WEB・モバイル2022.09.28

移住した25歳CEO、教育格差の払拭目指し“島おこし” 「安西にしか頼めない」が鍵?

広島
合同会社GeneLeaf CEO
Shohei Anzai
安西 翔平

瀬戸内海に浮かぶ広島県江田島で、若者らを引き込む島の「魅力化」に向けた動きが見られ始めています。そのけん引役を担うのが、システム開発やITコンサルを軸に、地域創生、教育事業に力を入れる「合同会社GeneLeaf(以下、ジーンリーフ)」です。学生時代、「孤独感を感じたり、格差に悩んだりした」と話す代表・安西翔平(あんざい しょうへい)さんは、地域や経済、家庭環境の差によって生じる教育格差をなくそうと、島の子どもたちが島を出ずとも力を存分に発揮できるまちづくりを目指しています。東京で会社を設立、江田島へ移住し1年。今では、地域のデジタル化推進になくてはならない存在になっています。神奈川県出身の安西さんがなぜ島暮らしを選んだのか、改革したい理不尽とは、今後の展望などを伺いました。

やりたいことができないなら「自分でやる」 教育格差をなくすため独立

安西さんが起業したのは23歳の時と伺っています。初めから起業すると決めていたのですか。

起業は考えていませんでした。勤めていた会社で自分がやりたいことができなくなった時に、自分でやるしかないなと独立を決めたんです。その会社は、諸事情で大学に行けなかった地方出身の若者に、プログラミングを教えて就職を支援する会社でした。上京にかかる費用から生活費、教育費も会社が負担しエンジニアを育成、企業に紹介し就職が決まれば企業からフィーをいただく、そういうモデルの会社です。
コロナ禍で人材紹介事業が成り立たなくなったため、全く違う仕事を任されることになって。もともと教育格差をなくしたいという思いでその会社を選んでいたので、思い切って独立することにしました。

学校で感じた孤独感、原動力に

教育格差をなくしたい、そう思うきっかけは何かあったのですか。

私自身の経験からですね。公立の中高一貫校を卒業しているのですが、そこでの経験がきっかけになっています。私は教育熱心とはいえない家庭で育っていて、受験したいと言い出したのも自分からでした。俗に言う「お受験」経験者ではなく、独学で勉強して合格しました。倍率が18倍だったらしくて、そこを突破したのはちょっと自慢です(笑)。
入学してみると「お受験組」との家庭環境の差に驚きました。うちの親も参考書など必要なものはそろえてくれたので、決して恵まれていないという訳ではないんです。ただ高校生になると家庭の揉め事もあり、他の生徒みたいに部活や受験勉強に邁進(まいしん)できなかったりもして。あの狭いコミュニティでは、孤独感を感じたり、格差に悩んだりしたのが自分の原点になっていますね。高学歴・高収入の親は子どもの教育に熱心で、質の高い教育を受けさせられるといった、教育を通じた格差が固定されている、そんな世の中への理不尽さを強く感じていました。

知人とともに起業 コロナで「海が見える」オフィスへ

教育の仕事から離れることになり独立されますが、独立に不安はなかったのですか。

それまでも起業が珍しいことではない環境にいたので、特に不安はありませんでした。大学を中退してワーキングホリデーを利用してドイツに渡り、難民にプログラミングを教える団体でボランティアをしたり、帰国後も日本で同様の支援をするNPO法人で働いたりしていたんです。周りに自分の理念を貫いた仕事をする人も多く、起業も珍しいことではありませんでした。今までの活動を通じてプログラミングの知識は身につけていたし、エンジニアの知人もたくさんいたので、一緒に会社をつくらないかと声を掛けて。アプリ開発などを受託する会社として、ジーンリーフを立ち上げました。

立ち上げて半年も経たないうちに江田島に移住されたんですね。なぜ江田島を選ばれたんですか。

コロナ禍で外出を控える生活で閉塞感が高まり精神的にも疲れていたことと、リモートワーク中心になり東京にいる意味が薄くなっていたこともあって、環境の良い場所への移転を考えるようになりました。「オフィスから海が見えるといいな」と思っていた、ちょうどその頃に広島県が企業誘致に力を入れているのを知って、「広島県 海が見えるオフィス」で検索したんですよ(笑)。そこで知った江田島を紹介するイベントに参加して、江田島市役所の担当者の本気の熱意とフットワークの軽さに好感が持てて移住を決めました。また、社員も地方出身が多く移住に抵抗がなかったので、社員も一緒に江田島に移住しました。来てみたら島にはデジタル人材が本当にいないので、自分たちにできることがたくさんあるなと思いました。

代替ができない存在として地域経済を支える 地域創生部も設置

現在の事業について教えてください。

主に二つあるのですが、一つはアプリ開発やWebサイト制作などの仕事。クライアントは主に東京なのですが、最近は広島の仕事なども増えています。
もう一つは今年の4月に地域創生部を作って、主に一次産業を中心に地元の産業を盛り上げていく事業を始めました。地域の細かいニーズに応えられる体制を作っています。江田島とそれ以外の仕事として考えると、3:7ぐらいの比率でしょうか。現在は4名のエンジニアがいるので、制作関係は案件ごとに担当者に任せています。私を含め3名はチームを組んで、地域創生部で動いています。全員20代とまだまだ若い会社です。
私個人としては、以前お世話になっていたNPO法人の理事やプログラミング教育事業を行っている会社のCOO(最高執行責任者)も兼務しています。6月からは江田島市のデジタル推進本部でCIO(最高情報統括責任者)補佐官としても活動させてもらっています。市のデジタル推進に関わるような仕事は、東京ではできなかったでしょうから。仕事の幅が広がったという点は、江田島に来て良かったことでもありますね。

他に島に来て良かったと思うことは。

採用に有利です。東京にいたらうちには入社することはなかっただろう優秀な人材に出会えています。江田島移住をきっかけに注目されることも増えて見つかりやすくなったから、採用もしやすくなっていると思います。
あとは代替が効かない存在になれたことでしょうか。東京とここの一番大きな違いは、仕事が決まるまでのスパンだと思っていて。江田島は人間関係づくりから始まるので、受注につながるまでが長い印象です。しかし、東京では我々は代替可能な存在ですが、人間関係が深まっている江田島ではそうではない。オンラインが普及して仕事を得るチャンスは増えたけれど「安西さんにしか頼めない」と言われる仕事に出会えるのは単純にうれしいですね。

客も一緒に商品づくり? 目指すは“地域経済循環”

御社の強みはどこにありますか。

オーダーされたものをただ作るのではなく、クライアントのリテラシーを引き上げることを大切にするところでしょうか。どんな人に必要とされる商品なのかなど、ブランディングに関わるような商品設計まで、クライアントのリテラシーをあげて同じ視点を持って考えられる土壌づくりからサポートしています。
江田島の案件に関していえば、「対面で会えること」も強みだと思います。リモートでのやりとりではなく、直接顔を見ながら仕事を任せられるのは、島のクライアントにとっては大きな安心材料になっているようです。
私は市のDX(デジタルトランスフォーメーション)も担当しているのですが、Webサイト制作から関わった人がDX化したいと思った時にもサポートできるというのも強みだと思います。

江田島に来て1年ちょっとで島にとってなくてはならない存在になっていますが、これからどのように島に貢献したいと考えていますか。

いろいろできることはあると思うのですが、江田島で生まれた富を江田島の人に還元することでしょう。私たちは島や広島の人材と共に仕事をすることを心掛けています。島で仕事を受けても東京のクリエイターに再外注したら、江田島の富が外に出ていくわけじゃないですか。それは良くない。地域の財を流出させずに地元で生まれた富は地元に還元していく、そういう経済の回し方に貢献したいですね。そのために、島でクリエイティブ人材の育成にも取り組んでいきたいです。

転入者増やそうと教育事業で“島おこし” 若者が力発揮できる町へ

多方面で引っ張りだこな印象ですが、今後の目標は。

そうですね。まずは島の若者が流出してしまうのを止めたいですね。例えば、島で生まれ育ち大学進学した高学歴を持っていても、その力を発揮できる企業が江田島にはないために島に戻れない。島唯一の高校の生徒たちが、進学や就職時に島を出る選択肢しかない。そんな状況を変えたいんです。島の一番の課題は、人口の社会減を食い止め、社会増を実現することなので。そのためにも高いスキルが身に付けられる選択肢として、プログラミングを軸とした教育事業を島で興して、付加価値を生み出せる人材を育てる場所にしたいと思っています。刺激し合ってスタートアップが生まれるなど良い循環を生み出したいですね。
こうした取り組みが教育の格差だけではなく、地方と都市の格差など、あらゆる格差をなくすという本当にやりたいことにつながっていくはずです。教育事業が軌道に乗るのは時間がかかるので、アプリなどの開発事業と両輪で進めながら取り組んでいきたいと考えています。

常に“先”の人の幸せ見据えられる人と共に 成長過程楽しんで

御社で実際に一緒に働く人も含め、どんなクリエイターとなら一緒に働きたいと思いますか。

自分たちがやる仕事が、本質的にどんな価値があるのかを考えられる人がいいですね。同じ広告を作るのでも、ただ見られればいいとかではなくて、広告の先にいるそのサービスを受け取った人の幸せをちゃんと考えられるか。稼ぐことも大切ですが、自分の仕事で世の中に何が残せているのか、世の中が良い方向に進んでいるのかをちゃんと考えて仕事をして欲しいと思います。

最後にクリエイターにメッセージをお願いします。

自分がしたいことを理解していて、そのために進歩できている。その進歩のプロセス自体を楽しんでいる状態が一番楽しい生き方じゃないですか。生産している喜び、生産者として何か価値を生むことで、誰かに必要とされる、その幸せを感じる人が増えると良いですね。消費者ばっかりが増えるのは好ましくない。クリエイティブな活動をする人が、増えて欲しいと思います。

取材日:2022年8月1日 ライター:山名 恭代

合同会社GeneLeaf

  • 代表者名:安西 翔平
  • 設立年月:2020年12月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:ソフトウェア開発、アプリ開発、Webサイト制作、教育事業、地域創生事業
  • 所在地:〒737-2131広島県江田島市江田島町秋月2-5231
  • URL:https://gene-leaf.co.jp/
  • お問い合わせ先:お問い合わせフォームから

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