石川の和文化を未来へつなぐ元ミス加賀友禅の挑戦。伝統を創造・発信し、「革命を起こしたい」

金沢
株式会社若岡和奏 代表取締役
Maki Wakaoka
若岡 真紀

“金沢らしさ”をテーマに、着物や伝統工芸の魅力を発信し、人と人、人とモノをつなげる活動を行っている石川の株式会社若岡和奏(わかおかわそう)。ディレクションやイベント企画、モデル育成、プロモーション動画の制作まで、伝統工芸の素晴らしさを伝える取り組みは多岐に渡り、感動を生み出すプロデュース力が各方面から高い評価を得ています。代表取締役の若岡 真紀(わかおか まき)さんに、創業の経緯や事業への思い、展望について伺いました。

ミス加賀友禅に就任し、無関心から一転“金沢の魅力を伝えたい”。作家の嘆きから奮起し起業

着物や伝統工芸への造詣が深く、多くのプロデュースを手掛ける若岡さんですが、以前はまったく興味がなかったそうですね。

加賀てまりの作家として活動する母が日常的に着物を身につけていたほか、九谷焼や輪島塗などの伝統工芸品も自宅にあり、地元(石川)の伝統文化が身近にありました。しかし、そういった伝統的なものが昔は嫌いだったんです。母が授業参観に着物を着てくるのも喜んでいたわけではなくて。

それが一転して、着物に興味が湧いたきっかけというのは?

2011年に石川の加賀友禅着物の魅力を発信するミス加賀友禅の8代に選ばれたことです。20代前半での選出が通例だった大会で当時29歳の私が選ばれたのは異例でした。笑顔でアピールするだけでなく、自分の言葉で加賀友禅の魅力をしっかり話せた点を高く評価いただきました。でも、会場がザワザワしたのを今でも覚えていて…(笑)この人たちをミス加賀友禅の活動を通してアッと言わせたいと思ったんです。決定後から着物が本当に好きになって、美しく見える所作や伝統工芸の知識を積極的に学ぶようになりました。

若岡和奏を立ち上げたのも、そのタイミングだったのでしょうか。

ミス加賀友禅の任期が終わった頃です。当時新幹線開業でメディアが石川の魅力を発信しようと多く訪れていましたが、伝統工芸の作家さんと話す中で「取材されるのは有名作家だけで自分にはスポットが当たらない」という悲観的な声が多く聞かれました。素晴らしい人が多くいるのに、メディアに取り上げられるのは一部だけ。「このままでは石川県の伝統工芸は存続していかない」「自分が作家さんの力になりたい」という強い気持ちが湧き上がりました。
手始めに作家さんのイベントを手伝ってみると面白くなってきて、本腰を入れて取り組もうと14年に個人事業として若岡和奏を立ち上げました。ただ、1人では難しい部分もあり、当時サラリーマンだった夫に声をかけ、2人で本格的に活動をスタートしました。

2020年に法人化されましたが、社名にはどのような思いが込められているのでしょうか。

着物の「和装」からもじって、「和を奏でる」という意味を込め「和奏」としました。私たちが石川県の伝統文化をプロデュースしたり、言葉で伝えたりすることで魅力が広がっていけばいい。人とモノの間に心地よい音楽を奏でるようなお手伝いがしたい。そんな気持ちを込めて名付けました。

伝統工芸から可能性が広がり、石川の魅力を発信へ。モデルの育成のほか、広告、PV制作も

幅広く事業を展開されていますが、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

伝統工芸ディレクションは、伝統工芸の店舗を企画したり、商品開発のアイデアを考えたりする取り組みで、最近はオリジナルの商品開発にも力を入れています。
自身のモデル経験も生かし、着物や「和」をテーマにしたショー・イベントの企画、出演するモデルの育成も行っています。とくに加賀友禅にはストーリーがありますから、着物で見せどころを理解し動けるモデルが必要なんです。
そのほか、国際貢献・女性の地位向上などを理念に掲げる世界3大ミスコンテストの日本版であるミス・ワールド・ジャパン石川大会のプロデュースや審査員、ウォーキング・所作指導、専門学校で和装の授業も担当した実績もあります。

近年はさらにオファーが増えているそうですね。

伝統工芸から広がって、石川県の文化・魅力を発信する依頼もいただくようになりました。各市の観光担当とともに観光商品を作るアドバイザーを務めています。ゼロから観光ツアーを立ち上げてクリエイターとタッグを組み、PV制作も行い、プロモーションも展開しています。これまで続けてきた事業に加え、観光コンテンツとPVの制作、広告デザインなどの仕事もメインになりつつあります。

二人三脚で伝統にとらわれず「革新を起こしたい」

御社の強みを教えてください。

アイデア、プロデュース力、企画力、この三つです。いろいろなインプットをしているのでアイデアは私がふっと思いつくのですが、ゴールまでの道筋を立てるのが苦手で。その点、プロデュース力は夫の方が高いので、どうしたら実現できるか意見を出し合い形にしていきます。夫は元々ダンサーだったので振り付けやショーの構成を考えられるほか、クリエイター気質なので職人さんの気持ちがわかるんです。作業やデザインは彼の担当、私は言葉で伝えたり、身につけたりしてアピールする。二人三脚で若岡和奏の力を最大限に発揮しています。夫婦喧嘩はまったくしませんが、ビジネスパートナーとしての喧嘩は毎日していますね(笑)。

プロデュースを行う際に大切にしているのはどのようなことでしょうか?

伝統は大切にするべきですが、いい意味で「伝統にとらわれない」ことは常に意識しています。生活様式は次々に変化していくので、変化・革新していかないと、終わってしまうんですよ。伝統工芸は何百年も前から続くものですが、時代にそぐわなければ伝統工芸は使う人が減っていく。そうならないためにも、革新し続けることが必要です。
さらに、「固定概念を覆す」こともテーマに掲げています。しかし職人さんは、伝統工芸の新しいカタチをご提案しても「それは加賀友禅じゃ無理、九谷焼じゃ無理」ということが多い。どうしたら限界点を作らず、受け入れてもらえるかを常日頃から考え、「革命を起こしたい」という気持ちで取り組んでいます。

工夫と苦労を重ね、やり終えた時の笑顔が一番の喜び。依頼が急増したある仕事とは?

今までの仕事の中で印象に残っているものは?

2019年に金沢市の中心市街・香林坊の商業施設で開催した加賀友禅のショーです。金沢市と加賀友禅がコラボし、新しい加賀友禅を作るプロジェクトのお披露目だったので、これこそ私たちがやりたいことだと非常に力が入りました。スイーツや音符の柄が斬新に彩られている加賀友禅があり、ただ着て歩いて見せるだけでは面白くない。着物のテーマに合った音楽を見つけ、イメージを膨らませて曲に合わせて舞うような振り付けをつけるなど工夫をこらしました。

これまでにはなかった着物ショーですね。反応はいかがでしたか?

ステージの立地的にお客さまが素通りすることが多いと聞いていましたが、当日は満員御礼で。かなりの混雑ぶりに担当者も驚いたほどでした。評判も非常に高く、それだけ皆さんの心に響いたのだと実感しました。若岡和奏のプロデュース力を知ってもらう機会にもなり、ショーがきっかけで新たな仕事も急増するなど、事業の幅が大きく広がる転機になりましたね。

仕事をしていて一番喜びを感じるのはどのような瞬間ですか?

笑顔を見ることができた時がやはり一番うれしいです。ショーを開催するにも、モデルや音響技術者など多くの方が関わります。皆さん仕事が終わった時に「大変だったけど、若岡さんと一緒に仕事すると楽しい」と言ってくれて。その笑顔を見たくて仕事をしています。ここでの「楽しい」は「楽(ラク)」という意味合いを含まないので、苦労や努力、手間は十分かけて高みを目指しつつ、楽しく仕事をすることをモットーにしています。

「伝統工芸×エンタメ」でさらなる挑戦を。クリエイターに伝えたい“限界を決めないで”

今年は、さらに新たな挑戦をスタートさせたそうですね。

創業時から構想していた伝統工芸とエンターテインメントをかけ合わせて発信する、というプロジェクトが形になったんです。ダンスボーカルグループ「石川県伝統工芸アンバサダー」とパフォーマンスユニット「若舟(じゃくしゅう)」というイメージの異なる二つのグループを立ち上げ、今年活動がスタートしました。若い世代にも伝わるよう、リアルな同世代が加賀獅子頭や加賀友禅を身につけ、歌や踊りで表現し、石川県と伝統工芸の魅力を発信します。
エンタメにはやはり魅力があって、歌ったり踊ったりすると皆さん足を止めて見てくれるんですよね。すでにメディアからの取材も多く、注目度が高いです。このプロジェクトを皮切りに伝統工芸にもっと目を向けてもらい、石川の伝統文化の未来について考えるきっかけになったらうれしいです。

創業から10年目を迎えましたが、次の10年に向けた、目標や展望を教えてください。

私たちのプロデュース力の高さをもっと知ってもらいたいですね。まだまだ認知度が低いので、どんどん突き進んでいきたいと考えています。とにかく石川県のプロモーションに関して困ったらここがなんとかしてくれる、という立ち位置にいたい。会社のキャッチコピーが「石川県のことなら若岡和奏」になるような会社として成長していきたいと思っています。

一緒に働くクリエイターに対しては、どのようなことを求めますか?

“感動ポイント”を作れる力です。例えば、映像なら「うわぁ、鳥肌が立つ!」と言いたくなる素晴らしいカット、写真なら「これ奇跡の1枚だよね」と感じる作品など、光るポイントを必ず作ってくれることを求めています。

最後に、クリエイターへのメッセージやアドバイスをお願いします。

まず、限界点を自分で設定してほしくないということ。若い子たちはとくに、天井を作ってしまうことが多いですよね。限界は決めずに全力で取り組んでほしいと思います。
そして、感動するほどの作品を生み出すというマインドを常に大切にしてほしい。やはり感動というのは人の心と記憶に絶対に刻まれる、非常に強い感情です。そこを目指して努力を惜しまないでほしいですね。

取材日:2024年8月7日 ライター:酒井 恭子

株式会社若岡和奏

  • 代表者名:代表取締役 若岡真紀、取締役 若岡博
  • 設立年月:2020年2月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:イベント・ショー企画演出、プロモーション事業、和小物・伝統工芸販路開拓、webショップ運営、伝統工芸文化ディレクション
  • 所在地:〒920-0022 石川県金沢市北安江1-11-7-20
  • URL:https://wakaokawasou.com

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