日本一のフリーペーパーから月額制Web制作サービスへ。情報の海でユーザーを導く羅針盤になる。
「日本タウン誌・フリーペーパー大賞2019」でフリーペーパーの日本一に輝いた株式会社ラシン。大賞を受賞した「SEEKING HIROSHIMA」は、広島の観光情報を外国人旅行者向けに英語でまとめたもので、外国人旅行者ならではのニーズを踏まえた内容とデザインが高く評価されました。
しかしながら同誌は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、2020年春から休刊することに。同社は事業の新たな主軸として、月額制のオリジナルWeb制作サービスを開発しました。
今回は代表の石岡史裕(いしおか ふみひろ)氏に、他業種から広告業界を志して創業するまでの経緯や、「SEEKING HIROSHIMA」制作時の工夫、オリジナルの月額制Web制作サービスなどについて伺います。
未経験からキャリアを積み、Web制作会社を設立
起業前はどのようなお仕事をされていましたか?
私は最初、スポーツ関連施設の管理業務に携わっていました。その時たまたま担当した官報の制作をきっかけに広告制作に興味を持ち、広告制作会社に転職。未経験から、チラシなどのレイアウトを組むDTPオペレーターになりました。
しだいに「デザインをより本格的に勉強したい」と思うようになり、次はデザイン会社に転職。そちらでは期せずして営業やディレクションを担当することになりましたが、自分に意外と適性があることに気づき、今につながる良い経験になりました。
さまざまな広告を担当するうちに「さらに幅広い媒体に関わってみたい」という気持ちが芽生え、今度は広告代理店に入社。その後2012年、31歳の時に独立しました。
独立のきっかけを教えてください。
ホームページやWeb広告、フリーペーパーの制作に力を入れたいと思ったからです。
当時勤めていた広告代理店には、事業の主軸となる特定の媒体がありました。私はその媒体のオプションとして、フリーペーパーやWeb広告の制作を自主的に提案していましたが、勤務先の会社にとって、それらはあくまでサブ的な要素。思うように力を入れられず、はがゆい思いをしていました。
広告は媒体の種類によって、期待できる効果、誘発できる行動が異なります。「お客さまにとってより効果的な広告を追求したい」という思いが募り、独立に踏み切りました。
独立志向は元々ありましたか?
実は、まったくありませんでした。偶然にも複数の会社で多様な業務を経験したおかげで、広告全般の知識が自然と身につき、その時の思いにしたがって独立することができました。その後、法人のお客さまとの取引のしやすさを考慮し、2017年に現在の会社を設立しました。
日本一のフリーペーパー「SEEKING HIROSHIMA」
フリーペーパーの発行を始めたのはいつですか?
創業直後の、2012年です。フリーペーパーの制作も独立の目的の一つだったので、早々に着手しました。当初発行していたのは、広島市内中心部のグルメ・観光情報をまとめた「旨い!広島」というものです。翌2013年には世界遺産・厳島神社を擁する宮島エリアの情報を追加しました。
2015年ごろ、欧米からの観光客が急速に増え始め、フリーペーパーを設置している駅やホテル、観光案内所の方々から「英語版」を望む声が上がりました。そうして2017年から、「旨い!広島・宮島」の英語版である「SEEKING HIROSHIMA」の発行が始まったのです。
2019年には、日本地域情報振興協会が運営する「日本タウン誌・フリーペーパー大賞」で大賞をいただきました。全国各地に約3000誌はあるとされる地域情報誌やフリーペーパー及びWeb・動画などを対象に、誌面クオリティや読者の支持など多彩な視点から審査し表彰するイベントで、2019年度は400誌以上がエントリーしました。「読者である訪日観光客はどんな情報が欲しいのか?」という点を踏まえたきめ細かな情報と、分かりやすさや見やすさを追求した誌面作りが評価されました。
コンテストで大賞に輝いた「SEEKING HIROSHIMA」制作時の工夫を教えてください。
内容・デザインともにユーザー目線で作ることを徹底しました。
外国人観光客と実際に接している、フリーペーパー設置先の方々から、外国人ならではのニーズを収集。ほとんどの外国人観光客が利用する「JRパス」の使用可否をこまやかに記載したり、訪問先で(アレルギー等の事情により)食べられない食材を視覚的に明示できるチェックリストを添付したりするなど工夫をこらしました。
また、ニューヨークの地下鉄案内や現地で作られているフリーペーパーのデザインを参考にし、ユーザーにとって親しみやすく、伝わりやすい誌面をめざしました。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響はありましたか?
そうですね。2019年に大賞をいただいて間もなく新型コロナウイルス感染症が流行しはじめ、2020年の春からやむを得ず休刊することにしました。日本人観光客向けの「旨い!広島・宮島」は2021年12月に発行を再開しましたが、英語版の再開は未定です。
誰もが直感的にホームページを作れる新サービス
月額制Web制作サービス「ラシンWeb+ 」立ち上げのきっかけを教えてください。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、フリーペーパーの発行を停止したのがきっかけです。当社では創業当初からWeb広告やホームページの制作を行なっていたので、それらの経験を活かし、あらためてWebに力を入れることにしました。「ラシンWeb+」 は一から作ったオリジナルサービスなので、運用を開始するまでには1年ほどかかりました(2021年10月運用開始)。
具体的にはどういったサービスですか?
コーディングの知識がない人でも簡単にホームページの作成・更新ができる月額制サービス(月額5,500円〜)です。あらかじめストックされているデザインパーツをドラッグ&ドロップで配置し、直感的にページを作ることができます。
このサービスのポイントは、「初回制作料金が無料」であることです。ホームページの制作には通常、数十万円以上の初期費用がかかります。このことが大きな負担となり、ホームページ制作をあきらめるお客さまが多くいらっしゃいました。「ラシンWeb+」なら一度に大きな費用負担がかからないうえに、お客さまご自身で簡単にページの追加や内容の更新が可能です。
Web業界では今後、どんなことが求められると思いますか?
近年たくさんの便利なツールが開発され、デザインそのものには価値がつきにくくなってきたように感じます。「高品質なオリジナルデザインをゼロから作ること」だけを極めようとすると、差別化が難しいかもしれません。今後はデザインのスキルだけでなく、コンテンツの企画力が求められるのではないかと思います。
貴社の今後の展望を教えてください。
今後は、ラシンWeb+の認知度を高めて、ホームページ制作について困っている方の力になりたいです。特にスタートアップは、ホームページの必要性が高いにもかかわらず制作にかけられる予算は少ないと思うので、集中的にサポートしていきたいです。
また、あるジャンルについてのポータルサイトを新たに構築する計画もあります。当社はグルメや観光に関するポータルサイトの構築・運用経験があるので、それを活かしていろいろな人のお役に立てたらと思っています。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で「既存のホームページにEC機能を実装してほしい」というご依頼もまだまだ頂戴しているので、今後もWeb制作の分野に力を入れる予定です。
一緒に働くならどんな人がいいですか?
仕事内容を楽しんでくれる人がいいですね。たとえば観光系のフリーペーパーなら、観光が好きな人に取材に行ってほしいです。好きな分野のことなら意欲が自然に湧くので、いいものができやすいと思います。
若手クリエイターへのアドバイスをお願いします。
スキルを磨くのは誰もがしていることなので、そのうえでほかに何ができるかが重要だと思います。
たとえば、私のことについて言えば、起業前に営業を経験したこともあり、企画することは得意分野の一つだと思います。自分で企画をして、それに対してデザインやクリエイティブワークをしていく。デザイン技術がメインにあるのではなく、先に企画力があって、そこにデザインを持ってきているイメージです。 誌面や画面の中で「どういうクリエイティブにしたらいいですよ」っていうのには限界があるんです。どこを何色にするとか、写真やフレームの角を丸くするのか、直角にするのか、どんなレイアウトにするか……とか。
先ほど言ったことにも関連しますが、デザイン自体さまざまなツールの登場で簡単に手に入るようになってきているので、それだけだと勝負できない世界になったと感じています。デザインのスキルと「何か」を組み合わせて、その人の独自のサービスやアイテムが作れたら強いですね。
取材日:2022年3月10日 ライター:甲斐 寛子
株式会社ラシン
- 代表者名:石岡 史裕
- 設立年月:2012年1月
- 資本金:100万円
- 事業内容:Webサイト制作、Webメディア運営、観光情報フリーペーパーの制作・発行、各種グラフィックデザイン制作
- 所在地:〒730-0051広島市中区大手町1丁目1-26大手町一番ビル707
- URL:https://ra-shin.jp/
- お問い合わせ先:082-243-3037