感動は、人の手でこそ伝えられる。親子の絆を深めるフォトムービー「ストーリーズ」開発秘話
心を伝え、人と人を結び、絆を育むチカラになるような感動ムービーを届けたい——。そんな思いからフォトムービー事業「ストーリーズ」を運営するコミットコーポレーション。全国各地の産婦人科医院で導入されている出産メモリアル商品「BABY STORY」をはじめ、さまざまな形で「感動」や「思い」を残すための映像商品の提供や事業展開が進んでいます。
ストーリーズが生まれた原点には、代表取締役・森松直木(もりまつ なおき)さんが消防隊員時代に目撃した、ある光景があったといいます。「日本中の家庭で将来にわたって良い親子関係を継続できるようにしたい」と話す森松さんに、この事業にかける思いを聞きました。
いつでもどこでも見返せるフォトムービーが親子の絆をつなげる
BABY STORYとは、どのようなサービスなのでしょうか。
当社が事業展開している「ストーリーズ」の一環として、親から子へ愛を伝えるフォトムービーを提供しています。
多くの産婦人科医院に「出産を終えたママさんへのプレゼント」として導入していただいており、ママさんからのお申し込みに応じて、生後1カ月検診の際にDVDを病院からプレゼントするという流れです。現在は全国各地の50を超える医院で採用され、年間1万6000世帯に利用されるまでになりました。
BABY STORYでは、ご家族が撮ったお子さんの写真や動画などに加えて、ご家族からいただいたお子さんへのメッセージを素材とし、感動を演出する文字や音楽などを織り込んで編集します。スマートフォンでいつでも再生できるようにしているほか、液晶画面が組み込まれたデジタルDVDパッケージも提供しており、再生機器なしで、いつでもどこでも簡単にフォトムービーを見ることができます。
産婦人科医院としては、出産メモリアルのプレゼントを用意する際にさまざまな選択肢があると思います。そのなかでBABY STORYが続々と導入されている理由は?
BABY STORYには、お子さんが生まれた瞬間のご家族の感動が保存されています。これを後から何度も見返していただくことで、将来にわたって良い親子関係を作ることにつながると考えています。
ママさんやパパさんは「この子が生まれてきてくれたとき、自分はこんなにもうれしい気持ちになれたんだ」と振り返ることができる。成長したお子さんは「自分はこんなにも愛されているんだ」と実感できる。こうして絆をつなげていくことは、社会問題となっている児童虐待や家庭内暴力を防止するためにも欠かせないのではないでしょうか。
私たちの考えに共感してくださる産婦人科医院は着実に増えています。ある産婦人科医の先生は「児童虐待を世の中からなくすことは難しいかもしれないけど、せめて自分の病院で生まれた子だけは虐待の被害にあってほしくない」と話して導入を決めてくれました。
救急の現場で目撃した「親子関係の崩壊」
「ストーリーズ」の事業アイデアが生まれたきっかけを教えてください。
私は大学卒業後、救急・救助を主業務とする消防隊員となりました。当時の経験がストーリーズのアイデアの原点にあります。
119番通報を受けて現場へ急行する際は、人々のリアルな生活の場に踏み込むことになります。ときには不自然な痣(あざ)がたくさんある子どもを見かけたり、介護の必要な年老いた親が放置されていたりする場面を目撃しました。そうした現場で私は、親子関係が崩壊してしまった家庭の現実を知ることになったのです。
命を守る仕事を通じて、虐待や介護放棄の問題に直面していたのですね。
ただ、虐待が強く疑われる場面に遭遇しても、消防隊員としてできることは児童相談所に通報するくらい。それさえも「もし虐待ではなかった場合、親から訴えられたらどう責任を取るのか」と上司から止められることもありました。組織でできることの限界を感じて、モヤモヤした思いを抱えていたんです。
そのモヤモヤは、当時私が趣味で作っていた自分の子どものフォトムービーと結びつきました。愛し愛された事実を、記憶だけではなく「記録」に残すことで、虐待や介護放置の防止につなげられるのではないかと。
映像制作はもともと得意だったのですか?
いえ、あくまでも趣味の領域でしたし、専門的な勉強をしたこともありませんでした。もともとはパソコンに入っている無料のスライドショー作成ソフトに娘の写真を入れて、未来の娘へのメッセージをしたためていたんです。
同じ要領で、友人たちの出産祝いとしてフォトムービーを作ってプレゼントしたところ、とても喜んでもらえました。ある経営者の知人にプレゼントした際には「とても良い活動をしているんだから、ちゃんと事業化して世の中に広めていくべきでは?」というアドバイスも。
それまでの私は起業など考えたこともありませんでしたが、世の中の親子関係を改善することにつながるなら大いに挑戦する意義があると感じ、起業を決意しました。
8万円の中古軽バンに乗り、車中泊しながら全国を回る
事業として展開していく上で苦労した点は。
いちばん苦労したのはお金ですね。起業した28歳のころはほとんど貯金がなく、消防隊員を辞める際の数十万円の退職金だけでは創業資金が足りませんでした。1人で新たな事業を立ち上げようとしても、銀行はなかなかお金を貸してくれません。当初は50万円の融資も断られてしまったほど。そこで銀行が主催するビジネスプランコンテストに出場し、優秀賞を獲得したことで、ようやく資金調達の目処を立てることができました。
もう一つ挙げるとすれば営業活動でしょうか。創業当時から全国の産婦人科医院へ営業をかけていましたが、お金がないので飛行機や新幹線は使えません。8万円の中古の軽バンを買って、荷台に発砲スチロールと布団を敷き、車中泊しながら各地の医院を回っていました。
地道な活動の積み重ねがあったのですね。
とはいえ、ただ営業回りをするだけではなかなかBABY STORYを導入してもらえません。出産ノベルティとしての価格面だけを見れば、単にグッズを用意するよりも費用がかかってしまいますから。産婦人科医院とのつながりを多く持つ方と出会い、院長先生や医師の方々につないでいただいて、少しずつBABY STORYの意義を伝えてきました。
現在、BABY STORYはどのような制作体制で進めているのでしょうか。
社員数は約20名となりました。社内には「写真の補正・トリミング」「ムービーへの編集」「納品」をそれぞれ担うチームがあり、ご発注から最短1週間程度でBABY STORYが完成します。
制作過程では、どんなことにこだわっていますか?
一つは、ほとんどのスタッフが女性、かつママさんであることです。出産を経験しているママさんだからこそ、BABY STORYの制作には人一倍思いがこもっています。
また、制作過程においては極力、自動化ツールを導入しないようにしています。自動化すれば今よりもっと簡単になる作業はたくさんありますが、それでは人の心の琴線に触れるものは作れないと思っているんです。実際、AI(人工知能)にはできないことがたくさんあります。たとえば、写真と音楽の流れに合わせて、どのタイミングでメッセージを入れるかによって、感動の度合いはまったく違うものになる。こうした工夫は人間でなければできません。
他にも、制作過程では「写真に写っている人がお父さんなのか、それともおじいちゃんなのか判断できない」といったケースも珍しくありません。そんなときは必ずスタッフがお客さまへ連絡し、間違いがないよう丁寧に確認を取りながら制作を進めています。
創業当時とは外部環境が変わり、今は誰でもスマホで簡単にムービーを記録・編集できる時代となりました。そのなかにあってのBABY STORYの意味とは?
たしかに便利なアプリがたくさん出ていて、編集も自分でやろうと思えばできますよね。でも家族の写真や動画については、ほとんどの人が「撮りっぱなし」で、データ量だけが増えている状況ではないでしょうか。だからこそ私は、出産という大切なタイミングで、強制的にでもメッセージを残してもらうことが大切だと思っています。
写真をアルバムにまとめているだけでは感動しないかもしれませんが、静止画のスライドショーになって音楽がつき、そこに自分がしたためたメッセージが乗ることで、一気に目頭が熱くなるんですよ。
お客さまのなかには面倒がってメッセージを書かない人もいます。それでも当社では最低限の対応として、定型文だけでも入れさせてもらうようにしています。たった一言、「生まれてきてくれてありがとう」の一文があるだけでも、子どもにとっては大きなメッセージなんです。
魅力的な職場を作り、全国から多様な人材が集まる会社へ
今後に向けては、どのように展望を描いていますか。出産メモリアル以外の分野での展開についてもお聞かせください。
BABY STORYについては、導入してもらえる医院数を300まで増やすことが目標です。日本中の家庭で、将来にわたって良い親子関係を継続できるよう、「子どもが生まれたらBABY STORYを作る」が当たり前になる世の中にしたいですね。
その上で、ストーリーズの事業コンセプトである「色褪せない『わたし物語』の感動を、それぞれの心へ。」を広めていくため、結婚式や還暦祝い、新築住宅を建てたときなど、人生の節目ごとにサービスを提供していきたいと思っています。
こうした展望を踏まえ、今後はどのような人材を迎え入れたいとお考えでしょうか。
出産経験のあるママさんに、さらに活躍してもらえるようにしたいと考えています。この仕事はテレワークでも無理なく分担でき、働く時間の融通もきくので、子どもが熱を出したときなども柔軟に対応できます。ゆくゆくは、BABY STORYを利用していただいたユーザーさんが作り手側に回ってくれるとうれしいですね。
スキル面で言えば、Adobe PhotoshopやAdobe Premiereといった編集ソフトを扱える人はもちろん歓迎です。加えて今後は、テンプレートそのものを新たに制作できるデザインスキルを持つ人や、当社が持つユーザーデータを活用して子育て関連の新規事業開発に携わってもらえる人も求めていきたいです。
地元・愛媛に魅力的な職場を作るとともに、テレワークで全国各地から多様な人材が集まる。そんな会社に成長していきたいと考えています。
取材日:2022年3月11日 ライター:多田 慎介
株式会社コミットコーポレーション
- 代表者名:森松 直木
- 創業年月:2008年5月
- 設立年月:2009年10月
- 事業内容:DVD各種映像物の企画・制作・販売、ウェブサイト・デザインの企画・制作および販売、イベント企画、インターネット・携帯情報端末を活用した広告および販売業務、小売業、レジャー用品の販売・レンタル、航空機を利用した航空写真・航空映像・航空宣伝・航空測量など
- 所在地:〒791-8041 愛媛県松山市北吉田町204番地1
- 電話番号:089-994-8404
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