デジタル地域通貨が結ぶ人とまちの“輪”。追い求めるのは、新しい地域活性化の仕組み
地方銀行での経験から、人とまちをつなぐ会社の設立。地域通貨で「事業者を守りたい」
株式会社まちのわを設立したきっかけを教えてください。
私はUFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)やSBIホールディングス株式会社といった金融業界の出身です。そのSBI時代に、地方銀行がデジタルサービスを強化することになり、リアル銀行とネット銀行に携わった経験がある私に白羽の矢が立ち、福岡県久留米市にある筑邦銀行に着任しました。
実は私自身、着任の話が出るずっと前から「地銀にはどんな役割があるのだろう?」「メガバンクやネット銀行があれば十分なのでは?」と思っていました。しかし、いざ着任してみると、やはり地銀はその地域の事業者や経済に責任を持っていることが分かり、融資などでお金を回す重要な役割を担っているのだと実感しました。けれども、いま世の中で求められているのは融資よりも、ちゃんと人に来てもらって物を買ってもらい、経済を活性化させること。ならば、それを銀行が積極的に支援できないかと思い、地域だけで回る通貨を作ることで活性化につなげて、事業者を守りたいと思ったのがこの事業を始めるきっかけでした。
具体的にどのようにスタートされたのでしょうか?
最初はいろいろな方に「地域内で経済を活性化するために地域通貨でこんなことやりたい」と言い続けていました。「思いは素晴らしいけれど、ビジネスとしては難しい」「わざわざ地域通貨を使う理由がない」など厳しい意見が多かったなかに、「九州電力にも同じようなことを考えている人がいる」と教えていただき、紹介されたのが弊社会長の宮島真一でした。
すぐにお会いして話をすると、宮島も地域経済を発展させるために模索していることを知り、そこから一緒に地域活性化プロジェクトを立ち上げ、デジタル地域通貨を始めることになりました。そして、筑邦銀行が営業を担い、九州電力株式会社がアプリ開発、システム基盤はブロックチェーンを持っているSBIホールディングス株式会社が担当。3社が揃ったことで、株式会社まちのわを設立することになりました。
社名の「まちのわ」に込められた思いは?
キーワードは「地域」と「つながり」でした。暮らしている人とその地域につながりを作っていきたいという思いからです。お金を扱うだけでもないし、ただ単にデジタル化をする会社でもない。それらの結果として地域をつなげていくということが伝わる社名にしたいと思っていました。地域には子どもから高齢者までたくさんの方が暮らしているので、親しみを持ってもらえるよう日本語にもこだわり、最初のキーワードから人の輪をつなぐという思いを込めて「まちのわ」にしたのです。
デジタル化によって変わる自治体の未来。エリアごとのアプリ開発でまちおこし
現在の事業内容を教えてください。
メインとなる事業はプレミアム付き商品券の電子化で、それぞれにアプリを作っています。そして、そのアプリを一括して管理できるのが、弊社が提供する情報プラットフォーム「まちの縁アプリ」です。 このアプリは、商品券がどこのお店で使えるかをアプリ内の地図で確認できたり、地域のイベント情報や災害情報なども、アプリを通して発信できるようにしています。このアプリを通して、地域の経済活動と人の交流を支えられるように工夫しました。
福岡本社ではシステムの制作や運営、そして経営管理などを行い、東京と大阪の2カ所には営業のための事業部を設置しています。現在、北は山形、南は鹿児島の全国90カ所で導入していただき認知度も上がってきていますが、もともと弊社はプレミアム付き商品券の電子化をやりたかったわけではありません。地域にどんどんお金を回していく取り組みを考えるなかで、最初の入り口として入りやすいプロモーションがプレミアム付き商品券だったからです。そこから各地域の特色や集客の課題をアプリに乗せて、地域経済の活性化を推進する事業を展開しています。
最近ではデジタル地域通貨を導入するケースが増えていますが、御社の強みはどのようなところですか?
各自治体やエリアごとにアプリを制作している点が他社との大きな違いで、弊社の強みです。もちろん、それだけのアプリ管理が必要になるので大変ですが、観光に力を入れたい自治体や子育て支援に力を入れたい自治体など、各エリアでやりたいことが違ってくるため当然のことだと捉えています。そのお陰もあって細かなデータを還元することができ、エリアごとのカスタマイズも可能になっています。
意外だったのは、思っていた以上の割合で高齢者の方がアプリを使っていることがデータから分かったことでした。以前は、デジタルは高齢者が使えない、アプリを持っていないというクレームが来ると思われて自治体から電子化を断られることも多かったのですが、この3〜4年で変わってきたと感じています。
御社のデジタル地域通貨を導入した自治体や団体では、どのように活用されているのでしょうか?
弊社が提供しているデジタル通貨を使用するには必然的にアプリをダウンロードしていただくので、利用者がどこで何に使ったという決済データを得ることができます。そのデータから、地域を訪れた目的や利用したお店などが分かり、まちおこしにつながるきっかけにもなるのです。
過去の事例で言いますと、自転車屋に立ち寄っているデータが多く、不思議に思ってよくよく調べてみると、川沿いにあるサイクリングロードが目的で訪れているツーリストが多いことがわかりました。その情報から、自転車でツーリングできるスポットを観光ポイントにするご提案につながりました。
アプリのデザイン制作について教えてください。
デザインについてはすべて外部で制作しています。クライアントや自治体の要望を営業が伺い、それを委託している会社へ伝えて作っていく流れです。「特にイメージはない」と言いつつも意外とこだわりや希望があり、それを引き出してデザイナーが形にしていきます。約6パターンほどのデザインをご提案して方向性を決めていくのですが、受注してから2〜3カ月後には引き渡しなので、ここに掛けられる時間が1〜2週間ほどしかありません。とはいえ、デザインやコンセプトが決まらないことにはホームページや動画、広告など、そのあとに必要なすべてのものに関わってくるため、とても重要な段階ですね。
地域が抱える本当の課題を見つけるために必要な“読み取る力”。目指すは全国の課題解決
今後の展望をお聞かせください。
弊社は地域につながっていき、地域の輪を広げていくことをテーマにしていますが、地域の課題はそれぞれなので、そこにきちんと入って、課題を理解したうえで輪が広がるご提案をしていきたいと思っています。最近はよく商品券事業のお話をいただくことが多いので、そこから紹介などでどんどん広がっていますが、商品券は使えばなくなる物であり、商品券のデジタル化がやりたかったことではないので、大事なのはそこから先です。地域の本当の課題を理解して、それに対して弊社ができることを提供し、全国に広げていきたいと考えています。
これからのクリエイターにはどのようなことが必要でしょうか?
読み取る力が必要だと思います。言われたことをそのまま形にするのではなく、クライアントが本当にほしいものを拾い上げてもらいたいです。もちろん、クリエイターだけでなく営業も然りです。できる人というのは地域の特産物や観光資源が何かをしっかり調べて、デザインやアイデアに組み込んで提案しています。クライアント側も明確な言葉にできていない部分もあり、そこを具現化することで、思ってもみなかった提案をもらえて「確かにこれもいいね」と言っていただけることが多々あります。そういう良い意味での逆提案ができる方と一緒に仕事ができたら良いですね。
取材日:2023年11月22日 ライター:井 みどり
株式会社まちのわ
- 代表者名:入戸野 真弓
- 設立年月:2021年5月
- 資本金:1億円
- 事業内容:プレミアム付電子商品券・地域通貨事業、地方創生および地域経済の活性化に関連するサービスの企画・開発・販売等
- 所在地:
福岡本社 〒810-0022福岡県福岡市中央区薬院1-7-3 朝日生命薬院ビル5F
東京本社 〒106-6019東京都港区六本木1-6-1泉ガーデンタワー19階 - URL:https://www.machinowa.co.jp/
- お問い合わせ先:092-985-6430、または上記サイトのお問い合わせフォームへ