変革期の教育現場、教員のICT活用を支援する元教師。「自ら楽しく学び続ける姿勢」の必要
湿度や温度、においなどの測定器およびセンサーシステムの開発のほか、小・中学生を中心としたプログラミング講座、ハッカソンなどの教育分野も手掛けている株式会社プラズマ。近年は、教員へのICT(情報通信技術)利活用支援に注力しています。プラズマが手掛ける教員研修は一般的な座学メインのものとは大きく異なり、代表取締役の飯塚 悟(いいづか さとる)さん曰く「カオス」。一風変わった研修の根幹には、大手自動車メーカーのエンジニア、そして教師として長らく教育の現場に携わってきた飯塚さんだからこその経験と思いがあるようです。
大手自動車メーカーのエンジニアを辞めて世界旅行へ、そして沖縄へ
プラズマ設立までのキャリアを教えてください。
27歳までは、一部上場企業の自動車メーカーでエンジニアとして東京で働いていました。世界を旅するために退職し、約2年かけて80カ国以上を巡りました。オランダからアフリカまでオートバイで旅したこともありますよ。旅を終えたら社会復帰は学校教員になると決めていたので、旅行中は世界の学びの場を肌で感じたいと学校訪問もしていました。そして帰国後の2000年に沖縄県の教職員採用試験に合格し、技術科の教員生活がスタートしました。
なぜ沖縄を選んだのですか?
アフリカなどを長く旅していたので、東京で再び忙しい生活に戻ることは無理だと思いました。また、なぜか沖縄に親しみを感じたんです。風や、人の優しさ、助け合いの精神などがアフリカとよく似ている気がして。当時は夫婦でダイビングが趣味だったことも、沖縄に移住した理由の一つです。
生徒とともにレーシングカーを製造し、世界的な大会でベスト10入り
教員生活はいかがでしたか?
2000年から約18年務めたのですが、おもしろいことに携われる機会が多かったですね。
例えば工業高校では、生徒と一緒にレーシングカーを作って、オーストラリア大陸を爆走するレースに参加しました。出場校がマサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学、ケンブリッジ大学など名門大学ばかりのなか、MITやケンブリッジ大学に競り勝ち13位に入りました。その縁で、沖縄科学技術大学院大学(以下、OIST)という国際的な教育機関の学生と一緒にチームを組めて、アラブ首長国連邦の都市、アブダビの石油王が開催するレースに招待されたんです。
すごい経験ですね! 充実した教員時代だったと感じますが、なぜ退職して起業されたのでしょう?
現場でずっとダイナミックなことを続けたかったのですが、年齢を重ねるにつれ、管理職になることを促されはじめたんです。子どもとの距離が離れてしまうことは本意ではなく、悶々としていたときに、公務員でも非営利活動法人や一般社団法人を持てることを知り、新たなチャレンジとして立ち上げてみることにしました。その社団法人で寄付や補助金などで募った予算を活用し、学校や塾ではない、第3の勉強の場となるようなイベントを開催しました。
このような学校外の活動を通して、単年度である程度売上を作ることができたため、2018年に退職してプラズマを設立しました。
変革を求められる先生達、GIGAスクール構想によって拡大した教育支援事業
プラズマの事業内容について詳しく教えてください。
大きく分けて二つあります。一つはIoTシステム開発、もう一つは学校教育支援事業で、現在は後者がメインです。
IoTシステムについては、鶏舎や豚舎、農業の現場などにIoTシステムを導入し、温度や湿度などの管理、モニタリングを行うことで効率化を支援するサービスです。日本の農業は諸外国に比べると、IoTシステムに対するリテラシーや優先順位が低いということがあり、なかなか導入までのハードルが高く、弊社のサービスはまだ2カ所でしか採用されていません。引き続き開発を続け、少しずつ取引先を増やしていこうと考えています。
学校教育支援事業では、市町村の教育委員会から業務委託を受け、先生に対するICTを活用したさまざまな教育支援を行っています。研修をはじめ、Google Chromebookの教育現場への導入支援や運用管理など、支援内容は多岐に渡ります。
そのような事業を行うことになった経緯を教えてください。
会社設立前の社団法人の頃、OISTや在沖米国総領事館などの大きな組織と一緒に、子どもの創造性を伸ばすことをテーマにしたワークショップを行っていました。いまや、子どもの教育全てにおいてPCは必須。米軍基地の教師から、アメリカでは当たり前に一人一台PCが支給されていると伺い、近いうちに日本もそうなるだろうと確信しました。
日本でも教育現場でICTの活用は長らく行われており、先生方も一定のスキルを持っていましたが、3年前から先生方に求められるスキルが大きく変わりました。2019年に始まった文部科学省による「GIGAスクール構想」では、学生に1人1台のパソコン端末を整備し、子どもの可能性を最大限に引き出す学びの実現などの目的が示され、それに伴い、先生方のICTスキル、指導方法にも変革が求められるようになりました。
弊社はたまたまタイミングよく、この少し前にGoogle Chromebookの販売資格を取得していました。また前職が教員という私の経歴や、コロナによるリモート授業の拡大も相まって学校や教育委員会と連携することができ、事業の促進につながりました。
先生の自ら学ぶ姿勢を子ども達は見ている。先生達が学びやすい環境作りに邁進
教えるプロである先生方に対して「教える」仕事というのは、高度なスキルが必要に思えますが、特に工夫されていることや心がけていることはありますか?
昭和型の教える側から教わる側への一方通行な座学方式は採用せず、先生が主体的に学べるような研修プログラムを設計しています。具体的には、まず導入部分で砕けた話題を取り入れながら、ICT教育に必要な心構えを伝えるようにしています。例えば、最初に「皆さん、『ggrks』という言葉を知っていますか?」と質問します。
「ggrks」とはどういう意味ですか?
まさにそのようなリアクションを先生方から頂きますよ(笑)。ggrksとは、「人に聞く前にまずGoogleで調べろ、カス」という、子どもや若者の間でだいぶ前に一般的になっていたネットスラングです。そう説明した後に、「皆さんが授業で生徒に質問したとき、子どもたちから『ggrks』だと思われているんですよ」とお伝えするんです。
つまり、今は1から10まで先生が教えなければならない時代ではなく、子どもがパソコンを使って主体的に学べる環境が整っていて、子どももそれを求めているし、自由にググることが子どもの学びの基盤にあるという、ICT教育の大前提をご理解いただくことから始めています。
すると、先生方も自ずと座学の姿勢ではなく、主体的に学ぼうというスタンスに変わるんです。いつの間にか自由に発言し、時に離席して動き回り、互いに教え合うという、ある種「カオス」のような研修風景が見られることもしばしばあります。
楽しそうな研修ですね。
「楽しみながら主体的に学べる」ことをテーマにしている部分はあります。教員という仕事の醍醐味は、子どもたちが好奇心いっぱいでキラキラした目で学ぶ姿を見られることに尽きます。そのためには、教員自身も好奇心を持って主体的に勉強することが大切です。教師のその自ら楽しく学び続ける姿勢がそのまま子どもたちに伝播していくものだと思っています。
多くの教育機関に弊社の研修プログラムをリピートしていただけているのは、このように、弊社の研修を通して「子どもたちにいい影響を与えている」という実感を持っていただけているからだと自負しています。
新しいシステムを作り、多忙な先生たちの主体的な学びをサポートしたい
今後の展望を教えてください。
文科省が掲げる学習指導要領の中に「主体的で深い学び」という、従来の受動的な授業ではなく、子どもたちが自ら学ぶことを重要視しよう、という趣旨の新しいキーワードがありました。それに伴い、先生方が持つべき知識や教え方にスピーディーな変化が求められている。プラズマではそのような先生方を支援できるようなカリキュラムを開発しています。
どのようなサービスになる予定でしょうか?
ただでさえ多忙な先生方ですから、極力少ない負担でスキルアップや知識を収集、習得できることが重要です。例えば隙間時間を利用して、主体的に学べるようなオンライン学習コンテンツやオンデマンドサービスのようなシステムを目指しています。
既にβバージョン的なものは完成しており、実際に使っていただいてフィードバックをもらいながら詳細を詰めている最中です。忙しい中でも有機的に学べるサービスにしていきたいですね。
取材日:2023年3月16日 ライター:仲濱 淳
株式会社プラズマ
- 代表者名:飯塚 悟
- 設立年月:2018年6月
- 資本金:500万円
- 事業内容:ITシステム開発、IoTシステムによる農場の遠隔監視システム、駐車場管理システム、学校教育支援
- 所在地:〒901-0612 沖縄県南城市玉城當山117
- URL:https://plazma.co.jp/
- 連絡先:050-5534-0519