対話で探る「唯一無二の建築物」。琴線に触れる未知なるデザインを追求
「唯一無二の建築物」をデザインしてきた石川の株式会社トイットデザイン。代表の戸井 建一郎(とい けんいちろう)さんは東京の設計事務所で勤めたのち、独立しました。地元に設計事務所を構え、こだわりを持った施主さんの願いを形にすることに情熱を注いでいます。最近では、人気ジェラートショップ『マルガーラボ野々市』の設計監理に携わるなど建物の設計に留まらず、新たな発想で空間をデザインしています。ニュートラルな思想を追求する戸井さんにお伺いしました。
東京での経験を生かし、地元で設計事務所を設立
トイットデザインを立ち上げた経緯を教えてください。
大学卒業後は東京の設計事務所に勤めていました。当初は東京の南青山で事務所を置くことを夢見ていたのですが、地元の石川県小松市の仕事をたまたま機会があって引き受けるうちに、いくつか案件が舞い込むようになり、 気づいたら地元で設計事務所を構えていたという感じです。現在は金沢市に拠点を移しています。
トイットデザインという会社名はご自身の苗字からヒントを得たのですか。
よくある社名は、苗字+建築事務所が一般的ですが、私としては少し堅いかなという印象があり、デザインに特化した設計事務所だとわかる社名にしたかったのです。社名を考えているときに、苗字の「Toi(戸井)」のスペルが含まれる、フランス語で屋根や住まいを意味する「toit(トワ)」という単語から、トイットデザインという社名が生まれました。将来的には建築に関わる様々なデザインを総合的にプロデュースできる会社となりたい、という野望もその当時からありましたね。
建築家が「共存共栄」できる環境づくりにも注力
ご自身で事務所を立ち上げると同時に、建築家集団「アーキレーベル」を結成されていますが、何かお考えがあったのでしょうか。
建築家集団を立ち上げたのは2002年。まだインターネットが普及し始めたばかりで、ホームページを持っている会社もまばらでした。また、現在のように建築事務所に直接相談に行くということが当たり前ではなかった時代でしたので、待っていても知名度が低い設計事務所に仕事が来ることはありません。そのため、1人でアピールするより、一つの団体としてイベントでPRしたり、内輪で勉強会を開いて切磋琢磨したり、共存共栄できるシステムを作れないかと考えました。電話帳を頼りに仲間を集め、結果7社の建築事務所が賛同してくれました。
施主さんは「アーキレーベル」に相談してもらえれば、7つのパターン提案が受けられますし、我々設計士とすれば仕事を獲得するためにライバル心を燃やして、技術を磨いていけるというメリットがありました。現在はメンバーそれぞれの仕事が軌道に乗っているので「アーキレーベル」という形での活動は少なくなりましたが、今でも集まって情報交換をしたり、相談したり、いい関係が続いています。
技術力あるチームとともに作り上げる「まったく新しい形の建築物」
現在の事業内容を教えてください。
住宅の設計を中心に、クリニックや商業空間など様々な用途の建築物の設計監理を行っています。設計事務所では見積もりや工事に必要な実施設計を行い、建物の施工は信頼できる工務店に依頼します。建築が始まると設計図通りに施工が行われているか定期的に現場の監理をしながら、完成までしっかりと付き添います。住宅の場合、規模にもよりますが、デザインを起こして建物が完成するまで約1年くらいかかります。
どんな方がトイットデザインに相談にいらっしゃいますか。
弊社を訪れる施主さんは、「人と違う家を建てたい」や「ここだけは譲れない点がある」など、こだわりの強さから自ら設計事務所を探して相談に来られる方が多いです。私どもはゼロから組み立てていくので、ほかにない、まったく新しい形の建築物に作り上げていくことができるという点が強みですね。
私たちは緻密な計算をして建築設計を行なっているので、設計を忠実に形にできる技術力のある工務店さんを選定し、施工を依頼しています。クオリティーの高い建物をつくるには、一つのチームとして連携することが非常に大切です。家は一生に一度の大きな買い物ですので、失敗は許されません。そのため、信頼できる業者さんとの関係作りも丁寧に行っています。
対話で探り、形づくる理想の建物
住宅を設計する過程で大切にしていることをお教えください。
施主さんがご相談に訪れるときは、「ここはこうしたい」、「これを取り入れたい」というご希望をお持ちですが、思い描かれている空間のイメージはなかなか言葉で伝えにくいと思います。その漠然とした部分を私がお話をお聞きし、イメージを汲み取って思考したデザインを具体的に図面に落とし込んでいきます。会話のキャッチボールをしていくうちに新たなアイデアが生まれたり、違う視点からご提案してみたりと、お互い感覚を擦り合わせる作業が一番時間をかけているところです。
また、この作業によって施主さんとワクワクする気持ちを共有でき、建物が完成したときには一緒に喜びを分かち合うことができます。これらの瞬間に立ち会えることが、設計という仕事を続けられている原動力ですね。住宅の機能や耐震性など建物に必要な要素を網羅したうえで、世界に一つだけの建築物ができあがりますし、施主さんの満足度も高いです。
商業空間づくりでも手腕を発揮されていますが、仕事をする上で共通点はありますか。
相手の意向を聞き、設計やデザインに反映していくことはものづくりの基本ですね。さらに空間のイメージを形にするときに、どういう素材を選ぶか、どう納まりを考えるか、どう魅せるかを思考する部分も同じです。
住宅と商業空間をデザインするときの大きな違いは、誰にとっても心地よく感じられる空間であるかということです。住宅はそこで生活される施主さんが満足する空間を作り上げることが重要です。しかし、商業空間は、不特定多数の方が訪れる場所になるので、消費者の立場になって空間を俯瞰したときの心地よさを考えなくていけません。
建築をベースに今後はデザインのトータルプロデュースに挑戦したい
トイットデザインを今後どのようにしていきたいとお考えですか。
今の社名にしたときからの想いですが、総合的なデザインができる会社に成長していきたいですね。建築、インテリアを始め、ファニチャー、グラフィック、ディスプレイ、アートなどデザインと呼ばれるものすべてに統一感をもってご提案できることを武器にした会社にしたいと考えております。私自身、建築だけ考えていると視野が狭くなるので、アンテナは常に外の世界に張っています。デザインやアートに関連する情報で、自分の琴線に触れたものは頭の中にインプットしておき、たくさんの引き出しを持つように心がけています。あのアーティスト、デザイナー、クリエイターと建築をつなげたら、新しい化学反応が起きて、わくわくするコラボレーション作品が実現するのではないかという想像を頭の中で常に描いています。
今後、金沢のクリエイティブ業界にどのように貢献していきたいですか?
金沢という街は歴史的な建築群と世界からも評価の高い現代建築が融合しています。金沢に住んでいる以上、「金沢の建物はさすがだね」と褒めてもらいたいですね。そんな建物を建てるのが建築家の仕事ですので、この業界の皆さんでアイデアを出し合って文化的価値のある洗練された建物を生み出し、美しい景観を育んでいくことで豊かなまちづくりに貢献していきたいです。
経験と記憶がクリエイティブの源。「いいな」の先を探って
クリエイターになりたいと考える方にアドバイスをお願いします。
クリエイトするということは、新しいものを創造していくことに重きを置きます。その根源となるのは、自分の中に今までインプットされた経験や眼を通して感じた記憶です。できれば実物を一つ一つ見学し体感するのが一番ですが、時間には限りがあります。そんなときは自身で調べた好きな建築やインテリア、家具やアートなど興味が湧いた、自分で「いいな」と感じた作品を探究するという作業をやってみてください。どうしてこの形が生まれたのか、作者はどんな人か、どんな背景で作られたのか、作品の中には作者のどのような想いやメッセージが込められているのかなど、探っていきます。日常生活で自分の琴線に触れたものに対して、そこで得られる些細な感情や小さな発見を頭に刻んでおくことでクリエイティブな思考が身に付くでしょう。
最後に必ず自分の頭の中に蓄積されたものをいつか自分なりの表現でアウトプットしてください。周囲の評価は今後のクリエイティブの参考になります。また、アイデアを融合する機会としては、全くジャンルが異なるいろんなクリエイターさんとも交流し積極的に対話することで新しいヒントを得ることができると思います。
取材日:2023年3月10日 ライター:高井 寧香
株式会社トイットデザイン
- 代表者名:戸井 建一郎
- 設立年月:2004年3月
- 資本金:300万円
- 事業内容:住宅、商業空間、医療施設、その他建築物全般の設計・監理
- 所在地:〒921-8044 石川県金沢市米泉町8丁目45番
- URL:http://www.toitdesign.com/
- お問い合わせ先:電話076-236-2142または上記ホームページのお問い合わせフォームより