大変な状況に置かれている利用者やその家族が、自ら行動を起こし、足を動かして情報を取りにいかなければならない。こうした状況を変えるために、私は介護情報サイトの立ち上げを決意しました。
愛媛県の総合介護情報サイト 『メディカサイト』
(https://www.medica-site.com)
地元の取材者が足を運び、地元の人へ価値ある情報を届ける
「メディカサイト」の立ち上げは順調に進みましたか?
いいえ、当初は苦労の連続でした。 最初にぶつかったのは、情報を発信してくれる病院や介護施設が非常に少ないという壁です。そもそも創業した2006年当時、公式サイトを持っている病院は全体の半数くらいしかありませんでした。介護施設に至ってはほとんどなく、「なぜ自分たちの情報を出さなければいけないんだ?」という考えの人も多かったのです。総じて業界全体が情報発信に対して消極的でした。
また、当時の介護施設の多くは集客や求人に課題感を持っていませんでした。ある介護施設では「インターネットで施設情報を探す人なんているわけがない!」とまで言われましたよ。
サイトに掲載する情報を集めるだけでも、多大な苦労があったのですね。
当時は私が1件ずつ介護施設を訪問し、取材も写真撮影もすべて自分でこなしながら、少しずつ施設情報をアップしていました。いきなり飛び込みで訪問しても、取材なんてさせてもらえません。業界に人脈を持つ人から各施設を紹介していただき、地道に訪ねて回りました。
介護情報サイトは、全国展開する大企業が複数存在する競争が激しい業界ですが、地元密着の介護情報サイトとして成長し続けている理由はどこにあるのでしょうか。
全国展開しているサイトは規模が大きく情報量も豊富なのですが、実は地方の情報はとても少ないのが現状です。
なぜなら、大手サイトは介護施設を全国展開する大企業の情報が中心で、掲載内容も施設側から提供された情報や写真が主体だからです。一方で、地方の介護施設については、施設名や住所等の基本情報しか掲載されていないことが大半です。
対してメディカサイトでは、地元で暮らす人間が取材者として足を運び、地元の介護施設の現場で得た情報を掲載しています。私自身が創業当時に続けていたように、今も丁寧に取材・撮影して情報を届けているのです。だからこそ、地元の利用者や家族にとって、本当に役立つ、価値ある内容のサイトになっていると自負しています。
スマホ・SNS時代だからこそ、メディアの役割はますます重要に
創業17年目を迎え、現在では子育てや住宅など幅広い分野でメディア事業を展開されています。事業拡大の経緯をお聞かせください。
子育て情報メディアは立ち上げから8年が経ちました。きっかけは、当社のスタッフに子育て中のママさんが多かったこと。「外で働きたいけど子どもを預けられる先が見つからない」「子どもと一緒に遊んだり食事したりする場所を見つけづらい」といった悩みを共有するなかで、自分たちの手で役に立つメディアを作りたいと考えました。
そうして生まれたのが、地元のママさんが自ら情報を発信できる、SNSに近い考え方のサイト「母子箱(もこぼっくす)」です。地元情報を発信するとお小遣いがもらえる仕組みにして、一時期は300人を超えるママさんが参加してくれていました。
愛媛県の子育て情報コミュニティサービス 『母子箱(もこぼっくす)』
(https://www.mocobox.jp)
拡大した子育てママさんのコミュニティに対して、私たちは次にどんな情報を提供すべきかを検討しました。
多くの人が関心を寄せていたのは、家族の拠点である新築住宅に関すること。新築住宅に関する情報はたくさんあるのですが、なかなか痒いところに手が届く情報が少ないのが現状。
そこで、「HOUSEリサーチ」という新築住宅の情報サイトを立ち上げました。
「HOUSEリサーチ」は、都道府県単位で地域の情報を提供できる、全国の新築住宅情報メディアとして展開を行っています。
(「HOUSEリサーチ」は全国サービスとして展開しています。)
『HOUSEリサーチ』新築住宅情報センター
(https://houseresearch.jp/)
ビジネスありきではなく、周囲の声から生まれた事業だったのですね。
はい。子育てサイトも住宅サイトも単に収益性だけを追いかけて運営しているわけではありません。すべては「情報のバリアフリー化社会を創る」ことにつながっていると考えています。
スマホとSNSが普及し、今ではほとんどの人が常時インターネットにつながっている時代となりました。これによって、昔のような情報の非対称性は大きく解消されつつあります。かつてはテレビや新聞・雑誌などのマスメディアが発信する情報を受け取るだけだった人々が、興味のある分野へ自ら情報を探しに行き、自ら発信することもできる。何かほしいものがあれば、インスタグラムなどを開いて実際に使っている人の写真や動画を見ることもできます。でも、そんな時代だからこそ、メディアの役割はますます重要になっていると思うのです。
誰もがスマホで情報収集できる時代に、メディアができることは何でしょうか?
はい。スマホ・SNS時代になって、情報の価値が下がってきたとも言われています。
多くの人がスマホの小さな画面から情報に接する時代だからこそ、本当に役立つ情報の意味が問われているのではないでしょうか。私たちは、誰かの役に立ち、「これは保存しておきたい!」と思ってもらえる情報を届け続けたいと考えています。
地方だからこそ、少人数でたくさんのメディアを運営できる
今後の展望をお聞かせください。
情報のバリアフリー化を目指して、引き続き新たなメディアを立ち上げていきたいと考えています。実は、本格的に運用しているメディア以外にも実験的にさまざまなプロジェクトが進行しているところです。これまでにも100近いドメインを取得し、さまざまなメディアを運営してきました。
新しいメディアに実験プロジェクト、それだけの組織体制を整えているということでしょうか。
いえ、当社は私を入れて4人しかいません。プロジェクトベースで外部人材の力を借りていますが、総勢でも20名強という規模です。この体制でさまざまなメディアを動かせるのは地方ならではかもしれません。
今後もメディアを増やしていくために、どんな人材と一緒に働きたいですか?
何かに特化した強みやスキルを持っている人ですね。文章なら、SNSごとの傾向を把握してそれぞれに適した記事を書ける人。画像なら、サイトやSNSごとに最適なビジュアルを提案できる人。さらにはクリエイターチームをまとめていける力がある人、情報収集能力が高い人、システムやデータベース構築に長けた人……。
こうした、多様な個性や得意分野が生かされるようにプロジェクトを運用していきたいと考えています。誰かの得意分野によって、プロジェクト自体がさらに拡大していく可能性もあるはずです。
取材日:2022年1月12日 ライター:多田 慎介
株式会社メディカグループ
- 代表者名:石崎 隆志
- 設立年月:2006年3月
- 事業内容:メディア事業/地域密着型の総合介護情報サイト『メディカサイト』、愛媛の医療・介護人材バンク『メディカコミュニティ』、愛媛の子育て情報サイト『母子箱(もこぼっくす)』、『HOUSEリサーチ 新築住宅情報センター』など多数
- 所在地:〒790-0044 愛媛県松山市余戸東4丁目9番16号
- URL:http://www.medica-group.net/
- お問い合わせ先: