グラフィック2023.08.16

「北海道に生まれた」ことに意味がある。経験による“直感派”デザインで地元の魅力を伝える

札幌
有限会社寺島デザイン制作室 代表取締役 アートディレクター
Masayuki Terashima
寺島 賢幸

広告やグラフィックデザイン、パッケージデザイン、ブランディングに携わる札幌の有限会社寺島デザイン制作室。「デザインで北海道の役に立ちたい」という思いから、北海道の企業を中心に食料加工品のパッケージデザインを多く手がけています。シンプルながらも商品のよさや北海道の魅力がまっすぐ伝わるデザインが魅力で、Webサイトを見て「依頼したい」との問い合わせも多数あるとか。自らを「直感派」と言う代表取締役・寺島 賢幸(てらしま まさゆき)さんに、パッケージデザインに携わるようになった経緯や、デザインを考える際の思考回路、これからの新しいコミュニケーションデザインの形などについてお話を伺いました。

「好きなものを好きなように作りたい」と起業。「バブルの名残」が事業を後押し

起業までのキャリアを教えてください。

デザイン系の専門学校を卒業後、札幌の大手広告代理店の制作部で10年ほど勤め、31歳で起業しました。会社に長く勤めて大きな仕事を任されるようになると、自分の思い通りにできることが減ってしまうんですよ。
自分の好きなものを好きなように作りたいという気持ちが次第に大きくなっていく中で、昔から「いずれは独立したい」と思っていたこともあり、結婚をきっかけに独立しました。

立ち上げ時の体制を教えてください。

最初は1人での立ち上げでしたが、すぐに増員が必要になりました。広告代理店もデジタルに対応しておらず、校正をメールではなく直接届けるためのスタッフも必要でした。バブルの名残でまだまだ忙しい時期で、古巣の広告代理店も仕事を発注してくれていましたし、何も考えずにこなすだけで仕事が降ってくるような時代でした。依頼されるものを端から受けていたら仕事もどんどん増え、一番人数が多いときでデザイナーが12人という規模にもなりました。

「北海道の役に立つには?」と考え20年。デザインで“北海道”を発信し地元を応援

これまで一貫して札幌を拠点とされていますが、東京に拠点を移そうと考えたことはありますか?

ないですね。北海道に生まれたことに何か意味があると思っていて、北海道の役に立つには何をすればいいのだろうとずっと考えていました。それで思いたったのが「農業」です。北海道は日本の食料基地ですし、それを応援できるような仕事をしたいなと。そんなことを人に会うたびに話していたら、農業に関わる仕事の依頼が来るようになりました。それが20年くらい前のことで、今現在も「役に立てているだろうか」と自問自答しながら続けています。

具体的にはどんなお仕事でしょうか?

多いのは、北海道の食料加工品のパッケージデザインです。パッケージデザインの仕事が増えたきっかけは、20年ほど前に取り組んだ北海道岩見沢市の食品メーカー「NORTH FARM STOCK(以下、ノースファームストック)」さまの仕事 です。ブランド立ち上げ当時にミニトマトジュースのパッケージやロゴの制作を行いました。そのデザインが北海道だけじゃなく東京でも注目されて、それをきっかけに仕事が増えていきました。
会社としてはグラフィックデザインやWebデザイン、広告なども作成していますが、最近はブランディングの仕事が中心です。パッケージデザインやロゴデザインをきっかけにブランド作りに携わることが多いです。

印象に残っているプロジェクトはありますか?

やはり、ノースファームストックさまとの仕事はとても印象深いですね。トマトジュース1本のパッケージデザインから始まり、お互いにリスペクトできる信頼関係を築いています。こんなに長く一緒にお仕事をさせていただけることはなかなかありません。この関係性や経験は私の財産だと思っています。
また、ブランドを立ち上げるにあたって、当時クリエイティブディレクターだった方から “北海道であること”をとにかくしっかりと謳っていく、という北海道からプロダクトを発信するときの基本の考え方を学びました。今までいろいろな商品を作ってきましたが、「北海道」という言葉を外したことはほとんどありません。ストレートですが、この考え方が常にデザインの中心にあります。

デザインは「商品を見ていてパッと思いつく」。経験の積み重ねによって生まれる直感

普段、デザインはどのように考えているのでしょうか?

例えばパッケージデザインなら、商品を見ていてパッと思いつくことが多いです。「この形しかないな」と原型がイメージされて、そこから細かいディテールを考えていきます。インスピレーションを大事にしているので、昔からデザインの根拠や意味を言語化するのが苦手なデザイナーなんです。

直感の元やヒントになるようなものはありますか?

思いつこうと一生懸命考えている訳ではなくて、これまでの経験やシミュレーションなどがベースになって、「△も□もやってみたから、〇以外はないな」と、イメージがスっと出てきます。今までたくさん実践してきたことが積み重なり、自然にイメージが湧くようになっているのではないでしょうか。
特にパッケージデザインだと、手に取る物なので画面で見ているだけではわかりません。原寸を目の前で見てみないと体感できないので、ダミーを作って、実際に手に取って眺めてどう感じるか、というようなことをたくさんやってきました。

過去を振り返って、「あのデザイン失敗したな」と思うこともありますか?

しばらくたって経験が増えてから振り返って「もっとこうすればよかったかな」「もっとできたかな」と思うことはあります。でも、今それをやってハマるかというと、時代も変わっているのでわからないですよね。正解はずっと揺れ動いているもので、その時々にぴったりのものを常に決断しているのでしょう。

説明しなくても伝わるという新しいコミュニケーション。人気のデザインが時代を形作る

パッケージデザインも時代によって大きく変わっているのでしょうか?

時代というか、そのときにあるほかのデザインとの兼ね合いが大きいのではないでしょうか。みんなそうだと思うのですが、ライバルのデザインを意識しますよね。向こうがこんなのを出してきたからうちは違うのにしよう、もしくはそれがウケているから近いのにしよう、とか。そのときにベストなものがたくさん売れて、それがその時代の空気感を作っていると感じます。
ノースファームストックのデザインがウケたときに、その後同じようなデザインが増えたなと感じました。文字が小さくて、シンプルかつオシャレな感じで(笑)。

私もノースファームストックの商品をはじめて見たとき、すごくオシャレだなと思いました。

パッケージがオシャレだと、家に置いてあるだけでうれしくなりますよね。このようなデザインが主流になったら、次は同じようなデザインの中でどうやって差別化するかを考えなくてはいけませんよね。ここ数年は、「これからはまた路線を変えて新しいデザインが必要なのでは」と思案しています。
例えば、「AUDREY(オードリー)」というお菓子ブランドを知っていますか? パッケージは苺と女の子の絵が入っているだけというデザインで、商品名の記載がありません。知らなければそれが何かもわからない。でも見た目で、「かわいい!」と思わず手に取ってしまうと話題です。

パッと見ただけでは商品が何なのかわからない、というデザインは最近よく目にする気がします。

それはそれで新しいコミュニケーション手法として悪くないと思っています。今まで商品名や説明を丁寧に伝えているデザインをずっと見てきてそれに慣れているので、違うものが出てきたら新鮮ですし「これは何だろう」と興味をそそります。「パッケージの目的は商品のイメージや情報を伝えること」という固定概念が崩れるというか……、説明がなくても手に取ってもらえているなら、購買意欲を高めるという目的は果たされていますから。
さらにネット販売のみなら店頭での見え方を考えなくていいですし、Webページに説明を載せられるので、パッケージに説明の役割は不要です。時代や環境が変わると、デザインの概念が変わっていきます。

スタッフの「ワクワク」大切に、個性を発揮できる空間へ。「少しでも上を目指そう」との思いで価値を高める

現在、3人のデザイナーさんがいらっしゃいますが、どんな雰囲気で働かれているのでしょうか?

会社としてあれこれ縛るのではなく、自由に楽しんで仕事ができる空気を大切にしています。仕事なので緊張感や責任感はもちろん必要ですが、本来、モノ作りは楽しい時間です。スタッフは、小学校の図工の時間のようにワクワクしながらデザイン業務に取り組み、和気あいあいと働いていると思います。
また、スタッフそれぞれが持つ力を引き出したいと考えていて、持ち味が発揮できるよう意識をして仕事を振り分けています。力を発揮できれば楽しい、認められるとうれしい、それで自信をつけてもっと頑張れる。会社としてはそんなよい循環を作りたいなと思っています。

最後に、今後クリエイターを目指す人にアドバイスをお願いします。

「今より少しでも上を目指そう!」という気持ちが大切です。私も常々「世界一になろう」と言っていますが、本当に世界一にならなくてもいいんです。それを目指すこと、そういう意識を持つことで少しずつ前進していけます。
クリエイターはタレントと同じで、自分の力で自分の価値を上げていく職業です。就職したり、組織に属したりしたとしても、この世界に入るなら最終的には自分の力で生きていくという覚悟を決めてほしい。クリエイターはそれができる仕事で、自分の力で人生を切り開いていけることが楽しいところでもありますよ。

取材日:2023年6月27日 ライター:小山 佐知子

有限会社寺島デザイン制作室

  • 代表者名:寺島 賢幸
  • 設立年月:1991年5月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:グラフィックデザイン、パッケージデザイン、ブランディング
  • 所在地:〒060-0033 札幌市中央区北3条東5丁目 岩佐ビル3F
  • URL:https://tera-d.net/
  • お問い合わせ先:011-241-6018

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