留学時代のあだ名は“ヤマガタ”。東北の“隠れた魅力”を世界に発信する代表の地元にかける思い
地元・山形県や東北の魅力を旅行会社として、メディア、SNS、イベントなどを通じて海外へ発信しているThe Hidden Japan(ザ ヒドゥン ジャパン)合同会社。中学時代からホームステイや留学を経験した代表社員の山科沙織(やましな さおり)さんが、アメリカ人のビジネスパートナーとともに立ち上げました。社名「隠れた日本の魅力」にある通り、生まれ育った山形には「気づかれていない魅力がある」と山科さんは言います。物流会社やフリーライターを経て、今に至る山科さんに、会社設立の経緯や現在の取り組み、今後の展開について話を伺いました。
外国人との交流で目覚めた「日本とアメリカをつなぐ架け橋になりたい」
山科さまは地元・山形県の魅力を英語で発信するWebメディアの仕事をされていますが、山形の魅力に気づいた時期やきっかけを教えてください。
私が生まれ育ったのは山形県の三川町で、中学生のときにアメリカからホームステイを受け入れたり、夏休みに10日間ほどアメリカに行ったりして、言葉が通じない、言いたいことが伝わらないもどかしさを実感しました。また、高校2年のときに行ったアメリカでは、東北出身の日本人の珍しさから、研修で一緒だった日本からの留学生から“ヤマガタ”というあだ名で呼ばれていたんです。
地元・山形という場所は日本人の中でもまだまだ知られていないことに気づき、いつか山形の魅力をいろんな人に伝えられたらと考えるようになりました。またホームステイや留学を通し、アメリカと日本をつなげる架け橋のような存在になりたいなと思ったんです。
ひと言では難しいと思いますが、山形県の一番の魅力は何でしょうか。
どこに行っても自然があって、食事がおいしくて、人が優しいことですね。山形の人は、外国人のお客さまに対してもウェルカムな雰囲気で温かく受け入れるので、外国人が満足して帰ってくれる、そんなところが自慢です。
「地元のことを何も知らない」 Uターンしてローカルメディアを設立
8年ほどフリーのライターをされていたとお聞きしましたが、どんなきっかけがあったのでしょうか。また、どのような仕事をしていましたか。
学生時代は宮城県仙台市で過ごし、横浜の物流関係の会社に就職して、出産を機に山形に戻りました。そのころは、雑誌などがWebに移行した時期で、書くことは好きだったので、腕試しに作文コンクールに応募すると入賞して、仕事にできるかなと思い始めました。
そこでブログを立ち上げて、コラムを10本くらい書いてメディアの編集部に送ると、企画力を買われて数社から連絡があり採用してもらいました。娘が生まれた2010年に、東京から仕事をいただいて、フリーのライターとしてリモートで仕事を始めました。
そんなこんなで、ライターになって5年ほど経ったときのことです。大学にあるコワーキングスペースで出会った大学生から、「庄内エリアのおすすめのカフェバーやレストラン、ヘアサロンなどを教えてほしい」と聞かれ、答えられなかったんです。私は情報を発信する仕事をしているのに、地元のことを何も知らないことにショックを受けました。その出来事がきっかけで、ローカルメディアをつくりたいと思ったんです。
コワーキングスペースにいた大学の先生には「儲からないから1年ぐらい無給で働けるなら」と言われました。私は1年間無収入でもやって芽が出なければやめようと、東京の仕事を辞めて、ローカルメディアづくりに賭けてみることにしました。確かに儲かりませんでしたが、仕事を通していろいろなお店の人と会い、つながりができました。
そこからThe Hidden Japanを立ち上げたのは、どんな経緯でしたか。
そのコワーキングスペースで映画の試写会があって、たまたま隣に座ったのが現在一緒に働いているアメリカ人スタッフで、久しぶりに英語で話をしました。私がローカルメディアを運営していると話すと、翌日「山形の魅力を英語で発信したい」と英語の長文メールが送られてきました。
カメラマンもしていた彼は、「こんなに魅力的な場所をなぜ誰も発信しないのか」とずっと思っていたようですが、何から始めたらいいか分からなかったようでした。そこで私がマネジメントをして、外国人観光客向けのサイト「The Hidden Japan」を立ち上げました。ちょうど私が30歳ぐらいで、今後の人生を考えるタイミングだったので、「ちょっとやってみよう」みたいな軽い気持ちで2018年にスタートしました。
外国人自ら、インバウンドに向けて魅力を発信 「隠れた魅力のファンになって」
御社の主な事業内容を教えてください。
現在は、Webサイト「The Hidden Japan」の制作・運営のほか、訪日外国人向けの山形県のプロモーション、イベント企画、旅行や取材のコーディネート、映像制作などを展開しています。
「The Hidden Japan」の強みを教えてください。
サイトの制作は全編英語で、外国人の目線で興味を持ってもらえる場所を発信しています。制作は全て外国人スタッフが行っており、海外の方に行きたいと思わせる発信ができることが弊社の強みだと思います。
日本に初めて来る外国人は、東京、京都、大阪、広島というゴールデンルートを訪れる方が多いですが、ほかには負けない魅力が山形にはあります。そんな隠れた、まだ気づかれていない魅力のファンになってほしいという思いを込めて、「The Hidden Japan(隠れた日本の魅力)」と名づけました。
日本に行きたくてたまたま東北で食の体験を探していたらThe Hidden Japanのサイトを見つけて、そこから山形を訪れることにしたという新規のお客様も多いですね。
サイトを見た外国人からの問い合わせに対して、その日のうちに英語できちんと返答できることも強みで、リピーターや紹介がすごく多いです。
地元事業者らと作り上げるツアーが強み アメリカから映像制作依頼も
御社が企画したどんなイベントが人気ですか。Webサイトの反響はいかがでしょうか。
山菜採りや釣りをして自分で獲った食材を民宿などで料理するような体験は非常に人気です。コロナ禍でイベント自体がなくなったこともあり、県内に住む外国人向けにそういうイベントを毎月開催して楽しんでもらっています。そして、彼ら自身が山形の良さを自国の家族や友達にSNSで発信することは非常にいい機会だと思っています。
お客さまにはレストランのオーナーの方もいて、山形の料理が気に入ってアメリカでイベントをしたい、同業者を連れて来たいという相談があって、新たなビジネスが生まれることもあります。コロナ禍前は、アメリカで食のイベントも開催しました。
体験イベントやツアーは地域の事業者と連携をしてつくっています。天候などで突然予定が変わっても、ほかのツアーや体験を提供できるのも、地元とのつながりがあるからできる強みだと思います。
また、オンラインでお客さまと1対1で話をしながら、それぞれの趣味・嗜好に合わせてオリジナルのツアーをつくってお客さまに提供しています。
アメリカのAnime EXPO(アニメ・エキスポ)のイベントがコロナの影響でオンラインになって、映像制作の依頼が来たこともありますね。
山科さんが仕事をするときに大事にしていることを教えてください。
知らないことをお客さまに紹介するのでは説得力もないと思うので、販売するツアーは事前にスタッフも体験して、しっかり案内できるようにしています。また販売する前には、山形在住の外国人にモニターになって体験してもらい、彼らの意見をもとにさらにブラッシュアップしています。山形だけでなく、日本全国でツアーを展開しているので、自分たちだけでカバーできない場所は信頼できる事業者と連携して、お客さまに満足してもらえるよう取り組んでいます。
山科さんはどんなときに仕事のやりがいを感じますか。
Webサイトを開設して1カ月後くらいに「The Hidden Japan」を見て、鶴岡に来たアメリカ人がいました。私たちが発信することで、山形を知って、訪れ、ファンになってくれる誰かがいることがうれしかったですし、そんなことが仕事のモチベーションになります。
山形出身ではないスタッフが弊社の仕事をきっかけに、山形を好きになってくれることにも、とてもやりがいを感じています。
「会社員に比べて1000億倍楽しい」 アジアの顧客獲得も目指し
「The Hidden Japan」の今後の展望をお聞かせください。
インバウンドが戻ってきたときに、数が増えてもお客さま一人ひとりに満足してもらえる旅を提供することが私の目標です。今、ツアーのリクエストがたくさん来ていて、旅行も再開しています。欧米豪の英語圏が主ですが、最近はシンガポールや香港などからの問い合わせも増えているので、アジア圏にもプロモーションを広げて展開していきたいと思います。
以前は多少遠慮もありましたが、社内はフラットに意見を言い合えるメンバーに恵まれているので、これからもみんなが楽しくイキイキと働ける環境をつくっていきたいですね。
今は、若い人の地方離れなどがありますが、山科さんが思う地元で仕事をする面白さをお聞かせください。
私は高校や大学のときに、まさか自分が山形で毎日英語を使って外国人向けに仕事をするとは夢にも思いませんでした。しかし、それができる時代ですし、山形は意外とそういう人を応援してくれる環境があります。新卒会社員時代に比べて1000億倍楽しいです。
地元に帰りたい気持ちがある方は一度戻ってきて、合わなかったら東京に帰るのもいいと思います。
「私でもできるんだからみんなできますよ」 前向きなクリエイター歓迎
最後に、山科さんが一緒に仕事をしたいクリエイター像があれば教えてください。
日本人でも外国人でも、きっちり納期を守り、臨機応変で前向きな方がいいですね。登山やサイクリングといったアウトドア系の取材や撮影も多いので、アクティブな人も大歓迎です。また、社内のコミュニケーションは8割方が英語なので、英語ができるとうれしいですね。
たくさんのプロジェクトがあるので、社内スタッフが忙しいときに連携してくれる外部のクリエイターさんがいたらうれしいです。
最後に、地方でクリエイターや起業を目指す人に一言メッセージをお願いします。
地方でクリエイターを目指すならやってみたらいいじゃないかという考えです。私は特別勉強ができたわけでも、コネクションがあったわけでもありません。やりたいと思ったらやりますと宣言して、ここまでやってきました。私でもできるんだから、みんなできますよと言いたいですね。
取材日:2022年10月25日 ライター:佐藤由紀子
The Hidden Japan(ザ ヒドゥン ジャパン)合同会社
- 代表者名::山科 沙織
- 設立年月:2018年3月
- 資本金:310万円
- 事業内容:個人・団体ツアーの企画・手配、プロモーション事業、訪日外国人観光客向けメディア制作、Webサイト制作、接客英会話レッスン・翻訳、出張撮影サービス、映像制作、セミナー講師、取材コーディネーション
- 所在地:〒984-0051 山形県酒田市新橋2丁目26−20
- URL:https://thehiddenjapan.co.jp/ (英語版URL:https://thehiddenjapan.com/ )
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