広告だけでない「真のブランディング」で中小企業を救う。本質に気づき迎えた16年目の再スタート
中小企業独自の強みを見つけ出すブランディングを手がける、高松の合同会社くまでんディレクション&デザイン。全国でもトップクラスのマンションデベロッパーで、マンション販売の広告宣伝全般を担当した華々しい経歴を持つ熊野 泰裕(くまの やすひろ)代表が、創業時に直面したのが大手と中小企業とのギャップでした。そのギャップをどう乗り越えたのか?進むべき道を見出し、今、まさに第二創業の入口に立つ熊野代表の歩みと決意を伺いました。
アニメーターを志し、あるきっかけで広告の道へ。独立し、中小企業に焦点を当てるワケ
まず御社を設立するまでの経緯を教えてください。キャリアをグラフィックデザイナーとしてスタートしたそうですが、最初からグラフィックデザイナーを志していたのでしょうか?
実はアニメーター志望でした。小中高と剣道一筋の体育会系の人間でしたが、当時のSFアニメ「赤い光弾ジリオン」にどハマりして、アニメーターに憧れていました。しかし、名古屋の美術大学に進学するにあたり、グラフィックデザインに関心が移っていきます。いざ大学に入ってみると、私より絵がうまい人がゴロゴロいて、自信を打ち砕かれました。
でも韓国の留学生の一言で救われました。「デザインは絵が下手でもできる」って言うんです。彼はすでに広告業界で実績があり、苦手な仕事は上手に人にふっていました。今思うとこれがディレクションへの目覚めかも知れませんね。
名古屋のデザイン事務所に就職し、28歳のとき、他県に営業職として転勤の打診があったのをきっかけに、全国でもトップクラスの香川の不動産デベロッパーの子会社である広告会社に転職しました。分譲マンションの広告宣伝で、マーケティングやディレクションなど企画のすべてに関わり、大きな手応えを感じました。印象に残っているのは、倉敷の物件で担当のチームリーダーが信頼してくれて、物件の広告宣伝を私の裁量に任せてくれたんです。うれしいことに早々に完売することができました。
一方で、「本来、広告が必要なのは予算の少ない中小企業なのではないか?」 と考えるようになります。大手の不動産は広告予算も潤沢で、不自由はありません。広告業界で培ったノウハウを中小企業に提供したいと考え、2008年に独立を決意しました。
ふとした一言で、長年の悩みが氷解。新たなフェーズへ
独立直後に苦労したことがあれば教えてください。
予算の少ない中小企業の広告サポートに尽力すると決めたはいいものの、いざ、依頼を請け負うとなると想像していた予算のギャップがあり戸惑いました。
大手の場合、最初にたくさんテストを行った後、そのなかから効果の高かった施策に注力することができますが、中小企業はそれすらもできない場合が多いです。予算をかけた広告にはテストができるまでの成果が出やすく、予算が少ないとテストができないので成果が出にくい傾向があるのが実情なので、なかなか関係が築けなくて……
また効果の出る施策は事業の目的や、会社のあり方などを聴き、「経営」の視点から企画した広告として関われるのですが、そこにタッチできずに、「デザインだけでいいから」と言われます。デザインだけの担当では本領が発揮できずもどかしい思いを数多くしてきました。
そんな状況のなかで、どんなきっかけがブレイクスルーを生んだのでしょうか?
人との出会いですね。参加している勉強会のなかで、違う地域ですでに「私のやりたい」取り組みをスタートしている経営者と知り合うことができました。意気投合して経営について話し合っているうちに、「熊野さんの仕事は広告の枠を飛び越えていますね」と言われて、あらためてはたと気づいたんです。「広告だけでなく会社の理念や強みに立ち返り関わっていかないと、真の意味で効果のある広告になり得ない」と。
そこで、会社自体のあり方を改めて見直し、お客様の会社のブランディングをお手伝いする方向に軸を新たに立て直したんです。これまで広告だけで中小企業の課題を解決しようとしたために効果が出づらかったのですが、ブランディングと広告の両輪がやっと噛み合い、頭の中でモヤモヤしていたものがやっと言語化できて、スッキリしました。「中小企業のブランディング」を軸にした現在が、創業16年目にして新たな出発点だと思っています。
企業の経営に関わる裏づけを深めるために、一般社団法人日本経営士会が認定する経営士の資格も取得しました。
会社の根幹に立ちかえるブランディングを強化
御社のメイン事業を教えてください。
中小企業の魅力(強み・価値・哲学)を整理・再構築するブランディングと、再構築された魅力をもとに行う紙系を中心としたツールからWebサイト・動画の制作などをトータルでサポートしています。
また、各種補助金などの申請書類の作成サポートなども行なっています。
ブランディングをする際に心がけていることをお聞かせください。
同業他社とは違うその会社ならではの強みを見つけ、その魅力を最大限生かした“真のブランディング”を行うことです。
広告プロモーションをする場合、企業の魅力や価値を必ず確認するので、実はすごく経営に関わります。しかし、経営側は整理されていないことが多く、自分の好きなことやりたいことを中心に商品作りをします。いわゆるプロダクトアウトですが、それではもう難しい時代になっています。とはいえ、マーケットインで市場に迎合した商品を作っても、今度は価格競争に巻き込まれてしまいます。
法人の場合、人間のように容姿がないので、自社の価値や存在意義を明確にすることがスタートです。それがない場合はただのイメージ戦略になってしまうため、一貫性がなく、お客さまの信用を得られないんですね。企業のあり方や経営のスタイル・目的を明確に打ち出し、それを軸にお客さまに発信していかなければなりません。
実際ブランディングのサポートをしているクライアントからは、「うちの強みが分かってスッキリした」「ギャップが解消できて、やるべきことがはっきりしてきた」「自社の価値が再認識できて単価upができた」などのお言葉をいただいています。
ブランディングをサポートされたなかで成功事例を紹介していただけますか?
手がけた中小企業庁の事業再構築補助金の採択率が9割を超えました。採択率の高いコロナ時の飲食店向けのものではありません。香川県の中小企業に補助金の総額として約3億8千万円分が国から採択されました。
お客さまが持っているアイデアを聞いて、それを事業に落とし込みながら、事業計画を作っていきます。お手伝いさせていただいた企業は、事業の補助金として、1000万〜7000万円の補助金が獲得できました。
国の機関である補助金事務局は、自社の強みや価値を活かしていない、シナジーも何もない違うことをやっても認めてくれません。今ある事業を成長させてきた強みや価値を活かし、まだ事業化されていない得意な部分を見出し事業化するものである必要があります。
補助金申請に必要な事業計画と私のブランディングへの取り組みがピタッと一致していました。自分のものの見方や考え方が間違っていないと確信できました。
理念を共有できる仲間を増やし、さらなる飛躍へ
御社の今後の展望を教えてください
最終的にはうちが有名になるかどうかは別として、事業の立ち上げや何か困ったことがあったら、「くまでんに相談に行くとヒントがあるよ」と言われるような会社にしていきたいです。弊社は理念にも「魅力の活用で感動の和を創造する」を掲げているので、クライアント、エンドユーザー、弊社、関わる方全てが笑顔になれるように頑張ります。
また、現在、クリエイティブとブランディングの両方の話ができるのが私だけなんです。ですから、ブランディングの話ができる人材、デザイン本位ではなくてお客さまの成長にコミットできるデザイナー人材、この二つを増やしていきたいと思います。
熊野さんが10数年かけて辿り着いたスキルを持つ人材を探すのは難しいのではないでしょうか?
おっしゃる通りで、すでに実力がある人材はわざわざうちに来なくてもいいですよね。だからスキルも重要ですが、会社の理念に共感できる方が合っていると思います。
クリエイティブ業界を志す人へメッセージをお願いします。
お客さまに「何がいいのか」提案できる思考を持ってほしいですね。昔よりも選択肢が多い時代のなかで、選ばれる人になるには、お客さまに「何が必要ですか?」と質問だけを投げかけて、答えを待っているだけではいけません。
お客さまと一緒に考えて、かつ提案できるスタイルを持ってほしいと思います。
取材日:2024年1月11日 ライター:みなもとひとし
合同会社くまでんディレクション&デザイン
- 代表者名:熊野 泰裕
- 設立年月:2015年5月
- 事業内容:・魅力を価値に変えるブランディングと魅力がお客様に伝わるクリエイティブのトータルサポート/・ブランディングコンサルティング、広告のコミュニケーションツールの企画・制作、webコミュニケーションのサポート
- 所在地:〒761-0104 香川県高松市高松町1813-5
- URL:https://www.kumaden-dd.com/
- お問い合わせ先:087-813-7962