グラフィック2023.11.01

祖父の想いを承継し、異業種から看板事業へ。ゼロから起業した3代目、「人好き」高じた事業戦術

石川
株式会社STRAIGHT 代表取締役
Tadami Tokugi
徳木 忠美

日常のなかでふと目に留まるような、行きかう人々の「記憶に残る看板」を手掛けたい―。石川県野々市市を拠点に、看板製作を手がける株式会社ストレートは、スタッフ全員が気鋭のデザイナーという「デザイン力」に特化した看板屋さんです。そんな強みを最大限に生かし、注力している「アクリル加工」は評判も高く、同業者からの受注もあるほど。代表取締役の徳木 忠美(とくぎ ただみ)さんは、3代続く看板屋の当主としてこの道一筋…と思いきや、前職は通信業というまったくの異業種でご活躍されていた経歴の持ち主です。会社設立の経緯や展望、事業への想いを伺いました。

家業に頼らず、ゼロから立ち上げた看板事業。後押しした“祖父の想い”

会社立ち上げまでの経緯をお聞かせください。

家業が元々看板屋で、父が2代目、私は次男です。祖父からは「3代目となる兄を支えるように」と幼いころから言われてきました。当然、そのつもりで勉強してきたのですが、ある時、兄がまったく異業種の通信業の会社を立ち上げたんです。創業したばかりの会社で経営者として手腕をふるう兄がとても格好良く見えて感化されましたね。それで私も一緒に働くことを決めました。

異業種で活躍されていたなか、どのタイミングで家業を継ぐ決断をされたのですか?

「看板屋を継ぎたい」と明確に思ったのは、実家の工場の移転が決まったとき。北陸新幹線建設にともなって工場を建て直すことになりました。必然的に今後の方向性を自分に問うタイミングが来たという感じでしたね。戦火を生き抜いた祖父の「家業で財を継承していく」という想いをあらためて呼び起こし、「看板屋」を継ぐことを決断しました。
ただ、実際には、すぐに実家を継いだわけではなく、2022年の4月に正式に事業継承をしました。

通信会社を退職後、ご実家の会社ではなく、新たな看板屋を起業されたそうですね。

まずは、身近なところに頼りきるのではなく、自分の人脈を頼りにしてゼロから会社を立ち上げてみようと思いました。業界の知識や経験はゼロでしたが、父親が「いきなり家業を継ぐと甘えが出てしまう」と、何かの折に話をしていて。看板業は「背中で覚えろ」という職人気質の世界でもあり、自分でノウハウをつかみ取っていかなくてはいけない。ならば、自分の強みを生かした会社を立ち上げて、経験値を積んでいこうと考えました。以前働いていた通信業では、営業担当でしたので、そこで培った力を看板業で生かせると思ったんです。並行してデザインの勉強も始めました。

異業種で鍛えた「営業力」で挑むも悪戦苦闘…。見つけた職人界を生き抜く術

実家に頼らずに立ち上げたということですが、ご苦労は相当だったのでは?

3年間は本当に辛抱の時間でした。異業種からスタートしたとはいえ、営業に関しては相当自信がありました。商品が違えど看板の仕事も同じと思っていましたので…。
ですが、実際には看板についての理解が足りていなくて。それだとまったく仕事にならない。例えば看板の取り付け方法も、サイズや素材、設置場所によって、やり方が変わってくるんです。仕事を請けても、見積りの出し方、商材の扱い方、看板の取り付け方など一切合切分からず苦戦続きでした。
実家の会社に聞いてもやはり職人の世界なので、多くを教えてはもらえない。すでに経営者として会社を運転し始めているので、「背中を見て学ぶ」には時間が足りず、もどかしかったですね。

「背中を見て学ぶ」ことができない状況で、どのように研鑽(けんさん)を積まれていったのですか?

実家とはまったく関係のない同業者の方々から教わりました。以前、通信会社で営業していた時に担当していたお客さまです。家族のように濃い関係性ではないから、聞き方も当然丁寧になるし相手に対しての配慮も生まれる。教えてくださる同業者の方も、近い将来、仕事につながればいいと期待をもってもらえる。そういう流れが功を奏して、看板屋のいろはを学べました。

「人が好き」な性分で行き着いた「仲間を増やす」という戦法。大切なのは“質問”? 

事業を展開していくなかで大切にされてきたことを教えてください。

私は、昔から常に「目立ちたい、有名になりたい」という欲求があります。そのうえ「絶対に負けたくない」という気持ちも大きかったです。当然、経営についてもデザインについても人一倍勉強しました。
最終的に大切にしてきたのは「仲間を増やす」という戦法ですかね。簡単に言うと弊社を紹介してくれる方がどんどん増えてきたというか、増やしてきたというか。

「仲間を増やす」戦法とは、どのようなものでしょうか?

これは、昔からの性分なんですが、コミュニケーションをとるうえで、いろいろな質問をたくさんするんです。すると、先方も興味をもってくれる。私がすっかり忘れていても、「看板なら徳木くんがいたな」って覚えてくれていることもしばしばで。誰からともなく携帯から受注依頼が舞い込んでくる。そういう積み重ねをずっと続けています。「人が好き」ということが、結果として仕事へつながっていっていると思います。

元営業マンだからこそ、小手先の話術ではなく「まっすぐ」な想いを伝えたい

社名「ストレート」の由来を教えてください。

もともと営業畑出身だったこともあり、商談のなかでいろいろなパターンの話をするのですが、ごまかしや大げさに話すことが正直あまり好きじゃなくて。だから、まっすぐにお客さまと向き合いたいという自分の気持ちを込めています。正直に言うことが相手にとっていいか悪いかわからないけど、結果それが響いている気がしています。
あとは、自分の名前である「忠」という字も「まっすぐ」という意があるので、二つの想いを合わせて名付けました。

御社の強みを教えてください。

まず、デザインに特化していること。在籍しているスタッフは全員デザイナーです。スタッフそれぞれの個性を発揮してもらえるように、名刺もあえて統一せずに、自由なデザインでオリジナルティあふれる一枚を自作してもらっています。お客さまとデザイナーの個性をマッチングしながら多方面からの依頼に応えられる体制を整えています。
商品としては、アクリル製の看板に力を入れています。アクリル看板は大小サイズもさまざまで、飲食店やショップなど、よりデザイン性の高い商品を求められるお客さまにも好評をいただいています。有難いことに、同業者の方から発注いただくケースも多いです。
また看板業は、営業からデザイン、製作、取り付けの工程の一部分のみを担っている会社が多いんです。うちはお客さまに安心して任せていただきたいので、すべて一貫体制でお請けしています。

廃材のリユースからアートまで。好奇心を膨らませた発想力で地域の発展を目指す

石川県で事業を展開されていますが、地域への想いをお聞かせください。

生まれも育ちも石川県ですのでこの地からスタートしたいという気持ちは大きかったです。都心のほうが市場も大きいですし、商売として成立しやすい環境にあるとは思います。でも、やはりこの場所が好きですし、地域の発展に貢献していきたいと考えています。

今後、展開を考えている事業などはありますか?

新型コロナの飛沫感染防止で使われていたアクリル板をリユースしてもらうために、SNSを利用したWeb事業に乗り出して、販路を開拓しています。うちはもともとアクリルに特化していたのですが、コロナが落ち着いたころに大量のアクリル板が廃棄されていくのが心苦しくて、環境に貢献できる術はないかと考えていました。現在は、廃材を利用したアクリルパーツを販売していますが、いずれはオリジナル商品を販売してみたいと思っています。
もう一つは、Web事業の延長として、石川県で活躍する絵画、陶芸、書などの作家さんたちを応援する事業ができたらいいなと思っています。作品は素晴らしいのに、意外とこうした商品の販路が整っていない現状があります。自分自身、アートが好きということもあり、弊社とコラボして何か一緒に創り出して販売できたらいいなと思っています。

まずは「人と交わる」こと。交流のなかでつかんだ種が芽生えにつながる

社員の皆さんとの関係性について心がけていることなどはありますか?

私もスタッフもお酒が好きなので、月1回は必ず飲み会をやります。仕事の話よりはプライベートの話がほとんどです。でもその流れで、社内の体制についてぽつぽつといろいろな要望が出てきます。「現場で使うヘルメットの色を統一したらどうか」とか普段聞けないような声やアイデアが出てくること多いので、気負いのない会話ができる環境づくりを心がけています。

どのようなクリエイターさんたちとお仕事をしたいですか?

シンプルに言えるのは自分で考えて行動できる人です。仕事をするうえで必要なことやモノを自分の視点で捉えられる人。会社にプラスになるよう働きかけてくれると非常にありがたいです。

最後に夢に向かって頑張っているクリエイターさんたちにアドバイスをお願いします。

デザインをやっていてよく思うのが、「このデザインかっこいいな」とか、「これ面白いな」って、素敵な作品に感化される瞬間があるんですね。クリエイターのみなさん同じような経験があると思います。そんなふうに「記憶」に残る仕事ができたら最高だと思います。
そのためには、勉強と情報を得ることが大事。特に情報に関しては、人から得る「生」の情報が重要です。インターネットで検索して出てくるものとは性質が全然違うもので、その人の感性が見事に出てきますから。人との出会いのなかで情報をつかんでいってほしいなと思いますね。

取材日:2023年9月19日 ライター:新谷 永里子

株式会社STRAIGHT

  • 代表者名:徳木 忠美
  • 設立年月:2010年11月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:看板デザイン・ロゴデザインの企画・制作・屋内外の看板制作・施工
  • 所在地:〒921-8801 石川県野々市市御経塚4-97-1
  • URL:https://straight-1.com/
  • お問い合わせ先:TEL 076-227-9548 / FAX 076-227-9549

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