WEB・モバイル2022.06.01

「デザイン顧問」として愛媛の事業者を支えたい! クリエイティブの力で販路開拓にも貢献

松山
株式会社シンプル 代表取締役
Noboru Masaoka
正岡 昇

愛媛県松山市で創業し、2022年に18年目を迎えるデザイン制作会社シンプル。地元企業や自治体など数多くのクライアントと、独自の「顧問契約」を結んで長期的なブランディング課題の解決に貢献しています。また取り組みはクリエイティブ領域にとどまらず、コロナ禍に立ち向かう企業を応援するため、自社がデザインに関わった商品を紹介するECサイトも開設。「大好きな地元をさらに盛り上げたい」と語る代表取締役・正岡昇(まさおか のぼる)さんに、これまでの歩みや将来への展望を聞きました。

タルトを販売する仕事から、一念発起してクリエイティブの現場へ

起業前の正岡さんのキャリアについてお聞かせください。

もともと図画工作や美術の科目が好きで、地元の商業系高校でレタリングなどの商業デザインを学びました。就職先を決める際にはデザインを仕事にできる印刷会社などを希望していたのですが、僕の成績では厳しく、松山の銘菓タルトを製造・販売する一六本舗という会社に入社しました。

最初はクリエイティブ関連の仕事ではなかったのですか?

はい。入社後は店舗への納品や商品管理を担当し、サブマネージャーとして営業的な仕事も経験しました。クリスマスシーズンなどの繁忙期には、自分も店頭に立って一生懸命に商品を販売していました。
一六本舗には3年間お世話になりました。ただ、クリエイティブな仕事をしたいという思いは消えず……。「もう一度商業デザインを学び、30歳までに独立しよう」と思い立って会社を辞め、松山デザイン専門学校に入学したんです。
デザインの基礎や歴史、デッサン、レタリングなどの手で描く授業を中心に、当時普及し始めていたMacintoshも学びました。そうして2年後、地元のデザイン会社に入社しました。

念願だったクリエイティブの現場に身を置くこととなったのですね。当時はどのような仕事を担当していたのでしょうか。

その会社は新聞広告がメイン。社長がコピーライターで、他にアートディレクターとデザイナー、そして僕が入り4名体制となりました。僕の最初の仕事は新聞広告の罫線を引くことだったと記憶しています。今とは違ってすべて手描きです。インクがにじんでしまったときはカッターで削るなど、ミリ単位での修正を繰り返す地道な仕事でした。
入社して2〜3年が経つころには、先輩のアートディレクターとデザイナーがともに独立したため、社長と2人きりに。それからは僕が中心となって仕事を回しました。新聞広告は週1回のレギュラー業務で、締め切りに追われながら絶えず手を動かしている状況でしたね。
一つひとつの仕事そのものもハードでした。同じクライアントの広告でも、地元紙3紙に出稿するために3種類の版下を作り分け、それぞれ手描きのサムネイルを提出するんです。それでクライアントOKが出たら写真撮影に入り、文字や図などを印画紙に焼き付けて複写する「紙焼き」を進めます。他にもいろいろな工程がありましたが、当時は今と違いインターネットでデータのやり取りはできないので、素材を直接もらうために関係先を自転車で走り回る日々でした。
振り返ると大変な思い出ばかりよみがえってきますが、当時のアナログで地道な仕事経験は、確実に今につながっていますね。

大変なときこそ目の前のクリエイティブに没頭するべき

本格的に独立へ踏み出すことになった経緯は?

僕はデザイン会社に入る際「30歳で独立したいので学ばせてください」と言って入社しました。いよいよ30歳になったとき、希望通りに独立させてほしいと社長に話したんです。とはいえ僕がメインで仕事を回している状況だったので、社長から「それは困る」と言われました。 当時の社長の気持ちは、痛いほどよく分かります。でも僕にしてみれば、外へ飛び立ちたいのに飛べない状況が続いていたわけで……。そこで社長にはっきり言いました。「僕は独立したいんです」「もしどうしても残れというなら、僕に会社をください」と。さすがに僕に会社の経営を委ねるというのは厳しい選択肢で、最終的には社長が折れて独立を認めてくれました。今でも社長には感謝の気持ちしかありません。

「シンプル」という社名の由来と「デザインで、みんなにしあわせを」というコンセプトについてお聞かせください。

社名は悩みました。そのころの松山のデザイン会社は「○○デザイン事務所」といったように、経営者の名前を入れているところが多かったんですよね。でも僕は個人事務所で終わるつもりはありませんでした。せっかく起業するなら、組織として大きくしていきたいと。
シンプルと名付けたのは、純粋に僕がシンプルなデザインが好きだからです。周囲からは「デザイン会社なのに、よくこんな名前を付けたね」と驚かれましたけどね(笑)。
「デザインで、みんなにしあわせを」。このコンセプトも創業時から掲げていたものです。自分たちがデザインすることで、自分たちもクライアントも幸せになり、それを見た人も幸せになれる。そんな会社でありたいという思いを込めています。

創業後のスタートは順調でしたか?

いえ、2年間は仕事が少なくて、ほとんど稼げていない状況でした。前職のデザイン会社経由の案件は断っていました。無理を通して独立した手前、その厚意に甘えることはできないと固辞していました。
代理店さんや同業者さんからの依頼が増えるようになったのは3年目に入るころからです。きっかけは、過去の僕の仕事を見てもらったこと。当時の僕は「賞を獲ることが仕事を得る最短ルートだ」と考え、地元で権威のある愛媛広告賞を目指して、一つひとつの仕事に魂を込めていたんです。結果、何度も入賞し、そうした実績が新たな仕事へとつながっていきました。
仕事が少ないときには、営業活動や人脈作りにばかり意識が向いてしまうものかもしれません。でも、大変なときこそ目の前のクリエイティブに没頭することが大切だと思っています。僕たちクリエイターが世の中に力を示すためには、いいものを作ることしかありませんから。

社内の本棚に飾ってある受賞トロフィー

長期的にクライアントの課題を解決する「デザイン顧問」として

現在は地元企業や自治体など数多くのクライアントを抱えています。デザインを通して企業・地域の課題を解決するために、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

かつては代理店さんから発注していただく仕事が多かったのですが、今ではほとんどが直接取引のお客さまです。企業・地域との深い信頼関係を構築し、長期的な視点で課題を解決していくために、月額制の顧問契約を結んでいます。

顧問契約を結べば、デザインに関する悩みをいつでもシンプルに相談できるわけですね。

はい。僕たちのクライアントには食品メーカーや蔵元、あるいは下駄を作っているメーカーなど、ものづくりを行っている企業が多いんです。ものづくりを担う人は、商品のネーミングやPOP、パッケージ、広告、ウェブ、SNSなど、常にデザインに関する悩みを抱えています。さまざまな課題に対して単発のプロジェクトだけで解決するのではなく、企業価値を高めるためのブランディングに貢献するのが僕たちの役割。常にデザインを通じてアドバイスすることで、新商品のアイデアにもつながっていきます。

これまでの実績で、特に印象深いプロジェクトについて教えてください。

地元の蔵本・雪雀酒造さんのリブランディングに貢献した事例を紹介させてください。
雪雀酒造さんは多数の商品ラインナップを持つ蔵本でしたが、近年は経営不振に陥っていました。そこで大規模な商品リニューアルを行い、商品の数を絞って斬新なデザインで勝負していくことになったのです。従来の、いかにも日本酒然とした毛筆のデザインを見直し、酒の発祥にまつわる民話として語り継がれる「新たな雀の酒造り伝説」を題材に、新たなアイキャッチを開発。さらに「見てろよ、次の100年を」という力強いメッセージから始まるブランドストーリーも考案しました。
クライアントへのプレゼンの際には、このデザインを形にしたボトルを準備し、1案だけで勝負。先方の社長は一言「とてもいいと思う」と言ってくれて、ここからリブランディングが一気に動いていきました。

「人間力も含めて買ってもらう」クリエイティブ

雪雀酒造さんのボトルデザイン

「プレゼン時に1案のみ」というのは、とても勇気のいることだと思いますが……。

プレゼンに至るまでには、社長をはじめ関係者のみなさんの思いを深く聞かせてもらっていました。その思いを代弁するデザインやメッセージを形にしたので、僕たちとしても大きな手応えを持っていたんです。また、関係者には僕がデザインを考案した際のスケッチなど、バックグラウンドもすべて見せました。「ここまで考えたんです」という過程の努力も理解してもらっていたので、不安はありませんでしたね。結果、このデザインに変えてから周りからの反響も大きく、販路拡大、売り上げ拡大にも貢献していると聞いています。アイキャッチをメインにしたボトルデザインは地元では斬新で、多くの人に注目してもらえました。僕たちはこの仕事で愛媛広告賞の最優秀賞をいただき、デザイン系の書籍などでも紹介されています。

こうした正岡さんの知見を、若手クリエイターへはどのように伝えているのでしょうか。人材育成で重視している点をお聞かせください。

若手には極力「ちゃんとした仕事」を任せるようにしていますね。補助的な業務ばかり振るのではなく、若手自身に主体的に動いてもらうことが大切。どこまで自分が調べたか、どこまで自分が考えたか、そしてどこまで自分なりのデザインを形にすることができたか。そのような経験値を少しでも多く積めるよう、さまざまな仕事を任せています。また、できる限りクライアントとのコミュニケーションを充実させ、相手の人となりを理解していくことが大切だと考えています。それは他の代理店さんや制作会社さんと協働するときにも同様。たくさんの人と絡み、多様な考え方に触れてほしいんです。
AI(人工知能)などの技術が進み、デザインもデジタルに頼る流れが加速していくのかもしれません。しかし、どのような時代においても、人間のクリエイティブが生き残るには人間の感性や創造性を高めるしかない。僕たちはその努力を怠ることなく、「人間力も含めて買ってもらう」クリエイティブを提供していかなければならないのだと思います。

デザインだけでなく、その先の販路も提案する

現在はECサイト「シンプルマーケット」も運営しています。この事業に寄せる思いは?

ECサイトはコロナ禍をきっかけに立ち上げました。人々の動線が制限されるなか、クライアント各社は新たな販路開拓を課題としていたのです。しかし、小規模な事業者ではEC販売になかなか対応できない現状があり、ノウハウも乏しい。それなら僕たちがECサイトを作り、売れるようにしたらいいと思いました。

ECの領域では、すでに大手プラットフォームが存在していますよね。シンプルマーケットにはどのような独自性があるのでしょうか。

シンプルマーケットで紹介しているのは、シンプルがデザインした商品や顧問契約している企業の商品だけです。各商品の特徴はもちろん、デザインの意図も紹介。クライアントから見れば「シンプルはデザインしてくれるし、その先の販路も作ってくれる」という新たな価値になると考えています。
また、大手ECサイトと比べて、クライアントのコスト負担にも大きな差があります。僕たちは手数料として売り上げの15%しかいただきません。今後はシンプルマーケット限定の商品をさらに増やして、地元事業者さんのPRにつなげていきたいと思っています。

正岡さんのお話からは、地元・愛媛への強い思いを感じます。

地元愛は強いと自負しています。クライアントはほぼ愛媛の事業者さんですし、僕は若手のころからずっと、地元に育ててもらいましたから。シンプルがオフィスを構える道後周辺は日本最古の温泉で有名ですが、山の自然が豊かで、車で30分走れば海も見えます。こうした環境から得られる刺激は本当に大きくて、新たなクリエイティブの創造につながっていると感じています。大好きな地元を盛り上げていくために、僕たちは今後も「愛媛のデザイン、ブランディングといえばシンプル」と言ってもらえるよう精進していきたいですね。

取材日:2022年4月26日 ライター:多田 慎介

株式会社シンプル

  • 代表者名:正岡 昇
  • 設立年月:2004年4月
  • 資本金:300万円
  •  事業内容:
    1. ブランディングデザイン事業
      小規模事業者・中小企業のブランド開発、コンセプト開発、商品開発、事業開発、店舗開発、各種企画立案
    2. グラフィックデザイン制作事業
      企業ロゴ、商品ロゴ、ネーミング、名刺、封筒、看板、各種広告物、パンフレット、冊子、パッケージ、販促ツール等グラフィックデザイン全般
    3. WEBデザイン制作事業
      インターネットホームページ、バナー、SNS画像等の企画、制作、管理
    4. 映像制作事業
      CM、PV等の企画、台本制作、進行管理、映像プロデュース全般
    5. ECサイト事業
      デザイン制作依頼をうけた商品の紹介と販売サポート。愛媛のイイもの「シンプルマーケット」での販売支援
    6. SNSサポート事業
      SNSの開設、運用サポート。SNS用のデザイン制作
    7. デザインコンサルティング事業
      ブランド構築やデザイン価値の向上に関するアドバイスとサポート、デザイン提案を実施
    8. デザインセミナー事業
      愛媛県のデザイン専門学校をはじめ中学、高校でもデザイン講義、講演会実績多数。企業、行政でのセミナーや講演会も実施。

      【ECサイト運営/シンプルマーケット】https://www.simple-market.jp/

  • 所在地:〒790-0833 愛媛県松山市祝谷2丁目10‐12 エスポワール品川1F
  • 電話番号:089-909-8508
  • URL:https://www.design-simple.jp/
  • お問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「CONTACT」より

※記載の社名、商品名等の名称は、各社の商標または登録商標です。

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