「思い描いたことは必ず実現できる」 シンガーソングライター、俳優、ライターを経てたどり着いたキャリア教育の道
クリエイティブ事業とキャリア支援事業を両輪に掲げる株式会社キャリアクリエ。代表取締役をつとめるのは、シンガーソングライター・俳優としての経歴をもつ大垣 知哉(おおがき ともや)さんです。その華やかに見えるキャリアの裏側には、いくつもの迷いと決断、そして地道な努力がありました。人生の節目節目で誰もが抱える「自分はどのような仕事がしたいんだろう?」という問い。芸能人からライター、そして会社経営者へとキャリアチェンジをしてきた大垣さんに、その問いに対する向き合い方を伺いました。
芸能界から「書く」仕事に転向
大垣さんは2018年にシンガーソングライターとしてLOVE LOCALの取材(https://www.creators-station.jp/interview/lovelocal/38692)を受けられています。 あれから3年。株式会社キャリアクリエの設立に至った経緯を教えてください。
私は大学を卒業してからシンガーソングライターの活動を始め、29歳で全国デビューしました。その後は東京を拠点として俳優業にも取り組み、エンターテインメント業界の仕事をしていました。しかし時が経つにつれ「このまま同じように仕事を続けていけるのだろうか」という気持ちが大きくなっていったんです。これからはもっと、地に足をつけた活動をしていくべきなんじゃないか、と。そこで、出身地である関西に戻ろうと決意。応援してくれる方々のためにエンタメの仕事は続けつつも、何か他のことでキャリアを築いていけないかと模索していました。
しかし、人前に出る仕事をしていると、新しいことを始めるのは想像以上に大変だったんです。顔が知られているので、人と接する仕事をしたり、営業活動をしたりするのが難しくて。そこで行きついたのが「書く」という仕事でした。
ライターなら人前に出ることなく仕事ができますね。
それまでにも書く仕事をする機会はありました。奈良県の情報誌では神社仏閣についての連載をしていましたし、「レトルトカレー王子」というネーミングでレトルトカレーについて書いていたことも(笑)。しかしそれらはあくまでタレントが好きなことをテーマに記事を書く、というスタンスでした。そこから一歩進み、ひとりのライターとして本格的に仕事をしたいと思ったんです。
そこで、名前を隠すために「大垣 知哉」ではなく「おがき ともや」というライター名を作りました。1文字減らしただけですが(笑)。ライターの募集を探して応募したり、ウェブサイトやブログで発信している地域情報サイトに直接売り込んだりと、地道に仕事を増やしていきました。
もともと書くことは苦手でしたが、ライターの仕事が増えていくうち、苦手意識は薄れていきました。考えてみると、自分は高校生の時から音楽を通して作詞作曲を続けてきたわけですから。「短い言葉で何かを伝える」シンガーソングライターの経験が、ライターになっても活きたのだと思います。
その後、ライターとしてのお仕事は順調に進んでいったのでしょうか?
ありがたいことに、半年くらい経ったころには自分ひとりで抱えきれないくらいの仕事をいただけるようになりました。また、テキストといっしょに写真も撮ってほしい、チラシも作ってほしい、というニーズが増えてきて。交流のあったライターさんやカメラマンさん、デザイナーさんに仕事をお願いして、いろいろな人と協力しながら仕事を受けていくようになりました。こうした仕事をもっと受けられるようにしようと「アイデアスケッチ」というクリエイター集団を立ち上げたんです。
教育の現場に触れ、会社設立を決意
会社を設立しようと思ったのは何がきっかけだったのでしょう?
クリエイティブの仕事は続けていましたが、私にはもうひとつどうしてもやりたいと思った事業があって。それがキャリア教育事業です。株式会社キャリアクリエは、キャリア教育事業を本格的に手掛けるために立ち上げた会社です。
そもそもキャリア教育について考えるようになったのは、取材先の学校で教育の現場を目の当たりにしてからでした。教員の長時間労働が当たり前になり、子どもたちはやりたいことが見つからない。「何で勉強をしなくちゃいけないの?」と訊かれても、自分もきっと答えられない。それでいいのだろうかと思いました。
興味を持って調べてみると、海外では「自分のやりたいこと」をベースにした教育が定着していると知りました。これからはただ知識を詰め込むだけの従来型の教育ではなく、自分の将来の指針を早いうちから見つけ、それに向かって進んでいくための教育が必要です。そこで求められるのがキャリア教育だと確信しました。キャリア教育を事業化し教育の現場にしっかりと関わっていきたいと思い、キャリアコンサルタントの国家資格を取得。2021年に株式会社キャリアクリエを設立しました。
会社設立の背景にはキャリア教育に対する想いがあったのですね。キャリアクリエの事業についてお聞かせいただけますか。
現在はアイデアスケッチ時代から行ってきた広報・広告制作事業を主な収益源として、キャリア教育事業の体制づくりを進めています。キャリアクリエには各専門分野のクリエイターが20人ほど在籍し、プロジェクトごとにチームを組んで進めています。ウェブサイト制作、ウェブコンサルティング、広告・動画制作、デジタルを含めた社内報の制作など、広報に関するあらゆる案件を手掛けられるのが強みです。特に採用コンテンツでは、キャリアコンサルタントの知識と、これまでライターとして100社以上の人事担当者にインタビューしてきた経験を活かせるのも当社の特徴です。
周りを大切にできなかった芸能界時代。その反省が今の感謝につながっている
大垣さんはどのように現場に関わっていらっしゃるのでしょうか?
現在はディレクターとしてクリエイターの皆さんに仕事を割り振るのが私の主な役割です。取材には立ち合いますが、ライティングの仕事はライターさんにお願いするようにしています。ライターからディレクターへと立ち位置が変化するにつれ、役割分担はとても大切だな、と感じるようになりました。自身では70点のものしか作れなくても、120点の仕事ができる優秀なクリエイターの方々に仕事を依頼できる営業能力とコミュニケーション能力があればいい。そうすれば限られた時間で高いクオリティのものが納品できますから。ただむやみに時間をかけるのではなく、常に費用対効果を意識することが大切だと思っています。
なぜ費用対効果を重視されるようになられたのでしょう?
ライターとして駆け出しのころは相場がわからず、辛い思いをたくさんしました。3時間のテレビ番組を要約する仕事を24時間寝ずにこなして、報酬がたったの1200円だったり。そのため、費用対効果を考える大切さが身に沁みたんです。
ですから、いっしょに仕事をしてくれているクリエイターの方々には報酬をしっかりお支払いし、長く続く信頼関係を作りたいと思っています。キャリアクリエと仕事をしてよかった、またいっしょに仕事がしたい、と感じてもらえたら。自分は仕事を頼む上司ではなく、むしろクリエイターの方々をサポートする立場にいると思っています。年齢やキャリアに関係なく、関わってくれるすべてのクリエイターさんへの尊敬の気持ちは決して忘れません。
クリエイターさんへの感謝の気持ちを持つようになられたのには、何かきっかけがあるのでしょうか。
エンターテインメント業界にいたとき関わってくれた方々にきちんと恩返しできなかった、という反省があります。当時は自分を商品として売らなくてはいけなくて、人より前に出ることに重きを置いていました。だから、良い時ほど現状に満足しがちで、その甘えが態度に出ていたのだと思います。驕っていると、やっぱり愛されないんですよ。うまくいかなくなるとあっという間に人が離れていく。
この経験を通して感じました。会社を立ち上げたあかつきには、驕らず、謙虚な姿勢を貫き通そうと。それを続けることは、これまで自分に関わってくれた方々への恩返しでもあるんです。
子どもとアスリート、2つのキャリア教育事業を目指して
今後の事業展開についてお聞かせください。
これからは目指していたキャリア教育事業に力を入れていきたいです。キャリア教育事業の軸は2つあります。ひとつは小中学校におけるキャリア教育、そしてもうひとつはアスリートのキャリアサポートです。
キャリア教育で行うのは、自分が人生で何を達成したいか、何をするべきなのかを理解すること。それにはまず自分自身のことを正しく知る必要があります。ヒアリングをしながら、自分はこういうことに興味があるんだ、こういうことに喜びを感じるんだ、と少しずつ知っていくんです。いわば、自分の軸を作っていく作業ですね。これは自分をさらけ出すことですから、家族や友だちが相手ではできません。信頼できる第三者として私たちキャリアコンサルタントが担う役割なんです。
早い段階でキャリア教育を行うことが重要なのですね。
子どもは、関わる大人からしか夢を描けません。いろいろなことを語ってくれる大人がいれば子どもの可能性は広がりますし、その逆もあり得ます。私たち大人はいま、子どもたちの将来にとって良い環境を作れているでしょうか。
海外の学校にはキャリアカウンセラーが常駐していて「こんな仕事があって、その仕事に就くにはこんな学びが必要なんだよ」と教えてくれます。これからはキャリアクリエが日本でのその役割を担っていきたい。キャリアの専門家として子どもたちといっしょに考え、選択肢を広げる手伝いをしていけたらと思っています。将来的にはクリエイターと協力し、キャリア教育における独自コンテンツの制作も手掛けたいと思っています。
アスリートのキャリアサポートはどのような内容でしょうか?
ライターとして取材をしていたころ、アスリートの方々が引退や怪我でキャリアチェンジを迫られると非常に苦労するという話を聞きました。土俵は違えど、私自身もエンタメの業界で同じような経験をしているのでその気持ちがよくわかります。そこで、アスリートの方々のキャリアチェンジのお手伝いや、違う分野で力を活かすためのキャリア教育ができないかと考えました。従来のアスリートのセカンドキャリアといえば、育成事業やスポーツメーカーへの就職などが主流でした。しかし実際は、チームワーク、コミュニケーション能力、提案能力など、経験のなかで培ってきた能力がたくさんあるはず。その力を活かせば、もっと幅広い職種からキャリアを選んでいくことができるはずです。それぞれが持っている長所を見つけ、活かし方を考えるのが我々の役割。これから、クラブチームへのアプローチなど事業化に向けて動いていきたいと考えています。
さまざまなキャリアを経験してきた大垣さんだからこそ、できることですね。
私がこれだけはと自信を持っているのは「思い描いたことは必ず実現できる」と信じる力。大学を出てからこれまでずっと、自分のやりたいことを信じてキャリアを重ねてきました。思い描いてやりたいと思ったことは必ず叶います。大事なのは「叶えられる」と心から思えるかどうかです。
人は出会う人に影響を受け、未来を描きます。自分も両親が音楽に関わっていて、たまたま家にあったギターがきっかけで音楽の仕事に興味を持ちました。芸能界、ライターを経て多くの人と出会い、話を聞いて、いまここに立っています。自分も誰かにとって「こんなこともできるんだよ」とヒントを与えられる人になれたら。キャリア教育をさらに多くの人に提供できるよう、これから一歩ずつ進んでいきたいと思っています。
取材日:2022年4月20日 ライター:土谷 真咲
株式会社キャリアクリエ
- 代表者名:大垣 知哉
- 設立年月:2021年6月
- 事業内容:キャリア事業(キャリアコンサルティング、キャリア教育、キャリアコンサルタント育成・支援事業)、広報・広告事業(広報PR・ブランディング、広報誌、ホームページ、会社パンフレット、社内報、映像等の制作、デザイン、イラストの制作・ライティング・撮影)、エンターテイメント事業(イベントの企画・運営、芸能タレント、音楽家、スポーツ選手、文化人等のマネジメント)
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