ゲーム業界の“ある”課題を解決すべく、起業。画家を志した時からの経験と“縁”が今につながる
ゲーム用の3DCG制作や、イラストレーション制作を手がける東京の株式会社プラネッタ。代表取締役を務める箱崎 秀明(はこざき ひであき)さんは、「ゲーム業界を志望する業界未経験者」と「業界経験者をほしがるゲームメーカー」という人材のミスマッチを埋めるべく、起業を決意したといいます。さまざまな“縁”に導かれて今の自分があると語るキャリアや、ゲーム業界を志望する学生に求めることなどをうかがいました。
縁に導かれて美大からゲーム業界へ。お気に入りのTシャツが内定を後押し?
まずは箱崎さんのキャリアを教えてください。
学生時代は美術大学で油絵を専攻しており、卒業後は画家として身を立てようと思っていました。
しかし、さまざまなアルバイトをするうちに働く楽しさを知って一度就職してみるのもいいだろうと思い直し、ゲームソフトを開発・販売する株式会社ハドソン(現コナミデジタルエンタテインメント)に就職しました。
話はさかのぼりますが、高校生の時に美大へ進学しようと思った理由はなんだったのでしょう?
小さな頃から絵を描くのが好きで絵画コンクールにもよく応募していました。周りの人にほめてもらえるのがうれしかったんです。
しかし中学では美術の先生に自分の絵を認めてもらえず、やりきれない思いをしました。進学後にもう一度だけ美術に取り組み、また否定されるようであれば絵の道は諦めようと考えていたのですが、高校の美術の先生は私の絵を見て「おもしろい」と言ってくれたので救われました。
自分の絵が受け入れられる世界もあったのだと、うれしかったですね。その先生が美大を卒業したばかりの若い方であったことも手伝い、美大への進学を決意しました。
その出会いはまさしく縁ですね。大学での就職活動時に、ハドソンを選んだ理由は何だったのでしょう。
自分に合っていると感じたからでしょうか。就職活動は書類審査を通過しつつも面接で落とされることが多く、苦戦していました。ハドソンは何社か応募したゲーム企業のうちの一社で、「面接の服装は自由」とのことでしたので、字面どおりに受け取ろうと決めて、お気に入りのTシャツを着て面接に臨みました。
すると面接官がTシャツに言及してくれて話が弾み、その結果内定をいただけました。うまく掘り下げていただけたことで、本来の自分を出せたんだと思います。
ゲーム業界の人材ミスマッチ解消のため起業を決意
その後、ハドソンでの勤務を経てフリーランスとして独立し、プラネッタの設立へとつながっていきます。
企業に勤めてゲームを制作するのは楽しく、不満はありませんでした。それでも会社を離れたのは「自分の名前で絵の仕事をしたい」という若い頃の目標もかなえたくなったからです。表現を変えるなら、作家として活動してみたくなりました。
美大も卒業されておられるわけですしね。
フリーランスとして絵の仕事をしつつ、引き続きゲーム制作の仕事も受注していましたが、仕事をする中で気になったのは「ゲーム業界を志望する人」と「ゲーム業界が望む人材」の間にあるミスマッチでした。
当時のゲーム業界は、即戦力として業界経験者を採用したいと考える会社が多く、「実力はあっても、ゲーム業界は未経験」の人が業界に入りにくいと感じていました。
「求む、即戦力」は多くの業界で見られますね……。
ならば、自分が会社を作って「業界未経験者」を採用し、社内で経験を積めばそこからは経験者として好きなところへ行ける、そんな入口となる会社を作ろうと考えました。
フリーランス時代には知人からの依頼で3DCGソフトウェア「Maya」について教える講師を務めたこともありましたので、その経験も生かせるだろうと考えました。
縁を象徴する”切れ目のない“社名に。ゲーム『ポケットモンスター』シリーズの一部キャラモデル制作も
いったん心が離れかけた絵の道へ戻してくれた高校の美術教師、Tシャツを着て臨んで話が弾んだハドソンの面接官、Mayaの講師の話を持ちかけた知人…さまざまな縁が起業につながっているのですね。
はい。「人との縁はなんと大切なのだろう」と実感していましたので、社名は縁を感じさせるもので、切れ目のないものにしたいと思いました。そこで、循環をイメージさせる円の形を派生させ、チェコ語で惑星を意味する「プラネッタ(Planeta)」としました。
事業内容についても教えてください。
事業の柱は、コンシューマーゲーム用の背景モデルやキャラクターモデルの制作です。最近では、Nintendo Switchソフト『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の一部3Dキャラモデル制作にも携わっています。
もう一つの事業はイラストレーションの制作です。ゲームのコンセプトアート、「ポケモンカードゲーム」のカードイラスト、ガンプラなどのキャラクタープラモデルのパッケージイラストなどを手がけています。
「ポケモンカード」との関わりはいつからでしょうか?
「ポケモンカード」との出会いは、学生時代にアルバイトで「ポケモンカードゲーム」のイベントスタッフをしていたのが最初でした。そこから自分で描く側になるとはその時は思いませんでしたが、いろいろなご縁をいただけて、とてもありがたいです。
ポケモンカードのイラストは現在、弊社社員が担当しておりますが、会社を継続する中で蓄積したノウハウを継承していってくれており、とても心強いです。
社会人の意識を持ってもらうためにワンフロアを借り切る。規模拡大も視野
設立の経緯からも、当初から働く中で学ぶOJT(On the Job Training)にとりわけ力を入れてきたかと思います。どのような苦労がありましたか?
最初に決めたのは、プラネッタにきちんとした“会社感”を出そうというものでした。仕事に関するノウハウは教えますが、弊社は教育機関ではありません。新卒の方が社会人としての自覚を持てるよう、マンションの一室などではなく、きちんとオフィスを1フロア借りることにこだわりました。
当初は私たちも効率のいい教え方を確立できていなかったので、教えるのにも時間がかかりましたね。受注してきた仕事をこなしながらのOJTでしたので、二足の草鞋をはいているようで大変でした。
そうした黎明期を乗り越え、社の雰囲気はどのようなものでしょうか?
全体的にゆるい雰囲気ながらも、会社としてしっかりするべきところはちゃんと押さえるという感じでしょうか。例えば、社員に意義をうまく説明できない意味のないルールは設けない方が良いと考えているので、勤怠連絡のフローなども単純化しています。会社の規模感からも諸々の承認フローは単純で、スピード感を重視しています。
ただメリハリは大事ですので、朝は全員集まっての朝会をリモートで行っていますし、深夜残業する場合は申請が必要です。毎日日報を出してもらい時間の使い方については意識してもらっています。
2012年4月に入社してくれた初の新卒社員2人は今も在籍しており、頼りがいのあるリーダーになってくれました。
彼らを含めた今(23年6月現在)の従業員数は17人で、5年後を目標に30人まで増やしたいと考えています。
社員への厚遇は、上役にもメリット。能動的に行動できる人と働きたい
視点を変えるなら、スタッフ一人一人に積極性や自律性が求められるわけですね。
そうですね。弊社が人を採用する時に、重視する要素の一つが積極性です。受注した仕事であってもオーダーをただこなすのではなく、クライアントに対しデザインや作り方など積極的な提案をできるような心持ちがあってほしいと思います。
近年のコロナ禍でリモートワークを採用したり、新型コロナウイルスの5類感染症移行を機に再び出社形態に戻ったりと、昨今は企業の勤務形態が目まぐるしく変わっています。御社ではどのようになっていますか?
新人でも研修期間を終えて仕事に慣れてくれば、出社とリモートを自由に選択できるようになっています。今は9割近くの社員がリモートですね。出社かリモートかをより柔軟に選択できるよう、会社用と自宅用でPCを1人2台ずつ貸与する体制を整えています。
つまり、貸与PCにインストールするソフトウェアのライセンスも社員数の2倍必要になるわけですよね。手厚い措置だと感じます。
ソフトウェアのライセンスは社内のメインPCにあるので、ライセンス数としては1人分です。自宅のPCから社内のメインPCにリモートする形です。その方がハードウェアのメンテナンス効率も良いですし、データを社内から持ち出せない仕組みにしているので、セキュリティ面からも安心です。
リモートと出社の切り替えもスケジュールに入れておくだけですので、そこもスピード感を持って仕事に取り組めます。
リモートワークは社員に対してのメリットの方が注目されがちですが、実は上役にもメリットがあります。新型コロナにおける緊急事態宣言もそうでしたが、病気の流行、台風や事故による交通機関の麻痺など、社員の安全を確保しつつ業務を進行させるときに早急に情報収集と様々な判断が必要になります。リモートワークを導入していれば、そういった時の判断がしやすくなるので精神的に楽ですね。
キャリアプランに沿った「個人ありき」の組織へ。学生のうちから「好きなものを形に」
それでは、御社の今後の展望を教えてください。
私がゲーム業界に入った頃は泊まり込みで仕事をすることもめずらしくありませんでしたが、ここ10年で業界全体の労働環境が整いました。今は、決まった就業時間や納期の中でいかに効率よく作るかという風潮が当たり前になりました。
限られた時間の中で最大限の効果をだすことが求められるようになり、それにより社内での教育やフォローアップが重要な意味を持つようになりました。
今後は更に個々人の能力にクローズ・アップする世の中になると考えています。
仕事の枠に個人を当てはめるのではなく、まず個人の能力があって、それが活きる仕事を当てはめていくという感じです。そのほうが効果を期待でき、働きやすい環境になると考えています。
そのために社員の話を聞き、それぞれの適性を見極め、各個人が意識的にスキルアップしていく。会社としてはそのためのフォローをしっかり行い、彼らがより輝ける組織を構築していきたいと考えています。
最後に、御社やゲーム業界を志望する学生へのメッセージをお願いします。
ゲームをはじめ、何かを生み出すクリエイターの仕事は、毎日手を動かし続けます。
そのため、「何を作れるのか、作りたいのか」というスキル面や情熱に加えて、作業に熱中し続ける力が大事になってきます。
どうにもうまくいかなくて手が止まるときもありますが、それでも手を動かすことでしか解決しないのが私たちクリエイターの仕事です。
クリエイターを目指す皆さまには、日々作品を作って完成させ、どんどん作品数を増やしていってほしいです。
取材日:2023年5月11日 ライター:蚩尤
株式会社プラネッタ
- 代表者名:箱崎 秀明
- 設立年月:2011年9月14日
- 事業内容:ゲーム用3DCG制作、イラストレーション制作
- 所在地:〒103-0004 東京都中央区東日本橋2-4-3 アドバンテージIIビル 2F
- URL:https://pla-neta.co.jp/
- お問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「CONTACT」より
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