スペース2022.09.14

地産地消ならぬ“地材地建” 異なる個性の仲間たちと、100年後のスタンダードを建築する

新潟
株式会社石田伸一建築事務所 代表取締役社長
Shinichi Ishida
石田 伸一

地域材を使った住まいの建築「地材地建」を通して、街を創造する。そんな取り組みで注目を集めている建築事務所が、新潟県新潟市にはあります。現在10人のメンバーで構成されているフラット型組織「株式会社石田伸一建築事務所」では、新潟県内のみならず、全国各地や海外で「地材地建」を生かした建築を展開してきました。
今回は、代表の石田伸一(いしだ しんいち)さんに会社の方針や地域材にこだわる理由などを伺いました。

祖父の背中追いかけ建築の道へ

建築家を目指したきっかけを教えてください。

古民家再生をする大工だった祖父の影響で、大工になりたいと子どものときから思っていました。そんな中、2000年に地元・新潟県十日町で開かれた「大地の芸術祭」で、建築のすごさに刺激を受けて、建築デザインを本業にしたいと本格的に考えるようになりました。その思いをさらに後押ししたのが、就職先である建設事業などを展開する会社に当時在籍されていた先輩の存在です。設計のイロハや考え方、お客さんとの打ち合わせやデザインの考え方、ストイックに仕事と向き合う姿勢……。建築というよりも彼にひかれて同じ職を目指したいと思っていた節もあります(笑)。

建築は「『ワクワク』『うれしい』『楽しい』を作り出すこと」

独立されたのはいつですか?

2018年です。弊社は、2つの事業を軸としています。1つは他社さまへのコンサルティング業、もうひとつが建築設計業です。ただし、「建築」の概念がよく言われるものとは異なっています。弊社で言う建築とは「クリエイティブを建築する」という意味を指します。「ワクワク」「うれしい」「楽しい」を作り出すこと、想いを形にすることを「建築」と弊社では呼んでいます。

御社の思想を教えてください。

「100年前の住宅に学び、100年後のスタンダードをつくる」という創業当時からある思想に、製材所を始めたことで「山を守り、街並みを整える」もプラスされました。

メンバーは「ワンピース」の麦わら海賊団? 同じ未来を見据えて

御社をひとことで表すと、どのような会社ですか?

漫画「ワンピース」の麦わら海賊団です(笑)。別の言い方をすれば、フラット型組織。お互いがお互いの足りないところを補い合って、“一人でも多くの人の暮らしを整えること”を明確な指標として共有している集団です。「100年前の住宅に学び、100年後のスタンダードをつくる」という軸をぶらさずに常に同じ方向に進んでいます。

地域で育った木材の特徴を生かし切る 鹿児島の「地材地建」に感化され

2019年から十日町の杉を知ってもらう「魚沼杉を広めたいプロジェクト」を始められていますが、発端はなんですか?

前職時代の2015年8月に地域材について学ぶため、鹿児島県に行きました。そこで家を建てる人の70%が鹿児島の杉を使用しているということを知り、感銘を受けたのです。そして、この鹿児島県が提唱している「地材地建」という考え方を新潟でも行いたいと考えました。

地元・十日町の杉を使うことを思いつき、全国的にも広く知られている「魚沼」の名から「魚沼杉」とブランディングしました。

国内外に立ち始めた「地材地建」の家 特に長野で好評

プロジェクトを始めてみていかがですか?

全国の会社さまからモデルハウスの設計依頼をいただいた際に、「地材地建」や「魚沼杉」の話をしており、その考え方に共感いただいたところには、同地域産の材木を使用しています。

モデルハウスに訪れた方に実際に触れ、共感していただき、これまでに「地材地建」で80棟以上を竣工しました。新潟のみならず、長野、愛知、栃木、フィリピンと、国内外の実績がありますが、なかでも長野県は棟数も多くなり、広く「地材地建」の考え方が浸透していると実感しています。

加工しづらい木材、捨てずに活用 廃業製材所を引き継ぎ

御社では杉林を所有されています。その経緯と理由を教えてください。

2020年、お世話になっていた魚沼杉の製材所さんが廃業するという話になりました。非常に良い木材を生み出す場所だったこともあり、もったいないと考え、同年11月11日に引き継ぎました。
製材所では伐採、製材を行い、弊社で設計・建築を行うノンストップでの建築を行えるようになりました。また、山の都合で設計するようになりましたね。

「山の都合で設計する」とは?

通常は、やりたいデザインのために木を使います。つまり、欲しい材木のみを使うのが通例です。しかし、弊社では木の特徴を知っているから、木の特性に合わせて設計を変えている。曲がっている、節がある、そういったウィークポイントを考慮した建築にすることで、木を余すことなく使うというのがうちのスタイルです。全国でも唯一ではないでしょうか。

友人と「田園風景に似合う」複合住宅街の開発へ スノーピークも協働

「野きろの杜」完成予想CG  

「野きろの杜」建築模型

御社が手がける、住宅やゲストハウスなどが複合した街 「野きろの杜」が2022年12月に完成するそうですね。このプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。

野きろの杜のデベロッパーであり、10年来の友人である、新潟土地建物販売センター株式会社の川上創社長から「分譲地のデザインを提案してほしい」と相談をいただいたのがきっかけです。

実はそのとき、計画はかなり進んでいました。しかし、よくある一般的な分譲地の計画で、川上社長からは「一旦白紙に戻すので改めて提案して欲しい。」とのこと。そこで「田園風景に似合う街、分譲地をつくりませんか?」と、田舎ならではの場、地材地建、飽きのこない普遍的なデザイン(Long Loved Design)というコンセプトとあわせてご提案したところ、気に入っていただき、話が進んでいきました。

株式会社スノーピークも協働し非常に大きなプロジェクト、不安はありましたか?

不安はなく、楽しみしかありませんでした。僕は以前から街並みをつくりたいと思っていました。僕の考える美しい街並みというのは、建物が統一されていることが大前提です。
美しい街並みで知られる軽井沢や那須高原にはそれぞれに建築協定があります。場所によっては、色彩の景観を守る協定があります。今回のプロジェクトでは、その協定づくりから携わることで、統一された街をつくれていると思います。

家時間の充実を求める東京からの移住検討者が増加

同プロジェクトの手応えは?

想像していた以上の反応がありました。なかでも、東京に本社があるIT企業勤務者の移住検討数の多さには驚きました。今回のプロジェクトがU・Iターンのきっかけになればとは考えていましたが、「家にいる時間の充実度をあげよう」という街づくりの考え方に想像以上の共感をいただき、うれしい誤算でした。
ヒアリングをしてみると、スノーピークさんが手がける街に住みたいというファンの方もいらして、このあたりも狙い通りでした。

海外デザイナーのスキルの高さに驚嘆 日本の仕事も委託

海外での取り組みを考え始めたのはいつごろからですか?

2019年5月からフィリピンのプロジェクトは動き出しました。現地のデザイナーとリモートやメールで意思疎通を図りながら、現地でモデルハウスをつくっています。

現地とのやり取りは?

フィリピンはFacebookが盛んなので、FacebookのMessengerをよく使用しています。あと、多用しているのが、Google翻訳です。これが本当に優秀なので、言葉は通じなくても、現地とのやり取りの内容はだいたい分かります。

先日、3Dデータでイメージを共有して、現地のデザイナーにCGの仕上げをつくってもらったのですが、これが僕の想像以上にかっこよくて驚きました。クリエイターとしてのレベルが高い人もいることを知り、日本の仕事を現地にお願いすることも徐々に増えていくと思います。コストカットもできますし、日本にはない刺激をもらえています。

一緒の目線でこれからの「新しい」を目指したい

最後に今後、どのような人材と一緒に仕事をしたいと考えているか教えてください。

“地材地建を広めたい”というのが会社としての想いで、“僕のようなプレイヤーを増やしたい”というのが個人的な願いです。
その上で、素直で勉強熱心、利他的であれる人。この3つを持っている人と一緒に仕事をしたいと常に思っています。この3つがあれば、一緒に成長できるし、考え方が共有できると考えています。一緒に「新しい」を目指しましょう。

取材日:2022年7月22日 ライター:コジマタケヒロ

株式会社 石田伸一建築事務所

  • 代表者名:石田 伸一
  • 設立年月:2018年7月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:建築設計、設計コンサル
  • 所在地:〒950-0943 新潟県新潟市中央区女池神明3-14-4 2F
  • URL:https://ameblo.jp/ishida-architect
  • お問い合わせ先:同URLをご参照ください。

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