WEB・モバイル2024.06.26

対話で見出す顧客の「ものさし」を広告に。常識への反発が生んだ不動産業界の「トップランナー」

広島
株式会社NINInbaori 代表取締役
Katsuyoshi Kunimasa
國政 克好

広島で主に不動産業界の広告制作に携わっている株式会社NINInbaori(ニニンバオリ)代表取締役の國政 克好(くにまさ かつよし)さん。デザインを突き詰めてより良い制作物を目指すことはもちろんですが、何より大切にしているのは「クライアントや社内クリエイターの心に寄り添い、温かな関係性を築くこと」だと言います。これまでの歩みや顧客と信頼関係を築く上で心がけている「昭和的なやり方」、クリエイティブへの想いを伺いました。

常識に抗う“反社会的”がコンセプト。会社員から起業へ

起業までのキャリアを教えてください。

高校卒業後、広島の穴吹デザイン専門学校でデザインを学びました。ただ、当時はまだ印刷の世界もアナログからデジタルへの移行期で、印刷自体もアナログ。パソコンを使う授業はせいぜい週に2時間程度で、学んだことはWebデザインというよりグラフィックデザインがメインでした。
就職先は地元広島の広告代理店で、ほとんど不動産広告を専門にしているような会社です。もちろん、広告デザインは初めてですし、デジタル化が進む時代でもあったので、常に新しい技術を吸収し、時代の変化に適応していく柔軟性が求められました。
その広告代理店で8年勤めたのち、6年間のフリーランス時代を経て、35歳の時に株式会社NINInbaoriを立ち上げました。2024年で13年目になります。

独立や起業には何かきっかけがあったのですか?

いえ、特にこれといったきっかけはないんです。ただ会社員でいるのが嫌でした。子どものころからじっと座って授業を聴くのが苦手で、思えば好きだったのは図工くらい。ものづくりには夢中になれたんです。
フリーランスから起業したのも、売上がある程度まとまってきたからというのと、単純に飽きたから。会社員も8年で辞めているように、私はある程度同じことをしていると飽きてしまうんです。それで少し環境を変えたいという思いから起業にいたりました。

コーポレートカラーはビビットなピンクで目立ちますね。コンセプトは何ですか?

私は子どものころから空気を読まない天邪鬼な性格でした。今の時代は昔ほどではありませんが、男の子は青、女の子は赤といったイメージがありますよね。私は赤が好きで、そういう世間一般の常識が気に食わず、反発心を抱いていました。それが度を越して、ピンクが好きになったんです。世間の常識に縛られず自分らしく生きることが私のポリシーであり、会社のコンセプトにも通じるものがあります。表現が難しいですが、少し“反社会的”という感じでしょうか。

社名に込めた「裏方に徹する」。不動産広告では広島の「トップランナー」?

社名の“NINInbaori”にはどんな意味が込められているのでしょうか。

お客さんと一緒に、という意味を込めて、羽織を着た人の後ろからもう1人が袖に手を通し、前の人に物を食べさせたりする芸を意味する「二人羽織」に決めました。お客さんに寄り添ってゴールを目指すというと「二人三脚」がイメージされると思いますが、私たちデザイナーはあくまでも表に立たず後ろから芸をサポートするように「裏方に徹する」という思いもあります。

現在の事業内容をお聞かせください。

主に不動産関連の広告制作をしています。広告やパンフレット、Webデザインの制作など幅広く手がけています。長年の実績から、県内では不動産広告のトップランナー的な存在になれたかなと思います。売上の9割は不動産関連ですね。

デザインで大切なのは自分の“ものさし”を持つこと。客とのコミュニケーションから見えてくるもの

不動産関連で県下随一となったNINInbaoriの強みはどういうところだと思われますか。

私自身は決して口が上手な方ではないのですが、お客さんとの対話を何より大切にしてきました。私はお酒を飲むのが好きで、お酒の席でお客さんとコミュニケーションをとることが多いですね。狭い業界なので、一度に何社とも付き合うのは難しい。だからうちの場合は会社員時代から仕事で縁があった一社との付き合いがメインで、どんどん新規で増やしていこうという考えは持っていません。
狭く深く、ガッツリ結びつくというのはちょっと昭和的なやり方かもしれませんが、お客さんとの日々の何気ない会話の中から、相手が何を求めているのかを汲み取る。それがデザインにも生きてくるんです。デザインのテクニックやセンス、専門知識よりも、相手に想像力を働かせることこそがクリエイティブの源泉だと思っています。お客さんや、その向こう側にいる消費者を想像して、喜んでいただけるものを真摯に作り続ける。それに尽きます。

不動産関連の制作にはどのような難しさがあるのでしょうか。

不動産は、多くの人にとって最も高価な買い物です。だからこそ広告制作もシビアになります。新築マンションの販売までのプロセスは複雑で、マーケティング、企画、設計、施工、販売など職種もさまざま。総工費は億を超え、1戸数千万の商品を売る営業さんのプレッシャーはいかばかりか。常にそれを想像しながら制作に携わっています。
制作面での難しさというと、自分が身につけたことを人に教えられないことでしょうか。不動産広告に限らずデザインはなんでもそうだと思いますが、大事なのはテクニックではなく、いろいろなものを見て、経験して、知ることです。その上で、自分の“ものさし”を持つこと。ものさしというのは、自分がいいと思うもの、悪いと思うもの、または好き嫌いです。仕事の場合は、もちろんお客さんのものさしに合わせます。このものさしの正確さが一番大事なのですが、誰かに教わることはできないし、一朝一夕では身に付きません。直接お客さんと対話する中で「この人はこういうことを考えているんじゃないか」と手探りして、ものさしを手に入れる。それが自分の技術と融合して形になって初めてお客さんの心を動かします。小手先のテクニックで目先の制作物とだけ向き合っていてはだめなんです。

だからこそ、お客さんとのコミュニケーションを大事にしているのですね。

そうですね。お客さんが何をしたいのか、今何が必要なのか。そのヒントは対話の中から見出せるものです。それに、お客さんと信頼関係を築くことで説得力も生まれます。
例えばデザインを提案する時、信頼関係があれば「あなたが言うならしょうがないね」「信じよう」となります。これは短い付き合い、浅い関係ではできないことでしょう。

人との出会いが次のチャレンジに。「褒められるデザインを目指してもだめ」、その心は

今後、会社で力を入れて取り組みたいことはありますか。

はじめに飽き性だと言いましたが、そろそろデザインばかりする毎日に飽きてきています。だから、人を育てることに目を向けてみようかと思っています。とはいっても、先ほどもお話したようにこれという教え方はないのですが、学んだり成長したりする場を用意することはできます。私たちがそうであったように、お客さんと付き合う中で身に付くものはたくさんあるはずです。
事業も、不動産関連の制作ばかりやっていてもだめだとは思っています。今後どうなっていくかはまだわかりませんが、何か新しいことに挑戦する時にきっかけとなるのは、人との出会いでしょうね。何歳になっても新しい出会いがあるとワクワクします。いい出会いがあり、私がサポートできることがあるなら、チャレンジしてみたい。私たちが関わることによって誰かが幸せになる、そんな仕事をしていきたいと思っています。

人材育成に力を入れたいというお話もありました。一緒に働くクリエイターに求めることを教えてください。

素直さや優しさでしょうか。私自身、社内の雰囲気づくりを大事にしていて、いかにゆるっと温かくするかを意識しているので、平和的な人がいいですね。また、専門学校や大学時代の制作物でレベルを見極めることはできないため、デザイン能力については重視しません。デザインの良し悪しは、キャリアの中での経験や学びによって変わっていきますし、センスもはじめから備わっているものではありませんから。

デザイナーを志す若いクリエイターにメッセージをお願いします。

デザインって、ちょっとトゲを内包しているくらいがいいと思っています。人に褒められるデザインを目指してもだめなんです。それこそ、必要なのは“反社会的”であること。人を惹きつけるには、常識にとらわれない感性が必要だと考えています。

取材日:2024年4月24日 ライター:東 滋実

株式会社NINInbaori

  • 代表者名:國政 克好
  • 設立年月:2012年10月
  • 資本金:400万円
  • 事業内容:Webデザイン、グラフィックデザインなど
  • 所在地:〒730-0016 広島県広島市中区幟町11-4 浦田ビル2F
  • URL:http://nininbaori.co.jp/about-us/
  • お問い合わせ先:082-225-7585

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