グラフィック2022.09.28

その「日本らしさ」は本当に通用する? 国内ブランドの海外展開を支援するクリエイティブの奥深さ

東京
SGKジャパン(株式会社シャーク・ジャパン) 代表取締役/マネージングディレクター
Reiko Nakamura
中村 玲子

製品のブランディングからデザイン開発、パッケージ制作、印刷品質管理までを一貫して手がけ、世界に60拠点以上を展開するグローバル企業・SGK。その日本法人「SGKジャパン」代表を務めるのが中村玲子(なかむら れいこ)さんです。日本展開を模索する海外企業、そして海外に活路を求める日本企業を支援し続け、数々の有名ブランドのプロジェクトに携わってきました。「グローバル本社が相手でも言うべきことをはっきりと言う」「日本人には気づけない“日本らしさ”を表現する」——そう信念を語る中村さんの歩みと、SGKジャパンで経験できる仕事の魅力を聞きました。

ローカルから全国、そしてグローバル規模の仕事へ “緊張でガチガチ”だった外資系企業の面接

中村さんは1999年にSGKグループへアジア現地採用第1号で入社したと伺いました。SGKと出会った経緯をお聞かせください。

キャリアのスタートは兵庫県神戸市の小さな広告代理店でした。その会社は地元の仕事が中心だったので、「全国規模の案件も経験したい」と考え大手メーカー系の広告代理店へ転職。実際に大規模な案件を経験すると、今度は「グローバルの仕事にも挑戦してみたい!」と思うようになったんです。
私は大学の英文科を卒業していて、英語でのコミュニケーションや海外と関わる仕事にずっと興味を持っていました。とはいえ当時はビジネスレベルの英語を十分に話せるレベルではなく、もう一度勉強し直しながら外資系企業の求人を探していましたね。そんなときに見つけたのがSGKグループの募集情報でした。

初めて外資系企業へ応募するにあたり、不安はありませんでしたか?

もちろんありましたよ。面接官はアメリカ人で、面接は英語で実施。緊張でガチガチになりながら一生懸命に会話したのを覚えています。後で知ったのですが、その面接官は実は日本語はおろか、関西弁までペラペラに話せる人でした。「最初に言ってよ」と思いましたね(笑)。結果、晴れて採用された私はその人の下で働くことになりました。

「俺はもう辞めるぞ!」 唯一の上司が突然去ってしまい……

入社当時はどんな仕事を担当していたのですか?

誰もが知るような大手消費財メーカーの神戸オフィスに常駐し、商品のパッケージデザインや印刷管理を担当していました。大規模に流通している商品なので、パッケージの印刷は世界各地の印刷工場に委託しています。消費者が同じブランドだと正しく認識できるよう、どこで印刷しても同じ品質を維持する役割を担っていました。
また、入社当初から海外の印刷会社やデザイナーさんとやり取りする機会がたくさんありましたね。忙しい日々を過ごしながら、グローバルブランドを世界各地へ展開していくノウハウを学びました。

最初から大きな責任を担っていたのですね。さらに入社の翌年には、立ち上がったばかりの日本法人代表に就任されています。

これは今だから言える話なのですが……。当時のSGKジャパンは少数精鋭だったこともあり、遅くまで残業することも珍しくなかったんです。私を採用してくれたアメリカ人の上司はその激務に耐えきれなくなって、「俺はもう辞めるぞ!」とグローバル本社にメールを送り、本当に去っていってしまったんですよ。現在ならそんな労働環境は考えられないのですが。
その頃、日本法人には私の他に数名のアルバイトさんがいるだけ。かつ当時は日本法人がアジアのヘッドクォーター(地域の中心拠点)で、中国やマレーシアなど各国にも部下がいる状態でした。これまで以上に責任重大な立場となってしまい、不安は相当なものでしたが、迷っている暇もなく「私が日本法人代表を務めるしかない!」と腹をくくりました。それだけ私は、SGKの仕事そのものが大好きだったんですよね。

「グローバルビジネスの進め方」から支援し、 日本ブランドの海外展開に貢献

中村さんが魅了されたSGKの事業領域について教えてください。

SGKグループ全体では「ブランドエクスペリエンス」と「パッケージソリューション」を事業の大きな軸としています。
「ブランドエクスペリエンス」とは、ブランドの戦略を描き、そのメッセージを浸透させていくことを指します。SGKジャパンでは日本の有名ブランドを海外向けにリブランディングする取り組みに力を入れていますね。たとえば顧客から「アジア各国に自社商品を展開したい」といったご相談があれば、目標実現に向けて各国でブランドをどのように表現すべきかを考えていきます。反対に、海外から日本へ入ってくるブランドの戦略を考えることも多々あります。
「パッケージソリューション」では、製品パッケージに関するクリエイティブデザインや版下展開、カラーマネジメントなどのクリエイティブ全般を担当。近年ではパッケージから派生するWebコンテンツなどの制作を任されることも増えています。

日本企業を海外へと橋渡しする重要な役割を担っているのですね。

人口減少が続く日本は、残念ながら将来有望な市場とは言えません。必然的に海外へ目を向ける日本企業が増えていますが、これまで国内のみで展開してきた企業の場合は、海外の商流を理解できずに苦戦するケースも多いんです。そのため私たちは、海外でビジネスを進めていくためのやり方や、海外プロジェクトの進め方そのものから支援しています。
日本法人は現在64人。まだまだ少数精鋭かもしれませんが、私たちの後ろではインドや中国、マレーシア、フィリピンなどの部隊がプロダクションセンターとして支えてくれており、製版作業やカラーリタッチなどの実務を分担しています。グローバル企業ならではの分業体制があるからこそ、私たちはじっくりと顧客に向き合えています。

日本人がイメージする「日本らしさ」は本当に正解? ブランドをローカライズするための工夫

実際のプロジェクト事例についてもお聞かせください。

静岡の老舗のお茶屋さんがアメリカへテスト進出した際のエピソードをご紹介しますね。
このプロジェクトにおいて、私たちはアメリカのチームと一緒に、アメリカではどんなお茶が売られていて、どんな競合がいるのかを徹底的にリサーチしました。顧客の要望は「日本らしさを打ち出したい」というものでした。
「日本らしいデザイン」と言えば、桜の花びらや富士山などをモチーフにしたデザインを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし綿密なリサーチの結果、アメリカで受け入れられやすいパッケージとして私たちが提案したのは、日本人がイメージする日本らしさとはちょっと違う「洗練されたミニマルなデザイン」でした。日本人の感覚では、一見するとお茶のパッケージには見えないと思われるかもしれません。

日本の商品であっても、日本人が感じる「良さ」がそのまま海外で通じるわけではないと。

はい。これがブランドを海外でローカライズする際の難しさであり、面白さでもあります。高級化粧品や宝石は同じイメージで打ち出せるのですが、食にまつわるものや消費財など日常の価値観が反映されやすい商品は、現地の人々のインサイトをいかにつかめるかが勝負の分かれ道なんです。
海外のブランドを日本向けにローカライズする際にも同じことが言えますね。たとえば私たちは、ある大手通販サイトのPB商品として開発された赤ちゃん向けおむつの日本展開を支援したことがあります。日本では、赤ちゃん向けおむつのパッケージには必ずと言っていいほど赤ちゃんの写真がありますよね? しかし海外から提案されたこの商品のパッケージデザイン案には赤ちゃんの写真がなく、私たちからすると「赤ちゃん向けおむつなのにスタイリッシュ過ぎる」印象。そのため海外拠点のメンバーと意見を戦わせながら、より日本人の購買感覚に合うように、かわいいデザインに寄せていったんです。こうした議論がある風景も外資系ならではと言えるかもしれません。

英語にアレルギーがなければ大丈夫! 求めるのは「クリエイターとしての素養」

外資系企業と言えばグローバル本社からのトップダウンが強く、「日本拠点にはあまり裁量がなさそう……」というイメージもありましたが、SGKジャパンでは日本法人としての意図を明確に主張して貫いているのですね。

言うべきことは、はっきりと言いますよ。システム周りはグローバルで統一されていますが、私たちが手がけるプロジェクトでは私たち自身が明確な裁量を持ち、自由に動いています。SGKジャパンはグローバルで見ても業績を伸ばし続けているため、グローバル本社からは“How Can I help you?”(何か手伝うことがあったら言ってよ)と気を遣ってもらっているくらいです(笑)。

グローバル企業でスムーズに仕事を進めるためのマインドセットとして、中村さんはどんなことが大切だと考えていますか?

日本人の中には、海外とやり取りをする際には「とにかくしっかりと自己主張すべきだ」と考えている人が多いかもしれません。しかし私の経験上、自分の意志を伝えて通したいと思うときには、海外でも日本と同じように「根回し」が大切なんですよね。
目の前の人に伝えるだけではなく、「この人の上司や、さらに上の立場にいる人を説得するにはどうすればいいだろう?」と考えながら動く。いかにも日本企業的な発想だと感じるかもしれませんが、案外海外でも通用します。その意味では、相手が海外だということを意識し過ぎず、ビジネスのコミュニケーションにおける基本を忘れないことが何よりも重要なのかもしれません。

SGKジャパンで働きたいと考える場合は、やはり語学力が問われるのでしょうか。

もちろん語学力は必要ですが、最初から流ちょうに話せなくても、英語にアレルギーがなければ大丈夫です。現在のメンバーも全員英語ができるわけではありません。社内には英語クラブがあり、英語に堪能な人が自主的に教えてくれているので、学びの環境としては不自由しないと思います。
むしろ私たちは、語学力以上にクリエイターとしての素養を求めていますね。社内のクリエイティブ部門はDTP寄りの仕事とブランディング寄りの仕事に分かれますが、どちらのポジションでも一人ひとりが幅広い仕事を担当できますし、その分だけ幅広いスキルが求められます。パッケージデザインは奥深い世界ですよ。オフセット印刷以外にもグラビア印刷やフレキソ印刷などの知識が生かせますし、データの作り方も独特で面白いです。即戦力の方はもちろん、これからこの分野を学んでいきたいと考えている方も大歓迎です。

ありがとうございます。結びに今後の展望をお聞かせください。

私たちの事業の軸として、海外から日本、そして日本から海外へのブランド展開を支援していくことは変わりません。最近は特にアジア向けの案件が増えているので、中国語や韓国語が得意な仲間も積極的に迎え入れていきたいと考えています。クリエイティブのトレンドもどんどん移り変わっていくと思うので、グローバルなラーニング環境を生かしながら、社内のメンバー全員で成長し続けていきたいですね。

取材日:2022年8月10日 ライター:多田 慎介

SGKジャパン(株式会社シャーク・ジャパン)

  • 代表者名:中村 玲子
  • 設立年:1999年
  • 資本金:8,000万円
  • 事業内容:ブランドコンサルティング、クリエイティブデザイン、国内外ローカリゼーションデザイン、アートワーク(版下)制作、印刷・カラーマネジメント、ワークフローコンサルティング、プロジェクトマネジメント、デジタルコンテンツ、UI/UXデザイン
  • 所在地:〒141-0021 東京都品川区上大崎2-24-9 アイケイビルディング4F(405)
  • URL:https://sgkinc.com/ja/
  • お問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「お問い合わせ」より

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