東北の宿泊業をWeb制作や商品開発などで全面サポート。事業定義は「宿と地域と人のマッチングビジネス」
IT事業がまだ普及していない頃に、インターネットでの宿泊予約やWebサイトでの販売促進に伸びしろを感じて、1人で起業した株式会社IOS(アイ・オー・エス)の代表取締役の中鉢 貴省(ちゅうばち たかよし)さん。東北のホテル・旅館を中心に、Webサイトの制作や管理画面のメンテナンスなどを通じて、販売促進をサポートしています。また、宿泊する客の視点から施設をサポートしようと、実際にホテルを運営している中鉢さん。「会社の事業目的は、人と宿と地域のマッチングです」と語る中鉢さんにお話を伺いました。
父が始めた宿泊予約サイトの代理店をサポート、将来性を感じて起業
IOSを立ち上げるまでのキャリアについて教えてください。
私は仙台市生まれで、山形県にある大学の人文学部を卒業しました。就職氷河期でしたが、オートバイが好きだったことから関東圏で大手のバイク販売会社の営業職に就職しました。
2000年ごろ、銀行員だった父が脱サラをして、大手オンライントラベルエージェントの営業代理店を始めました。当時、宿泊の予約は電話や旅行会社の窓口などが一般的でインターネットを使った事業は黎明期でしたが、父は宮城県内や東北を回って営業していました。Webでの予約集客サイトが一気に増えていた頃で可能性を感じましたし、父から「戻ってきて仕事を手伝わないか」と言われてUターンしました。
しばらくの間は順風満帆に仕事を進めていましたが、その後、エージェントの業務形態が変わり、代理店を辞めることになりました。しかし、インターネットを使った集客やサイト制作など、まだまだ伸びしろがあると思い、2005年に起業しました。父には旅館やホテルの支配人や社長の名刺をもらい、起業を後押ししてもらいました。最初から旅行業を志したというわけではなく、たまたまご縁があってこの職に就いた感じですね。
ブランドの魅力を再発見、気づかない魅力を引き出し形にするWebサイト
現在の事業内容について教えてください。
弊社では、Web制作事業、BCAC事業、ホテル・旅館運営事業などを行っています。Web制作事業は、約8割が東北を中心とした宿泊施設のサイトで、2割は経済団体で知り合った方から依頼される一般企業のサイトリニューアルなどです。お客が充足するよう、その施設らしさを大事に制作しています。
ホテルや旅館は長い歴史があるところが多く、一からブランディングや制作に関わることはありません。しかし、オーナーや現場の人が気づかないことをヒアリングで引き出して、再発見したブランドの魅力をWebサイトやデザインなどに落とし込んでいきます。
また、宿泊予約サイトなどの管理画面のメンテナンスや宿泊プランのご提案、Webを活用した販売促進についてのコンサルティングもさせていただいています。ホテルや旅館の魅力を発信し、また人材不足で忙しくて手が回らない部分をお手伝いする、困りごとを解決するのが地方の中小企業の役割だと思っています。
BCAC事業とは、どのような事業なのでしょうか。
3~4年前に、岩手県にあるBee Creative A,C.という会社からご相談を受けて、事業を継承しました。岩手県の盛岡、北上、花巻周辺の一般企業のホームページ制作などをしている会社で、歴史がある会社だったので、社名はそのまま残して引き継ぎました。盛岡に専任のスタッフがいて、月に一度足を運んでいます。宿泊業界以外の知らない業界の場合は調査・研究から始まりますが、それも楽しいです。
なぜ実際にホテルの運営事業を始められたのですか。
Web制作事業において、自分達で商品サービスを内製化できるようになり、スタッフやお客さまも増えて、実業もやってみたいと思ったんです。10年前にJR仙台駅前に「ホテルパーク仙台Ⅱ」、5年前に宮城郡松島町に「松島ホテル和楽」を、それぞれ中古物件を買って、リノベーションをして運営しています。今後は沖縄県の土地を購入したので、ヴィラタイプの宿泊事業を展開しようと考えています。
Webサイト制作事業の観点から見た場合、旅館やホテルは顧客でありパートナーで、真の顧客は宿泊するお客さまです。Webサイト制作と並行して、実際にホテルを購入して運営することで、直接宿泊するお客さまと触れあう機会ができて、顧客の本当の気持ちを理解することができるようになったと思います。全社会議はあえてWeb担当とホテル事業部を一緒に行っているのも、情報共有という狙いもあり、うまくシナジー効果が生まれればと思っています。
ゴールはお客さまの「明日への活力」を生み出すこと
御社の強みを教えてください。
ホテルや旅館とお取引し、ヒアリングをさせていただきながら、創業約17年で蓄積してきたノウハウが豊富にあります。それらの情報を柔軟に活用し、ターゲットや客層、サイトのつくり方などをイメージして提案できることが強みだと思います。
Webサイトは芸術作品ではなく、あくまで商業のツールです。Webサイトを見て宿泊したお客さまにお風呂や食事を楽しんでもらい、明日への活力につなげることがゴールですので、手段と目的を取り違えないように意識しています。
東北の観光や宿泊施設の課題、取り組むべきことについて、どう思われますか。
人不足という課題があります。しかし、雇用創出のためには潤沢な原資が必要で、国内の経済、地方の経済循環が良くなることが必要です。原資が生まれて人の雇用ができて地方に還元できるという循環が生まれればいいですが、現状として国内では難しいので、直接的な手段として外貨の獲得が拙速かと思います。
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズが今年1月12日に発表した「2023年に行くべき52カ所」で岩手県盛岡市が第2位に選出され、発表の翌日から盛岡のホテルや飲食店から問い合わせがひっきりなしにありました。京都のように外国人が闊歩する都市になると想像するだけでワクワクします。
日本は、気候と食事、文化、自然という観光の4大要素を満たしていて、観光の競争力はアジアで首位。観光立国になりうるにもかかわらず、観光に力を入れてこなかったため、観光収入は世界でも10位以下です。外国人を呼び込む努力と、豊富な原資で雇用を創出することが観光の発展に必要だと思います。また、おもてなし文化も大事ですが、LGBTQや菜食主義者の人も受け入れるなど、柔軟性と多様性を持ってお客さまに対応することも大切です。
お客さまからの紹介やリピート、スタッフの成長がモチベーションに
仕事でやりがいを感じるときはどんなときでしょうか。
やはり、お客さまからご紹介いただいたり、新たな案件でご依頼いただいたりすると、間接的にご満足いただいていると感じて、モチベーションにつながります。
社内で言うと、私自身が会社にいる時間が少なくなっていますが、実践やメールの返信など、ふとした瞬間にスタッフの成長を垣間見るときです。
スタッフの制作体制はどのようになっていますか。
スタッフは全社で25人ですが、制作部門の正社員はコンサルティング担当が3人、制作担当が3人です。コロナ禍に突入した3年前からは在宅ワーカーが増えてきて、多くの方にご登録いただいて、各自のスキルに合わせて働いていただいています。
「宿と地域と人のマッチング」という目的をスタッフと共有することが基本
どのようなクリエイターと働きたいか、スタッフに求めていることを教えてください。
まず、目的と手段を取り違えないことです。弊社の事業定義は、IT企業でも宿泊業でもなく、「宿と地域と人のマッチングビジネス」です。その事業目的を理解して、その手段として業務やタスクがあることを理解してくれる人が、求めるスタッフ像です。
今後の展望について教えてください。
地域なくして企業なしと言うように、地域の問題解決と会社の収益はイコールになるべきだと思います。困りごとを解決する対価としてお金をいただきながら、自社だけの問題ではなく、地域の課題と結び付けて考えていきたいと思います。観光支援策の可能性を鑑みると、社会全体が良くなることが必要ですが、まずは足元の地域から変えていきます。
そして創業して17年になりますが、時間は矢のように過ぎるので、なるべく早く右腕・左腕になる人を育てて、次世代の事業展開を考えていかなければならないと思っています。
最後に、若いクリエイターにメッセージをお願いします。
働く理由は、食べるため、お金を得るためだけではありません。目標を達成するために本気で働くことで、価値を見出したり、刺激を受ける相手と出会えたり、学ぶことができたりします。
また、働くことは信用と自信をもたらします。一生懸命働いている人は社会的責任を果たしていますし、自分で決めた目標を達成することで、プライドとは違う、本当の自信が得られると思います。
取材日:2023年3月30日 ライター:佐藤由紀子
株式会社IOS(アイ・オー・エス)
- 代表者名:中鉢 貴省
- 設立年月:2005年3月
- 資本金:300万円
- 事業内容:<宿泊施設様向け>・ウェブ制作事業・管理画面サポート事業・コンサルティング事業・デザイン一般制作事業・各種システム販売事業・BCAC事業(企業のブランドコンサルティング)・ホテル・旅館運営事業
- 所在地:
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