チャレンジしやすい社会へ、若者の「やりたい」を後押し。人が核のプロデュース会社の挑戦
「共に汗かく」をテーマに、クライアントと二人三脚でモノ(商品)、コト(サービス)、ヒト(人材)のプロデュースに取り組む広島の有限会社S-Produce.(エスプロデュース)。代表取締役CEOの下宮 勇生(しもみや ゆうき)さんは大学時代のある勘違いをきっかけに、学生起業を果たしました。「世の中には、何かしようとすると、できない理由を並べて難しいことをより難しくしてしまう人が多い。素人でも若者でも、もっと『やってみたらいいよ』といえる環境にしたい」と話す下宮さんに、会社が目指す将来像をお聞きしました。
「何かをしたい」という思いを生んだ起業家養成講座
まず、事業内容について教えてください。
弊社は主にモノ(=新商品)やコト(=新サービス)、ヒト(=人材)のプロデュースを手がけています。
製品開発に先立つ事前のリサーチやプランニング、お客さまに届けるためのWebを中心としたプロモーションも企画、実行します。人材育成ではその企業や地域に合った完全オーダーメイドのカリキュラムを作成。講師のコーディネートなども含むトータルプロデュースを提供しています。
また2022年4月には、広島市中区に都市型サテライトオフィス兼コワーキングスペース「AxEL,(アクセル)」をオープン。その運営や、スペースを活用した各種イベントも手がけています。
学生時代に起業されたとのことですが、もともと起業を目指しておられましたか?
私は高校教師になって野球部の監督になるのが夢で、商業高校の教員免許を取るため商学部に入りました。その時点では起業など考えていなかったのですが、大学で受講した「起業家養成講座」がきっかけとなり、「自分でも何かをしてみたい」と思うようになりました。
実はサークルの先輩に「単位が取りやすい」と勧められて取った授業でしたが、毎回外部の経営者や専門家から失敗談や成功談、スキル、事業に対するマインドなどを聞けて、とても良い刺激を受けました。
ちょうどそんな時、新聞で地域活性化プランの募集告知を目にしました。優秀なプランには助成金20万円が出る公募だったのですが、「助成金」の意味が分かっていなかったので優勝したら賞金がもらえると思ってしまって。「飲み代を稼ぎに行こう」と友だちを誘って、学生団体を作ってエントリーしました。
その結果、受賞してしまったので、その助成金を元手に地域の人たちと協力し、地域課題に向き合うことになりました。
勘違いから受賞した公募事業で気付いた、継続的な取り組みの必要性
そこからどのように学生起業につながりましたか?
助成金事業を通して「地域を元気にしていくには継続的な取り組みが必要だ」と気付き、起業を決意しました。
地域や商品を知ってもらうためのイルミネーションイベントを開催したところ、町の人の協力もあり、約4000人が来場して成功を収めました。
ただ、打ち上げで地域のおばあちゃんから「毎日がこんな楽しい街だったらええのに……」と言われて。
その一言で、単発のイベントではなく継続して「楽しい」を作れる仕組みが必要だと思いました。継続するにはお金が必要なので、起業が必要だと判断しました。
起業にあたり苦労されたことはありますか?
当初はお金にならなくて困りましたね。学生の立場だと、どんな企業やコミュニティにも歓迎してもらえるのですが、プランと同時に見積もりを出すと、「学生なのにお金を取るの?」「勉強や研究の一環じゃないの?」と言われてしまうことが多かったです。
取引相手として認められるために開業届を出し、1年後には法人化しました。法人化しないといけないほど収益があったわけではありませんが、有限会社の制度が会社法施行で廃止されるぎりぎりのタイミングだったので、「今会社を作っておけば数年後には老舗感が出るな」と思ったためです。
同時に費用を請求できるだけの箔を付けるため、いろいろなビジネスプランコンテストに出場して名前を売っていきました。
特に経済産業省が後援をしている起業支援プラットフォーム「DREAM GATE(ドリームゲート)」のビジネスプランコンテストでは、中国エリア挑戦者祭で優勝し全国大会に出場。テレビでよく目にする著名な経営者などが審査員を務める中でプレゼンを行えたのは、今のS-Produde.にもつながるとても刺激的な経験になりました。
「共に汗かく」プロデュース会社。顧客と一緒に営業回りも?
現在はどのような顧客から依頼を受けておられますか?
弊社の仕事は知人との会話の中から生まれることがほとんどです。ご紹介などで仲良くなった方と何の気なしに話していると、その人の抱える悩みや実現したいアイデアが見えてくることがあります。そこに弊社のノウハウを提案することで、自然に受注に結び付いてきました。新規営業をかけることはほぼありません。
お客さまのニーズを聞きながら商品やサービスを開発することもありますし、既存商品のパッケージデザインや売り方を見直すこともあります。「作ったものをどう売っていこう」という相談を受けることが多いです。どちらかといえば、形のある商品の開発よりもサービスの企画やプロモーションなどのほうが得意ですね。
御社ならではの強みはどんなところですか?
やはり「共に汗かく」という点です。一緒にやるということがうちの一番の強みであり、選ばれているポイントだと思います。経営状況を分析して指示を出すコンサルタントとも、指示を受けた業務だけをする制作会社とも違い、お客さまとともに実際に身体を動かして課題を解決することを大切にしています。
例えば一緒に営業に回ったり、一緒にSNSを更新したり。中小企業は人手が足りないことも多いので、弊社の社員や学生アルバイトがお客さまと「共に汗をかく」ことでご要望や意向を摑みやすくなり、改善、成功に導きやすいというのが弊社の強みです。
弊社の社員は私を含めて4人で、私ともう1人がプロデュース事業の営業や企画を担当しています。残り2人はコワーキングスペースの運営やイベント企画などを手がけています。Webサイトの制作やグラフィックデザイン、商品の製作などは外注しています。
インターンシップ拠点としてコワーキングスペース開業。学生、企業、地域に恩恵
プロデュース業のかたわら、コワーキングスペースを開業されたのはなぜですか?
弊社の「ネルコラボ」というプロジェクト学習型インターンシップの延長なんです。学生が企業に行って経験を積むのではなく、第一線で活躍する専門家や経営者から学びながら、学生自ら地域課題解決のプランを練っていくインターンシップです。北広島町で実施していますが、毎月集まれる広島市内の拠点にしようと開業しました。
プロジェクトに参加する企業や学生、中山間地域の住民が集うほか、サテライトオフィスやウェビナーのライブ配信スタジオ、ワーキングスペース、イベントスペースなどとして幅広く活用されています。
インターンシップは単なる会社の見学会になりがちですが、半年から1年かけて企業と学生が触れ合う「ネルコラボ」では、学生と企業双方の個性が見えてきます。新卒採用を考える中小企業にとっては大きなメリットです。
行政からの補助金や委託を一切受けず、賛同いただいた企業の協賛金で運営しています。プロジェクト開始時と終了時では、見違えるほど成長する学生もいるんですよ。
「ネルコラボ」は、以前広島県教育委員会と一緒に取り組んだ「広島創生イノベーションスクール」というプロジェクトがもとになっています。高校生が地域課題解決に向けたプロジェクトを練る力を付けるためのカリキュラムを組んだのですが、地域や社会とつながることで高校生でもこれだけ考え方が変わって、目がキラキラするんだとわかって。それなら私も何かしたいと思い、大学生向けに「ネルコラボ」を作りました。評価方法もここから流用しています。
起業から10年、経営と並行し大学院へ。「何事にも興味を持つこと」の大切さ
起業後に大学院に行かれたそうですが、それはなぜですか?
はい。起業から10年ほど経ったころ、大学院に入学して改めてマーケティングについて学びました。それまで勘やノリで方法を決めていた部分があったのですが、着実に結果を出すための裏付けとして体系的な知識が必要だと思ったためです。
学んでみてわかったことですが、よくある課題に対してはフレームワークがあって、それらを応用することでスムーズに解決できるケースがあるんです。課題解決につながる自分の中の引き出しが一気に増えました。
経営と併行して大学に通い、予習や復習をこなして毎回ディスカッションの準備をするのは地獄のように大変でしたが(笑)、行って本当によかったと思っています。そのため、希望があればスタッフも大学院に通える制度を作りました。
社員の方には何を求められますか?
何事にも興味を持つことでしょうか。プロデュースをするには、お客さまの業界のことをお客さま以上に知っていなければいけません。興味が持てなければ調べる気にもなれませんからね。
業界知識が増えると、別の業種の仕事をするときにすごく役立つことが多いです。これまでお付き合いしたお客さまがご紹介できるので、私が1人動くだけで異業種交流が生まれます。
シンプルに「楽しい!」と思える方法で課題解決を図りたい
どのような会社にしていきたいですか?
弊社は幅広い商品、サービスをプロデュースしますが、基本は「人」だと思っています。このコワーキングスペースも「人」が軸にあって、色んな企業や地域、学生、若者が出会うことで、何か熱いものが生まれる場所にしていきたいです。そこに必要に応じて研修やセミナー、アイデアや夢の実現に必要な資金調達方法なども提供していきたいですね。
クラウドファンディングや企業協賛などでやりたいことをどんどんやっていって、お金を出してくれた人にもメリットがあるような仕組みができたらいいなと思っています。
今後解決していきたい社会課題はありますか?
目の前の困っている人から相談されたことに向き合い、解決を図る中で結果的に社会に貢献出来たらいいなと思っています。
世の中には若者が新しいことをしようとすると、「データはあるのか」「考えが甘い!」「こんな問題が……」と、できない理由を並べてくる人がたくさんいます。難しいことをより難しくしてしまうと、若い人が地域と関わりを持とうとしなくなります。
素人でも若者でも、やりたいと思う人に「やってみたらいいよ」といってあげられる空気があればいいなと思うんです。
学生やクリエイターの卵など、若手で何かやりたいという人たちのハードルも少しでもなくしていきたいですね。絵が得意な人を、絵で貢献できる場所や企業につないであげるような接点になれれば、関わる人みんなにメリットになるのではないでしょうか。
シンプルに自分たちが「楽しい!」と思えるような方法で地域課題に向き合い、笑顔を作る。それが弊社のミッションだと考えています。
取材日:2023年3月14日 ライター:進藤 真由美
有限会社S-Produce.(エスプロデュース)
- 代表者名:下宮 勇生
- 設立年月:2005年4月
- 資本金:920万円
- 事業内容:新商品および新商品の開発のためのリサーチ、プランニング、Webを中心としたプロモーション、自社や地域に合わせた人材育成カリキュラムの作成、講師のコーディネート、都市型サテライトオフィス兼コワーキングスペースの運営、各種イベント開催
- 所在地:〒730-0051 広島市中区大手町1丁目1-20 相生橋ビル 7階 AxEL,内
- URL:https://s-produce.com/
- お問い合わせ先:上記サイト「お問い合わせ」より