「線1本の引き方で、服は変わる」。商品を3DCG化、DXで拓くファッション業界のものづくり

大阪
株式会社F.D.I. 代表取締役社長
Ichiro Nishii
西井 一朗

アパレル会社を起点にあらゆるアイテムの3DCGデータ制作を行っている大阪の株式会社F.D.I.。「ファッションにおける“デジタルとリアルの融合”」を見据えて、事業を展開されています。実物ありきのファッション業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進める意義と、変動の激しい世界で見つめ直した「事業の在り方」について、代表取締役社長の西井 一郎(にしい いちろう)さんにインタビューしました。

コロナ禍で変化したファッション業界のマーケット。「自分たちだからできること」を模索し続けた

会社の成り立ちを教えてください。

アパレル商社である島田商事株式会社の子会社として、2021年10月に立ち上げました。もともと本社の事業本部で企画を行っていた当時、東京での展示会でパターン(洋服の型紙)がデジタルデータで紹介されているのを知り、「将来的にデータで衣類を取り扱えたらとてもいいな」と思ったのがきっかけで分社しました。DX化(デジタル技術を活用した変革)の流れに乗るためにはスピードがとにかく重要なので、分社化することで事業決定が早くなり、ニーズに対してスピード感をもった対応ができるようになりました。

コロナ禍で会社を立ち上げられていますが、変化への対応が難しかったのではないでしょうか?

そのとおりです。私たちは実物ありきの業界なのでリモートでの運営には苦心しました。でも、リモートだからこそ“3DCGを活用することで商品を理解していただきやすいのでは”と考えました。
また、ファッション業界のマーケットも変化してきています。大きな流れとしては“既製品の大量販売”から“オーダーメイド・オリジナリティ・カスタマイズ”に価値観がシフトしてきていることです。コロナ禍をきっかけにこの勢いが一段と加速しており、その鍵となっているのはやはりDX化です。
欧米ではすでにデジタルへのシフトが進んでいている一方、日本の盛り上がりは一時的で、旧来のアナログな方法に落ち着いています。グローバル視点も取り入れながらDX化に取り組んでいる我々としては業界の風潮を変えていかなければいけません。「自分たちだからこそできることは何か」と常に立ち返りながら事業を進めています。

ファッション業界ではほかにどんな動きがありますか?

SDGsへの取り組みも大きな動きですね。アパレルではシーズンごと(※春夏/秋冬の年2回)で定番アイテム以外は基本的に廃棄しています。当然ながら、合わせて作ったボタンや副資材のサンプルも廃棄せざるを得ません。欧米では「使える衣類を廃棄することはよくない」という意識が強くなっていて、DX化によってその無駄を補填できる場面もあります。世界全体の流れを受けて、日本でも少しずつ持続可能な衣類生産への意識が高まっています。その課題解決の突破口の一つとして、DX化を取り入れた事業に取り組んでいます。

さまざまなアイテムを3DCG化。モデリストの経験がクオリティーを後押し

御社の事業についてお聞かせください。

ファッションに関わるアイテムの3DCGでのデータ、画像、動画の制作と360度ビューワーやカスタマイズシステムサービスを行っています。具体的にはアパレル・シューズ・インテリア・宝飾・工業製品・機械・雑貨・時計などですね。基本的にはファッションに関わるアイテムが中心ですが、ほかの業界・製品のデータ化にも対応しています。

ファッションと3DCGが結びつきにくいです。詳しく教えていただけますか?

お客さまからご依頼いただいたアイテムを3DCGデータ化してお渡しします。実物、二次元のイラスト、さまざまな媒体からデータへの変換が可能で、アイテムの雰囲気やブランドイメージを一目で伝えることができます。
私自身もモデリスト(パタンナー)としての知見と経験を持ち合わせているので、細かいニュアンスを取り入れた仕様書分析をし、ご提案しています。服づくりにまつわる背景知識が少ないと不要な工数が発生するうえに、ニュアンスを上手く反映することができません。「細かくいわなくても意図が伝わってクオリティーが高いサービス」をお届けできるように取り組んでいます。

「言葉が通じなくても3DCGなら伝わる」。非言語を汲むサービス展開

まさに「かゆいところに手が届く」サービスですね。事業の強みや具体的な活用例はどんなものがありますか?

当社を挟んでいただくことで、デジタルとリアルをスムーズにつなぐことができます。さらに課題があれば、島田商事というバックボーンも活用しながら解決への伴走ができる。そんなサービスを届けられるのが、トータルでファッションというジャンルを取り扱っている私たちの強みですね。そのような部分までも深くご理解下さって好意的なお声をいただけるようになってきました。
3DCGの強みは「言葉が通じなくても3DCGだと伝わる」ことです。日本語でのやりとりが難しいインバウンドの方々に特にご好評いただいていますね。商品に対してQRコードを発行します。それはInstagram、受発注の書類、工場にも連動しています。お客さまはすぐにSNSへ投稿することができ、当社は受発注管理ができる。スピードがあがると同時にミスもなくなります。

データ化するといいことづくしですね。さらに詳しく教えてください。

3DCGだと「具体的で直感的にわかりやすい」のもメリットです。360度ビューワー機能を使えば、色やサイズの違い、動き、全体像もイメージできます。背景シーンを選定できることで、現場での使用感が一目でわかります。例えば、軽作業用のユニフォーム制作なら、倉庫の明るさや作業内容によっても仕様が変わりますよね。何色が目立ちやすく作業性があがるか、反射材をどこに付けたら暗所作業でもわかりやすいか…全部データで再現ができます。これまでなら実物でご提案するしかなかったので、データを活用することで無駄なく効率的に進めることができます。

デジタルとアナログの橋渡し。ファッション業界のDX化で「よりよいものづくり」につなげたい

分社化してDX化を進めるメリットはなんですか?

私たちだからこそできることは、 3DCG制作とDX化を用い、アパレル業を展開している本社と連動しながら、トータルサービスでご提案することです。
また、実際に商品を作るときにイメージと仕上がった実物には必ず差異が出ます。データ上ではきれいなイメージなのに、リアルではそれが上手く出せない。そのような課題がある場合も、解決のためいろんな角度からリアルなものづくりのフォローをさせていただけるサービスもご提供しており、これらは私たちグループの盤石なものづくり体制があるからできることだと思っています。

DX化で解決できる問題にはどんなことがありますか?

どこの工場や店舗でも抱える問題の一つに「在庫管理」があります。物理的な制約もありますし、商品管理の煩雑さも伴います。在庫商品をデータにして保管すれば「いつ・どこで・誰が・何を買った」がすぐにわかります。ストックする場所や実物がなくても、3DCGで見ればどんな商品だったかも一目でわかる。購入履歴を辿ることもできる。あらゆる情報を紐づけしたうえで、何十年と保管することもできます。これは、担当者が入れ替わったときの引き継ぎにも生かすことができます。

業界全体はDX化に関してどんな雰囲気なのでしょうか?

アパレル業界は全体的にDX化が遅れています。大手メーカーなどはいち早く取り入れて成長されていますが、周辺業界、現場、工場などはまだまだアナログです。DX化というと人員削減を連想されることが多いのですが、そうではない。効率化して仕事の精度を上げていき、ひいては“ものづくりに専念できる環境”を整えていきたいと考えています。
また、業界の中で生まれている“デジタルとアナログの差をつなぐ役割”を私たちだからこそ先頭をきって担っていけるのではと考えています。ファッション業界にDX化を普及することで「よりよいものづくり」につなげていきたいと思っています。

事業を進めるうえで大切にしていることは何ですか?

1番はお客さま目線です。お客さまにどれだけご満足いただけるかにまず注力しています。それはリアルやデジタルに関わらず「お客さまがどのようなものを作りたいのか」を一緒に考えながら作っていきます。
社内に対しては「いろいろな意見が出せる雰囲気」を大切にしています。人数があまり多くないからこそ1人1人の思いや意見を聞きたい。「自分が意見をいったらダメかもしれない」という空間にはしたくないと思っています。

「パターン線1本の引き方で、服は変わる」。伝統技能とデジタルを融合させて次の時代を切り拓く

どんな仲間と働きたいですか?

メディアクリエイターとSE(システムエンジニア)はそれぞれ貴重な存在で、これからも充実させていきたいです。ファッション業界に関する経験は不要で、「とにかくこの仕事が好き」「自分でいろいろと開発してみよう」という気持ちで取り組める方々とものづくりできるとうれしいですね。

展望をお聞かせください

次世代の感性やデジタル技術を融合させた3DCGデータ制作、高度なモデリストの伝統技能など、ファッションにおけるものづくりを体系的に若手に伝えていけるサービスを提供していきたいと思っています。
服づくりにおいて、AIで代替できない部分があります。例えばオーダーメイドのメンズスーツを作るときです。細かいパターン線1本の引き方で、服は変わります。AIがこの部分を学習するための経験値ともいえるデータがまずない。また、「目の前の人の微細なニュアンスやシーンを想定しながら作る」という行為もやはり難しいと思います。手前味噌になりますが、このようにファッションにおけるものづくりについて本質を捉えながら、体系的に身に付けられる機会や場所が日本では希少ですので、ノウハウを持ち合わせた私たちがその担い手になれればと思います。

取材日:2024年7月29日 ライター:大野 佳子

株式会社F.D.I.

  • 代表者名:西井 一朗
  • 設立年月:2021年10月
  • 資本金:1,000万円
  • 事業内容:3DCGでのデータ、画像、動画、Viewerの制作
  • 所在地:
    〒540-0012 (大阪)大阪府大阪市中央区谷町3-1-12 2F
    〒103-0001 (東京)東京都中央区日本橋小伝馬町16-2 2F
  • URL:https://f-d-i-3dcg.com/
  • お問い合わせ先:

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