専門性が高く説明が難しい事柄を3DCGで説明。知識と言語の壁を超える社会の実現を目指す
CG(コンピューターグラフィックス)やVR(バーチャルリアリティ)コンテンツの制作を手掛ける、岡山の「株式会社白獅子」。岡山県倉敷市にある大原美術館のバーチャル展示の制作に加え、大学・大学病院・自治体などと連携して災害などの疑似体験ができるコンテンツを研究・開発しています。「CGやVRの技術で、世界を変えたい」という想いでCG制作会社を立ち上げた春名義之(はるな よしゆき)さんに、これまでの歩みや将来への展望をお伺いします。
パソコンとは無縁だった手書き派が一変、3DCGのプロへ!
会社設立までの春名さんのキャリアをお聞かせください。
大学では経営を学んでいましたが、絵を描くのが好きだったので、池袋のデッサン教室に通うようになりました。
デッサンを続けていたところ、ご縁あって東京のゲーム会社にアルバイトとして採用され、そのまま就職し3年ほど勤めました。映像撮影と違い、人の頭の中の形象を立体的に表現しやすい3DCGの仕事に、面白さとやりがいを感じ「自分に向いている」と自信を持てるようになったので、その後は独立しフリーランスとして12年間、東京・大阪・ヨーロッパなどの広告会社から劇場公開用映画やゲーム関連のCGモデル制作などを受託していました。
そして2013年、神戸市中央区三宮にオフィスを構えて株式会社白獅子を立ち上げるに至ります。出身地である岡山の経済に貢献したいという思いがあったので、地方銀行から融資を受けるタイミングで、岡山に拠点を移しました。
白獅子設立の経緯を教えてください。
就職するまで、パソコンと縁のない生活をおくっており、大学でもレポートは手書きで提出していました。
ゲーム会社に就職してやっと「あぁ、パソコンって便利なんだなぁ」と思うようになり、これまで使っていた鉛筆や絵の具などのツールが、3DCGへ変化していきました。
部屋を汚さない点、データを他者と共有することが安易な点、アニメーションを付けたりすることが容易な点など、頭の中で描いた表現を他人と共有する事が可能な3DCGの楽しさにのめり込んでいきましたね。
以前、山口大学医学部での白内障手術の全工程をCGで再現するという業務を請け負った事があり、文章や写真、また映像のみで説明を受けても、何をしているのか専門外の人ではよく分からないと感じました。
CGでの表現、説明であれば、例えば、眼球を横位置から、断面図を作成して手術の様子を見る事が出来ます。それが患者さんの不安軽減になる事に繋がり、医師の方も説明がしやすく、情報共有において意義のある仕事だと感じたのです。
大事なことは、相手が必要とする情報を最短で届け、双方が納得して、協力しやすくするという事が重要だと思うので、3DCGの「視覚や聴覚によって見ただけでわかる・伝わる」という点に、可能性を感じました。
「素晴らしい技術や文化を、解りやすく伝えることで、社会をより良くするお手伝いができるのではないか?」
「知識と言語の壁を超えられるのではないか?」そう思い、創業に至ったのです。
「知識と言語の壁を超える」とは、言葉が伝わらなくても意味が通じ、結果、一つの事柄についてみんなが同じ認識を持つことで、考え方や知識がアップデートでき、人々にとって暮らしやすく幸せな社会が築けるという意味です。知能、知性に関係なく、人は自分の趣味や興味があり、知識を持っていることには会話が成立します。そのような「意識の交流」を通して、世界中の知識が繋がることを願っています。
会社設立にあたり、苦労されたことや壁はありましたか?
特にありません。なぜなら私は、「苦労」は時間の無駄だと捉えているため、極力避けるように工夫しているからです。
目の前に起こることは、乗り越えるべき「課題」であって「壁」という概念もありません。
どんなに困難なことであっても、目の前のやるべきことは行います。
課題を乗り越えるために、どのようなプロセスがあり、どのプロセスを選ぶのか。
これまでの経験や予測から、最も効果があると考えられる最短コースを導き、課題解決をするよう努めます。
また「失敗」という概念もないのでただ「失敗した」とは捉えません。
全ての物事には、何かしら意味があると思っているので、「成功ではない道を知る一つの経験をした」と捉えています。
視覚的な美しさとリアリティの融合が生み出す、仮想世界の実現
白獅子の現在の主力コンテンツや強みは何ですか?
専門性が高く説明が難しい事を映像の技術で説明する、3DCGやVRです。
構造が複雑な工業機器、医療機器を分かりやすくCGで図解します。
例えば専門外の方がパッと見ただけでは、中がどうなっているか、どのように動くのか全く想像も出来ないような複雑な機構を持つモノであっても、断面化し、内部の構成や仕組みをCGアニメーションで説明する事により、展示会などで来場者に対して分かりやすく説明を行う事が可能です。
映像だけでは伝えられない「体験」は、VR(バーチャルリアリティ)の世界で実現します。 医療、工業の分野での説明に活用できたり、教育実習、観光案内を行ったりすることができます。
白獅子の制作へのこだわりを教えてください。
研究用のデータとしてもご活用いただいているので、見た目の美しさと同じくらい「学術的に正しいかどうか」を重視して作っています。
研究者さんの多くは数字に対してとてもシビアで、自身の研究結果と差異があった場合、それが5mmのズレであっても容認されないことがほとんどです。
以前、海洋生物の骨格標本の3Dスキャンを行った際、「個体Aのデータを基に制作して欲しい」という指示と、「個体Bのデータを基に制作して欲しい」という指示がありました。生物には個体差があるため、AとBでは数値が違ってきてしまい、どちらのデータを基に制作するのかを調整していたら、一年半かかったというエピソードもあります。
そのまま3Dスキャンするだけでよければ一週間でできる内容ですが、人の気持ちやこだわりをカタチにしていく工程を加えると、多くの時間がかかります。納期に合わせ、予算の範囲内で「出来る限り、学術的に正しくリアルなものを作る」ことが白獅子のこだわりであり、使命です。
VRを利用して災害などを経験!逃げ遅れゼロを目指す
岡山大学や大学病院内に拠点を置いているのは何故ですか?
白獅子は主に、3DCGでの表現により、難しい内容を分かりやすく伝え「研究に携わる専門家と、社会の間を取り持つ」ことが仕事です。岡山大学や大学病院内にはたくさんの研究室があるので、一緒に研究したり、研究に必要なツールを作ったりしています。
最近手掛けた事例の一つに、「岡山大学大学院」と「岡山市消防局」との、産学官による共同研究開発があります。
これは、住宅火災予防にかかわる研究で、仮想空間で住宅火災を体験した人間の避難時の軌跡(行動)をデータ化するシステムを開発し、データを集約、心理学的観点で分析を行うことで、最適な非難方法の研究を行うというものです。
CGやVRによる疑似体験に力をいれることで、どのような効果が狙えるのでしょうか?
災害時による死傷者を減らすお手伝いができると考えています。
安全な環境のもとで、VRを使用し「災害の疑似体験」をしてもらい、人が災害時にどういった行動をするか、データを収集し統計をとります。
災害が起こると、人は冷静な判断をすることは難しいものです。
貴重品を取りに行こうとしたり、「このくらいなら」と自力で消火しようとしたり……。
ちょっとした判断ミスで避難が間に合わない状況になるといったケースも多いので、事前に「自分がどう動いたら、どのような結果になるか」を、学習することができます。
まるで本物のようにリアルな、3DCGで作られた炎による臨場感のある映像や音による現実さながらの体験で、記憶に残りやすいのもVRの特長の一つです。
逃げ遅れにより被害にあいやすい高齢者や、経験不足な子どもたちへの啓発、そして災害発生時のスムーズな避難に役立たせることができるでしょう。
今後は、分析に基づく避難方法を具体的に示し、周知に繋げたいと思っています。
「今、何が必要か?」と考え行動できる、猫好きクリエイターと働きたい
個性的なメンバーの多い白獅子さんですが、どんなメンバーと一緒に働きたいですか?
猫さん好きであることが条件です。
面接では、猫さんとの思い出やエピソード、猫さんへの熱い思いについて語ってもらいます。
「猫さん好きに悪い人は居ない」というのが持論で、猫さんと住んでいる人は、人の言葉を話せない猫さんに奉仕する心得と精神を持っています。つまり、空気を読むことに長けている可能性が高い。
猫さんは人間に対し、何か行動して欲しい時には、適切なアピールを行います。それを察した猫好きさんは、「お水が飲みたいのかな?ドアを開けて欲しいのかな?」といった風に、「目の前の猫さんは、今、何が必要か?」を考えて行動することができるでしょう。
このように仕事でも、きちんと周りを見て自分の役割を理解し、自ら動ける方と一緒に働きたいと考えています。
白獅子ならではの「猫さん手当」も支給されるので、猫さんと住んでいる大の猫さん好きなら、とても働きやすい職場ですよ!
白獅子の今後について、展望を教えてください。
志を同じくする人を集めて、より良い社会の実現に向けた研究開発を進めたいです。 現在、私は現場を離れ、経営・営業・広報に専念していますが、白獅子の理念に賛同し、自身の制作物で社会と自分を繋げられるような、高い目線を持つ有能な後継者たちを育てたいと思っています。
3Dクリエイターの仕事はハードルが高いように思われがちですが、猫さんのように好奇心のある方であれば、楽しく仕事ができると思います。
間接的に・直接的に、いろいろな人を幸せにしていくことが白獅子の仕事なので、これからも、そこに無いものが再現できる3DCGによって「知識と言語の壁を超える」分かりやすいコミュニケーションの実現を目指します。
取材日:2022年9月13日 ライター:山口 夏織
株式会社白獅子
- 代表者名:春名 義之
- 設立年月:2013年8月
- 資本金:900万円
- 事業内容:3DCGアニメーション、VR映像等の企画・開発
- 所在地:
・岡山応用研究室
〒700-8558 岡山市北区鹿田町2-5-1 岡山大学病院 鹿田会館 SK101
・岡山開発室
〒700-0082 岡山市北区津島中1-1-1 岡山大インキュベータ206
・管理室
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