「半歩先で求められる価値を提供したい」。自社オリジナルサービスの提供を始めたWebデザイン・システム開発会社
沖縄の株式会社フラッシュエッヂは、2008年の創業以来300社以上のWebサイトやシステムを手掛けてきた会社です。最先端にアンテナを張り、“新しいもの”に果敢に挑戦している代表取締役の知名 健一(ちな けんいち)さんは、「現状のままでいいと思ったことは一度もない。世の中に有益な価値をずっと提供し続けたい」と熱い思いを語ります。また、「今いる地点から半歩先を目指している」という言葉の思惑とは?目指す未来も教えていただきました。
未経験でITの世界へ飛び込み大きな実績をあげた、たたき上げのデザイナー
会社設立までの、知名さんのキャリアを教えてください。
グラフィックデザイナーとして入社したばかりの頃はまだ若く、知識や技術、経験が少ない状態だったので、実践しながら貪欲に学んでいきました。帰宅後は夜中まで勉強して睡眠時間は4、5時間でしたが、スキルアップできていると実感できる日々でしたので、楽しくて仕方なかったですね。
次第に大きな仕事を任せてもらえるようになり、社内で売上が一番大きい案件のプロジェクトマネージャーも経験しました。とてもやりがいを感じていたのですが、世の中に広がり始めたインターネットを知り、強い衝撃を受けたんです。
どのような衝撃だったのでしょう?
パソコンの向こう側に、私の知らない世界が無限に広がっているように感じ、瞬く間に魅了されました。仕事柄Macを使っていたのですが、インターネットのために人生で初めてWindowsを買って自宅に回線を引き、自由に触れられる環境をすぐに整えました。さらにその感動からわずか3カ月後に退職し、ITサービスを作るスタートアップ企業に転職を決めました。
3カ月後に転職とはすごいスピード感ですね。インターネットの知見はお持ちだったのですか?
ほとんど素人でしたが、「インターネットに関する仕事を絶対にするんだ」と決意し、転職活動を始めたのです。しかし当時の沖縄には、システム開発以外でITサービスを作る会社がわずか一社しかなく、プログラミングができないし興味もない私には、その会社にWebデザイナーとして雇ってもらう以外道はありませんでした。とにかく大量のポートフォリオを提出し、何とか認めてもらって入社できました。やはりその会社でも寝る間を惜しんで勉強し、Webデザイナーとしての知識や技術を身に付けていきました。最終的には企画、集客、制作の責任者となりました。
すると今度は、もっと違う仕事で、違う世界を見てみたいという欲が膨らみ始めたのです。まず趣味として金融系の情報サービスを作ることにしたのです。
サービスについて具体的に教えてください。
世界中の投資家に役立つようなトレンドを、グラフにして可視化するサービスです。仲間と2人で作りリリースしたところ評判となり、大手金融情報サービスから投資を受けることもできました。多くの広告も獲得でき、売上も順調に伸びたので、さすがに副業として運営できるボリュームではなくなってしまって。そこで、2008年に会社を辞め、フラッシュエッヂを設立しました。
サイト制作と自社サービスで事業拡大。日常の不便を形に、沖縄の「ヘアサロン検索サービス」が成長
当初の事業は、その金融系のサービスが主軸だったのでしょうか。
ほかにもいくつか柱となるものを作りました。そのうちの一つは、現在も続けているWebサイトの受注制作事業です。二つ目は、ヘアサロンを検索できるポータルサイトの開発、運営です。
当時はまだヘアサロン検索サイトはなく雑誌を刊行するだけで、沖縄では流通していませんでした。だから沖縄ではヘアサロンを選ぶ場合、どんなスタイリストが担当するのかを事前に知る由もなく、満足できるかは運次第。それを私自身不便に感じており、解決したいと思い付いたのが、事前にヘアサロンとスタイリストを選べるサイトでした。リリースしたところうまくいきました。
後年このサイトも金融系のサービスも手放しましたが、弊社の成長の後押しとなった事業であることは間違いありません。
Webサイト制作事業についてお伺いしたいのですが、実績を拝見すると株式会社上間菓子店など、県内では名の知れた大きな会社のものを多く手掛けられています。どのようにクライアント数を増やし、事業を拡大していったのでしょう?
現在創業15年目を迎え、今でこそ東京などで営業するようになりましたが、最初の10年はほとんど営業をしたことがありませんでした。知人やクライアントからの紹介に次ぐ紹介で案件が増えていきました。当初は、Web制作会社が多くなかったことも幸いしたのだと思います。
自身のインスピレーションと嗅覚で、さまざまな事業に挑戦。ゲーム開発を行なった過去も
15年もの長い間、Web制作会社として成長を続けられた秘訣を教えてください。
新しい挑戦を止めないことだと思います。変化のスピードが速い業界なので、挑戦して変化を続けることでしか存続できません。そもそも私自身新しいものが好きなので、「需要がありそう」「儲けられそう」と少しでも感じたら、まず挑戦してみます。
「需要がありそう」「儲けられそう」な事業は、どのように見つけられるのでしょう?
新聞などで目にするビジネスや技術はコモディティ化したものなので、今さら弊社が手掛けても勝算がありません。だからこそなるべく早く新しい技術やビジネスの萌芽を見つける必要があり、そのために必要なことは東京の最前線に立つような、勢いのある会社や大きな会社の役職者との交流です。異なる会社の人々でも、なぜか同時期に似たようなことを考え、同じようなフレーズを口にするもので、時代が目指す方向性があるように感じます。彼らから得られるビジネスのアイデアや情報から弊社が支援できる役割を提案しご一緒することも多いです。
とはいうものの、自分の困りごとから始めた事業の方が、上手くいくケースが多いんです。例えば先ほどお伝えしたヘアサロンのポータルサイトなどは、完全に自分の困りごとがアイデアの起点ですね。
逆に、上手くいかなかった事業を教えていただけますか?
たくさんありますよ。例えば7年ほど前に手掛けたゲーム開発です。当時はソーシャルゲームやモバゲーが流行していて、さまざまな会社が開発に乗り出しており、弊社もならって相当の人材や資金を導入してチャレンジしたものの、専門ではない会社が成功できるほど甘い世界ではありませんでした。
しかしそんな中でも、ゲームのグラフィック制作はある程度の売上は作れたので、2年前に事業売却しました。
多種多様なサービスをスムーズに作り上げるカギは。ゴールの設定とアジャイルなマインド
現在注力されている事業を教えてください。
LINEから店舗予約や来店を促すことが可能な集客サポートツール「tooDay(トゥーデイ)」です。プロトタイプを作り、β版を有料でリリースし、少しずつ店舗からお申込みいただき始めています。
新聞チラシなどが減っている昨今、店舗には新しい情報発信手段が必要です。そこでLINEを利用した予約システムを開発し、ITリテラシーが低い店舗でも簡単かつ低コストで集客できるツールを提供したいと考えました。今のところ予約管理できるのはLINE上だけですが、将来的にはInstagramやGoogleなどのすべてのプラットフォームからの予約を統合管理できるシステムに作り上げることを目指しています。
もう一つの弊社を代表するサービスが「ベストプライスレンタカー」で、今年で7年目を迎えます。このサービスは格安航空を展開するPeach Aviation株式会社と共同で、Peach利用者向けにレンタカーの比較・予約サービスを提供しているものです。「Peach利用者は割引で車を借りられる」という特典は、実は稀有なんです。今後も機能改修を続け、より使い勝手のいいものにしていきたいですね。
タイプの異なるさまざまなサービスを手掛けていますが、それらを作るスタッフ間の意思疎通やマネジメントが大変だと思います。何か工夫されていることはありますか?
サービスによっては、まったくスタッフに馴染みのないものもあります。例えば、子どものいないスタッフに「保育園の情報を探せるポータルサイトを作って」といっても、なかなか上手く進められません。齟齬や問題を生まれにくくするために、根幹の設計やコンセプト、目指すべきゴールについてはある程度デザインしてから、スタッフに振り分けるようにしています。とはいえゴールはあくまで理想形ですので、思うようにできない場合もあります。その際は、アジャイル的に進めていくようにしています。
「サービスプロバイダ」として、世の中に有益な自社サービスを作る会社を目指す
今後の目標や展望を教えてください。
弊社では、「半歩先のライフスタイル&ワークスタイルを社会へ最適化」というビジョンを掲げています。一歩先よりも半歩先を目指せるサービスを提供する会社でありたいんです。というのも、一歩先や二歩先に進んでいるものはトレンドの最先端ではありますが、認知度や利用者の数が少ないので、弊社のような小さな会社が追うにはリスキーです。そこはトレンド自体をゼロから作り出せる体力のある大企業にお任せして、弊社が目指すべきは、トレンドが大衆化する一歩手前、つまり今いる地点から半歩先のものだと思っています。
まさに「tooDay」は、「半歩先」を行くというビジョンを体現できるサービスだと信じています。LINEは多くの人に使われているアプリですが、「LINEからの店舗予約」はまだスタンダードではありません。そこを弊社が広げていくことで、世の中にも店舗側へも、新しく有益な価値を提供できると考えています。
さらに将来的には、沖縄という地の利を生かし、アジアにも弊社のサービスを広めていきたいですね。特にタイと台湾はLINEのシェア率が非常に高いので、進出できる可能性は高いはずです。
「tooDay」発展のためにしばらくは奔走されるのですね。
そうですね。今後は「tooDay」のようなストック型ビジネスの比重を高めて、世の中に必要とされる商品を提供できる「サービスプロバイダ」としての役割を担いたいと思っています。今年はその転換期の元年と位置づけ、「tooDay」に注力しています。
「tooDay」は、最近特に多い「人手不足の店舗」を助けられるサービスだと考えています。例えば、お店の電話対応の頻度を少なくできたり、毎日の売り上げ集計を楽にしたり。究極のゴールは、飲食店なら料理を作るだけ、美容室なら髪を切るだけ、と技術提供以外が必要なくなるシステムを提供すること。そうなれば、1人でもお店を運営できるかもしれませんよね。
今のtooDayではそれが実現できなくても、ビジョンとして理想を掲げ続け、少しずつでも目指していきたいです。そして、そのような私たちが描く未来に賛同できる方がいれば、ぜひ入社していただきたいと願っています。
取材日:2023年8月29日 ライター:仲濱 淳
株式会社フラッシュエッヂ
- 代表者名:知名健一
- 設立年月:2008年10月
- 資本金:500万円
- 事業内容:Webデザイン・システム開発、ポータルサイトの運営等
- 所在地:〒900-0002 沖縄県那覇市曙2-23-9やまたいビル4F
- URL:https://www.flash-edge.com/
- お問い合わせ先:098-866-3900