対話で信頼関係を構築、顧客の理想を“伝わる”デザインに。地元・富山でつないできたご縁
「ネットショップを作れないか」という勤め先の社長からの一言でホームページを作り、クリエイターの道を歩み出した富山のオースタイル株式会社。名刺やチラシ、ロゴ制作なども幅広く手がける同社の代表取締役・高柳 喜浩(たかやなぎ よしひろ)さんは、同業者の元に自ら足を運び制作に関する見聞を深めたり、起業塾で経営の基礎を学んだりして、独立を果たしました。とにかく仕事を続けて富山を中心にご縁をつないできた高柳さん。そんな高柳さんのこれまでの歩みや、クリエイターとしての心得をお聞きしました。
「ホームページが作れないか」という依頼からデザインの道へ。福島から地元・富山へ
デザイン未経験でクリエイターの世界に足を踏み入れたとお聞きしましたが、デザインの仕事をする前のキャリアを教えてください。
大学卒業後、就職した会社で希望した企画に配属になりました。自分が企画した商品を世に出したときに、自分がやりたいことを達成できたことに満足して、あっさり退職しました。
大学時代を過ごした福島に移動して職を探していたとき、学生時代にお世話になった電気工事関係を経営していた社長に「将来、社長になりたい」という自分の夢を話したんです。社長業を学びたいなら自分の側で働いてみないかと誘いを受けて、電気工事の現場や営業などを経験しました。そのときは、今の仕事に就くとはまったく思っていませんでしたね。
まったく違う業種からデザインを仕事にしたきっかけをお聞かせください。
その社長から「インターネットで商品を販売したいから、ホームページを作ってくれないか」と指示を受けて、独学でネットショップ機能を持ったホームページを作ったのがきっかけです。その間に結婚して子どもも生まれ、故郷の富山に戻るまでの6年ほどその会社でお世話になりました。
富山に戻ってきたときに社長からネットショップ事業を引き継いだのですが、家族を養うほどの収入にはならなかったことから、ネットショップよりも収入が見込めるホームページ制作に移行していきました。当時の地方では、Webやホームページに詳しい人が珍しく、需要はありましたね。
経営知識学ばずに事業はあらず。起業塾での経験と出会いで大きく変化
制作のクオリティを上げるためにどんなことをしましたか。
独学で習得してホームページを作っていたので、情報交換をしたいという思いからまずは富山でホームページを作っている人に会いにいくことにしました。自分より若い方でしたが、熱心に私の話も聞いてくださり、私がまだ知らなかったホームページ制作で必要なノウハウを教えていただけたのは幸運でしたね。
こうして、個人事業主としてスタートしました。そんな中、ホームページ制作会社を立ち上げるという人に会う機会があり、そこで私の現状をお伝えすると、「それは事業じゃない」という厳しいアドバイスをいただきました。というのも、打ち合わせから納品までの流れをきっちりと説明できず、明確になっていないと指摘されたのです。制作の技術を磨いていくだけでは仕事はもらえないということに、改めて気づかされた瞬間でした。
事業にするためにどういった行動をとられましたか。
事業としていくには経営についても知識が必要です。経営についても知識が乏しいことは認識していたので、富山県主催の「とやま起業未来塾」に入りました。この起業塾は富山県内の企業の経営者がバックアップしてくれるプログラムで、具体的にはマーケティングや財務などの知識を深め、経営者自らが講演してくれる、とても充実した内容となっていました。
私の担当に就いた中小企業診断士さんには、経営のビジョンや強みなど、どうしたら私に仕事を頼んでもらえるのか、起業時に考える「誰に」「何を」「どのように」といった視点を徹底的に教えていただきました。そのときの経験が今の仕事でも役に立っています。また、この起業塾は定期的に開催されていたので、同じ塾出身の先輩や後輩との交流もあり、徐々に名刺やチラシの仕事をいただけるようになりました。
お客さまとの対話で要望を形に。ご縁広がり、デザインの仕事も舞い込む
お付き合いしているお客さまは富山県の方が多いのですか。
そうですね。ほぼ富山県のお客さまです。業種もさまざまですが、特に飲食店からの依頼が多いですね。また、起業塾でつながった方や依頼してくださった方が紹介してくれることもあります。
最近の仕事では、富山県を走る水素エンジンを搭載した実証実験用トラックのボディデザインを担当しました。知り合いからの依頼でデザインしましたが、メディアに大々的に取り上げられるとは予想しておらず、自分がデザインしたトラックのボディがテレビに映っていて、誇らしかったです。
県の起業塾に入ったおかげで、県や市からも仕事を依頼されることもあり、私自身もお世話になった県に仕事で恩返しできていると思うとうれしいですね。
起業塾でつながった先輩に今でも相談されることはありますか。
起業塾の先輩にはことあるごとにお世話になっています。会社を法人化するときも、もちろん相談させてもらいました。自分より先を歩く人に親身になって助言をいただける環境はありがたいです。法人化した際には起業塾の恩師も駆け付けてくれ、法人化したことに浮かれていた私に「お世話になった人に恩返しすることは会社を続けること」と諭してもらいました。地に足がついた先輩の言葉に重みを感じ、より一層身を引き締めて仕事に向き合っていこうと想いを新たにすることができました。
現在では職業訓練校の講師も担当されているそうですね。
こちらも紹介していただいた仕事です。それまで教えるという経験はありませんでしたが、起業塾でプレゼンの練習を幾度となく繰り返したおかげで、人前に立って話をするのは苦にならず、楽しく登壇させてもらっています。
職業訓練校は違う業種からデザイン業界に転職を目指す方が通っています。授業中に、「私はデザイナーになる!」と誰かに宣言してくるように伝えると、恥ずかしがる生徒がいます。そんなときは、自分が制作したものを恥ずかしいという理由で公開しなければ、自分の作品として認知してもらえないし、実績がないので仕事をさせてもらえない、という話をしています。技術だけでなく、生き残っていくために大切なことも伝えるようにしています。
「誰よりもお客さまの中も外もよく知る必要がある」、その真意は。「得意」を基準に分業し、効率化
仕事のほとんどを高柳さんが担当されていると聞きましたが、ほかのクリエイターと一緒に仕事をするのはどんな時ですか。
苦手な分野の仕事が依頼されたときです。そういった場合は得意とする人に仕事をお願いしますよ。仕事をご一緒させていただくときは、必ず直接お会いして人となりに触れるようにしています。というのも仕事は私がヒアリングした内容を元に形にしてもらうので、意思疎通がしっかりできていないと、納品時にイメージと違うものができてしまいますから。
相手の気持ちを理解しようとする姿勢が重要です。仕事に限らず、プライベートの話も話して、相手の立場や感情に共感できるポイントをたくさん見つけていき、言葉では伝わらない微妙なニュアンスも汲み取れるよう、お互いについて理解を深めています。
お客さまに対しても相互理解は大切ですよね。
もちろんです。お客さまは自分の中でしっくりくるデザインはこれ、という明確な答えを出すために相談に来るので、私自身が誰よりもお客さまの中も外もよく知る必要があります。名刺やチラシ、ホームページも会社の顔となるものを制作することが多いので、仕事の内容はもちろんですが、プライベートでも何が好きで何に興味があるのかも聞き出して制作のヒントを探っていきます。
また、お客さまにも私の人となりを知ってもらい、依頼の背景をしっかりと理解しあった上で、仕事の依頼の判断をしてもらっています。そうすることで、依頼の理解度が深まり、お互いの認識のすり合わせが行われるので、精度も高くなり、意図がずれることが少なくなります。
社内の雰囲気やお客さまの性格などを掴んでおけば、お任せいただいても確認事項が少なく、仕事が進めやすいです。日程調整や大幅なデザイン変更の相談も、信頼関係があるのでトラブルになることは少ないです。
「続けること」の大切さ。ストレスを溜めない会社を目指して
今後の展望をお聞かせください。
ストレスを溜めないで楽しく仕事を続けていきたいですね。オースタイルのカラーに共感してくれるお客さまと末永く一緒に仕事をしていけたらうれしいです。会社を大きくしていくより、目の前にいるお客さまときちんと向きあい、自分の仕事に集中してさらに良いものを作っていく。1人でやっているからこそ、ストレスを最小限に抑えて、自分が決めた軸を持って仕事をしていきたいです。
デザインをしたいと思っているクリエイターを目指す方々へ、メッセージをお願いいたします。
とにかく続けることです。どんなに技術を習得しても最初は自分のデザインに自信がないのは当たり前です。私自身も未経験で飛び込んだ世界だったので、はじめの10年は落ち込むことの方が多く、厳しい意見もいただきました。そんなときに凹んでもやめないで続けられることが大切です。
失敗をしても後悔はしない。そのときの最善を尽くしたか、次回はどうやってトラブルを回避するかを学び同じ過ちを繰り返さないように改善していく作業をコツコツと積み重ねていってください。
続けていれば、技術は向上し、メンタルも成長していきます。自分の経験を糧に人との出会いが新しい発見とアイディアを引き合わせてくれることもあります。続けたときに見えてくる世界を自分の目で確かめてください。
取材日:2023年7月7日 ライター:高井 寧香
オースタイル株式会社
- 代表者名:高柳 喜浩
- 設立年月:2011年8月19日
- 資本金:100万円
- 事業内容:ロゴデザイン、広告原稿制作・印刷、ノベルティ制作、似顔絵制作、各種広告デザイン・印刷、サイン・ディスプレイデザイン制作
- 所在地:〒939-8211 富山県富山市二口町3丁目1-13
- URL:https://o-style1.com
- お問い合わせ先:上記サイトのお問い合わせフォームへ