建築を軸に、新潟のまちに寄り添い、刺激を与え続けたい。事業展開を後押ししたある言葉
建築に関するコンサルティングや広報指導、空き家・空き店舗の再生事業、イベント開催など、多角的に事業を展開する株式会社新潟家守舎(にいがたやもりしゃ)。代表の小林 紘大(こばやし こうだい)さんは工務店などに約9年務めたのち、「新潟県では珍しい」フリーランスの建築士として独立し、同社を設立しました。今回は、まちを楽しくするさまざまなアプローチを行っているその真意を中心にお話をお伺いしました。お話を聞く中で見えてきたのは、生まれ育った新潟への愛と、建築を通じてまちを楽しくしたいという溢れる思いでした。
顧客との距離が近い住宅建築にフォーカス。経験重ね感じた経営者になる必要性
会社立ち上げまでの経緯を教えてください。
新潟の高校と大学で建築を学ぶ中で、住宅の建築に携わりたいと考えるようになり、新潟市秋葉区にある清新ハウスという工務店に入社しました。住宅建築を選んだのは、お客さまとデザインしたものの距離感が一番近く、自分がデザインしたものに対する評価のフィードバックが最も早く聞けると考えたからです。
清新ハウスで3年半働いたあと、オーガニックスタジオ新潟という会社で5年半お世話になりました。設計から施工、住宅の工事現場監督に営業まわり、さらには広報まで全部のポジションを経験し、2019年2月に「コウダイ企画室。」として独立しました。
いただいたお名刺には「新潟家守舎」とありますが?
フリーランスを3年間やって気がついたことがありました。それは、肩書きの必要性。当時の私の主軸は、フリーランスの設計士という、新潟ではかなり特殊な仕事でした。さらに、そこから派生したコンサル業なども手がけており、私の仕事が伝わりにくいという場面に何度か遭遇しました。そこで法人を立ち上げ、やっていることを明確化しました。
法人を立ち上げ、経営者となることで、“対会社”という付き合い方ができるようになり、クライアントとの距離感が大きく変わりました。お互いの関係性がイーブンになり、フリーランスのときよりも近い関係性で、仕事をできるようになりましたね。
建築業界に新しい働き方を。踏み出す勇気をくれたある言葉
小林さんの現在のお仕事を教えてください。
もちろん設計もしますが、私の現在の仕事は、住宅に関わるプロデュースやマネジメントが主になります。1人で依頼を受け、設計をするというような従来のスタイルではなく、新しいビジネスモデルを構築したいと考えました。
もう少し具体的に私の事業をお話ししますね。事業の展開としては、五つに分かれています。「コウダイ企画室。」は、工務店や設計事務所へのサブスク制の事業で、コンサルや広報プロデュースをしています。「AMINARI(アミナリ)」は、空き家や空き店舗の再生プロデュースや設計事業。「タノクラ」は、さまざまな事業を行う上での仲間集めを目的とした事業で、中でも「8 BAN EVENING MARKET」は、多様なジャンルのクリエイターたちが参加してくれる大事なイベントです。動画配信のスキルを生かし、クライアントをサポートしているのが「ハイシン」という事業です。これらの事業を統括するのが、新潟家守舎という位置付けになります。
現在のように多角的な事業展開となったのは、創業を考えていたときからの構想だったのですか?
いえ、違います。建築業界というのはキャッシュフローが決まっていて、イノベーションの起きにくい分野です。私はそこにずっと疑問を持っていました。仮説と検証を繰り返すために策はないかと考えた私は、2019年糸魚川で開催されていた「イノベーションスクール」へ参加しました。そこで空き家、空き店舗などを活用した遊休不動産のビジネスモデルがあることを知り、大きな刺激を受けたのです。それから遊休不動産活用の事業を始めたことで、さまざまな派生事業が生まれていったという形ですね。
遊休不動産活用を事業展開するまでに後押ししたものは何ですか?
「ここでなければ、今でなければ、あなたでなければ」という言葉です。この場所でなければできないこと。このタイミングだからこそできること。自分だからできることがある。あらゆる物事をこのポイントで考えることが、自ら行動を起こす原動力になることをスクールで知りました。そして、遊休不動産をこの視点で考え、プロデュースすることを楽しいと思えたことが大きな後押しとなりましたね。
数値では表せない、住みやすいまちづくりには多様な要素が必要
法人化してスタッフも増えたのですか?
一緒に仕事をする仲間はいますが、弊社に属しているのは私1人です。それぞれのプロジェクトに応じて適切なメンバーをキャスティングしながら、チームとして臨むスタイルになっています。クオリティの高い仕事をするうえで大切にしているのは、このキャスティングメンバーの多様性です。だからこそ、いろいろなクリエイターと出会える場所を自ら作るため「タノクラ」を展開しているわけです。
「タノクラ」で、街を巻き込んだイベントなどをしているとまちづくりにも興味が生まれるのではないですか?
そうですね。フリーランスとして独立した当初に「センシュアス・シティ(官能都市)」という考え方を知り、まちづくりへの興味が高まりました。センシュアスシティとは、数値ではなく、住む人の体験や五感でまちの魅力を測ろうとする考え方のことです。この視点を知り、心地よい暮らしを生み出すにはまちのあり方から考えないといけないと考えるようになりました。そういった点では、「タノクラ」は官能都市づくりの一環と言えますね(笑)。
まちづくりを“じぶんごと”にできる人とともに。新たなアクションで新潟に若者を
今後、さらに事業を増やしていこうと考えていますか?
まずは、現在の五つの事業に深みを持たせ、クライアントの方の満足度を今よりも高めることに注力したいですね。また同時に人材育成を行っていきたいと考えています。
弊社には「じぶんのまちを、じぶんのことに。」というキャッチフレーズがあります。この思いに同調してくれる若い世代を増やしたいんです。今、新潟の中心街は寂しい状況になっている場所が多々あります。若い世代の中には、「あそこには何もないから」と、足を踏み入れない人たちもたくさんいます。私は、そういったところに一石を投じたいんですよね。「AMINARI」でつくっているお店や「タノクラ」でイベントを行っているのは、多くがそういったまちの中心部。そこで新しいアクションを起こし、若い世代に足を運ばせたいです。
まちに興味を持ってもらうため、3年前からはインターンシップも実施しています。私の仕事を間近でみてもらって、仕事自体はもちろんですが、新潟というまちに興味を持ってもらいたいと思っています。
どういったクリエイターを求めていますか?
“じぶんごと”として、まちや人、それらに付随するすべてのことに興味・関心を持ち、仕事を考えられる人です。地域創生につながる仕事を私はしたいと思っているので、つくって終わりではなく、私たちがつくったものが、その地域で別の文化を形成するなど、いろいろな波及効果を生み出し続けていきたい。
そのためには、その地域のことをまるっと“じぶんごと”として考えられないといけないと思っています。まちに寄り添い、まちに刺激を与え続けられる存在でいたいという私と一緒の視点で仕事に臨める人ならジャンルは問わず、ウエルカムです。
取材日:2023年4月6日 ライター:コジマ タケヒロ
株式会社新潟家守舎
- 代表者名:小林 紘大
- 設立年月:2020年11月
- 資本金:300万円
- 事業内容:新潟県内の遊休不動産を活用したプロデュース業務
- 所在地:〒951-8067 新潟県新潟市中央区本町通7番町1098-1 WorkWith本町B-1
- URL:http://niigata-yamorisha.com
- お問い合わせ先:http://niigata-yamorisha.com/contact/