空き店舗が散見する商店街を、若者が集まる「つながる場所」に。まちづくりの秘訣とは?
新潟県の燕三条エリアは、全国的に有名なものづくりの街。この場所にある株式会社TREEの代表・中川 裕稀(なかがわ ゆうき)さんは、高齢化による後継者不足に直面する工場の存在を知り一念発起し、2020年に独立しました。空き店舗が目立った商店街を“原宿化”するなど、飲食業を中心にさまざまな角度から、まちづくりを行なっています。そんなTREEが生み出しているもの、ビジョンなどについてお聞きしました。
東京志向から地元志向へ。地元にあった世界基準に深く感銘
地場への興味を持つようになったきっかけを教えてください。
旧下田村で生まれ育った私は、音楽で食べていこうと考え、新潟市内にある音楽の専門学校に入学しました。そのときは「ここで技術に磨きをかけて東京へ」などと考えていたのですが、考えが甘かったと入学して比較的早い段階で思い知りました。私なんかよりも上手くて、レベルの高い人ばかり。音楽の世界ではダメだなって心が折れちゃったんですね。東京に行くこと自体も諦めて地元に目を向けたら、アーティストさんのグッズなどものづくりをしている株式会社MGNET(以下、マグネット)という会社があることを知りました。「自分が目指していたエンターテインメントの世界とつながれるかもしれない」と思い、インターンという形でお世話になったところから、私の地場への好奇心というのが始まりました。
興味を持つようになった具体的なエピソードはありますか?
燕三条というこのエリアには工場が非常に多く、世界基準の製品がたくさんあります。そのため、イタリアに支社があるとか、展示会を海外で行うという工場も少なくありません。このエリアの地場産業は東京ではなく、世界を見ていると感じたときに、自分も燕三条を動かす歯車の一つになりたいと思いました。
起業を志すようになった経緯を教えてください。
私は、営業として商品の販売計画や製造管理、さらに工場と工場をつないで一つの商品を作り上げるようなマネージャー的役割も担っていました。世界に名高い工場なのに、若い人が少なく、10年後の存続が危うい。受注量は非常にあるのに、人手不足で機会損失をしている工場がある。そんな工場をたくさん目にするうちに「どうにか力になれないか」と考えるようになりました。
そこでまずは若い人たちを集めようと考え、21歳のときに商店街を使った音楽イベントを企画しました。継続的にイベントを行ううちに若い人たちが集まるようになり、こういう地域だからこそのエンターテインメントがあるのだと気がつきました。
そんな折、三条市役所さんや商店街から、TREEのあるこの建物を使って、街の活性化を、というご依頼をいただき、17年、私が23歳のときにマグネットの企業内起業という形でTREEを始めました。そして、20年に独立しました。
地域活性化のため飲食事業を展開。1本の“木”から広がる可能性、社名に込めた思い
御社の事業内容を教えてください。
商店街の活性化というのが、市役所や商店街組合からの大命題。この課題を解決するために、飲食事業を始めました。またこの地域に住む若い人たちのスタートアップ支援や地域と若い世代をつなげる仕組みのパッケージ販売などを行っています。
社名の由来を教えてください。
小さな苗が商店街に植えられて、どんどん大きく成長していき、どこからか鳥が集まってきて、木の実を新しいどこかへ運んでいく。そして、別の場所でも新しい木が生まれて……。そんな自己実現できる木を実らせたい、その一歩になりたいという思いから「TREE」という名前を選びました。
会社ロゴに込めた思いを教えてください。
ロゴは、三条の出身で全国的にも名高い、新潟のデザイナー・石川竜太さんに依頼しました。TREEを象徴する赤レンガの建物をイメージカラーにして、「木」という文字から印象を飛ばしたデザインに。私の故郷である、旧下田村と三条市をつなぐ清流大橋と、人と人をつなぐ架け橋という思いを重ね、最終的にこのデザインになったと伺っています。いくつか、ほかの候補もあったのですが、メンバーの満場一致でこのロゴになりました。
原宿の商店街を再現!?街にドッと人が押し寄せた4日間
TREEを施設として利用することができると伺いました。
飲食スペースでの食事はもちろんですが、2階がコワーキングスペースになっているので、そちらも使っていただくことが可能です。また、カメラマンになりたい。ヨガをやりたい。音楽をやりたい。そんな人たちの声を拾って、レッスンスタジオやフォトスタジオなども作りました。各自が「写真を一緒に撮りませんか?」とか「アコギのレッスンやっています」など、店内の掲示板で参加を募り、リアルな交流、体験の場となっています。
店内の入り口付近などではクリエイターが制作したアクセサリーなどの物販なども行っています。
商店街の活性化のために行った具体的な事例を教えてください。
独立する前の、19年に行ったイベントは今の商店街の形の礎になったと思っています。当時、非常に空き店舗が多かったのですが、東京の原宿の商店街さんから打診をいただき、その空き店舗を利用して4日間、仮想の原宿をつくりました。多くのお店は原宿の店に並ぶのと同じ商品を店頭に並べるというスタイルでしたが、中には店主さん自ら来県し、実際の店舗と同じように店先に立っていただいたお店もありました。
開催日、自転車に乗った小中高生がブワッと商店街に集まって。商店街の年配の人たちが「死ぬまでにまたこんな光景が見られるとは思っていなかった」と言われたときは非常にうれしかったですね。これを機に、空き店舗に若い人たちがお店を出すようになって、今では商店街に「貸店舗」という札はなくなりました。17店舗だったお店は、29店舗になり、飲食店も全部で3軒。増えたのはすべて若い世代をターゲットにしたお店で、創業当時とは比べものにならないほど、若い人、特に女性を商店街で目にするようになりました。
大事な視点は「楽しいと思えるか」。自分の発想を形にできるかどうかが重要
街をクリエイトしていくことの楽しさとはどこにありますか?
イベントをすれば、イベントごとに異なる客層が集まるし、新しい店舗ができれば、日常が変わる。目で見えて、世界で変わっていくのは、非常に楽しいですね。以前、古着販売をしたときには、金髪の大学生みたいな人たちが増え、一方でカフェには20代女子がいる。最近、アニメとコラボした際にはオタクが集まってきて……。自分が動くことでいろいろな人が集まってくるのを見るのは面白いですね。
アニメのコラボの話を具体的に教えてください。
エイベックスさんのオリジナルTVアニメで「Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-」というアニメがあるんです。女子高生たちがDIYをするという内容なのですが、彼女たちの使う工具がすべて燕三条産で、舞台の街がここの商店街という設定でした。ドラマ化もされたのですが、私はコーディネーター的な役割で関わらせていただき、放送終了後となる現在は、このアニメのコラボショップなどもTREEの近くで運営しています。
お話を伺っていると中川さんは、人と人をつなぐ役割を担っているように感じます。
おっしゃるとおりですね。自分の好きな人と好きな人がつながる。そういった場所をつくるのが好きなんです。TREEを通じて知り合った若い子たちが一緒にチームを組んで一つのイベントを仕掛けるとか、何か一つのプロジェクトに取り組む。この場所からクリエイティブな活動が生まれて、私よりも下の世代に派生していく。そうなるためのきっかけをつくれていると思うと非常にうれしいですね。
まちづくりに必要なクリエイティブ力とはなんですか?
私たちがやっていることの根本には、「楽しいと思えるか」「自分の将来のためになるかどうか」という視点があります。これが結果、商店街の活性化、地方創生につながると考えています。その課題をクリアするために必要なのは、ツールを使えるかどうかではなくて、自分の中の発想をどれだけ具現化できるか。そしてそのプロセスをどうやって見せていくか。まちづくりにおいて、そういうクリエイティブな力、視点は非常に大事だと思います。
今後、一緒に働きたい仲間はどんな人たちですか?
リーダーシップを発揮できて、自分の思いをどんどん形にして、新しい風をこの地域に入れてくれるような人。また、私や前者のようなタイプをしっかりとサポートしてくれる人。その人が見ている世界を一緒に見ようと汗をかいてくれる、最強の二番手のような人物ですね。
取材日:2023年10月25日 ライター:コジマタケヒロ
株式会社TREE
- 代表者名:中川 裕稀
- 設立年月:2020年4月
- 資本金:50万円
- 事業内容:レストラン事業、地域プロデュース
- 所在地:〒955-0062 新潟県三条市仲之町2-15
- URL:https://tree-sanjo.com/
- お問い合わせ先:0256-55-1162