「街全体で遊ぶ」大阪発のイベントを創りたい。弱冠20歳で起業した元eスポーツプレーヤーが描く夢
eスポーツ関連のイベントを数多く手がける「株式会社PACkage」。eスポーツの選手としての経歴を持つ山口 勇(やまぐち ゆう)さんが会社を立ち上げたのは大学生の時で、弱冠20歳だったというから驚きです。現在では、大阪府eスポーツ連合の理事も務めるPACkageががこだわっているのは「リアルでやる」こと。地元、大阪から業界を盛り上げようと奮闘する姿に迫りました。
eスポーツ関連のイベントの企画・運営から、選手やYouTuberの育成まで
御社の事業内容を教えてください。
PACkageの主幹事業は、ゲームをはじめとしたeスポーツ関連のイベントの企画・運営です。現在は、自社の主催イベントが3割、受託のイベントが5割くらいでしょうか。残りの2割は、企業の説明会や大学のシンポジウムなど、eスポーツ以外のオンライン配信業務です。また、最近では、専門学校におけるeスポーツのカリキュラム作成などの教育分野や、イベントでのグッズ販売、eスポーツの選手やYouTuberなどのタレント育成にも事業の幅を広げています。
「プレーしたい」と思えるゲームを作ろうと、ゲームクリエイターを志す
山口さん自身が小さい頃からゲーム好きだったのでしょうか?
始まりがいつかわからないくらい、小さい頃からゲームには親しんでいました。たぶん、3、4歳くらいからだったのかな。一番古い記憶は、パソコンに入っていたゲームです。本格的にゲームにはまったのは、小学2年生の時。プレイステーション2の「METAL GEAR SOLID 3」 という、オンライン対戦モードのあるゲームがきっかけでした。対戦相手がAIから人に変わると、強さが段違いで、楽しくて。夢中になりました。その後、選手としてeスポーツの大会に出場するくらいまで、ゲームをやりこむようになったんです。
そこから、ゲームに関わる仕事を志すようになったのでしょうか?
はい。自分自身が「プレーしたい」と思えるゲームを作ろうと、ゲームクリエイターを目指してプログラミングを勉強し始めました。大学にもゲームクリエイターになるつもりで進学したのですが、ひとつ上の先輩で、めちゃくちゃプログラミングが得意な人に出会って。それなら、自分は企画側に回り、プログラミングはまかせて好きなゲームを作ればいいんじゃないか、と思うようになったんです。それ以来、ゲームの企画のほうを手がけるゲームプランナーや、ゲームイベントの運営に目線が向くようになりました。
選手として大会へ出場する一方で、ゲームの企画やイベント運営を行うインターカレッジサークルを立ち上げる
大学ではどのような活動をしていたのですか?
eスポーツの選手として、大会に出場していました。一方で、ゲームの企画やイベント運営にも興味が湧き、大学1年生の時にインターカレッジサークル「Play And Create(PAC)」を立ち上げました。PACでは、自分たちでゲームを作ったり、展示会に参加して自作のゲームを発表したり、といった活動をしていました。それまではプレーヤーとしてゲームに関わってきましたが、作る側やイベントを運営する側になったことで、今までと違った面白さを感じていました。
ある時、大手PCメーカーから「PACでゲームイベントの企画運営をやってみないか」という話をいただいたんです。PAC主催のイベントに、スポンサー企業としてついていただけることになったので喜んで引き受け、ゲーム会社に話を持っていったところ、法人相手でないと協力できない、と言われてしまいました。そこで初めて、「自分で会社を作る」という選択肢が浮かび上がってきました。
「自分たちの手でイベントをやってみたい」
開業資金30万円を貯めて株式会社PACkageを設立
当時はまだ大学生ですよね。迷いもあったのではないでしょうか。
インターネットや本で、起業についてさまざまな情報を調べました。会社を作るには最低でも30万円ほどが必要だとわかり、悩みました。学生にとっては小さい金額ではないですからね。でも、最終的には「自分たちの手でイベントをやってみたい」という気持ちが勝ったんです。
そうと決まったら、行動あるのみです。開業資金の30万円を貯めるため、大学の近くのファーストフード店でアルバイトをしました。朝6時から9時まで働いて大学へ行き、授業の合間や、授業が終わった夜に、また戻って働いていました。28日連勤して、1ヶ月で30万円を稼ぎ出したんです。
それはすごい!熱量の大きさを感じます。
そうして大学2年生、20歳の時に株式会社PACkageを設立しました。会社名は、母体となったサークル「PAC」から取りました。Play And Create。プレーヤーとゲームを作るクリエイターが集まる場所、という意味です。創立メンバーは、自分と、大学の先輩、大学の同期、小学校からの幼なじみの4人。PACでずっと一緒に活動してきたメンバーでした。
初の自社イベントに2500人のプレーヤーが参加
立ち上げ後はどのような事業をされていたのでしょうか?
PACkageを立ち上げ、念願のゲームイベントを自社主催で手がけることになりました。当時のイベントの開催方法は、予選から決勝まで全てオンライン上で行うのが主流でした。しかし、私たちは「リアルでやる」ことにこだわり、予選まではオンライン上の対戦で、決勝トーナメントは、プレーヤーや観客を集めたリアルの大会で行いました。ちゃんと向き合って戦って、1位を決めようぜ、と。
オンラインではなく、リアルで実施することにこだわったのはなぜですか?
自分の、プレーヤー時代の経験からです。eスポーツのオンライン大会で、日本一を取った時、めちゃくちゃ嬉しかったんですよ。でも、ヘッドホンを取った瞬間、目に入るのは自宅の壁、聞こえてくるのは車の音……がっかりでした。この目で観客を見たい、勝ったことへの実感が欲しいって思いました。いくら高性能のヘッドホンを使っても、身体中に感じるスピーカーの音には適いません。五感を再現できるようにならない限りは、オンラインのみではなく、リアルでの開催にこだわりたいと思っています。
念願の自社イベントはプレーヤー時代の知り合いやサークルのメンバーにも協力してもらい、参加者を募って、当時の大会としては日本最大規模、2500人の参加者がエントリーする大会となりました。オンライン配信の視聴者も10万人以上に達し、イベントは大成功を収めました。
順調な滑り出しですね。
それが、イベント自体は大成功だったものの、人件費や設備費がかさみ、ほとんど利益にはつながりませんでした。再び自社主催でイベントを開くためにスポンサー獲得の営業に行っても、大学生では企業からまったく相手にしてもらえませんでした。参加者や観戦者がどんなに集まっても、スポンサーがつかないとお金が回らない。1年目は赤字からのスタートでした。そこで2年目には、自社の主催イベント以外に、受託イベントを引き受け始めたんです。これが、ヒットしました。
「イベントの企画から運営まで丸ごとお願いできる」を強みに受託事業を展開
受託イベントの場合、御社はどのような業務を請け負うのですか?
eスポーツのイベントを開催したい企業から委託されて、どのゲームを使い、どのような試合スタイルにするのか、というところから考えます。使用したいゲームが決まったら、ゲーム会社に許可を申請します。オンラインで配信するか、リアルで開催するかも、イベントの目的にあわせて決めなくてはいけません。次に、試合の組み合わせ表や、告知用のWebサイトやSNS、配信用の映像素材などの制作物を作ります。リアルでの開催なら、会場や機材もすべて手配します。
企画から運営まで丸ごとお願いできるのは、依頼する企業にとっても助かるでしょうね。
そうですね。メリットは大きいと思います。受託事業を始めた当時は、eスポーツが話題になり始めた頃で、「話題になっているから、とりあえずやってみよう」というスタンスの企業さんも多くいらっしゃいました。依頼を受けて訪問してみたら、「eスポーツについて教えて」から始まることもよくあって。そういうケースでは、初回の打合せで、1時間半ぐらいかけてレクチャーして、2回目の打合せでようやく話が始まる、といった感じです。そうして、受託のイベントが軸となって徐々に利益を確保できるようになり、事業の幅を拡大していきました。
一緒にイベントを作っていける「仲間」を増やしていきたい
社内のスタッフの体制は?
社員は現在、12名です。その他、インターンとして手伝ってくれている学生や、他の仕事をしながらサポートしてくれている社外のメンバーもいます。企画、営業、教育、イベント配信、機材管理、総務など、各部門に1人ずつ担当がつき、責任を持ってやっています。平均年齢は20代半ばくらいでしょうか。自分自身を含め、若いスタッフが多いです。
今、特に必要としているのは、マーケティングなどのデータ分析ができる人材と、オンライン配信やプロモーションで使用する映像や画像が作れるクリエイティブの人材ですね。クリエイティブディレクターの立場で、マネジメントをしてくれる人材であれば、なお良いです。今後、イベントの規模を大きくしていくのに伴って、運営側の体制も整えていかないといけないと思っています。ただ、社員を増やして会社を大きくしていきたい、というわけではなく、業務委託でもパートナーでもいいので「一緒にイベントを作っていける『仲間』を増やしていきたい」という気持ちがあります。
地元・大阪を盛り上げるイベントを生み出し、世界中から人を呼び寄せたい
目標としていることはありますか?
現在、主な事業となっているのは受託のイベントですが、やはり最終的には、自社主催のイベントを主軸にしていきたいと考えています。
憧れは、「ドリームハック(DreamHack)」というスウェーデンのイベント。eスポーツ、音楽フェス、ドッジボール、サバイバルゲームなど、さまざまな演目が同時並行的に開催される、複合イベントです。いわば、オリンピックの「遊び」バージョンですね。ひとつの街にいくつもの会場があって、それぞれが違う競技をやっている。周りのお店も一緒に盛り上がって、パブリックビューイングがあったり、特別なグッズやメニューがあったり……街中が一体となって、大騒ぎして盛り上がる。そんなイベントを、大阪を舞台にしてやってみたいんです。
「街中が一体」というと、どれくらいの規模のイベントを想定されているのでしょうか。
今手がけているイベントは、100から500人ほどの規模で、ホールやホテルを貸し切ってやることが多いですが、これをもっと大きくしていきたいと思っています。まずは数千人に増やして国際展示場「インテックス大阪」を貸し切り、数万人で京セラドーム大阪、数十万人でりんくうタウンを貸し切って花火をあげよう、みたいな(笑)。最終的には、大阪全体で盛り上がれるイベントに成長させるのが目標です。
「大阪」という土地にもこだわりがあるのでしょうか?
大阪生まれ大阪育ちなので、地元への想いはありますね。ゲームでも音楽でも、東京だけのイベントって多いじゃないですか。自分たちが東京に出向くんじゃなくて、逆に、地元の大阪を盛り上げるイベントを生み出し、世界中から人を呼び寄せたいです。
eスポーツだけにこだわる必要は全然なくて、音楽でも、サッカーでも、みんなの好きなことを詰めこんだ複合フェスができたらいいな、と思います。ひとりで遊ぶよりも、みんなで遊んだほうが楽しいですしね。
チケットが売り切れても会場に来てくれる人がいる。想定外のことに出会えるからこそ、楽しい
お仕事のやりがいは何ですか?
徹夜で準備をしたり、凍えるような寒さの中で設営したり…イベントをやっていて、大変なことはいっぱいあります。でも、やっぱり楽しいことのほうが多いですね。初めて自社主催したイベントでは、リアル開催の決勝戦のチケットが早々に売り切れてしまいました。それでも、当日、「どうしても現地で見たい」という人が会場に詰めかけて来てくれたんですよね。「売り切れてるのに?!」とびっくりしたけど、嬉しかったです。急遽、パイプ椅子を並べて、会場に入ってもらいました。
自分でゲームを作るのではなくイベントを企画したいと思った理由のひとつに、「自作のゲームは、自分の想像の範囲を超えられない」と思ってしまったことがあります。想定内の出来事しか起きないゲームなんて、面白くないじゃないですか。でもイベントでは、チケットが売り切れても会場に来てくれる人がいたり、大会でめちゃくちゃいい試合が生まれたりします。ゲームも、仕事も同じで、訳のわからない想定外のことに出会えるからこそ、楽しい。それが、この仕事を続けている理由なんだと思います。
取材日:2022年10月3日 ライター:土谷 真咲
株式会社PACkage
- 代表者名:山口 勇
- 設立年月:2018年2月
- 資本金:2,230万円
- 事業内容:eスポーツイベント企画・運営、プロeスポーツチーム運営、教育事業(講師派遣・スクール運営)
- 所在地:〒563-003 大阪府池田市豊島南1-15-17
- URL:https://package-inc.com/
- お問い合わせ先:https://package-inc.com/pages/contact
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