WEB・モバイル2024.08.28

AIが席巻する未来に向け心がけること。UI/UXのデザインとエンジニアリングで磨く対応力

沖縄
バッカム株式会社 代表取締役
Masahiro Kurokawa
黒川 正裕

UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)の設計・デザインをはじめ、AR(拡張現実)やAI(人工知能)、アプリ・Webシステムなどの開発を手掛ける沖縄のバッカム株式会社。東京出身の代表取締役・黒川 正裕(くろかわ まさひろ)さんは、CGデザイナーとしてのキャリアを築きながらフロントエンジニアとしての技術も磨き、幅広い事業展開を可能にしてきました。創業10年目を迎え、ますます多くのサービス開発にかかわる一方で、AIの急速な発達によってもたらされるであろう、事業の劇的な変化に危機感を抱いているという黒川さん。「常に未来を見据えて準備しなければならない」と語る真意を伺いました。

革新的なサービスをきっかけに、ゲームからWebの世界へ。震災きっかけに沖縄へ移住

東京ご出身だと伺いました。まず沖縄に移住するまでのキャリアから教えてください。

子どもの頃から美術が得意で、将来はゲームのデザイナーになりたいと思い、東京の美大に進学しました。大学ではデザインを勉強しながら、独学でゲームのプログラミングも学び、卒業後は株式会社セガでCGデザイナーとして働き始めました。
3年ほどたった頃、Webの世界に絵を動かしたり音を出したりする「Adobe Flash(アドビフラッシュ)」をはじめとした革新的な技術が出現しはじめ、俄然そちらに興味を持つようになりました。Webサービスの開発や制作に携わりたいと思ったものの、ゲーム会社にいるとなかなか触れる機会がありません。そこで会社を離れ、フリーランスのデザイナーとして独立することにしたのです。プログラミングの勉強は学生の頃から続けていたので、ゲームのデザインだけでなく、プログラミングの仕事も少しずつ請け負うようになっていきました。
フリーランスを続けるなかで、再び大きなターニングポイントが現れました。iPhoneの誕生です。それを境にアプリや規模の大きな開発にかかわる仕事が増え始めたほか、UIのデザインも手掛けるようになり、一気に仕事の幅が広がりました。そんな最中に縁あって、中国検索エンジン最大手の日本法人・Baidu Japan(バイドゥ株式会社)にUI/UXデザイナー、フロントエンドエンジニアとして勤めることになり、しばらくして株式会社DeNAに転職しました。
その後、DeNAに在籍しながら仲間とスタートアップの会社を立ち上げたのですが、2011年に東日本大震災が起きたのです。経済活動が一時ストップするなどして混乱していたまちを見て、当時は子どもが幼かったこともあり「東京を離れたい」と思うようになりました。そこで、旅行でたびたび訪れていた沖縄へ思い切って拠点を移しました。

ゲームのUI/UXデザインの知見を生かし、AIやARサービスも開発。さまざまな業種をサポート

生活だけでなく、仕事も沖縄を拠点にしたのですか?

DeNAやスタートアップを続けながらの移住だったので、当初は2拠点生活を続けていました。数年経ち、ようやく仕事が落ち着いてきたタイミングで、完全に仕事の場も沖縄に移し、バッカム株式会社を設立しました。

業務内容は東京から引き続きUI/UXデザイン、フロントエンドエンジニアリングなどが主軸だったのでしょうか?

基本的にはUI/UXの開発がメインでした。必要に応じてWebサイトの制作やプログラミングを行うこともあり、その守備範囲の広さが弊社の強みともいえます。
UI/UXのデザインだけでなく、実装の設計まで一貫して請け負えますので、クライアントにとってはメンテナンスがしやすかったり、コストを抑えられたりと、メリットを感じていただけていると思います。

近年でも、そのような案件を多く手掛けているのでしょうか?

そうですね。加えて、ARやAIを使ったサービスの開発が多くなっています。クライアントは化粧品メーカーや酒造メーカーなど、多岐に渡りますね。ARを活用して、韓国コスメのバーチャルメイクサービスを手掛けたこともあります。
最近では京都のスタートアップ企業や大手転職サイトのフロントエンド開発もお手伝いしています。

幅広く事業展開されていると感じますが、なぜそれが可能なのでしょうか?

扱う商材やサービスは違えど、ほとんどがUI/UXに関連することなので、基本的な考え方が共通しているからだと思います。また、ARやVRはゲームの開発に近い部分があり、もともと私がゲーム畑にいたことも功を奏していると感じます。

顧客の不安解消のため、相談時に試作。同時に上がる会社の「対応力」

さまざまな業種のクライアントと接していると思いますが、やり取りのなかで特に気を付けていることはありますか?

「ARを活用してみたいけど、制作期間や金額感などの想像がつかない」「まず何からどう始めたらいいのかわからない」というような相談を受けるケースが多々あります。しかしよくよく伺ってみると、UI/UX開発に関連することがほとんど。そんなときはすぐに簡単なプロトタイプを試作してみます。そうすることで、すぐにできるものなのか、あるいは時間がかかりそうなのか、という判断ができ、クライアントへも迅速にお応えできます。
このような経験の蓄積によって弊社のナレッジを増やすことができ、さまざまなご要望への対応力を上げることができたと思います。

AIの強みをうまく活用しながら、技術の急速な進化に備える

展望を教えてください。

今までやってきたことを続けていくことはもちろんですが、AIの技術がものすごいスピードで発達している昨今、弊社だからできる何かを見つけなければならないと強く感じています。今やプログラミングやデザインなどは、大部分がAIで賄えます。さらにこれから1、2年の間に、その範囲は確実に広くなるはずです。そうなったときに、AIではできない弊社にできることは何なのか。正直見つけきれていません。日々模索している最中です。

かなり危機感を抱いていらっしゃるのですね。

そうですね。弊社には私含めて4人の社員がいますが、数年前まではもっと人数は多かったんです。しかしAIを導入したことで人手があまり必要なくなってしまい、今の人数でも以前とほぼ変わらない仕事量をこなせています。
また、今まではAIを活用するにもある程度技術力が必要でしたが、今ではさほど重要ではなくなりました。さらに「人間にしかできない」と考えられていたクリエイティブな仕事でさえも、AIが問題なくできるようになってきています。だからこそ、危機感というか、弊社ならではの強みを作っていかなければいけないと痛感しています。

御社では具体的に、どの程度AIを活用しているのでしょうか?

プログラミングについては8割程度をAIが作っており、より理想的なものに近づけるため、残り2割を人間が担うという配分です。一つ一つを作り上げる作業についてはAIが力を発揮できるのですが、それらをつなげてまとめ上げる作業は人間の方が優れていると思います。雑誌の制作で例えるなら、個々の記事はAIが書いて、全体の雰囲気を統一しながら編集するのは人間というイメージです。
とはいえ、このような役割分担もあくまで現時点でのことなので、1年後にはどうなっているかわかりません。それほど、AIの精度は急速に発達しています。

AIの進歩とともに企業も個人もアップデートが必須。組織体制は「自律分散型」

沖縄で長年仕事をしている企業として、そのような危機感は沖縄のIT業界に対してもお持ちですか?

東京と比べると、どうしても後れを取ってしまっている部分はあると思います。例えば、IT関連の技術を学べるスクールは沖縄に多いですが、そこで学んだスキルはどんどん古くなってしまいます。今一生懸命学んで覚えたことを、AIがどんどんできるようになってしまうんです。私自身も、他社から頼まれてAIの講習をしたことがあるのですが、2〜3カ月後にはガラリと変わっていたこともあります。
一度覚えれば盤石、ということは決してありません。だからこそ、ITを学んでいる学生はもちろん、企業に属している方であっても、目先のことではなく、もっと未来を見越して備えていく必要があるんです。学び続け、アップデートし続けなければならないと、自戒を込めて思いますね。

そのような時代のなかで、どんな方と一緒に仕事したいと思われますか?

現在弊社の業務は、すべてリモートで行っています。コロナ禍がきっかけでしたが、今ではオフィスさえも手放しました。社員と食事などに行くことはありますが、仕事上では何年も会っていないんですよ。自律分散型ともいえる体制を敷いているので、社員は自らをマネジメントしなければなりません。また、前提としてある程度のスキルは必須です。
「AIの進歩とともに自分自身もアップデートしなければならない」という私の考えにも通じるのですが、社員に対しても、自ら学び、手を動かし、マネジメントできる能力を求めています。そのようなことができる方であれば、住んでいる地域を問わず、どんどん参画していただきたいですね。

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

取材日:2024年7月11日 ライター:仲濱 淳

バッカム株式会社

  • 代表者名:黒川 正裕
  • 設立年月:2014年1月
  • 資本金:200万円
  • 事業内容:AR開発、AI開発、UI/UX開発、アプリケーション開発、webシステム開発
  • 所在地:〒900‐0015 沖縄県那覇市久茂地 2-2-2タイムスビル2F
  • URL:https://backham.me/
  • お問い合わせ先:

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