“映像への情熱”を動力に、大阪から映像の未来を創る。20年来の仲間と踏み出す新たな一歩とは?
映画やテレビCM、MVなどの制作、映像に色彩補正を施すカラーグレーディングなどを手がける大阪の株式会社RECIPRO(以下、レシプロ)。専門分野を持つ「職人肌」なメンバーで構成された同社は、企画、撮影、編集までをワンストップで対応できます。代表取締役の大隈 文顕(おおくま ふみあき)さんは、中学時代の“写真好き”が転じて映像の世界に「どっぷりはまってしまった」とか。カメラマンとしても数々の映画、ドラマ、CMの現場で活躍する大隈さんに、設立の経緯や映像制作への想いなどを伺いました。
写真好きの青年がどっぷりはまった「映画の魅力」。20年来の仲間とともに
大隈さんが映像表現に興味を抱いたきっかけは何だったのでしょうか?
中学時代は映像よりフィルム写真が好きで、カメラが趣味でした。しかし将来、写真で生計を立てるのは難しいと考え、写真に近い印象があったドキュメンタリー映像を学ぼうと専門学校に進みました。
その後、専門学校で師事した先生に「ドキュメンタリーをやるには、フィクションの知識や技術も必要」とアドバイスをいただき、勉強を始めたところ、映画などフィクションの世界にどっぷりはまってしまったんです。
その後、レシプロを立ち上げた経緯について教えてください。
専門学校卒業後、「レシプロ」という屋号で活動していたものの、法人化はせず10年以上にわたりフリーで仕事をしていました。
その後、行政など大きなクライアントとの仕事において法人化が必要になり、私が代表になった後は少しずつフリー時代の知り合いが社員として参加したという流れです。私としてはあまり代表という意識がなく、枠を用意しただけだと思っています。
ちなみに、社名の「レシプロ」の由来は何でしょうか?
由来は熱エネルギーを動力に変える「レシプロケーションエンジン」です。映像への情熱を原動力に、前進を続けようという想いでつけました。
社員の皆さんとはかなり長いお付き合いですね。
社員としては6期目ですが、フリーの頃から数えると20年くらいですね。気心が知れているといいますか、全員ずっと無言でも気にせず一緒にいられる、熟年夫婦のような関係です(笑)。
でも仕事について議論する時は、遠慮がない分、ケンカをしているように見えるかもしれません。ほとんどが職人肌で、映像については互いになかなか譲れないこだわりがあるので。
大阪をホームに関東へ進出、よりスケールの大きな仕事を獲得
大阪で起業された理由について、教えてください。
私が大阪出身ということもあり、まず十三(じゅうそう)(大阪市淀川区)に事務所を構えました。現在はそこと北新地(大阪市北区)、さらに東京支社という三つの窓口で対応しています。
北新地の方は、お付き合いのある映画制作・配給会社の方から「映写室を備えたビルに一室、空きが出たので使わないか」と声をかけていただき、今年1月から使っています。
東京支社の方は、社員の1人が家庭の都合で故郷の埼玉県で活動することになったため、関東の窓口として開設しました。映像の仕事は関東から発生することが多いので、いい機会だと考えたんです。
映像業界において、関西と関東はどう違うでしょうか?
予算とスケールの規模はやはり関東の方が大きいですね。特に予算に関しては、倍くらい違うという印象を抱いています。例えば大阪で「70万円でお願いします」と言われた仕事が、関東では150~200万円くらいになります。今後、関西のクライアントワークにおいては、現状以上の広がりは難しいかもしれません。
少数精鋭のプロが提供するワンストップのクリエイティブ
改めて、現在の事業内容についてお話をお願いします。
映画やテレビCM・プロモーション動画などの制作、イベントやミュージックビデオなどの動画撮影、映像に最適な色彩補正を施すことで完成イメージに近づけるカラーグレーディングをメインに行っています。
企画・撮影・編集およびカラーグレーディングまでワンストップで対応することもあれば、撮影のみ、カラーグレーディングのみの対応も可能です。
現在、デジタルシネマや撮影データの多様化により、撮影・編集が複雑化していますが、弊社ではディレクターが窓口となりすべて社内で対応します。この体制は映像クオリティーに直結する、レシプロならではの強みと自負しています。
少人数ながらワンストップを実現されている理由は何でしょうか?
カメラマン、ディレクター、映像コーディネーター、マネージャー、プロデューサーなど多様な専門分野をもつ社員が集まっており、映像制作に必要な工程をすべて行えるためです。だからこそヒアリングから企画書・脚本の作成、コンテ作成、撮影、編集・カラーグレーディング・修正、音声収録・調整まで対応が可能です。
職人集団として譲れない、クオリティーへのこだわり。配信事業をやらなかった理由
映像業界はコロナ禍の影響が大きかったと思いますが、御社はいかがでしたか?
コロナの影響については、業績的にちょっと難しい時期もありましたが、助成金の利用などで乗り切りました。「映像配信事業を始めてはどうか」というアイデアも社内で上がったのですが、最終的にやらないという結論に至りました。
配信事業を手がけなかった理由を教えてください。
映像の安定性に責任が持てないためです。配信はネット回線に依存するので、どれだけ綺麗な映像でも、回線が不安定だと影響を受けるのは避けられません。そこで、映像のクオリティー以外の理由でクレームがきても、責任ある回答や対応ができないならやめておこうと。全社員が映画畑の出身なので、自分たちの映像に責任が持てないこと自体にストレスを感じてしまうんですよね。
メリハリ(白と黒)をつけて働く、シマウマのような職場。「作る目的」を大切に
表現について重視しているのは、どんな部分ですか?
私個人としてはトーンコントロールという、映像の色味やニュアンスの調整にこだわっていますね。映像の各シーンに合わせた色味・ニュアンスを作っていくことについては、かなりプライドをもって対応しています。
経験を重ねると、若くて未熟な頃には実現できなかったトーンが、けっこう自由に作れるようになるんですよ。理想とするものを自分たちでどんどん作っていける。そこが醍醐味です。
もちろんまだ見ぬトーンも存在するはずなので、追求すると終わりがない、沼みたいなものですけれど。
クリエイティブとビジネスの両立において、意識している点を教えてください。
その映像を作る目的を忘れないようにすることです。特にクライアントワークにおいて、映像を作成する目的は売上アップやリクルートなどさまざまです。いくらクリエイティブでも、目的達成のために役立つものでなければ、美しいけれど意味がないものになってしまいます。
働き方については、どのような点を重視していますか?
シマウマのような職場にすることです。
シマウマ!?どんな職場ですか?
はい。他業界と同じくクリエイティブ業界も納期が絶対です。納期直前になると、例えば深夜であっても映像が完成するまでは帰れない。そういう意味ではブラックです。その代わり、必要がない時は定時に来なくてもいい。仕事に支障をきたさないことが大前提ですが、それを満たせるなら何時に出社してもOKという柔軟性も必要ではないでしょうか。
というわけで、黒い部分と真っ白な部分が存在する、まるでシマウマみたいな職場にしたいと考えています。
クリエイティブはプロレス、最後まで立ち続けた者こそ勝者
一緒に働く仲間として、クリエイターにどんなことを求めますか?
ものづくりに対する真摯な姿勢です。その姿勢があれば、技術は二の次でいいと考えています。
もしこれから一緒に働く仲間を増やすなら、映像の現場にいた経験があって、業界について理解している営業担当者がいてくれればありがたいです。弊社ではディレクターが営業的な役割を兼ねていますが、兼務すると映像制作のリソースが圧迫されてしまうので、できれば切り離したいんです。
大阪発の商業映画の実現に向け発進!音楽とお笑いテーマに
今後の展望についてお聞かせください。
実は現在、映画制作の企画を進めています。自主制作ではなく商業映画を作るため、今まで職人として入っていた映画の現場で、イチから自分たちで企画・制作を行いたい、クライアントワーク以外のビジネスの方向性を探ってみたいと考えています。
現在、企画中の映画はどんなテーマなのでしょうか?
20年ほど前に描かれた漫画を原作に、音楽やお笑いがテーマの映画を撮影する予定です。タイトルに大阪の淀川が使われているので、レシプロがずっとお世話になってきた大阪の街をふんだんに使わせてもらって、撮影ができたらと思っています。
クリエイターの方々に、アドバイスをお願いします。
社内で「僕たちは華やかな経歴があるわけでもないし、結局、折れずに立ち続けて今があるな。プロレスと一緒やな」と話したことがあるんです。つまり言いたいのは、クリエイティブはプロレスと同じで、周囲から技をかけられる、倒される、そんな状況で最後まで立っていた人が勝ちだということです。
もしクリエイティブに才能が必要だとしたら、作品作りを楽しむ才能、折れない才能、あるいは鈍感力だと思います。だから失敗や挫折にめげず、好きなことに真摯であり続けてください。いつか、何らかの形が見えてきます。
取材日:2023年6月27日 ライター:櫻井 靖子
株式会社RECIPRO
- 代表者名:大隈 文顕
- 設立年月:2018年1月
- 資本金:1,000,000円
- 事業内容:映画・CM等の映像の企画、制作
- 所在地:〒532-0021 大阪市淀川区田川北1丁目7-26
- URL:https://recipro-film.com/
- お問い合わせ先:https://recipro-film.com/contact