「捨てるものがない、循環型の社会を実現する」沖縄の地域産業を余すことなく活用し、サステナブルな商品を開発
繊維の原料調達や製造段階での環境負荷が、近年問題視されています。その解決のために「株式会社 FOOD REBORN(フードリボン)」では、パイナップルの葉やバナナの茎など、沖縄特有の地域資源を活用したサステナブルな天然繊維を開発しています。代表取締役社長の宇田悦子(うだ えつこ)さんがこの事業に取り組むきっかけとなったのが、沖縄の「やんばる」と呼ばれる地域に住む、「おばぁ」たちとの交流でした。昔から受け継がれる「やんばる」の暮らしにこそ、持続可能な社会実現のヒントがあると語る宇田さんに、その真意や、これからの展望を伺いました。
大宜味村のおばぁが教えてくれた、自然の恵みを大切にする暮らし
御社は沖縄の那覇から2時間ほどかかる、大宜味村(おおぎみそん)に本社を構えています。利便性が良いとは言えない場所に会社を設立された経緯を教えてください。
神奈川県出身で、関東圏で11年美容系の会社に勤めていました。3人目の出産を機に会社員生活を辞め、個人事業を立ち上げました。その活動をする中で、大宜味村の特産品であるシークヮーサーに関する事業を紹介頂いたのが、大宜味村とのご縁の始まりです。その後フードリボンを設立し、東京と沖縄を行き来するようになりました。
シークヮーサーの事業とは、どのようなものですか?
シークヮーサーの果皮の活用です。沖縄では年間約3,600トンのシークヮーサーが生産され、9割が果汁として出荷されていますが、その半分を占める果皮は廃棄されていました。果肉より栄養豊富な果皮をドライパウダーに加工したものを、大宜味村の産業祭りに参加して無料で配っていたところ、一人のおばぁから声をかけられました。「あなたたちのやっていることは素晴らしいわ。私の家でも昔から皮を粉にして使っているのよ」と。暮らしの中で工夫して皮が使われていたことに驚くと同時に、感動しました。その出会いを機にお宅にお邪魔して村の昔話を聞いたりご飯をご馳走になったりしました。その方以外にも、いくつかの素敵な出会いがありました。大宜味村の方々の温かさに触れるなか、自然の恵みを大切にする大宜味の暮らしに学び、現代人が忘れかけている大切なことがここにあると感じ、それこそが弊社の事業が目指すものだと思いました。生半可な気持ちではうまく行かない。と想いと覚悟を持って、沖縄に移住し、会社も移転しました。
廃棄されるはずのパイナップルの葉から作られる、循環型の商品
シークヮーサー事業からの展開を教えてください。
大宜味村の隣の東村の村長さんから、特産物であるパイナップルも活用してほしいと声をかけていただきました。収穫後不要になった葉からは繊維がとれることに気づき、この繊維抽出のための機械の開発を繰り返し、オリジナルの繊維抽出機械の開発に成功しました。パイナップルの葉以外にも応用できるので、バナナの茎からの繊維作りも始めるなど、可能性は広がっています。
御社では、そのような取り組みを「ファーマーズテキスタイル」と名付けられています。なぜ「ファーマー(農家)」という言葉を入れたのですか?
ファッション業界の課題として、大量生産大量廃棄によって引き起こされた環境問題と倫理的な問題があります。今流通するほとんどの衣服の原料の生産背景は消費者に伝わっていないと思います。天然繊維の生産の原点には、農家さんがいる。その生産背景を透明性を持って伝える仕組みによって、農家さんが笑顔になり、使う人も喜ぶ衣服にしたいという想いが込められています。
他にも、現在取り組んでいる事業があれば教えてください。
ファーマーズテキスタイルともう一つ、「生分解性材料事業」を柱にしています。パイナップルの葉の繊維抽出過程で出た残渣(残りかす)も無駄にすることなく活用し、生分解性の樹脂に混合することで様々な製品に成形することができます。マイクロプラスチックとなり生態系を破壊する恐れがある石油プラスチックの削減策の一つとして生分解性樹脂のニーズが急激に高まっています。その樹脂の原材料の代表的なものがとうもろこしですが、本来食べられるものを、食べることがない樹脂に使うことや、製造する段階で排出されるCO2量が多いことが課題と言われています。パイナップルの残渣をこれに混ぜた分、樹脂の使用量が少しずつでも削減できます。昨年発売したストローは沖縄のホテルや飲食店など中心に120社以上で採用されています。他にも可能性のある素材との開発も進めています。
循環型社会実現のために。多くの企業とともに歩む
ほかにも生分解性材料を使った商品開発の予定はありますか?
まもなくカトラリー類を発売予定です。コップやお皿のほか、ホテルのアメニティなどニーズが多くあり、様々なものに展開していきます。
多くの有名企業と商品開発されていると伺いました。その理由を教えてください。
弊社は素材メーカーですので、主には糸をアパレル企業に提供し、商品化から販売まではお任せしたいと思っています。スタート時点では国産デニムのパイオニア「エヴィス(EVISU)」でデニムが作られたり、「PAIKAJI(パイカジ)」という、沖縄のアロハシャツの老舗ブランドでもシャツを作っていただきました。
また、シークヮーサーの果皮から抽出したエッセンシャルオイルも商品化し、リッツカールトン沖縄など有名なホテルで採用されています。
なぜこれほど多くの企業で採用されていると思いますか?
今、どの企業も、環境のために何をすべきか真剣に考えています。大宜味村で私が心を動かされた、自然の恵みに感謝をして互いに助けあい、後世の幸せを願う暮らしというのは、当たり前なようで私たち現代人が忘れかけていた大切なことだと思っています。これを根本に持ち続け、ビジネスによる課題解決を目指し、実践行動している現状を認めていただけ、期待をしていただけていること、そしてパイナップルというポジティブなイメージも加味され採用という結果につながっているのではないかと感じています。また企業だけでなく、一緒に事業を広げたいと意欲を持った仲間が増えてきており、彼らのアイデアで新事業が生まれています。
作った商品を土に還すまでが「フードリボン」の責任
新事業について教えてください。
「製造販売のみではなく循環に力を入れるべきではないか」という意見が社内から挙がりました。そこで、使用後に不要になった製品の回収、土に還すまでの循環の仕組みの構築のためにフードリボンからスピンアウトして設立したのが「株式会社 土と野菜」です。農家さんや地域の人々、学生とコミュニティーを作り様々なプロジェクトを内包した地域循環の仕組みづくりをしています。
また、「一般社団法人天然繊維循環国際協会(NICO)」も設立しました。こちらには繊維・ファッション業界をはじめ、業界の垣根を超えた多彩な力強いメンバーが参加し、天然素材を循環させ持続可能な社会をつくることを目的としています。協力者が増えれば増えるほど、影響力のある活動ができるようになることを実感しています。
実際に影響力があると感じた活動はありますか?
NICOの活動になりますが、今まで廃棄されていたコーヒー豆の麻袋と天然繊維の衣服を回収し、土に還せる天然素材100%のプランターを作り、学校に導入するというプロジェクトを進めています。麻袋はUCC上島珈琲さんと、京都の小川珈琲さんがご協力いただけ、ファッション業界と飲食業界のコラボレーションの循環取り組みとなっています。また、このプランターを介した緑化活動を子供たちや地域の方々に衣服の素材や製作の過程、リサイクルの方法などを伝える服育授業を実施しています。子どもたちが環境問題に興味を持つきっかけに少しでもなればと期待しています。沖縄からスタートし、東京、京都、香川でも活動の輪は拡がっております。
沖縄を天然繊維産業の一大拠点に
今後の展望を教えてください。
3ステップで考えています。一つ目は、大宜味村のある沖縄県北部に、天然繊維産業の拠点を作ることです。自分達の思い描く世界観を体現できる場づくりをしたいととてもワクワクしています。
製造業が少ない沖縄に天然繊維のものづくりができる拠点を作ることで、地域の働く場を増やすことができ、シングルマザーの積極的雇用を通して子どもの貧困の低減にもつなげたいと考えています。さらに、畑から繊維原料を得てものづくりをし、循環までを体感できるような場所として、観光客が少ない北部に人を呼ぶコンテンツになる可能性もあります。すでに複数のアパレル企業から、弊社の製造過程を見学、研修に行きたいというお声も頂いています。単なる工場ではなく、産業・観光・教育の3つが成立する場づくりを目指し、できる限り環境への負担を減らした自然と共生できるような場所を目指したいと思っています。地域の方々ともご意見交換をしながら、良い場所を作っていきたいと心から思っています。
二つ目のステップは、日台連携で東南アジアから原料の調達を実現することです。沖縄のお隣の台湾は、世界の機能性繊維紡績の70%を占めており、有名ブランドの工場も多く抱えています。紡績技術が高い台湾と連携し、原材料国としてまず1カ国目にインドネシアの広大なパイナップル、バナナ畑を対象に農家所得向上の官民ナショナルプロジェクトとしてスタートしていきます。このモデルを近隣のアジア諸国でも展開したいと考えています。3ステップ目まで実現できれば、世界のファッション産業にも新しい風を吹かせられると思っております。
いつ頃までに実現したいとお考えですか?
1と2のステップは既に進行中です。3つ目のステップは、来年以降にスタート予定です。これからも事業拡大と展開をどんどん進めていきますので、弊社の理念に共感してくださる、志と熱意のある方には、ぜひ参加していただきたいですね。
取材日:2022年8月23日 ライター:仲濱 淳
株式会社 FOOD REBORN(フードリボン)
- 代表者名:宇田 悦子
- 設立年月:2017年
- 資本金:4,000万円
- 事業内容::農産資源活用の研究開発及び企画・製造
- 所在地:〒905-1304 沖縄県国頭郡大宜味村字饒波 2216-1
- URL:https://food-reborn.co.jp/
- お問い合わせ先:098-917-1830
※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。