声にし続けた「好き」の思いで拓かれた道。関西で数少ない映画製作会社が作る無二の映像

大阪
株式会社ウォークオン 代表取締役社長
Hitonori Taniguchi
谷口 仁則

テレビやラジオ番組、CMのほか、映画などの企画・制作を行っている、大阪の株式会社ウォークオン。代表取締役社長の谷口 仁則(たにぐち ひとのり)さんは、大学卒業後に吉本興業株式会社で厳しいアルバイト経験を積んだ後、フリーランスを経験し、2007年に会社を立ち上げました。関西の制作会社では珍しく「映画製作」にも邁進(まいしん)している同社。テレビを中心とする一般的な映像制作から映画製作に携わるようになったきっかけや、幼少期からの映像に対する熱い思い、そして未来の展望などについてお話をお伺いしました。

ハードな下積み時代からフリーランスを経て、会社設立へ

会社立ち上げまでのキャリアを教えてください。

昔から映画やドラマが好きだったこともあり、漠然と「将来映像に関わる仕事しかないな」という思いがありました。
それで高校を卒業してから大阪芸術大学の美術学科に入ったのですが、就活がなかなか上手くいかなくて。どうしようかと考えていた時に、たまたま吉本興業でアルバイトを募集しているのを知ったんです。
それをきっかけに吉本興業に入り、ハードな雑用業務からスタートして約3年間働いていました。その後、社員としてお仕事をさせてもらうようになって、自分が子どもの頃から見ていた番組のディレクターや舞台の演出などを担当しました。

約7年で吉本興業を退社され、その後はフリーランスの道を歩まれたそうですね?

30歳くらいの頃に独立して、自宅を作業場にして働いていました。一から自分で営業をかけて仕事を取っていましたね。吉本興業時代から「映画が好き」と公言してきたので、どこかで「映画好きなやつがいるらしい」と噂を聞きつけてくれた方からご連絡をいただいたりもして、少しずつ縁をつないでいく形で仕事を増やしていきました。
当時はCMや映画の予告編の制作や、関西テレビの情報番組「よ~いドン!」の立ち上げにも関わらせてもらいました。

07年に会社を立ち上げられていますが、きっかけは何だったのでしょうか?

「テレビ番組制作だけじゃない会社を作りたい」という思いがずっとあったんです。 30代前半の頃から、テレビのディレクターをやっていて50〜60代の方がバリバリやっている前例がなかったので、将来的に「自分も50歳を過ぎたらテレビ制作だけでは厳しいのではないか」と感じていました。
一般的に、制作会社というとテレビ番組の制作だけをやっているところも多いのですが、自分はCMや企業系など、目標として舞台演出や映画製作までやっている会社で働きたいなという思いから、07年頃に当時の仲間と一緒にウォークオンを立ち上げることになりました。

大好きだった“映画”を自身で手掛けるまでの軌跡

改めて、現在の事業内容を教えていただけますか?

テレビ番組の制作が主ではありますが、ほかにもドラマやCM、YouTube、企業系の動画制作、あとは舞台の演出や映画製作も行っています。

関西圏のお仕事をメインにされているのでしょうか?

いえ、会社は関西にありますが、東京の番組やドラマの仕事も請け負っています。
企画が立てられる社員もいますので、企画書を作ってたくさん提案し、新しい仕事を取ってこられるように動いています。

映画を撮影されている会社は関西では珍しいですが、映画を撮ろうと思ったきっかけは?

映画好きになったきっかけが松田優作さんだったんですよ。4から5歳の頃にテレビドラマの「探偵物語」をリアルタイムで見た時、“松田優作”という名前も知らない俳優だったのに「この人、なんかすごい!」と惹かれるものがあったんです。
それから70年代のドラマの独特な撮り方が好きになって、だんだん映画へ興味を持つようなりました。なかでも、松田優作さんが主演の映画『ブラック・レイン』は特に思い入れが深くて。彼が亡くなる2日前に映画館で見たんです。当時は全寮制の学生だったんですが、友達とその映画の話をしていた時に、「松田優作が亡くなったよ」とわざわざ親から学校に電話があってね(笑)。それを聞いた時、本当にドラマみたいに膝から崩れ落ちたんですよ。ショックでご飯も食べられなくなりました。
今でも、彼の命日の1989年11月6日のことは鮮明に覚えています。映画に対してさまざまな思いを巡らせてしまうのは、この日を境に今もずっと続いているような感覚がありますね。

過去に数本映画を製作されていますが、どのようにして映画の仕事に介入することになったのでしょうか?

「やりたいことを周りに言い続けてきた」ということが一番大きかったかなと思います。
フリーランス時代に映画の予告編の制作を担当させてもらった時もそうですが、最初に吉本興業企画の映画製作に携わることになったのも、吉本の方が僕の“映画好き”を聞きつけて「映画やるか?」と電話をかけてくださったのがきっかけでした。
周りとのご縁があったおかげで、丸亀市を舞台にした『MG-2416』という短編の地域映画や、よしもと新喜劇映画『商店街戦争~SUCHICO~』などを手掛けてきました。

仕事の枠を超えて、意欲的な同志とともに作品づくりに邁進!

映像作品のコンペ「神戸インディペンデント映画祭」に参加された時のお話を聞かせてください。

「神戸インディペンデント映画祭2022」に『その少女、怒り。』という作品でエントリーしました。
ほかの参加チームの作品を見て、衝撃を受けましたね。どれもクオリティが高いだけでなく、チームの連帯感も強くて、「こんな素晴らしい人たちが一般の商業映画を作る機会がないのに、自分なんかが製作をしていていいのか」と考えさせられるものがありました。
映画祭に参加したのをきっかけに色々な出会いがあり、今はそこで知り合った仲間たちと会社とは別で映像チームを作って創作活動をしています。

“会社の色”をスパイスに、唯一無二の映像を作り出す

映像を制作する上で大切にされていることはありますか?

クライアントの要望やイメージをしっかりと汲み取った上で、自分の色を入れるようにしています。
もちろん請け負った仕事は自分個人の作品ではないのですが、若い頃はその辺りの加減がわからず、自分の色を入れすぎて敬遠されたこともありました。かといって、ただ要望通りに制作して終わりでは会社の色が出ないので、他社に制作担当が入れ替わっても成り立ってしまうことになるんですよね。
クリエイターとしてそれではいけないので、“会社の色”をスパイスとして入れることによって、映像を見た方に「あ、これはウォークオンが制作しているな」とわかってもらえるようなものが作れるように心がけています。それは企業系でもバラエティでも映画でも同じです。
「誰が撮っても一緒」というのはあまり好きではないし、会社としてやっている以上、ほかと同じでは良くないと思うんですよね。若い社員たちにも「自分だったら」というのを入れてほしいなという思いがあるので、その感覚を掴んでもらえるように伝え続けています。

会社の事業展開、そして社外のメンバーとの映像制作活動などとても興味深いのですが、そんな中でも苦労したことなどはありますか?

もう大トラブルばっかりですよ(笑)。2、3人の仲間と会社を立ち上げた当初から従業員の入れ替わりに悩んだこともありますし、会社としてやっていくには大変なこともありますよね。
でも自分自身この仕事が好きでずっとやってきたことですし、「この仕事以外できない」という思いだけでここまでやってこられたように思います。特に映画やドラマの製作は、どれだけ厳しいスケジュールでも寝る時間がなくても、本当に楽しくてまったく苦じゃないですね。
今後は、最低でも年1本は映画を撮っていくのが目標です。

キャリアに関わらず“熱量”のある、同志と新しい挑戦がしたい

現在の制作体制を教えてください。

僕を含めて制作3人、作家3人、経理1人の計7名です。

これまでに入社された社員さんは、皆さん同業でキャリアがある方ばかりですか?

元々作家やライターをやっていた方もいますが、映像系の専門学校を卒業していない方、飲食などの異業種から転職してきた方もいました。
映像制作が好きだという思いと仕事に対する意欲があれば、前職は関係ないかもしれません。

どんなクリエイターと一緒に働いていきたいと思われますか?

やっぱり「熱量がある人」ですね。作品づくりに対する思いや考えをしっかり持っていること。それから前向きに、楽しんで仕事をしている人とたくさん出会いたいと思っています。
今も、こうして同じ志を持つ人たちとやっていけている環境は、とてもありがたいことだなと感じてます。

現在、新しい従業員の採用は考えていらっしゃいますか?

常に人材が足りていない業界ではありますので、関心がある人がいればお会いしてお話しさせていただけたらと思っています。

最後に、会社として今後目指していることを教えてください。

「神戸インディペンデント映画祭」への参加をきっかけに、もっと外にも目を向けてどんどん発信していくことの大事さに気づかされました。今後は映像分野だけに留まらず、おもしろいことがあれば枠を超えて挑戦していきたいと思っています。

取材日:2023年1月12日 ライター:大野 由加里

株式会社ウォークオン

  • 代表者名:谷口 仁則
  • 設立年月:2007年4月
  • 資本金:500万円
  • 事業内容:テレビ番組・ラジオ番組・CM・映画などの企画・制作
  • 所在地:〒550-0001 大阪市西区土佐堀2-1-8 柏ビル4F
  • URL:http://www.walkon.ne.jp/
  • お問い合わせ先:http://www.walkon.ne.jp/contact/
  • Tel/Fax:06-7504-5912

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