”映画にとどまらぬ映画館”が挑む、“芸どころ”名古屋の文化再興
拠点である江戸時代の“芸どころ”名古屋を、再び映画・音楽・文化の街にすることを使命に掲げ、映画館「ミッドランドスクエアシネマ」の運営をはじめ、カフェ、広告事業などを幅広く手がける中日本興業株式会社。スクリーン数の多さを活かしてトークイベントやライブなど新しい企画を積極的に開催することで、映画ファンの裾野を広げ、作り手を応援し、業界と地域の発展に貢献しています。今回は代表取締役社長の服部徹(はっとり とおる)さんに多彩な取り組みやビジネスで守り続けていること、映画への想いなどをうかがいました。
映画・カフェ・広告分野すべてを手がけることで、事業の可能性が広がる
御社が手掛ける事業について教えてください。
都市型シネマコンプレックス「ミッドランドスクエアシネマ」「ミッドランドシネマ 名古屋空港」の運営を中心に、カフェ事業や広告事業を展開しています。カフェ事業は新芽がやっと出てきた段階ですが、着実に人材を育てており、将来の柱になってくれることを期待しています。
また、広告事業では映画事業で培ってきたプロモーションのノウハウ を一般企業にも広げていき、さらなる成長を目指しています。劇場映画の公開期間に合わせ、短期集中で興味や盛り上がりの波をつくっていく映画の広告・宣伝手法が役立つ領域がたくさんあると考えています。
江戸時代の“芸どころ”名古屋を、再び映画・音楽・文化の街にする
「ミッドランドスクエアシネマ」ならではの強みはありますか?
スクリーン数と立地が強みですね。施設内に複数のスクリーンがあるシネコンの一般的なスクリーン数は12なのですが、「ミッドランドスクエアシネマ」には14のスクリーンがあります。
実はこの二つの差が非常に大きく、他では上映できないジャンルの作品や、“劇場”という空間を活用した映画にこだわらないイベントにもチャレンジできます。また、東海地方の中心地である名古屋駅前にあるので、地域文化の発展に貢献できます。
地域文化の発展という視点で、もう少しお話を聞かせていただけますか?
映画館の前身は、芝居や音楽を発信する舞台だったと思います。名古屋は江戸時代には“芸どころ”と呼ばれていましたから、当社には、この地を映画・音楽・文化の街にしていく使命があると考えています。
「より楽しく」を忘れず、リスクを恐れずチャレンジし続ける組織
服部社長がトップになるまでのキャリアステップを教えてください。
大学は商学部で学び、松竹に就職。そこで経理、営業促進、ニューメディア開発、ビデオ事業、番組編成といった部署で7年働き、当社に入りました。営業から総務、事業再建、新事業開発などの仕事を経験し、51歳で社長になりました。
社長になられた時のエピソードはありますか?
実は50歳で会社から打診をいただいていたのですが、私の心の準備も組織体制も整っていなかったため「1年待ってください」と返答したんです。その1年で社是と経営理念を再構築してからチャレンジしました。社長に就任してから今年で12年になります。
社是や経営理念に込められた思いをぜひ教えてください。
当社では、社是を「調和ある進化 感動の創造/自己の確立と成長/団結力・組織力の強化/明るい未来と心豊かな国の創造」と定め、経営理念に「より良い商品を より良い環境で より楽しく」を掲げています。
「調和ある進化」に関して、私たちが暮らす地球は調和的に動いています。調和が乱れると戦争や災害が起きるといえます。そのため、どんな時でも人や自然との 調和をベースとした進化を続けていこうという思いが込められています。
「感動の創造」は私たちが先輩から受け継いできた、変えてはいけない事業ドメインにつながります。また「自己の確立と成長」があれば、団結力や明るい未来はおのずと作られていくはずです。“自分で自分を育てることができる人”を育てるのが、私たちのモットーです。
経営理念について、中でも大切にしているのが「より楽しく」の部分。コマを回す自分自身が楽しい毎日を過ごしていれば、調和ある進化につながると信じています。
仕事において、常に心掛けていることを教えてください。
「よほど危険がない限りブレーキを踏まないこと」を心掛けています。大規模な開発などは慎重に考えますが、企画の実行などは失敗してもリスクは大きくありません。むしろ失敗から学ぶこともあります。常にチャレンジできる組織であることを意識しています。
映画にとどまらず、トークイベントやライブなどを通じ、作り手を応援する
未来に向けて、どのようなチャレンジをされていますか?
多様な作品編成はもちろん、劇場を有効利用しようと新たな取り組みにもチャレンジしています。例えば、上映時に監督やプロデューサーなどの関係者によるトークイベントを催したり、「ハロー!プロジェクト」や「BOYS AND MEN(通称:ボイメン)」のファン交流イベントを定期的に開催したり。昨年からは吉本興業とタッグを組んだライブもスタートしました。
これらの取り組みも、14スクリーンあるからこそ可能となります。また、将来的な話になりますが、私たちが主導して映画の制作や映画祭などを開催することで、映画の作り手を応援する のも面白そうですね。
「映画はまるでタイムマシン」
生み出す人間の無限の可能性と、劇場にしかない価値
服部社長が考える“映画の魅力”を教えてください。
私たちの人生は最大でも100年くらい。個人ができることは限られています。私もこれまでの人生で2つの会社しか経験していません。しかし、映画ならいろいろな職業、いろいろな国々、あらゆる時代、さらには地球の外にまで行けてしまう。映画はまるでタイムマシンのような存在です。
私が20代の頃に「インディ・ジョーンズ」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観た時に、「これ以上の作品が今後生まれるのだろうか?」と大いに感動しましたが、その後も素晴らしい作品がどんどん出てきています。
湧き出る泉のように、人間の想像力は底知れないものがあります。人間の能力の凄さを、映画を通じて感じることができるんです。
劇場で見る迫力や、知らない人と共に泣き笑い、空間を共有する独特の体験価値にも確信を持っています。「この映画は劇場で観たい作品」という物言いをする方もいらっしゃいますが、そんなことではなく、すべての作品を劇場で観てもらいたいですね。小さな画面では見えないものが、劇場のスクリーンなら発見できる楽しさもあります。
クリエイターは、心から好きなことを深め・広げ続けることが大事
最後に、クリエイターにメッセージをお願いします。
ちょうど先日、全盲のピアニスト・辻井伸行さんのコンサートに足を運びました。辻井さんは本当に楽しそうに演奏され、演奏が終わるとなんとも言えないにこやかな微笑みをたたえていました。
そこで感じたのが、ピアノや演奏が心から好きだということ。そこまで好きになれるのは、すごい才能なのだと思いました。
クリエイターさんにとって大切なのは、好きなことを深めることです。とことん深めれば広がりが生まれ、広がることでさらに深まっていくのだと思います。
<当社取締役で感動創造本部本部長の貴田吉晴さん、感動創造支援本部 経営企画部部長の上村慎治さんからもメッセージをいただきました>
取材日:2022年5月20日
中日本興業株式会社
- 代表者名:服部 徹
- 設立年月:1954年7月
- 資本金:2億7000万円
- 事業内容:シネマ事業、カフェ事業、アド(広告)事業
- 所在地:〒450-0002 名古屋市中村区名駅四丁目5番28号 桜通豊田ビル10階
- 電話番号:052-551-0274
- URL:https://www.nakanihonkogyo.co.jp
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