3代目で築き上げたディスプレイ事業、世界的ブランドも手掛け、「人の目に触れる喜び」を
百貨店や催事における世界的有名ブランドなどのディスプレイを中心に、デザイン設計、施工を手掛けている大阪の株式会社竹内ディスプレイ。顧客に寄り添い、ディスプレイの魅力を伝えていきたいとの思いでモノづくり事業を展開している代表取締役の竹内 康喜(たけうち やすよし)さんは、大学卒業後、マネキン・ディスプレイの企業での経験を経て独立し、3代目として家業を継ぎました。そんな竹内さんに、代表に就任するまでの経歴や現在の事業内容、ディスプレイの魅力、思いについてお話を伺いました。
祖父の代から営んでいた「町の金物屋さん」。継ぐつもりはなかったが……
竹内ディスプレイの代表に就任されるまでのキャリアについて教えてください。
もともとは、祖父の代からの家業として金属加工業を営んでいました。いわゆる「町の金物屋さん」です。近所には工務店などが多く、子どもの頃から当たり前のように職人たちの仕事を見て育ち、自身も10代から工業系の機械などを扱えるようになっていました。
また、建築系の加工や内装工事、屋外の看板の現場に連れて行ってもらっていたおかげであらゆる業務をこなせるようになり、学生時代は多種にわたるアルバイトを経験しており、アルバイト先から就職してほしいと声を掛けられ、そのままマネキン・ディスプレイ業界の会社に就職しました。
しかし29歳のとき、社長が亡くなり、個人事業主として1993年に独立しました。独立といっても、家業を助け、同業者と現場に出て事業展開を始めたというほうが正しいかもしれません。
法人化されるまでの経緯を教えてください。
祖父の時代は「竹内電気瓦斯溶接工業」という看板をあげていましたが、アパレル業界に電気、ガス、溶接は必要ないと思ったんです。とはいえ、自分の置かれている環境では、周りに工務店や建築関係者が多かったため、「工業」という文字は捨てず、「竹内工業ディスプレイ」という屋号にしました。
しかし、世の中にコンプライアンスといった言葉が出てくるようになり、個人事業では対企業とのお付き合いが難しい風潮になってきたため、2008年に法人化しました。
3代目とのことですが、いずれは家業を継ぎたいという思いはお持ちでしたか?
私自身は木工に興味があり、溶接屋の家業を継ぎたいと思ったことは、一度もありませんでした。例えば、内装を見渡すと、一般家庭の柱もフローリングも、大半が木で作られています。「木も触りたいし、金属も触りたい。それらを融合した作品をいつか百貨店のディスプレイに飾れるといいな」と、夢を描いていました。
世界的ブランドのディスプレイを中心に、オリジナル制作。大阪に拠点を置くワケ
現在の事業内容について教えてください。
ディスプレイ品の制作がメインで、特にアパレル関連の備品の制作に力を入れています。代表例としては、大手企業の世界的ブランドのショップ・百貨店におけるディスプレイを数多く手掛けています。洋服を掛けるためのハンガー、帽子をディスプレイするためのハットスタンド、かばんのショルダー部分や取っ手の部分を見せるためのバッグスタンドなどがあります。
ディスプレイするために既製品や外国製のハンガーラックを扱うこともありますが、もともと弊社が溶接屋だったことから、ハンガーやショップに設置するハンガーラックなども、お客さまからの依頼に応じてオリジナルで制作しています。デザイン設計は、お客さまの意向に沿ったうえで、材料の規格にともない図面を書き、A案・B案・C案として決めていきます。
アパレル以外では、建築がらみの金属加工、内装・看板制作・設計図を描くなどの制作業務、不動産の管理会社からの依頼でユニットバスの壁の腐色の修理補修・インテリアの提案なども行います。弊社の強みは、周りに工業系の工場が多いことから、モノが作りやすいという点です。
どのエリアの案件が多いですか?
主に、大阪の本町(大阪市中央区)界隈の繊維問屋、アパレル関係の企業が中心です。20代で勤めていた会社の得意先がそのエリアに多かったため、大阪に拠点を置いています。
とはいえ、東京に拠点を移している企業もありますから、東京にも職人チームがおり、出張して埼玉、群馬、千葉などの関東エリアを対応することもあります。
昨年12月に東京ビッグサイトで行われたコンテンツ東京では、フェローズブースの施工をしていただきました。モノづくりや施工、ディスプレイを手掛けるにあたって大切にしていることはありますか?
基本的な姿勢としては、先方の意向を最重視し、コスト削減のお手伝いをしています。金額で動く会社は多く、「費用対費用」というのは、ある意味わかりやすいです。しかし、最終的に、目に見える部分に一つでも傷があると、全部「傷モノ」に見えてしまいます。モノには表と裏がありますが、表はお客さまから見える部分なので、金額に関わらず、手を抜いてはなりません。いかに体裁よく見せるか、仕上げをどう見せるか、といった気持ちを作品に反映させていくことが大切です。
母からの教えが事業を動かす軸に。「一手間」で重ねる信頼
ホームページでも「心からつくす仕事」というのがコンセプトとして掲げられていますね。
昔から母に、「人様が寝ている時でも働け!どんな仕事も心からつくせ」とよく言われており、その考えは受け継いでいると思います。お客さまが私に声を掛けてくれるのは、「何とかしたい」「何かしたい」との思いからですので、その思いに応えたいんです。モノに対する思い入れがないと、100%以上の作品はできないと思います。
竹内さんのモットーを聞かせてください。
私のモットーは、「一手間を惜しまないこと」です。「完成したらすぐ納品」ということではなく、最後に本当にこれでいいのか、冷静に見直したうえで、一手間加えることが大事です。メールでも、送るときに文章をもう一度見直しますよね。それと同じで、焦って納品するとろくなことはありません。
ディスプレイの魅力は、「人の目に触れる喜び」。顧客を引きつける付加価値とは?
ディスプレイの魅力を一言で語ってください。
「人の目に触れる喜び」、この一言に尽きますね。ディスプレイ一つで見た人の購買意欲が沸き立ち、「今のシーズンはこういうのが流行りなんだ」と心が晴れやかになるなど、いろいろなことが考えられると思うんです。自分が制作したもの、考案したものが人の目に触れるのは、何よりの喜びです。
ディスプレイにも流行があると思いますが、自分の作品にどのように取り入れていますか?
今の環境では、お客さまからの指示に100%応えるというところですが、オーダーされた内容の解釈を間違わないように、日頃から流行や世間の動向にアンテナを張っています。
例えば、ヨーロッパや欧米の流行を雑誌、YouTubeで研究したうえで工夫するなど、お客さまが求めるものを形にしていくためにセンスを磨いていくことも必要だと思っています。できるだけお客さまと一緒に動き、目に飛び込んでくる世界の雰囲気や、カラーリング、形などとブレないような仕上がりを心掛けています。
だからこそ、納品した際にお客さまから「めっちゃええやん。完璧やん」みたいな評価をいただくと、とてもうれしいですね。
販売店、展示会で働いている人たちに対して伝えたいことはありますか?
ディスプレイは、内容のあるものを陳列することで、黙っていても人の興味を引いてくれます。モノだけ見て、モノだけ売れば良いという昔ながらのやり方では、人の興味を引きません。それにプラスして、コトの大切さです。モノはすでに溢れていますので、モノが欲しくなるような環境や仕掛け、喜びを提供するのがブランドの付加価値であると考えています。
例えば、街にある看板は、雨の日も晴れの日も、早朝も夜中も、24時間365日、会社名をPRし、人の目に飛び込むように立っています。これは、まさにディスプレイとしての基本ではないでしょうか。ディスプレイ台やテーブルの上に置かれているモノ一つにしても、人の目を引くように表現することで、それを見た人がその魅力に気づき、手に取ってくれるようになるわけです。
現場に足を運ぶことがモノづくりのベースに。一緒に働きたい人は「熱い人」
ビジョンをお教えください。
ビジネス展開としては、ネット販売に興味を持っています。しかし、長年顔を突き合わせて成長してきたお客さまや、今目の前にいるお客さまが大切です。お客さまの意向や流れを汲み取っていきながら、今後も歩んでいくんだろうなと思います。
スタッフと共有している思いや、仕事をするうえで心掛けていることはありますか?
現在スタッフは、私を含めて3人。スタッフには、「行き当たりばったりでモノを動かしてはいけない」「モノを一つ作るにしても、こっちを向かないといけない」と、作品の方向性を事前にきちんと組み立てるようにしています。事前に話していれば、そこに行き着いたときに、削り方、ツヤ、色などのイメージが彼らの中にも自然と浮かび上がっていきます。
どのような人と一緒に働きたいですか?
「熱い人」がいいですね。意見がバッティングすることがあるかもしれないけど、「私がやります!」と言えるくらいの情熱的な人と一緒に仕事がしたいです。人材をつなぎ止めるのではなく、一緒にみんなで同じ方向に行けるのが一番です。
竹内さんのようなクリエイターを目指している人たちに一言、アドバイスをお願いします。
単純ですが、「現場に足を運ぶこと」です。現場に出るということは、「多くを見る」ことにつながります。今百貨店ではどうなっているのか、ほかのショップではどのようなものを扱っているのかといったことは、オフィスにいるだけだとわかりません。人は歩いてモノを買いに行くし、「あの色がきれいだなぁ」といった自分の興味として目に飛び込んでくるモノは「外」にあります。
例えば、東京の地下鉄は、銀座線がオレンジ、半蔵門線はパープルなどのラインカラーがありますが、地下道を歩いていると足元に乗り場への案内を色分けして示されています。おそらく現場を見て、「行き方が全然わからない」と思った人たちが、ああいったものを作り出したのだと思います。生活者の視点で現場を見るところからアイデアが生まれ、それが実現化されていく。これこそがモノづくりのベースになるのではないでしょうか。
取材日:2024年4月19日 ライター:堀内 優美
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株式会社竹内ディスプレイ
- 代表者名:竹内 康喜
- 設立年月:2008年
- 資本金:300万円
- 事業内容:各種ディスプレイ関連/金属・木材加工/リノベーション/DTP・WEB Digtal Signage/運送・倉庫業/フレーム(額縁)
- 所在地:〒531-0074 大阪府大阪市北区本庄東1丁目21−11
- URL:http://takek.com/
- お問い合わせ先:http://takek.com/contact/