WEB・モバイル2024.04.24

“違う良さ”をつなげ、世の中にないものを。「インテリアにもなる」子ども向けおもちゃを生み出す

広島
千差株式会社CEO / デザイナー
Tamaki Yanagiya / Ai Yoshida
柳谷 環 / 吉田 愛
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木の温もりが魅力的な“インテリアにもなるおもちゃ”の開発・販売を行い、さらに企業運営のトータルサポートも手がける広島の千差株式会社。ミニメーカー「Sukima.(スキマ.)」で販売されるおもちゃのなかには、ひろしまグッドデザイン賞を受賞したものもあります。“世の中にないものを作る”というミッションを掲げるCEO・柳谷 環(やなぎや たまき)さんに、家電量販店社員時代からレーザーカッターを自宅に購入し独立するまでの道のり、クライアントの事業立ち上げや運営を柔軟に支援しているお話を伺いました。また、Webやグラフィックなどの企画デザインを行うデザイナーの吉田 愛(よしだ あい)さんにもインタビューさせていただきました。

就職を機に、学生時代の思いとは違う道へ。ECサイトを“購入”し、子ども向けおもちゃの販売をスタート

起業するまでのキャリアを教えてください。

柳谷さん:私は生まれも育ちもずっと広島です。広島女学院大学で外国語を学んでいました。将来は国際協力機構(JICA)の職員になれたらいいなと思っていたのですが、当時は就職氷河期で、なかなか内定がもらえない時代だったんです。それでも家電量販店に就職が決まりました。この就職を機に、私の人生はガラリと変わりました。
元々やりたかったこととは違う道に進みましたが、英語を使って接客できるスタッフとして頼ってもらい、パソコンやカメラを担当していたんですよ。そのあと、システムの仕事をする会社へ転職したときにデザインに興味を持ち、Webデザインを勉強するため、職業訓練校へ通いました。

Webデザインは大人になってから勉強したんですね。

柳谷さん:そうなんです。そのあと、マンションの一室にて3人でスタートさせたWeb制作をするベンチャー企業に入りました。あるとき、他社のWebサイトを制作して売り上げを伸ばしていくだけでなく、自分たちでお金を生み出していける自分たち主体の仕事もしていきたいよねという話になり、子ども向けおもちゃを販売するECサイトを買い、運営してみることになりました。

ECサイトって買えるのでしょうか。

柳谷さん:そうなんです。Webサイトって資産みたいなものだから、売ったり買ったりできます。買ってきたECサイトは、ニューヨークのデザイナーが手がけた子ども服や、木のおもちゃを扱っていました。たまたま、当時私は結婚したばかり。自分の子どもに買ってあげたい!と思えるほどラインアップが魅力的だったので、取り扱うアイテムの雰囲気はそのままに、新たなおもちゃの取引先を見つけて販売商品を増やしていくことにしました。
私にとって商品を仕入れて売るという初めての体験で、娘をモデルに商品撮影をして、紹介文章を書いて販売していました。しかし、会社が買収されたり、経営方針や社長が変わったりするなかで、商品を仕入れて売るよりも、自分たち自身で商品を作って販売した方がさらに利益が上がるのではないかと社長に提案されたんです。デザインができる会社だからこそ、これまでにないプロダクトも作れるのではないかと。

個人事業で見出したレーザーカッターの可能性

新たなプロダクトはどのように作り始めたのでしょうか。

柳谷さん:以前、東急ハンズ広島店にHANDS Fab(ハンズ ファブ、2021年3月でサービスを終了)という自分でデザインしたものを加工してオリジナルグッズが作れるコーナーがあったんです。そこにレーザーカッターが導入されたので、新しいおもちゃのデザインができたら、レーザーカッターで木を加工するため通っていました。かなり常連でしたよ。
出来上がった試作品を社長にプレゼンし、量産できるベトナムの工場に見積もりを依頼したこともあるのですが、ロット数が必要で、そうなると費用も膨らんでしまうことがわかりました。しかし、試作した木のおもちゃに可能性を感じていたので、レーザーカッターを自分で買って、費用を最小限に抑えられる個人事業として自宅でスタートさせることにしました。

Sukima.の実店舗「多と美(たとび)」に設置してあるレーザーカッター。こちらは柳谷さんにとって2代目となる。

Web制作にとどまらずクライアントをトータルサポート、その理由とは。複数のおもちゃで賞を獲得

事業を始めたのはいつでしょうか?

柳谷さん:“インテリアにもなるおもちゃ”をコンセプトに、TOY&インテリアプロダクトのミニメーカー「Sukima.(スキマ.)」を2015年に立ち上げました。我が子が5歳と2歳のときでした。以前から、子どもたちが小学生になったら家に居たいなとか、いつか夫の柳谷 武(やなぎや たけし)と2人でギャラリーカフェを開きたいなという思いもあり、これを機に独立しました。19年8月には法人化しています。
最初に作ったのは、無垢の木でできたコイン「おこづかい」です。以前から、子どもが使いたいものと、親が欲しいものが乖離(かいり)しているなと感じていたので、部屋になじみ、親である私もほしい!という気持ちになれるおもちゃづくりを心がけていました。製作のアイデアは、夫からももらったり、日々の暮らしのなかから見つけたりすることが多かったです。
23年には、ボードゲーム「リバー・シー・グラウンド」がひろしまグッドデザイン賞奨励賞を受賞しました。過去には積み木のおもちゃ「YAMAZUMI(ヤマズミ)」や、モビールなども受賞しています。
以前は新しい商品をたくさん作り出していましたが、最近はスローペースです。販売したいと思っていた商品がそろってきたのと、Web制作の仕事が多く時間の余裕がなくて。でも、パーツをつなぎ合わせることでオリジナルコースを作りながら、計算練習もできる「せんろすごろく」をバージョンアップさせて販売したいなと思っています。

メインの事業はWeb制作なのでしょうか。

柳谷さん:木のおもちゃを作っているのでアナログっぽい会社に見えると思いますが、事業のメインはWeb制作です。しかし、クライアントの事業立ち上げから、運営できるまでのトータルサポートもしています。というのも、企業さんがWebサイトを作るためには、ロゴやコンセプトなどの方向性を決めなければいけないですよね。自分たちでミニメーカーやECサイトを経営しているからこそ、クライアントの問題を柔軟に解決したり、販売促進のお手伝いができたりしていると思っています。
吉田さん:今担当しているクライアントでは、Webサイト上でゲームができるなど、いろいろな仕組みがあります。アイデアが詰まっている分、より作業は複雑。時代とともにニーズもさまざまですね。アプリ開発や、外部とのディレクションもしています。探りながら進めているので大変です。

左から、吉田さん、柳谷さん

吉田さんはいつ入社されたのでしょうか。

吉田さん:22年に入社しました。グラフィックデザイナーとして、冊子などの紙媒体やWebサイトの制作を担当しており、22年4月にはSukima.の実店舗「多と美(たとび)」をオープンさせたので、接客や商品発送もしています。

「みんな違っていいはず。違うところこそが魅力」。目指す古民家活用

今後の夢を教えてください。

柳谷さん:実現しないかもしれないけれど、でも言葉にして言うようにしている夢があります。古民家である母の実家が広島県豊田郡の大崎上島にあるのですが、それをいかしたアトリエショップか、一棟貸しの宿をやりたいなと思っています。
また、“世の中にないものを作る”を会社のミッションにしているので、新しいものを作り続けたいです。ないものを生み出すには、横のつながりが大切だと思っています。人それぞれ違った得意なことや魅力を合わせたら、新しいものがきっとできるはず。良さに違いがあるからこそです。

会社名の「千差」にもつながりますね。

柳谷さん:そうですね。社名は、「千差万別」と「センサー」が由来。みんな違っていいはず。違うところこそが魅力です。
クリエイターは、「物事の良い面同士をつなげて、新しいものに昇華していく」という考えを持っていた方がいいかもしれません。もし一緒に働くとしたら、物事の嫌な面を見るのではなく、良いところを見つけられる人がいいですね。

取材日:2024年1月18日 ライター:宮川 佳子

千差株式会社

  • 代表者名:柳谷 環 / 柳谷 武
  • 設立年月:2015年1月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:玩具や雑貨の企画製造販売、Webやグラフィックなどの企画デザインなど
  • 所在地:〒730-0851広島県広島市中区榎町4-21 吉村ビル301
  • URL:https://censa.jp
  • お問い合わせ先:

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