「こんな世界があるのか」。ネットサービスで受けた感動を未来へ。大手出版社とマンガ領域も展開
「はてなブログ」「はてなブックマーク」などを展開し、2016年に東京証券取引所マザーズ(現・グロース)に上場した京都の株式会社はてな。現在は、サーバー監視サービスや、コンテンツマーケティング支援、マンガ作品をサイトやアプリで閲覧する際に必要なソフトウェア「GigaViewer」を自社開発し、数々のマンガサイトに導入するなどの事業を展開しています。当時のはてなのサービスに出会い「こんな世界があるのか」と感銘を受け、大企業から08年にはてなへ転職した、代表取締役社長の栗栖 義臣(くりす よしおみ)さん。社長就任までのエピソードや現在の取り組み、今後のビジョンについてお伺いしました。
大企業で仕事と自分のやりたいことに生まれたズレ。そして、はてなとの出会い
ご経歴を教えてください。
高校まで鹿児島におり、大阪大学の大学院を出て、東京のシステムインテグレーターの会社にシステムエンジニアとして就職しました。とても大きな会社でエンジニアとして育てていただきましたが 、会社の方向性と 、自分のやりたいことがずれてきたので 、08年に会社を辞め、はてなに転職しました。
はてなに入社を決めたのはなぜですか。
当時から、日常生活をつづった日記や自分で勉強した技術的なことをブログに書くなど、インターネットを通じて自分の考えを発信したり、インターネット上でサービスを共有したりする空気感が好きでした。そんな中で、はてなという会社のことを知りました。ユーザーがブックマークした記事が集まる「はてなブックマーク」というサービス には、自分の知らない記事やニュースが集まっていて、ほかのメディアでは出会えなかった記事やコメントが読めるのを見て、「こんな世界があるのか」と感銘を受けました。 また、エンジニア向けの大規模イベント「Google Developer Day 2007」で、はてなの元CTO(最高技術責任者)である伊藤直也さんの話を聞く機会がありました。私と同年代だったこともあり「世の中にはすごい人がいるものだ」と衝撃を受けましたし、「こういう人がいる環境で働けたらおもしろいんじゃないか」とも思いました。
培ったマネジメント能力を生かし、任天堂との共同プロジェクトで奮闘
はてなではどういったお仕事からスタートされたのでしょうか。
写真をWeb上で共有できる「はてなフォトライフ」の機能追加や不具合修正です。また、任天堂株式会社との共同プロジェクトにも途中から参加し、「うごメモはてな」開発チームのまとめ役を任っていました。社員の人数が少なかったので、裁量を持って仕事を任せてもらっていたように思います。 入社当初から、チャレンジングなテーマであっても、「前向きに取り組んでみよう」という社風があると思っています。
共同プロジェクトではどのような仕事を任されたのでしょうか。
エンジニアのマネジメントをしながら、自分もプログラムを書いていました。任天堂さんから要望を聞いて、設計をエンジニアと一緒に考えたり、担当を割り振ったりといったことをやっていましたね。自分としては、特にマネジメント能力が高いとは感じていませんでしたが、意外とこれが特技だったとやってみて分かりました。
プロジェクトにおいて、マネジメントしていく能力はやはり大切でしょうか。
そうですね。プロジェクトの進み方は実際、マネージャー次第という部分が大きいと思います。スポーツに例えると、プロ野球チームの監督が代わるだけでチームの雰囲気が変わることがありますが、まさしくそういうことではないでしょうか。個々の能力を生かし、このチームではどのように仕事を進めていくのかを決める人は必要です。指示の仕方、仕事の進め方、チームの雰囲気づくりなどで、全然違ってくると思います。
14年にはてなの代表取締役社長に就任。社内ツールを他社にも適用
社長に就任された時、どのように思われましたか。
最初に話をいただいたときは「無理ですよ」と思いました。私はスタートアップ、ベンチャーといった会社は創業社長の色が濃いと思っていますし、はてなという会社は、創業者の近藤が創った会社です。どこの馬の骨だか分からない“栗栖”という人間が社長になって務まるのだろうか、という思いがありました。
近藤前社長が栗栖さんに社長になってほしいと思われた理由は何だと思われますか。
近藤の本音は分かりませんが、開発の現場を見ている人間がやるのがいいと思っていたのではないかと思います。当時私は、開発本部長という立場でした。近藤が会長として残る形で、会社の社長という立場をやらせてもらえる、こんなお話はそうそうないこと。チャレンジをさせてもらえるなら頑張ってみようと思いました。
さまざまなサービスを手掛けられていますが、印象深いサービスはありますか。
社内でビジネスプランを出し合うコンテストから生まれた、SaaS型サーバー監視サービス「Mackerel(マカレル)」です。当時のCTOである田中慎司が、大量のサーバーを効率よく管理するために開発してきた社内用ツールを作り変えて、ほかの会社でも使えるようにしました。ビジネスプランコンテストで1位になったサービスが、現在も成長しているので、思い入れはありますね。
マンガ領域をターゲットにしたサービス「GigaViewer」に注力
会社として今後もっとも注力していくサービスを何かご紹介ください。
ユーザーがマンガ作品をサイトやアプリで閲覧する際に必要なソフトウェア「GigaViewer」です。株式会社集英社、株式会社小学館、株式会社講談社など、現時点で15社21サービスのマンガサイト・アプリ を作るお手伝いをしています。
このサービスは多くのマンガサービスで導入されているのですね。
問い合わせベースでここまで広がっているので、本当にすごいことなんです。「GigaViewer」は使いやすくて、読みやすくて、運用 が簡単というところで選んでいただいているのだと思います。また、マンガの前後に表示する広告の運用をはてなが担当しており、サービスのマネタイズも支援させていただいています。
「GigaViewer」は今後、どのように成長するとお考えですか。
おかげさまで多くのお問い合わせをいただきながら、開発リソースの関係でお待ちいただいている企業さまも多い状況です。導入したあとにサービスの運用や運営もお手伝いさせていただくケースがほとんどなので、各マンガサイトの利用者を増やしていくことで、私たちも成長していけると思っています。
強みは技術力。そして社内に根付いているのは自分の思いを発信する風土
はてなの強みについて教えてください。
自信をもっていえるのは、開発チームの技術力を強みとして、個人ユーザー向けと法人向けの両方のサービスを提供している点です。個人ユーザー向けサービスの勘どころや運営ノウハウ、制作ノウハウを持っているという部分の信頼感もあると思います。
社員を採用する際に、「一緒に働きたい」と思うのはどういう人ですか。
インターネットが好きな方。ユーザーさんのことを考えて、良いサービス提供のために一緒にチャレンジしていきたいです。あとは自分の持っている技術にこだわりがあって、それを学んだりアウトプットすることを 自然にできる人がいいですね。社内にはコミュニケーションを円滑化するサービス・グループウェアがあって、自分の思っていること、仕事の内容、感じたこと、趣味の話などを書き残すことが当たり前に行われています。
コロナによって社員の仕事の進め方に変化はありましたか。
コロナ禍までは基本的に出社していましたが、現在はフルリモートでも勤務可能で、8割以上が在宅勤務です。以前から東京と京都の2拠点で仕事をしていましたし、2拠点をまたいでチームを作ることもありましたので、当時からオンラインで仕事を進めていました。ですので、コロナ禍によって仕事の進め方が変わることはありませんでした。
クライアントのスペシャリティを大切にし、互いの強みで高みを目指す
お客さまの関わりの中で大切にされていることはありますか。
お客さまと一緒にサービスを作り、一緒に育てていく、一つのチームでやっていきましょうという姿勢を大切にしています。
弊社が一緒に仕事を進めるお客さまは、それぞれの分野のスペシャリティを持っている会社さんばかり。ゲームにしても、小説・マンガにしても、それぞれの分野ではわれわれより詳しい方たちです。逆にシステム、サービスづくりに関しては私たちのほうが詳しいと思っていますので、お互いのスペシャリティを尊重しあって、強みが出せるような座組みを作れるよう意識しています。
はてなのスタッフにもそういった話をされているのですか。
多職種に対するリスペクト持ちましょう、といったことは伝えています。自分たちとは違う考え、立場、職種の人たちのことを頭に入れながら、仕事を進めてほしいです。 はてなのミッションは、「知る」「つながる」「表現する」ことで新しい体験を提供し、人の生活を豊かにすること。自分たちが表現する、アウトプットする立場に立たないと分からないこともあります。どんなに小さなことでも取り組んでみると、気持ちが分かるかもしれません。ユーザーさんがやっていることを自分たちも体験してみましょうという話はしています。
ちなみに、新規のサービスを開発される際は、ユーザーさんの声を参考に考えていらっしゃるのでしょうか。
ユーザーさんの声は、今あるサービスを改善するためのヒントとして生かしています。はてなブックマークのコメント、はてなブログのエントリーなど、既存のサービスに対する思いが書かれたものには目を通して、おもしろいことが書いてあったら、担当者に伝えたり、それを受けて考えたことを社内に発信したりします。 ただ、ゼロイチで考えるときは、ユーザーさんの声を拾っていくことだけではない“何か”が必要だと思います。
ワクワクを感じてもらえるようなサービスを提供していきたい
はてなという会社が目指す未来について教えてください。
引き続き、エンドユーザーである皆さんの表現を応援する仕組みを提供する会社でありたいと思っています。私がはてなの外にいた頃、「はてなダイアリー」や「はてなブックマーク」を見て、おもしろい会社があるなと感じたように、ユーザーにとっての新しい体験を常に考えながら、皆さんにサービスを提供していきたいですね。
取材日:2023年4月7日 ライター:上野 典子
株式会社はてな
- 代表者名:栗栖 義臣
- 設立年月:2001年7月
- 資本金:239,419千円
- 事業内容:インターネット関連事業(UGCサービス事業)
- 所在地:〒604-8162 京都市中京区 烏丸通六角下ル七観音町630 読売京都ビル7F
- URL:https://hatena.co.jp/
- お問い合わせ先:上記サイト「お問い合わせ」へ