広告会社なのにPHSを売った代表。「ムダはない」人生、広告・エンタメ・教育で人々のヒーローに
広告・エンターテインメント・教育事業を展開し、「つながる。広がる。プロがいる。」をモットーに、2022年8月に設立された東京都新宿区にある総合広告代理店「株式会社ヒロプロ」。代表を務めるエグゼクティブ・プロデューサー/CEOの廣池 基史(ひろいけ もとふみ)さんは、大学卒業後に就職氷河期を乗り越え広告業界へ入るも、延べ3年半にわたり家電量販店の携帯電話コーナーでPHS(パーソナル・ハンディ・フォン・システム)の販売員を任された異色のキャリアを持っています。当時、販売の現場でじかに学んだマーケティングの視点は、20年以上にわたり手がけてきた数々のクリエイティブに反映。「経験に何一つムダはない」と話す廣池さんに過去のキャリア、会社のビジョンなどを伺いました。
広告業界でキャリアをスタート、しかし任されたのは家電量販店のPHS販売員。「相手の興味を引く」経験が糧に
かれこれ22年、広告業界で活躍されてきたそうですね。
大学卒業後に新卒で入社した「株式会社ミクプランニング」が、広告業界のキャリアのスタートでした。当時は就職氷河期で、大学4年の12月にようやく就職が決まったんです(笑)。業務内容は主に、広告の企画制作、企業の販売促進サポート、イベントの企画運営で、いわゆる「BTL(Below The Line。マスメディア以外を扱った広告領域)」領域を担う広告企画制作会社でした。ただ、就職人気ランキング上位の広告業界へ入ったものの、当初から順風満帆だったわけではなかったです。
何があったのでしょう?
会社のメインクライアントだったKDDIグループの仕事を知るため、入社前の研修も合わせると延べ3年半は、新宿の「さくらや」という家電量販店(2010年全店閉店)でDDIポケットのPHSを販売していました。いわゆる「070番号のピッチ」ですね(笑)。店頭での接客はもちろん、PHS以外の家電製品も販売してましたね。あと、在庫管理や品出し、レジ業務、店頭マイクでの呼び込みや店内放送なども任されていましたので、やっている仕事は完全に家電量販店の店員さんです(笑)。
ただ、今思えば、当時の経験はムダではなかったですね。売り場でモノがどう売れるのか。一瞬で通り過ぎるお客さんにどう声を掛けるべきか、どうやったら足を止めてもらえるか、店頭装飾の見せ方の創意工夫など、毎日店頭で考えていた経験は、その後の広告のクリエイティブ制作において非常に役立ちました。
3年半の販売員を経て、そのあとはどのような仕事にたずさわったのでしょう?
新規開拓営業です。ようやく本社に戻れましたが、入社4年目の自分は顧客も売上もゼロですし、新入社員のような役割でした。電話帳やホームページを見ながら企業に電話をかけて、アポイントを取るのが主な仕事でしたが、そこでも販売員時代の“お声掛け”の経験が役立ち、相手の興味を引く店頭現場から習得した営業トークが確立できました。
例を挙げますと、相手の会社へ直接足を運び「会社案内をお届けするため、下まで来てしまいまして……」といきなり電話する方法で、驚きながらも話だけは聞いてくれたんです。今だと非常に迷惑な営業ですよね(笑)。もう一つは、家電量販店のPHSコーナーで商品に迷っていたお客さんを案内した経験をヒントに「広告会社って、何をやっている会社なのかよくわからないですよね」と持ちかける方法で、相手の目線に立ってお声がけをするノウハウが活かせました。結果、アポイント獲得率は非常に高く、そこから新規顧客の開拓に成功しました。
博報堂グループ、電通で扱う分野が広がった。「経験に何一つムダはない」
ミクプランニングから、博報堂のグループ会社、その後電通に転職されたそうですね。
1社目を退職して、30歳になるタイミングで博報堂グループの制作領域全般を担う「株式会社博報堂プロダクツ」に入社しました。プロモーションプロデューサーという職種で採用され、最初の配属はNTTドコモ全般の販促物の制作や店頭キャンペーン、イベント企画運営を担当していました。約3年担当をした後、前職から続いていた携帯電話の部署から異動となり、アサヒビールグループの担当になりました。アサヒ飲料「WONDA」、「三ツ矢サイダー」、「十六茶」など主要ブランドの販売促進に関わるクリエイティブ制作、全国流通イベントやキャンペーン、PR発表会なども手掛け、前職の経験がこちらでも活かせました。実は、アサヒ飲料は前職の新規開拓営業で担当をしていたご縁もあり、クライアントさんとは旧知の仲で非常にやりやすかったです。広告業界は非常に狭いですね。アサヒビールグループのクリエイティブ領域も3年以上経験ができたため、次のステップへ進むため、博報堂グループのナショナルクライアントである日産自動車チームへ異動となりました。「TBWA/博報堂」という日産自動車の専任広告代理店であるグループ会社に在籍し、クリエイティブ全般(店頭什器、カタログやポスター、等身大パネル、プロモーションムービー)の制作進行を担当。クリエイターチームと毎日のように意見交換をしながら、多くのクリエイティブを世の中に届け、こちらも約3年経験を積み、10年間勤めた博報堂グループに別れを告げ、40歳となる節目で「株式会社電通」へ転職しました。
電通では、どのような業務を担当されたのでしょう?
担当する広告領域が「BTL」から「ATL(Above The Line。テレビ・新聞・雑誌・ラジオのマスメディア)」へと広がり、日本コカ・コーラ社のマーケティング領域全般を担当しました。正直な話、ATL領域は、これまでほとんど経験したことなく、新たなステージで分野を広げ40歳から挑戦しました。新製品発売や担当ブランドの年間マーケティング活動のスケジュールを立て、莫大な予算も管理し、各メディアに沿った広告戦略やTTL(Through The Line。ATLとBTLの統合)を提案。最大9ブランドを同時に担当し、メディアバイングという全く新しい領域でしたが、そこでもまた、店頭販売員時代に学んだ消費者視点の考え方が統合型マーケティングのプランニングにも役立ちましたね。退社前には、メディアやクリエイティブも含めたTTL領域(Through The Line。ATLとBTLの統合)は自分の中でNo.1の得意領域にまでなり、過去の経験に何一つムダなことはないと、改めて実感しております。
独立後はエンターテインメント事業にも注力。コロナ禍で得た自信とは
大手広告代理店を含む3社を渡り歩き、2022年8月に現在のヒロプロを設立されたきっかけは?
人生の節目のタイミングだったのが、大きな理由です。昔から逆算で人生を考えていて、5年、10年のスパンで常に新しいことに挑戦してきたんです。30歳で博報堂プロダクツへ転職、40歳で電通へ転職して、会社を設立したのは45歳でした。ちょうど同時期に、難病を抱えた父がオーナーの自社ビルの経営を引き継ぐ話も浮上していたので、「何事もタイミング」と独立へと踏み切りました。
主な事業内容を教えてください。
会社員時代に経験した広告領域全般を手掛けています。何かに特化するのではなく、広告に関するすべてをカバーした「総合広告代理店」としたのは、コロナ禍の経験もきっかけでした。リモート環境で広告領域全般の業務をしていたときに、対面で会えなくとも、自分に頼って、信頼して、相談してくださる方が、社内外問わずいましたので、独立後もこの仕事を続けていける自信にもなりました。現在は、広告宣伝やマーケティング領域、クリエイティブ制作で困っている人々の手助けをしたい思いで、どんな些細な案件にも向き合うようにしております。
また、独立してからは広告事業とも関連の深いエンターテインメント事業にも力を入れるようになりました。
エンターテインメント事業とは、どういったものでしょう?
具体例としては、自社でイベントを主催し、「人と人をつなげ、新たな出会いを通して、ビジネスやプライベートでのネットワークや視野を広げ、関わった人たちみんなに喜んでもらえる」活動で、エンタメ事業?というか、ほとんど趣味でおこなっております(笑)。
きっかけは、私自身、博報堂グループで働いていた時代に、フットサルチームを立ち上げた経験がありました。当時、多忙な日々を送っており、自宅と会社、営業先の往復で疲弊していた生活の中で、何かを変えないと!と思い立ち、社内の同僚や先輩、後輩を巻き込んで「スポーツをきっかけに交流を深められれば」と考えたことを転機に、フットサルチームを創設。いつからか社外からも仲間が集まり、仕事もプライベートも楽しめるコミュニティとなりました。(その後は、東京都フットサル連盟所属の競技チームにまで発展。昨シーズン監督として東京都3部リーグへの昇格と残留を経て、チームを率いて12年経ち退団。)
そんなフットサル活動をきっかけに、独立後もさまざまな方とつながり、新たな出会いもたくさんありましたね。新しいチームユニホーム制作の流れで、SNSを通して巡りあえた“新進気鋭”のフットボールブランド「FOOTCROWN」さんとも業務提携を結ぶことができ、現在は東京の正規販売代理店としてアパレル事業も始めました。またそんなご縁で、FOOTCROWN代表が仕掛ける「フットサルを通じて、観客も選手も楽しみながらボールを追いかけ、プロに限らず子供たちが将来目指せる究極のエンターテインメントフットサルを広めたい」との野心に共感できたので、元プロフットサル選手やインフルエンサー、競技で活躍している選手を集結させた「フットサルヒーローズ」のエキシビジョンマッチ※を、ヒロプロでも広報や運営でサポートする関係となりました。
※2023年11月25日(土)愛知県蒲郡にて「フットサルヒーローズ3.5」開催(https://futsal-heroes.com/)
そうした中で今年9月からは、ヒロプロ主催でさまざまな業種・業界・年次・年齢の人とつながり、広がり、ヒーローを目指せるフットサルイベント「HEROSAL(ヒロサル)」の活動もスタートしました。これまで自分が続けてきた多くの経験で、人々を喜ばせていける体験の提供が、ヒロプロが考えるエンターテインメント事業としておりますので、今後も色々仕掛けていきたいと思います。
公式サイトでは、事業における「DX化」も言及していました。
広告業界はまだまだ古い体質も残っていますが、近年では、クライアントからの要望が変化しつつあるんです。広告主側も、テレビや新聞、雑誌、ラジオといったマスメディアではなく、YouTubeやInstagram、TikTokのようなSNSプラットフォームなどのデジタル領域の比重が高まっております。ただ、自分と同世代以上の世代では、今もなお従来のマスメディアに依存し過ぎて、デジタルを学ぼうとしない人たちもいるのも事実です。自分自身も取り残されない様、若い世代と会話し、流行りのアプリやデジタル上のプラットフォームやAI、Chat GPT、メタバースなどの新しいDXの技術を、46歳にして日々学んでおります(笑)。
自社スタジオ計画で若手クリエイターにもチャンスを。学問では得ることができない人生や社会に役立つ教育事業も視野に。
広告事業、エンターテイメント事業のほか、教育事業も掲げています。
英語教育や福祉事業などを長年勤めてきた教育者の父がさまざまな局面で「人生を教える」といった社会教育事業を手がけていたのを幼少期から見ていたので、自分もいつか教育分野はやりたいと思っていたんです。私の教育事業の概念は、学問や勉強だけでは得ることのできない社会に役立つためのノウハウを伝えていきたいと思っております。子どもから始められる動画編集スクールや、クリエイターやエンジニア育成など、これまで広告業界やスポーツを通じて繋がってきた知人たちを講師に招き、人生や社会に役立つための教育事業を展開していきたいと思ってます。また就活生や若手社会人向けの育成も考えており、自分自身の経験談を交えて「肩書や看板だけに頼らず“個”で魅力を出せる人に価値がある」、「経験したことに無駄なことはない」、「人生の歩き方は無数であること」などを伝えていける社会に役立てる教育を、将来的には事業化していきたいと思っております。
新たな事業計画もあると伺いました。
高田馬場のオフィスに、「多目的総合エンターテイメントスタジオ」を立ち上げる計画が進んでいます。クリエイティブの制作業務で「撮影場所が見つからない」「撮影場所の移動が多い」「全部同じ場所で撮影できないのか」といった撮影場所に関する課題を聞いたこともきっかけでした。こちらのスタジオでは、多目的をテーマに、広告制作や動画の撮影はもちろん、一般の方の家族写真、ウエディング、成人式、お子さまの記念写真などもマルチに撮影もでき、クリエイター研修やセミナー、各種イベント、パーティーも開催できるような総合的なスペースにしていきたいと考えております。
また今年3月に、ヒロプロにジョインしてくれたプロカメラマン兼営業社員をはじめ、若手クリエイターがさまざまな仕事の機会を経験でき、活躍できる場所にもしたいですね。近年、広告にはタレントさんではなく一般の方やインフルエンサーをモデルとして使うケースも増えており、カメラマンやクリエイター、アスリートでありながらも広告モデルとしても生計を立てられるなど、才能溢れる若者たちの本業やセカンドキャリアをサポートできる副業の可能性も広げられればと思います。
夢がふくらむ事業ですね。今後、ともに働きたいクリエイター像も教えてください。
広告のクリエイティブでは、芸術性やアーティスト性ではなく、クライアントや消費者を満足させることが求められます。賞を獲ることだけや自己満足で完結するのではなく、そのクリエイティブを見たことで人が行動し、多くの人々に価値を感じてもらえるクリエイティブを生み出すクリエイターさんと一緒に働きたいですね。
取材日:2023年9月27日 ライター:カネコ シュウヘイ
株式会社ヒロプロ
- 代表者名:廣池 基史
- 設立年月:2022年8月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容:広告事業(総合広告代理店業・広告、販売促進に関するコンサルティング・企画立案および制作業務・映像の企画、編集、撮影等の制作業務・インターネット広告の企画立案、Webサイト制作業務・イベント、研修、セミナーの企画、制作、運営および実施業務・広告物の印刷および写真撮影業務・タレントキャスティングおよびマネジメント業務)。エンターテインメント事業。社会教育事業。テナントビル管理業
- 所在地:〒169-0075 東京都新宿区高田馬場1-21-13 廣池ビルディング403
- 電話:03-3208-8881(代表)
- URL:https://www.heropro.jp/
- お問い合わせ先: