WEB・モバイル2023.11.01

起業のきっかけは故郷・気仙沼の被災。顧客の「ほぼ100%」が地元、デザインで街を楽しく

宮城
気仙沼デザイン株式会社
Yoshihiro sasaki
佐々木 義洋

東北の中心地・仙台市から車で約2時間という距離に位置する気仙沼市。漁業や観光で栄えるものの、決して大都市とは言えないこの街で、Webをはじめとしたデザイン、クリエイティブ事業で際立った存在感を発揮しているのが気仙沼デザイン株式会社です。同社の代表取締役・佐々木 義洋(ささき よしひろ)さんに、設立までの経緯や、地域に対する思いを伺いました。

震災後、郷里への思いから帰郷し、デザイン会社を創業。建築の道を志すも方向転換

佐々木代表のご経歴を教えてください

地元の気仙沼で高校まで出たあと、東京の大学に進学して建築を学んでいました。しかし、もう1年通えば大学も卒業できるというときに、ある先生から「建築のことが好きか?」と問われ、「好きです」と即座に返せない自分がいたのです。建築のことは嫌いではなかったのですが、本当に自分が好きなことをやっていないのではないかという思いが強くなりました。
ちょうど、その頃、iMacが発売されて、その特集の雑誌を眺めていたときに、グラフィックデザイナーという職業を知り、チームを組んでプロジェクトを進めていく建築よりも、個人単位でアイデアで勝負できるグラフィックデザイナーの方が自分に合っていて、魅力的に映ったんです。それで思い立って大学を辞めて、デザインの専門学校で基礎を習得しました。
そして、運が良いことに、旅行誌などを中心に制作していた編集プロダクションにデザイナーとして就職でき、8年ほど勤務。デザイン部の部長も経験させていただきました。しかし、30歳を過ぎた頃、毎日夜遅くまで、ときには朝方までという仕事の仕方に疑問を感じて、いつまでもこのスタイルは無理があると思い、フリーのデザイナーになりました。そして、2014年に気仙沼に帰ってきて、気仙沼デザインを設立しました。

気仙沼に戻られて会社を設立されたのには、きっかけなどあったのでしょうか?

11年に東日本大震災が起きて、気仙沼は甚大な被害を受けました。私も東京にいながら何かしらできることはないかと模索していたときに、被災地の復興状況などを伝えるイベントなどが東京でも開催されるようになり、気仙沼の市役所の方や地元の事業者の方などとつながりができるようになっていったんです。そのうち、すでに気仙沼に移住して起業されていた方から「今気仙沼で事業を始めれば助成金も出るし、佐々木さんも起業しませんか」 と強く後押しを受けたことが大きなきっかけとなりましたね。

地域のデザイン会社として、高い信用を獲得。溶け込めたきっかけは?

では、会社設立当初から仕事の見込みもあったのでしょうか?

それが、実はまったく仕事のアテもなかったんです。イベントなどでつながった事業者の方々からは、いろいろな集まりなどで紹介していただきましたが、最初から決まっていた仕事は一つもありませんでした。元々最初から仕事がそうポンポン入ってくるとは考えておらず、東京で引き受けていた出版社などの仕事を継続しながら地域の仕事も増やしていきたいと考えていました。
大きな転機となったのは、気仙沼市の観光課から仕事をいただいたことですね。「ちょいのぞき」という造船所や氷屋、水産業、農業の事業者などをはじめとした、気仙沼の事業者さんの仕事場を体験してもらおうというイベントが立ち上がり、それのポスターやマップの制作を担当させていただきました。幸いなことに、「ちょいのぞき」は不定期イベントから始まりましたが、好評を博して、毎月開催、毎週開催と年々規模を拡大させ、気仙沼を代表する人気イベントに成長しました。その「ちょいのぞき」の販促物を手掛けたということで、地域での信用も生まれて、徐々にいろいろな事業者さんからお声をかけていただけるようになっていきました。今では、ほぼ100%気仙沼およびその周辺地域の仕事になっています。

現在はどのような仕事がメインになっているのでしょうか?

Webの仕事が6割程度で、チラシやポスター、パンフレットなどグラフィックの仕事が約4割といった構成です。地域には地場の印刷会社などがありますが、デザイン制作に付帯して印刷するといった形ですし、デザイン制作をメインにしているのは当社ぐらいで、あまり競合というイメージはありません。
またWebに関しても、きちんと企画・制作から運用サポートまでやっている会社は知る限り地域で当社だけです。もちろん、仙台などからの事業者も入ってきていますが、やはり距離がありますから、困ったことがあっても頻繁に来てもらうことは難しいです。その点当社は、身近に拠点があることで、すぐ相談できるという安心感を与えているようです。

デザインの価値を浸透させて、気仙沼を楽しい街に。書籍出版で14部門の首位獲得

ホームページなどで「第ゼロ印象」という印象的なワードを使われていますね。

1、2年前から使っているのですが、商品を購入した、その人に会った、その場所に行ったというのが第一印象だとすれば、商品を購入する前、その人に会う前、その場所に行く前の段階の印象を「第ゼロ印象」と名付けました。今の時代、ものすごく良いモノもものすごくダメなものもめったになくて、ある一定のクオリティのものが並ぶようになっています。では、何を買うか、誰と会うか、どこに行くかは、SNSやホームページのパッと見の印象で決まるので、そこを強化しなければいけません。その「第ゼロ印象」が大事だと理解していただくために、「第ゼロ印象デザイナー」と名乗ったりもしています。
「来てもらえれば分かる」「食べてもらえれば分かる」と口にする方は多いですが、そのためにも「第ゼロ印象」を強化していきましょうという話をすることは多いですね。昨年にはAmazonで「第ゼロ印象で損してない?」という電子書籍を発売して、電子書籍ランキングの14部門で1位を獲得することもできました。

ご夫婦でYouTubeの配信もされているそうですね。

はい。実は、こちらはまったく事業の内容とは無関係で、私がバツ2、妻がバツ1の夫婦なので、そのバツが多い夫婦によるお悩み相談ライブといった内容ですが、チャンネル登録者数は1万人を超えています(笑)。やはり、今は自ら発信していくことが大事な時代ですから、YouTubeやTikTokなどの動画を発信していくことで得られる反響や動画マーケティングのノウハウを、身をもって勉強できていますし、そのことでお客さまへのアドバイスをするにも非常に役立っています。

今後の展望をお教えください。

商圏の規模もありますし、むやみな事業拡大は考えていません。ただ、プラス思考でデザインの価値をともに高めていけるような方がいれば、一緒に仕事をしていきたいとは思います。私の影響があるのかどうかはわかりませんが、ここ数年で気仙沼でも個人でデザイナーを名乗る方がちらほらと出てきました。捉え方はさまざまあるでしょうが、私は地域にデザイナーが増えていくのはウェルカムなことだと考えています。デザインの価値が浸透し、いいデザインが増えていけば、生まれ育った気仙沼の街の魅力も上がっていきますし、自分たちが楽しく暮らせる街になっていくのではないでしょうか。そして、そのような今後の街づくりに当社も一役買っていければと考えています。

取材日:2023年9月19日 ライター:高橋 徹

気仙沼デザイン株式会社

  • 代表者名:佐々木 義洋
  • 設立年月:2014年3月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:ホームページ制作&運用、ロゴマーク、CI/VIポスター、チラシ、新聞、雑誌、DM、パンフレット、会社案内、PR誌、SPツールなどの企画、制作、エディトリアルデザイン、雑誌・書籍などの装丁、カバー、表紙、キャラクターデザイン
  • 所在地:〒988-0043 宮城県気仙沼市南郷20-19
  • URL:https://kesennuma-design.jp/

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