「起業」を知らなかった主婦、ECで年商24億の会社社長に。業績を伸ばし続ける成長マインドは
滋賀県草津市に本社を構える株式会社インターナショナルスワングループは、レディースファッションのEC販売で目覚ましい業績を上げている注目の会社です。出迎えてくれたのは、起業前はごく普通の専業主婦だったと語る代表の大谷 利恵(おおたに りえ)社長。経営を学んだことはなかったという大谷社長が、会社をここまで大きくしてきた経緯とは?柔らかな物腰の裏に隠された、強い想いを聞きました。
レディースアパレルのEC販売で。ターゲットを明確に絞った自社ブランドを展開
御社の事業について教えてください。
インターネットでレディースファッションアイテムを販売しています。自社サイトのほか、楽天市場やYahoo!ショッピング、Amazon、ZOZOTOWNなど、合計30店舗近くのECモールに出店しています。運営しているブランドは二つ。LLから6Lまでの大きいサイズの専門店「GOLD JAPAN(ゴールドジャパン)」と、40代以上の方に向けて「胸が高鳴る特別な服」を提供する「sawa a la mode(サワアラモード)」です。
各ブランドとも毎週30商品ほど、新作を投入しています。買い付け商品もありますが、GOLD JAPANのラインナップはほぼ自社開発です。製造元と打ち合わせを行い、生地や色を考えています。何しろ数が多いですから、新商品の打ち合わせを行い、できあがった商品を撮影してサイトに登録する、というサイクルを毎週絶え間なく続けています。
売り上げを伸ばし続け、前期は年商24億円を達成されたそうですね。EC販売を成功させる秘訣は?
まず一つは、ターゲットを明確に決めることです。GOLD JAPANは大きいサイズの方、sawa a la modeは40代以上の方と、顧客層を絞っています。これによってほかのブランドと差別化し、たくさんのECサイトの中から見つけてもらいやすくします。
もう一つは、自社サイトに最も手をかけ、自社サイトの売り上げをしっかりと上げていくことです。数多くのECモールに出店していますが、現在の売り上げの半分は自社サイトから。どのECモールと比べても自社サイトの売り上げのほうが圧倒的に多く、私たちのお洋服が好きなお客さまが集まってきてくれます。ブランドのファンであるお客さまとの大切な接点なんですよね。そこに気づいた時、「自社サイトを一番に運営していかなくては」と思いました。
自社サイトの売り上げがここまで伸びたのは、ここ数年のことです。サイトを立ち上げた10年前はまったくと言っていいほど力を入れていませんでした。ほかのECモールでも一定の売り上げが出ていたので。しかし、5年ほど前に自社サイトの大切さに気づき、お客さまとのコミュニケーションにも積極的に取り組むようになりました。自社サイトから購入されるお客さまはリピート率が高く、それによって売り上げの基盤が作れています。
お客さまとの距離を縮める。「裏通信」とリアルイベント
お客さまに向けてはどのような取り組みをされていますか?
自社サイトからご購入いただいた商品をお送りする際には、「裏通信」を同封しています。新商品の情報はもちろん、撮影風景やプラスサイズモデルさんの紹介、スタッフの日常などをギュッと詰め込んだフライヤーです。どんな人たちが服を作り、売っているのかを、お客さまに知っていただきたいと思って。また、いつもご購入くださっているお客さまの誕生日にはハンカチやお花といったプレゼントをお贈りしたり、時にはお中元やお歳暮などをお送りしたりすることもあります。
「裏通信」には楽しそうな雰囲気のお写真が掲載されていますね。
これは、イベントを行った時の写真ですね。お客さま参加型のオリジナルイベントは、大変ご好評いただいている企画の一つです。レストランを貸し切ったクリスマスパーティーや会社の20周年パーティー、大阪のユニバーサルスタジオジャパンでランチ会をしたこともありました。その時は、GOLD JAPANのコスプレ衣装でお客さまもスタッフもみんな仮装して。とても盛り上がりました。
これらの企画の中には、スタッフからのアイデアから生まれたものもあります。お客さまに喜んでいただけるよう、社内で常に議論し、新しい企画を考えることに力を注いでいます。
きっかけはネットオークション。服を買ってもらえる喜びに気づき夢中に
会社設立前から、いつかは起業したいという想いをお持ちだったのでしょうか?
答え: いいえ。「起業しよう」なんて考えたこともありませんでした。そもそも、「起業」とは何なのかすら知らなかったんです。高校卒業後はすぐに働きに出て、地元の工場で仕事をしていました。そのあと、結婚を機に退職、出産。子育てに専念する、ごく普通の専業主婦でした。
それは意外でした!では、事業を始めたきっかけは?
ある時、インターネットオークションで1枚の服を購入したんです。気に入っていたその服を着て夫の実家に行ったら、「それ、『しまむら』に売ってるよ」と。衝撃でした。量販店の服がインターネットで売れるんだ、って。
そこで、自分も量販店で服を買って、インターネットオークションに出品するようになりました。原価を切ることはほとんどなく、時には、1万円以上の値がついたこともありました。「自分が出品した服が売れて、お金が入ってくる」という感覚が新鮮で楽しく、滋賀県中のお店を回って服を買い、次々に出品していきました。当時は毎日30着近くを1人で梱包し、宅配便で発送していましたね。
それほどの規模になると、副業レベルでは収まらなさそうですね。
ある日、税務署の職員の方が家に来て、「個人事業主の届を出してください」と言われました。そこで初めて、自分がやっていることは立派な商売なのだと気づいたんです。
個人事業主として登録し、出店資格が得られたので、今度は大手のECモールにも出品してみようと。しかしこれが、まったく売れなかったんです。並んでいる商品数が桁違いなので、普通の服なんて埋もれて見つけてもらえなかったのでしょう。数カ月経って、やっと1枚だけ売れたのは、LLサイズのジャケットでした。そこで「大きいサイズの服に特化すれば、ECモールで生き残れるかもしれない」と思ったのです。
1枚のジャケットが、GOLD JAPAN誕生のきっかけだったのですね。
はい。2006年に、大手ECモールで「大きいサイズ専門店GOLD JAPAN」を立ち上げました。取り扱うのはLLサイズ~6Lサイズに特化した大きいサイズのお洋服やファッション雑貨です。予想は的中。数カ月で収支が黒字になり、売り上げが少しずつ伸びていきました。仕入れ先も、大阪の卸業者や国外のメーカーにまで広げるようになりました。
撮影やWebサイト制作は外注していましたが、この時はまだ、1人で仕事をしていました。売り上げの規模が大きくなってきたので、税理士さんに相談しに行ったら、「大谷さん、これは個人でやる規模じゃないよ」って。当時、売り上げは4億円くらいになっていました。
未経験からの会社経営。必要なことはすべて失敗から学んだ
個人の事業で4億円とは、驚きです。
目の前のことだけを一生懸命していたら、いつの間にか大きな額になっていました。そのため、2012年に株式会社インターナショナルスワングループを設立。社長という肩書きがついたものの、私は大学にも行っていないですし、経営を学んだこともありません。本当に全部、この会社を通して経験し、失敗しながら学んできました。
会社を作って間もない頃、採用したスタッフが次々に辞めていくんですよ。「何でなんだろう?」って。そうしたらある時、辞めるスタッフが教えてくれたんです。「ここの会社は社会保険がないから、皆辞めるんです」って。その時に初めて、社長としての立場からだけではなく、スタッフの立場に立って考える大切さを知りました。それからは、費用をかけてでも働きやすい環境を整え、スタッフの意見を積極的に取り入れるよう心掛けるようになりました。
ちなみに、採用ではどのような点を見るようにしていますか?
重視するのは素直さ。特別なスキルがあったり、経験豊富だったりということよりも、ゼロから学ぶ前向きさが大切だと思っています。私自身が何もないところから一つずつ学んできましたから。スタッフも同じです。
その分、業務はできるだけシンプルにし、特別なスキルがなくてもできるよう「仕組み化」することを心掛けています。在庫管理と出荷作業は倉庫運営業者に一括で外注。すべてのECサイトからの注文が倉庫に入り、そこから直接お客さまに発送されるシステムになっています。プロに任せられるところはなるべく外注し、自分たちは「どうやったらブランドを伸ばしていけるか」という、会社にとって最も大切な部分に時間を使うようにしています。
未経験のスタッフも多いと思いますが、スタッフ教育において心掛けていることはありますか?
伝えたいことは何度でも言うこと。人って、1言って10わかる人と、1言っても1わからない人がいるじゃないですか。わかってもらうまで根気強く、何度でも、何度でも言うんです。これは、スタッフ同士でもそうですし、取引先とのやり取りでも同じ。「わかってもらえるまで、一生言い続けなさい」とスタッフにもよく言っています。
「会社を伸ばしたい」。ただその想いだけを持ち続けて
いろいろな努力をされてきて今があるわけですね。
先月の決算で出た売り上げは約24億円。会社設立から売り上げはずっと伸び続けています。しかし、これは、ただ何もせずに得られた結果ではありません。毎日毎日、寝ても覚めても、「売り上げを伸ばしていかなくてはいけない」と思って行動し続けてきました。目標を決めた訳ではなく、目の前の課題を改善し続けた結果が数字につながっています。
私にとって、去年と同じ業績は衰退を意味します。「業績が伸びていない」と思った瞬間、新しい何かをスタートしないと駄目です。16年に立ち上げたsawa a la modeは、大きいサイズの専門店だけでは伸び悩みを迎えるかもしれないと考えて作ったブランドです。当時も業績は伸びていましたが、今のうちに次の売り上げの種まきをしようと考えました。
いつも先手、先手で事業戦略を考えているのですか。
常に会社のために何ができるかを考え続けています。今も、新しい機能性食品を作ろうと2年近くかけて開発を続けています。食品は初めて参入する分野なので思うように進まなくて。でも、うまくいく企画なんて、10やって一つくらい。9は失敗します。それでもやらないと。
大谷さんの仕事に対する熱意の源は何なのでしょうか?
「伸びていかなくては」という想い。そうとしか表現できないんです。17年前に初めてECモールに出店した時は、たった1枚の服しか売れませんでした。でも、GOLD JAPANを見つけてくださるお客さまがだんだん増えてきて……自分が立ち上げたお店に人が集まり、商品を買ってもらえることが、すごくうれしかったんです。だから、もっと頑張りたいし、もっと多くの方に私たちのお洋服を届けたい。頭の先から指の爪の先まで、「伸ばし続けたい」という想いだけでここまで来ました。
スワングループを大きくしていくこと、これからも伸ばし続けること。それが私の使命です。私が社長を務めている限りは、ずっとずっと頑張り続けます。成長のゴールはどこにもありません。
取材日:2023年10月19日 ライター:土谷 真咲
株式会社インターナショナルスワングループ
- 代表者名:大谷 利恵
- 設立年月:2012年11月
- 資本金:5,000,000円
- 事業内容:レディースファッションのEC販売
- 所在地:〒525-0037 滋賀県草津市西大路町4-32-106 草津エストピアプラザ2階
- URL:https://swan-group.net/
- お問い合わせ先:077-567-1155
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