3拠点で自社メディアの出版、オンラインコミュニティまで 地方展開で見出したライターの新たな可能性
書籍、カタログ、Webサイトなど形態を問わず、あらゆるジャンルの制作物を手掛けている福岡県の「株式会社イージーゴー」。東京の編集プロダクションを経験し、フリーランスを経て起業した代表取締役の江郷 路彦(えごうみちひこ)さんは、企業のPRサポートからWebメディアへのコンテンツ提供、自社メディア「JOB MAGAZINE」の出版事業も果たしています。東京や大分にも拠点を構える同社は、全国のフリーライターを集めたオンラインコミュニティを立ち上げるなど、幅広く事業を展開しています。拠点を東京から福岡に移したことで見えてきた、地域とライターの新たな可能性、これからのクリエイターのあり方について話をうかがいました。
東京の編集プロダクションからフリーランスを経て法人設立。福岡を拠点に
江郷さんは現在、フリーライター専門誌「ライターマガジン」の発行や、フリーライターのオンラインコミュニティ「ライター研究所」の運営を手掛けておられますが、元々は編集プロダクションにお勤めだったとお聞きしました。独立までの経緯を聞かせていただけますか?
最初は、東京で単行本やムック、雑誌の企画・編集・執筆を手掛ける編集プロダクションに勤めていました。ジャンルとしては、旅行、フード、実用書などです。特に海外旅行ガイドブックの担当が多く、それこそ2、3カ月に1回は海外に取材に行っていました。
5〜6年ほど勤務した後、2001年にフリーランスになりました。編集プロダクション時代の取引先から声を掛けてもらって、退職後も休むことなく「ひとり編プロ」という感じで、新宿のワンルームを借り、時々アシスタントにも手伝ってもらって仕事を続けていました。その後、取引先との契約の関係もあり、2006年に法人化しています。
東京での仕事が順調だったのに、福岡に拠点を移されたのはなぜでしょうか?
福岡県福岡市に拠点を移したのは、2011年になります。たまたま福岡のガイドブックをつくる仕事で訪れたことがあったり、「地の利」の良さというか、海外の取材で韓国やハワイに行くのに、当時直行便があって便利だったり、さらには、妻が福岡出身だったり…など、いろんな理由が重なって、思い切って移住しました。拠点が変わっても、取引先は東京の頃と変わっていないので、業務が大きく変わることはありませんでした。
念願の自社メディア スタート直後にコロナ禍で看護師向け企画が中断へ
福岡に移ってから、どのように業務が変化していったのでしょうか?
一つの転換期となったのが、自社媒体を発行したことですね。どれだけ大手企業や出版社から仕事をたくさんいただいても、やはり、下請けの仕事だけではいつどうなるか分かりません。「自社メディアつくりたい」という思いがずっとあったこともあり、2019年に「JOB(職業)」をテーマに、職業そのものの魅力や面白さを紹介する雑誌「JOB MAGAZINE」を発行しました。第1弾は、保育士のための求人誌「保育百華」です。第2弾では、介護職のための「care PERSON(ケアパーソン)」を発行しています。これらは、保育士や介護職を養成している学校などに配布したり、Amazonなどでも販売したりしています。
「JOB MAGAZINE」が思っていた以上に好評で、「次は看護師も…」と意気込んでいたところで起こったのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。病院への取材が一切できなくなり企画は中断せざるを得ませんでした。
コロナ禍で生まれたフリーライター専門誌『ライターマガジン』
順調にスタートできていただけに、ショックも大きいですね。どのようにして乗り越えられたのですか?
「何かできないか」と思って企画し、発行したのがフリーライター専門誌「ライターマガジン」でした。ライターなら知り合いも多いですし、取材がオンラインでも可能だったことで実現しました。2020年に第1号を発行したところ、売り上げよりも大きかったのが、ライティング案件の相談が急増したことでした。「こういう雑誌を作っているのではあれば、ライターさんをいっぱい抱えているんでしょう?」と、大手メディアからも問い合わせがくるほどでした。これをきっかけに、会社としてもひと回り大きくなったと思います。
そして、この『ライターマガジン』をきっかけに、フリーライター同士の交流を目的としたオンラインコミュニティ「ライター研究所」を立ち上げました。誰がどんなジャンルが得意といった情報交換や、仕事におけるいろんな悩みの相談などをして交流を図っています。現在は全国から150人ほどが登録しています。
ただし、プロとして仕事をしている人たちの集まりだと意識してもらうために、月会費(500円)を設定しています。
1週間140人が応募?高まる地方ライター需要 「地域を元気にできる地方展開」を目指す
福岡以外に東京や大分・別府にも拠点がありますね。
はい。福岡を拠点に、東京、2021年には大分・別府にも事務所を構えました。福岡は編集やDTPチームの拠点で、正社員は2人、編集者は業務委託の人がほとんどです。業務委託は本人の希望による勤務形態となっており、業務そのものは正社員と変わりません。それぞれの事情に合った働き方ができるようにしています。東京は、ほとんどの取材が関東になるのでカメラマンを含めた取材チームの拠点となっています。別府は、コロナ禍でリモートワークが普及して、全国どこにでも事務所を置くことができると考え、地方展開の第1弾として設立しました。求人を出したところ1週間で140人もの応募がきて、ちょっと驚きましたね。地方にはこれまで、私たちが手掛けている編集や出版といった事業を行うところが非常に少なかったのだと思います。
ライターの仕事は、全国どこででもできます。例えば、東京から沖縄の仕事の依頼を受けた場合、沖縄在住のライターであれば、出張費がかからずに取材を依頼できますし、地方在住のライターの場合は、一眼レフでの撮影までできる人も多くて、実はとても重宝しています。「地方にいることを強みにしている」ライターのつながりを広げていくと同時に、地方に拠点を広げ、人材の発掘を展開していきたいと思っています。
今後はどのように事業を展開していかれるのでしょうか?
2022年3月に、「ライターマガジン」主催で「別府ライターワーケーション」を実施しました。日本有数の温泉地である別府を楽しむ「温泉入浴指導」や「手前味噌づくり」などのプログラムで、楽しみながらスキルアップを図り、仕事もできるというイベントでした。意外にも、関東や関西からも参加者が集まり、大成功だったと思います。
このイベントは地元団体の協力によって実現したものです。先ほどの地方拠点もそうですが、地方の人たちからいろいろと声を掛けていただいているので、その地域を元気にできる地方展開を、これからも進めていけたらと思っています。
「ライターは査定する基準がない」 フリーライターのこれから
ライターの仕事というのは今どのような状況にあるのでしょうか?
ライターとは、教わらずともなれてしまう職業で、ライターと名乗れば誰でもライターです。さらにはWebメディアが多種多様化し、ブログやSNSの普及によって、ライターという仕事のレイヤーが非常に広がっていると感じています。クチコミサイトを書く仕事も、ライターの仕事だと言う人もいる時代ですし、「ブロガーとして1年やっていました」という人であっても、ライターと名乗っていいと個人的には思っています。読み手も変わってきていますし、私自身もどういう人がライターとして正解かは分からなくなっています。
一方、Webメディアでは常時、ライターを募集しています。チャンスはあるのですが、それに応える技術があるライターがどれだけいるのか、今はその判断が難しくなっていると感じています。当社では、自社媒体があるので、フリーライターとして起用する際には、まず自社媒体で一度仕事を依頼して、どれだけの技術があるのかを判断しています。
ライターの仕事は、どのような人が求められているのでしょうか?
ライターへの依頼に関しては、メディアやクライアント次第になります。書けることは当然ですが、プラスアルファが求められることもあります。例えば、ある銀行の仕事であればファイナンシャルプランナーの資格を持っていることが条件ということもあります。特に多いコスメ関係のWebメディアの場合は、薬機法(医薬品、医療機器などの品質、安全性などに関する法律の略称)管理者の資格を持っていることが有利であるなど、書けること以外に何か一つ強みを持っていることが起用につながることがあります。特別な資格ではなくとも、「百貨店の外商で10年働いた」といった経験も強みにしてもいいと思います。ライターは査定する基準がない職業ですから、さまざまなスキルを持っていることを強みにしていくのも一つの方法だと思います。
取材日:2022年11月1日
株式会社イージーゴー
- 代表者名:江郷 路彦
- 設立年月:2006年8月
- 資本金:100万円
- 事業内容:メディア・広告物の企画、編集、取材、撮影、執筆、編集、デザイン
- 所在地:〒810-0074 福岡県福岡市中央区大手門2-9-30-203
- URL:https://eggo.jp/
- E-Mail:
- お問い合わせ先:050-3577-7736