奈良の「商習慣」が分かるからできること。培ったシステム開発力で地域活性化に貢献
今回インタビューさせていただいたのは、「ヒト、モノ、社会をつなぐ」をモットーとし、システムエンジニアとしての経験を生かした、企業のIT化に尽力する奈良のつなぐる株式会社。会社員として10年間、システム開発の経験を積んだ代表取締役社長の井口 敬之(いぐち たかゆき)さんは、「奈良の人間」だから奈良の企業に寄り添えると話します。それはなぜなのか。かすかに木の香りが残る、昨年完成したばかりの新社屋で、起業にいたったきっかけや、現在の取り組み、今後のビジョンについてお伺いしました。
持ち前のコミュニケーション能力と磨いた開発スキル。そしてある企業コンサルタントとの出会い
前職ではどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
前職はパナソニックの関連会社で、10年間、開発の仕事を行っていました。大きな会社なので完全分業制で、親会社の営業が仕事をとってきて、私たちの会社に在籍しているシステムエンジニアやプログラマーが開発を行うといったスタイルです。
BtoBで私は物流業界を担当していました。宅配便等のセールスドライバーが持っているハンディターミナルを作るなど、ハードが絡むような仕事が多かったですね。
起業のきっかけは何でしょうか。
私が入社した2003年は、就職氷河期と呼ばれていた時期だったこともあり、「ずっと同じ会社に勤めるのかな」という漠然とした思いはありました。当時は、コミュニケーション能力という部分は人並にはできる自信はありましたが、開発スキルはなかったので、自分の苦手な部分を補うところに飛び込んだら、得意分野と合わせていずれ勝負できるかなとは思っていました。独立するかどうかは別として、会社にぺこぺこする働き方は嫌だと思っていましたね(笑)。
サラリーマンをしながら、事業アイデアを応募するビジネスコンテストに参加して、1次審査止まりというのが何年か続き、「事業計画の書き方・考え方」を学べる講座に出席した際、ある講師の方と出会いました。その方は企業コンサルが仕事で、モノづくりができる私に興味を持ってくださったんです。「この先、何か仕事をお願いできるかも」という話を聞いて、もしかしたら自分にもできるかも……と思ったことがきっかけです。そのときから1カ月半後くらいには会社を辞めていました。
来場管理システムが最初の大きな仕事、システム開発で問題解決に奔走
「つなぐる」という社名の由来を教えてください。
実は、奥さんの提案です。◯◯システムとか、◯◯ソフトウェアという、いかにもという名前は嫌だったんですね。もともと「つなぐ」というキーワードは使いたいと思っていて、ひらがなで親しみやすい社名がいいなと考えて「つなぐる」と名付けました。
最初の仕事について教えてください。
ホームページのちょっとしたトラブル対応で、3万円くらいの仕事でした。とにかく人脈もありませんし、なかなか仕事の依頼はなかったです。
少し大きめの仕事は、起業のきっかけになった企業コンサルの方からの案件です。プロスポーツチームの来場管理で、ファンクラブの会員が会場に足を運んだときに、誰が来ているのか管理するためのシステムづくりでした。
以前はカードを差し込んで印字するといった方法で処理が遅く、1人に対して3~5秒かかっていました。試合会場にお客さまが来場するのは同じタイミングなので、それでは処理が間に合いません。非接触のICカードなら0.何秒で処理が終わるので、行列なく来場管理ができます。そういった提案をしたら採用していただき、統一リーグになるまでの3~4年はずっと使っていただいていました。
設立から10年。お店や会社を効率よく経営するための「ITサポート」に注力
現在の事業内容について教えてください。
従来のシステム開発、アプリ開発、ホームページ制作に加え、企業や店舗が効率よく経営するための相談を受けながら支援する、ITサポートにも力を注いでいます。ご紹介いただいた仕事で結果を出して、次につながり10年経ちました。新規の営業などをすることなく、お仕事が続いていることに感謝ですね。
IT経営を導入するにあたっての問題点は何でしょうか。
コロナもあって、IT経営に興味を持っている奈良の会社も増えていますが、話をしていくうちに「うちでは無理かな」という話になることも多いです。ツールがあっても、それを使いこなす人がいないとか、体制づくりが重要です。うちも最初にリモートワークを導入しようとしたとき、かなり反発がありました。いきなり遠隔は難しいので、社内でも「チャットワーク」を使っていこうと提案したときは、「文字にするのが大変。直接聞くほうが早い」という声もありました。ただ、文章を作るということは考えの整理にもつながり、相手も答えやすいし、記録にも残るので、まずやってみようと導入したんです。導入して半年後くらいにコロナだったので、実際のところ助かりました。道具を使いこなすためには、人のメンタル部分をどう解決していくかが大きいと思います。
さまざまな仕事に取り組まれていますが、印象的なものはありますか。
製造業の受注から出荷するまでの工程管理の問題解決が印象に残っています。以前は、「あの商品がいつくらいに納品できるのか」という問い合わせがあったときに、印刷した受注表がどの工程にあるか、探していました。それをシステム化することで、お客さまを待たせることなく回答できるようになったと喜ばれています。現場の手間を増やしたくないというご要望がありましたので、導入したのは、印刷した受注表をICチップの付いたクリアファイルに入れて、作業が終わったら各工程に設置したカードリーダーに読み込ませてもらうというシンプルな方法です。前職でも装置(ハード)を作っていましたので、そこでの知識と経験を生かせました。
私たちの仕事のメインは受託開発なので「作ってなんぼ」です。システムを作ればお金をいただけます。ただ、前職でもかなりの予算を組んでシステム開発しても、実際に使われていないというケースがありました。そういったことを目の当たりにしてきたこともあり、いまは「作るだけでなく」安定した運用に乗せるまでが私たちの仕事だと思っています。
システム開発で培った対応力で、企業の問題点を解決したい。奈良の人間だからできること
強みや他社と差別化しているポイントを教えてください。
ホームページ制作の案件などから、システムの話につながっていくことが多く、「システムが分かる」ことが私たちの強みになっています。パッケージではなく、オーダーでつくるので予算に応じた対応が可能です。
お客さまは奈良の企業が多いそうですが、奈良を盛り上げていきたいという気持ちもお持ちですか?
奈良の人は保守的といわれていて、外部の人への心理的な壁は大きいと思います。同じことを大阪から来た人に提案されるのと、奈良の人に提案されるのでは、受け取り方も違う。大阪の人と奈良の人は「商習慣」も違うので、私なら奈良の人に対して、奈良の人間が「こうだよ」と言えるかなと思い、会社を立ち上げました。まだ、奈良でもそこまで知名度があるわけではないので、まだまだやれることがあると思っています。
大事にしているのはクライアントへの敬意。信頼を得るため服装にこだわり
お客さまの関わりの中で大切にされていることはありますか。
ITってラフな服装の方が多いと思うので、あえてきちんとしようと思っています。ファーストインプレッションが大事とよく言われますが、奈良でそれをやると、ちょっと距離を置かれてしまうことがあります。ステークホルダーには人生の先輩方もたくさんいるので、関係性を築いてからもそこは意識をしています。《親しき中にも礼儀あり》ですかね。私たちの仕事は信用してもらわないと、発注につながりません。特にシステム開発に関しては、お客さまの売上や個人情報などを扱うことになるので、先方は見た目も含めて、見定めるはずです。つなぐるに任せてよかったと思っていただくためにも、TPOをわきまえた服装を大切にしています。
社内の雰囲気や、制作体制を教えてください。
現在の社内スタッフは、システム開発が4人で、HP制作が5人。社会人経験のあるスタッフばかりなので、お客さまとのやりとりも問題ありません。ただ、ビジネスメールのマナー・開発技術などに不安がある人には、eラーニングで研修を受けてもらっています。チャットワークでやりとりの内容を確認して、徐々に任せ始めている段階ですね。これまで、お客様からは「井口に仕事を頼んでいる」と思われていたと思いますが、今後は、「つなぐるに頼んでいる」という形にしていかなければと思っており、スタッフ全員で絶賛取り組み中です。
アプリ「ぐるぴぃ」で地域活性化と地元の課題解決が目標。「自社のサービスを使ってもらいたい」
会社の目指す未来について教えてください。
請負だけでなく、ITサービスの小売り(クラウドサービス)を展開していきたいと思っています。これまでの10年は、一つ一つオーダーでつくってきましたが、この先はそれもやりつつ、自社のサービスを使ってもらいたいと考えています。
地域活性化を狙い開発した奈良県内のお店情報を発信するアプリ「ぐるぴぃ」を広めていきたいと思っています。目的は、一つのアプリで複数の地域のお店のポイントやクーポンといったサービスを提供し、リピートにつなげていくこと。お店の規模はそれぞれ違いますし、それぞれのルールがあります。提供するサービスの内容を個々に決められたら、お店も利用しやすくなると考えています。まだ加盟店は少ないので、どんどん増やしていきたいですね。
この「ぐるぴぃ」というアプリにいろいろな機能を足していくことで、課題解決にもつなげていきたいと思っています。例えば、人材不足を解決するために求人情報を発信したり、フードロス問題を解決するために、その日に販売したいものを発信したりするなど、地元に根差した形で課題解決につなげたいですね。
取材日:2023年8月18日 ライター:上野 典子
つなぐる株式会社
- 代表者名:井口 敬之
- 設立年月:2013年4月
- 資本金:430万円
- 事業内容:コンピュータシステム、通信システム、制御システムの機器・装置及び付属機器・周辺機器のソフトウェア及びハードウェアの開発、設計、製造、販売、賃貸借、保守メンテナンスの業務、電子商取引などインターネットを利用した各種サービスの提供、情報システムに関する研究開発
- 所在地:〒639-0227 奈良県香芝市鎌田540-7
- URL:https://tunagle.co.jp/
- お問い合わせ先:0745-79-2796