グラフィック2024.06.19

「心理学ができるデザイナー」、終始伴走で開く“航路”。落語家でもある代表を形作ったある体験

福岡
SEA合同会社 代表
Takemichi Araya
荒谷 健道

コーチングの技術を使い、クライアントの話を引き出し、事業のゴール設定から逆算して首尾一貫のプロセスを設計する。今回お話を聞いたSEA合同会社の荒谷 健道(あらや たけみち)さんは、空間デザインから運営にいたる発注者・受注者の両視点を持っており、「心理学ができるデザイナー」として、クライアントの事業をデザインしています。心理学や空間デザインの知識を身につけた経緯やこれから目指す未来について伺いました。

言葉は通じずとも、表現でみんなに喜んでもらえた原体験から始まったデザインの道

今の仕事にいたるまでのストーリーを教えてください。

早稲田大学の人間科学部で環境心理学を学び大学卒業後、建築設計事務所に弟子入りする形で仕事が始まりました。実は大学進学前から建築士に対する憧れがあったのですが、当時はスポーツに熱中していたこともあり、本格的に建築について学び始めたのはそのときからになります。当時の師匠には、「一級建築士資格を持っていないと、建築士として生きていくのは大変だから辞めろ」とずっといわれていました。でも辞めたくないし、諦めたくない。それで建築士資格がなくても空間のデザインができるインテリアデザイナーに辿り着き、いろいろな設計事務所やインテリアデザイン事務所で仕事をさせてもらい、図面を見たり、書き方を教えてもらったりして技術を覚えました。

HPに記載されている「感動は人を動かす力がある」と思ったきっかけがあれば教えてください。

そもそも建築やデザインをやろうと思ったのは、父の仕事の都合で自分が10歳から12歳までドイツに住んでいるときでした。当時ドイツの小学校で、富士山の絵を描いたり、漢字で名前の当て字を教えたりしたらめちゃくちゃ喜んでくれたんですよ。言葉は通じないけれど、表現でみんなに喜んでもらえたのがうれしくて、表現するのが楽しくなりました。この経験が原体験の一つかなと思っています。あと振り返ってみたら祖父が絵描きというのも大きいかもしれませんね。

プロジェクトマネージャーとして設計から関わっているCOSTA COFFEEの銀座店

「クライアントと伴走することは海を航海するのと似ている」。背中を押された会社の設立

起業するまでのキャリアを教えてください。

株式会社ワールドパークに務めていたときは、千葉市にある公園のリニューアル事業で、統括プロデューサーというポジションで会社の立ち上げとプロジェクトを回す役割を担っていました。
20代のときから独立を考えていたこともあり、その後、個人事業主のデザイナーとして活動していました。
2022年にはSEA合同会社として法人化しました。

個人事業主から法人にしたきっかけはありますか?

きっかけは偶然なのですが、当時某企業が大きなアリーナを作っていたんです。設計担当は有名建築家、コンサルタントはイギリスで超有名な企業が担当していたのですが、運営とデザインの両面が分かる私にアドバイスをしてほしいと知り合いから依頼を受けました。しかし、「個人事業主だと契約できないから、会社を作ってくれ」と言われ、急きょ会社をつくる運びになった感じです。

この会社名にした理由を教えてください。

“海が好き”ということがまずあります。海のそばに暮らすこと、海辺でクリエイティブな仕事をすることを、ずっと夢に描いています。
あとは、クライアントのプロジェクトの伴走は、海を航海することに似ていると思い、SEA合同会社という名前にしました。

まちづくりにも積極的に関わっている

「何をやっているの?」と言われる心理学ができるデザイナー

現在の事業内容について教えてください。

一つ目はインテリアデザイナーとしての場作りです。飲食店やホテルなどを中心とした空間設計がメインです。
二つ目は、コーチングです。「心理学ができるデザイナー」って結構おもろいんじゃないかなと思い、試行錯誤した結果、たどり着きました。コーチングしていると、経営者やこれから挑戦したい人が相談に来ます。その方たちの夢の言語化をして、具現化や世の中に発信をしていくときにデザインの力を使ってお手伝いしています。
基本的には人とのご縁が仕事につながっていますね。

いろいろな企画を実施されているとのことですが、それは具体的にどういうものですか?

クライアントの事業設計を作るお手伝いをすると同時に、学びをより深くするためにアウトプットとして居酒屋、抹茶ツーリズム、落語イベントなどをクライアントと共に企画・開催してきました。
それでよく「何をやっているの?」と言われますね。

落語を始められたきっかけはなんですか?

ずっと落語が好きで、たまたま落語家を紹介してもらったことがきっかけです。
落語のいいところって、ポンコツの主人公が失敗してもそれが笑いになる。今の世の中は悪いことをしちゃダメな雰囲気、正しいこと以外はダメ、失敗もダメみたいな空気感がありますよね。でもそうじゃない。まちづくりでも、いきなりコンセプトから入るのではなく、とりあえず面白いから集まって、対話を重ねる中で「実はこんなことがしたいんです」などとそれぞれのワクワクに共感できる環境の方が入りやすいかなって思っています。

落語家・きこりとしても活動している

なぜデザインと心理学を掛け合わせたいと思ったのでしょうか?

自分の得意なところは結局設計、英語で言うとデザインするところだなと思っています。最初は建築士になりたくて建築の図面を描いていたけれど、コーチングの学びの一環で、先生や仲間同士でコーチングを受けたときに「設計が好きなだけだから、なんで建築という業界に縛られているの?」という問いがあったんです。そこで「確かに」って思ったんですよね。
会社作りも、プロジェクト作りも「設計」という視点でとらえたときに、いろいろなチャレンジができるんじゃないかと20代後半で独立した中で気づいて、徐々に今の形になりました。
だから、最近はいわゆる建物の設計だけじゃなく、プロジェクトの企画からマネジメントまで一緒にやります。今では、「建物の設計はほかの人がやっても大丈夫」というマインドに変化してきています。

ゴール設定からプロセスを設計し、導く。それはストーリーを一緒に作る伴走者

「コンセプトのデザイン」「空間のデザイン」「体験のデザイン」を一貫してサポートされているとのことですが、共通点があれば教えてください。

いろいろなプロジェクトを見ると、よくも悪くも日本は職人気質のやり方で、フェーズごとに関わる人が違うんですよね。建物業界で言うと、不動産屋さんが土地や物件を紹介して、デザイナーが建築し、運営会社は運営と分かれる。だからプロジェクトに一貫性がなくて、途中でできたリスクヘッジができないまま次に引き継がれてしまいます。
そこを僕は責任持って伴走します。かっこつけて言うと、ストーリーを作る感じですね。
空間をデザインすること、企業のスタートアップを支援すること、プロデューサー、発注者としての経験もある。デザイナーから運営者にもなっているので、幅広い視点は持っているつもりです。

“信用”ではなく、“信頼”が生まれる環境づくりに力。話し合いながら助け合う食卓

これから作り上げたい理想のコミュニケーションデザインの場はどんなイメージですか?

自分の場所を作ってみたい欲は年々出てきましたね。今までは人のやりたいことを作る方が楽しかった。しかし最近は「自分が主になって運営をやったことないのはどうなんだろう」「自分でも1回やった方がいいんじゃないか」と思うようになってきたので、ちゃんと自分で場所を借りて、人が集まれる場所を作りたいなと考えています。ご飯を食べたりお酒を飲んだりするのが好きなので、一緒に食卓を囲んで夢を語り合ったり、お互いの夢を助け合ったりできる場所だといいですね。
“信用”は「この人はメリットがある」と思われることで生まれると思うんです。でも“信頼”は、「あなたを信じます」というイメージだと思っていて。損得勘定のような“信用”の関係ではなくて、他人に心をゆだねられるような“信頼”できる関係が増えていったらうれしいです。
あそこに行くと、めっちゃ夢叶うらしいぞみたいな、そういう場所を作りたいですね。

取材日:2024年5月22日 ライター:藤木 彩乃

SEA合同会社

  • 代表者名:荒谷 健道
  • 設立年月:2022年
  • 資本金:30万円
  • 事業内容:「コンセプトのデザイン」「空間のデザイン」「体験のデザイン」を一貫して行うデザインサポート
  • 所在地:〒810-0014 福岡県福岡市中央区平尾3丁目17-13
  • URL:https://seacommunity.studio.site/

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