“聳(そび)える”デザインで地域活性へ。固定概念を砕き、「洗練・シンプルさ・強さ」を追求
香川県でデザイン制作会社・株式会社sovie (以下、ソビエ)を経営する辻 佑馬(つじ ゆうま)さん。本質を追求するシンプルで力強いデザインが定評で、文字を使ったデザイン作品を選ぶ「日本タイポグラフィ年鑑(日本タイポグラフィ協会主催)」でロゴマーク作品が毎年入選したり、「CCTアワード(クリエイターズクラブ高松主催)」でC(ロゴ)部門やWeb部門で受賞するなど、若手の実力者です。デザインで人の心を射抜く辻さんですが、「おしゃれを目指しているわけではありません」と話します。その思いや今後の仕事について伺いました。
社名の意外な由来とそこに込められた真っ直ぐな思い。信念を貫く想いで創業。
会社設立のきっかけを教えてください。
子どもの頃から漠然と「社長になる」という夢があり、香川県で有名なデザイン事務所・有限会社猪子デザイン研究室で5年間ほど勤めたあとに独立しました。
初めは営業や経理の仕事なども1人でこなしていたので、デザインに充分な時間がとれず、寝る間もなく大変な状況が続きました。そのうち「本当にこれが自分のやりたかったことなのか?」と思うようになってきました。フリーランスとしては1人では抱えきれない仕事量になってきたタイミングで、「ここでデザインを学ばせてほしい」という一人の学生が現れ、勢いやタイミングもあって会社設立にいたりました。その時の方は、今ではソビエになくてはならないスタッフとして今も一緒に仕事をしています。
社名の由来を教えてください。
ソビエは、実は日本語の「聳える(そびえる)」という言葉からきています。「聳える」という言葉には「山などが非常に高く立つ、すらりとしている」という意味があります。そのスッと立つ姿は、凛として力強く、遠くからでもきわだって目につきます。そこに余分なものは一切なく、あるのは本質のみ。社名には、そんなイメージに重ねて「洗練されたシンプルで強いクリエイティビティを生み出す」という想いを込めています。
「洗練されたシンプルで強いクリエイティビティを生み出す」ことについてもう少し詳しく教えてください。
これは弊社の基本的な考え方です。「洗練・シンプルさ・強さ」は、余分なものを削ぎ落としていきながらより高く積み上げていくという作業によって生まれてくると思っています。
あらゆる情報を一度細かく粉砕し、本当に必要な情報だけをピックアップして丁寧に積み上げていく。たとえば、固い岩を砕き崩すと岩は粉々になりたくさんの小石になりますよね。固い岩は固定概念だと思ってください。固定概念という岩を砕き、その中から必要な小石(情報)だけを取り出し、それを丁寧に積み上げていきます。変な小石(情報)が混ざっていたら、積み上げてもいつか崩壊していきますから小石(情報)の選択はとても重要ですし、積み上げていく作業はとても繊細で緻密なものです。
お客さまに寄り添い伴走しながら一緒に考え選択していく
貴社の事業内容を教えてください。
ブランディング、グラフィックデザイン、Web制作をしています。
ブランディングは企業や商品などのブランドの開発・構築とそのサポートをさせていただいています。グラフィックデザインはロゴマーク、ポスター、会社案内、パッケージなど。Web制作はホームページの企画から構築までを手掛けています。
お仕事の流れを教えてください。
大まかに言うと、ビジネスの根っこ部分になるロゴ→グラフィックデザイン→webデザインという流れになることが多いです。
ロゴマークを作ってほしいというご依頼があっても、ロゴマークを作ったあと、どうしたらよいか分からないという場合が多く、その時はロゴマークを基点としてブランディングについて、お客さまと一緒に考えていく流れになります。コンサルティングをするような感じですね。
そしてホームページが必要ということになったらwebデザインに入っていきます。Webデザインのコーディングは外部の数名の方と進めていきます。
デザインでウソをついてはいけない。良いものをより良くみせたい
貴社の強みを教えてください。
本質をとらえ、洗練されたクリエイティビティを生み出せることです。デザインでウソをついてはいけない。おいしくないものをデザインでおいしそうにみせてはいけないと思っています。ほんとうに良いものをより良くみせるお手伝いをしたいんです。「おしゃれですね」と言われることがありますが、おしゃれを目指しているわけではありません。いらないものを削ぎ落とし本質をとらえてデザインするので結果的に「おしゃれ」な感じに見えるのかもしれませんね。
どうやってお客様を増やしてきましたか。
口コミや、作品を見て良いなと共感してくれた人が仕事を依頼してくださることが多いです。作品がPRをしてくれるんです。だからどんな仕事でも手を抜きません。
この仕事は、作品のクオリティがすべてだと思っています。作品を制作すると営業マンが増えるという感じです。
デザインはシンプルな方が深く刺さり、記憶に残る
デザイン制作において大切にしていることは何ですか。
徹底的に無駄をはぶいてシンプルにすることを大切にしています。デザインは付け足していくものではなく、むしろ余計なものをはぶいていく。社名に込めた信念の通り、要らないものをどんどん削ぎ落とし、必要なものだけを積み上げていきます。
そうすることで何が良いのでしょうか。
伝わる速度が早くなります。余計な情報があると、伝えたいことが伝わるのに時間がかかるのです。デザインには伝えたいこと、メッセージが込められています。それをシンプルに早く伝えたい。シンプルな方が深く刺さるし、記憶に残ります。
「デザインで助けてよ」と言ってもらえるような地域にコミットした仕事がしたい
思い出に残っているお仕事を教えてください。
「大家族宿 辻家」です。辻家は、三豊市にある私の実家です。10人という大家族で暮らしていたのですが、今はみんな独立して空き家になりました。その大きな家を「つながりを育む地域の宿」としてオープンしました。
三豊の地域の仲間とともに取り組んだプロジェクトで、ロゴマークやWebサイトなどのデザインをお手伝いしました。一度離れた家ですが、自分が得た知識や経験でまた役に立つものに蘇らせることができ、とても良い経験となりました。
今後どのような仕事をしていきたいですか?
地域にもっとコミットした仕事をしていきたいですね。たとえば小さな商店のロゴマークを作ってそこをニッチな繁盛店にしていきたい。お客さまと直接会話をしながら、みんなで町をつくっていく感じ。「デザインで助けてよ」と気軽に声をかけてほしいですね。
大きな仕事もしていますが、自社を大きくしていく目標はないんです。みんなで一緒に地域をより良くしていくということにやりがいを感じます。
どのように地域に貢献したいと考えていらっしゃいますか?
これまでのいろいろな経験から得てきた知見を、デザインを通して地域にもっと還元していきたいと思っています。
自分のデザインだけが良くて、それを世に広めたいと思っているわけではないんです。自分のデザインがすべてではない。自分が思っていないようなデザインがあがってきても方向性がずれていなければ良い。自分の意見を押し付けるのではなくて、たくさんあるデザインのなかでどれが良いかをお客さまと一緒に選んでいくことが大事かなと思っています。
これからのクリエイターに求められるものとは?人生観豊かなデザイナーを増やし、時代を変えていきたい
仕事をしていくうえでデザインの技術以外に必要なものはありますか?
今はSNSで誰でも発信できて、誰もがクリエイターになれる時代だと思います。 そんな中、仕事の依頼にいらっしゃる方は必ず悩みを持って来ます。クリエイターにはその悩みを解決できる力が必要です。結局、人と人とのコミュニケーションが大事でその能力が求められると思います。 それにはデザインの技術だけではなく、いろいろなものを見たり聴いたり経験することや生活の質、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:Quality of Life)を高めることが大事だと思います。
Illustratorをいじっているだけでは絶対にその力はつかないんです。だからさまざまな情報を吸収し知識を得られるプライベートの時間を大切にしたいと思います。デザイナーは夜遅くまで仕事をするのが当たり前という風潮がまだあるかもしれませんが、弊社では定時に退社し、自分の時間を大切にするリズムができています。そうしたデザイナーの姿を提案し、時代を変えていきたいという思いもあります。
クリエイターを目指す人にメッセージをお願いします。
情報が溢れ、AIの進化がすさまじい現在。これからのクリエイターに求められることは「問題を解決していく力」だと思います。お客様が抱えている問題を一つ一つ解決していきながら、イメージを明確にして、より良いものを作り上げていく力。かつてはデザイナーはこだわりが強い人、有無を言わさない気難しい人、職人気質の人が多かったかもしれませんが、今は一緒に問題を解決していくスタンスが必要で大事なことだと思います。
取材日:2024年2月21日 ライター:末川千賀子
株式会社sovie
- 代表者名:辻 佑馬
- 設立年月:2021年4月
- 資本金:500万円
- 事業内容:ブランディングデザイン、グラフィックデザイン各種、WEBデザイン・ホームページ制作
- 所在地:〒763-0073 香川県丸亀市柞原町333-1 アゴラ2F
- URL:https://sovie.jp/
- お問い合わせ先:0877-88-8053