「瞬間芸術」を支える基準線。音楽から生まれるデザインで、音楽業界を視覚的に伝える
美しく、わかりやすく情報整理されているデザインは、時に音楽からインスパイアされて生み出されます。京都の株式会社デザイン・グリッドはおもにクラシック音楽関係の演奏会に関わる宣伝物のデザインから印刷までを一貫して手がけています。お客さまのニーズに合わせたデザインは、インパクトのあるもの、意外性のあるもの、シンプルなものと多様です。代表取締役を務める清水 俊孝(しみず としたか)さんの中に流れる音楽とデザイン、そしてデザイン・グリッドが大切にしているものとは何か、お話を伺いました。
気がつけばいつも音楽がそばにある。勤めていた会社の廃業で起業を決意?
デザイン・グリッドを設立したきっかけを教えてください。
デザイン・グリッドを立ち上げる前に、京都のデザイン制作会社に20年以上勤めていました。長く続いていた会社でしたが、事業継承や条件が合わず廃業してしまいました。
クライアントさまにご迷惑がかかるのはよくないですし、働いている社員も会社がないと困ります。そこで、2013年9月11日にデザイン・グリッドを立ち上げました。
音楽関係でデザインの仕事がしたいと希望されて、今のお仕事を始められたのでしょうか?
積極的に希望したというよりは「運がよかったから」です。確かに、父のムードミュージックや母の昭和歌謡などが流れている環境で育ち、幼い頃から音楽が大好きで、ジャンルを問わず聴いていました。思い返してみれば、10代の頃からカセットテープのインデックスや、チラシの切り抜きを集めるのも好きでしたね。
長年つとめていた会社がたまたま音楽関連に特化した仕事を手がけており、専門的な分野のお仕事をいくつかこなしていく中で自分自身が「音楽関連のデザイン」をこなせるようになりました。結果的にすごく自分に合っていたということを、ここ最近思うようになってきました。
見えない線で情報を整理し、伝える物事の基盤になるグリッド
デザイン・グリッドの名前の由来を教えてください。
「グリッド」とは縦横の格子状のことを指し、「物事の基盤になるような基準線」という意味合いがあります。それと京都市内が縦横に碁盤の目になっているところからとっています。デザインというのものは、見えない縦横の線を想定し、いかに美しく情報整理をしていくかの仕事なので、この名前にしました。
今おこなっている事業内容について教えてください。
主にクラシック音楽関係の演奏会に関わる宣伝物の作成をしています。チラシやポスター、演奏会当日の公演プログラム、Web上のバナー広告制作などのデザインから印刷までを一貫してお受けしています。
依頼元としては大きく分けますと三つの柱があります。まずはアーティストやオーケストラをマネジメントしているマネジメント会社さま、二つ目は管弦楽団や交響楽団など日本のオーケストラ団体さま、三つ目は公演が行われるコンサートホールさまからの依頼があります。
クライアントさまから直接お声かけがあり、仕事につながることがほとんどでしょうか?
はい。「これはどこの会社で作られたの?」というお声から弊社を紹介してもらうこともしばしばあります。あとは昔からの信頼関係で依頼していただいている場合もあります。
こちらから営業をかけていくような感じではなく、受注生産がメインになっています。しかし時間を自由に与えられて、「究極のデザイン」が出来上がるまでに時間があるかといわれると真逆の世界です。納期が短い中でクライアントさまに満足いただけるものを作り出すことの方が圧倒的に多いので、その中でどのような個性を出していけるかが仕事のポイントになりますね。
主観と客観の着眼点が「究極の差」の秘訣
デザイン・グリッドの特色を教えてください。
長年同じ業界のお仕事をさせていただいているので、音楽の専門用語や文章の構成を弊社の社員は見慣れています。そのため、入稿された原稿が間違っていたら、校正時に指摘させていただくこともあります。
また社員全員が企画から打ち合わせ、デザイン、校正、印刷までの流れを担当しトータルプロデュースをしています。サッカーに例えていうならば、シュートを打ち、キーパーとしてゴールも守るような特殊な形態の会社になっています。
デザインをするうえで工夫されていることを教えてください。
ご依頼者に複数のデザイン案を提示する際は、異なったテイストのものをご提案させていただいています。
というのも、ご依頼者のご希望に沿ったデザインをすることが基本であることはもちろんですが、公演内容をよりよく広めるため・より観客の方々に来ていただけるために、こちらから異なったテイストのデザインをご提案させていただくことで、よりよいデザインになることを目指しているからです。
デザインをする際、独りよがりにならないよう、常に客観的な視点をもつように心がけています。
そのため、例えば、街を行き交う人々の服装の色合いや、 各種サインディスプレイ、書店に行った時の装丁等、常にアンテナを張り巡らしています。
ネームバリューのあるアーティストさまの公演ですと、情報量は少なく、ビジュアルをメインに出したインパクトのあるものに仕上げる場合もあります。逆にありとあらゆる情報を詰め込まないとチラシとして成り立たない場合もあります。クライアントのニーズに合わせて、写真の載せ方、タイポグラフィやサイズ、配色など、さまざまな観点から考えることで「究極の差」がデザインに出てくるのだと思います。
瞬間芸術を支えるデザインは、音が溢れる社内で生み出される
デザインの生み出し方についてお伺いしたいです。
音楽からデザインが思い浮かぶことが多いです。音楽を聴いて、すぐにデザインが出てくると楽なんですが、どういう音楽なのかという点は大事な部分です。
コンサートは、生のライブです。「瞬間芸術」という言葉がありますが、その部類に値するものです。ですので、奏でられる音楽に恥じないようなデザインを作りたいと常に意識しながら仕事をしています。
稀に直接アーティストの方や場合によっては指揮者の方から、リアクションをいただけることもあります。お客さまのマネジメント事務所さまから「すごくいいね」という言葉をいただくこともあるので、それが1番励みになります。
音楽を聴いて、デザインのアイデアが浮かぶということですが、会社でのBGMは何を流しているんですか?
クラシックの音楽ばかりを聴いて、クラシックの仕事をしているのかといいますと、そうではなく、ジャズ、ポップス、ロックなどジャンルを問わず流しています。これは私の個人的な主観になりますが、何か音が流れている中で仕事をする環境と、まったく無音の状態で仕事をする時ではデザインの進み具合や出来具合が違ってくると思うんです。
違う業界のお客さまの事務所に行くと電話の応対が多いのか、何も音楽が流れていない環境で働いている方が圧倒的に多いんだと、この仕事をやってきてふと気付かされたことがあり、それで弊社は特殊なのかなと個人的に思いました。
どんなジャンルの音楽でもレコードやCDのジャケットを見るだけで、それらのデザインに刺激を受けます。その中で自分がピンと来て引っかかったものをアイデアとして参考にすることもあります。
信頼していただいているお客さまに、満足していただける会社であり続けたい
これから先、目指している社会やビジョンがあれば教えてください。
積極的にほかの業界の仕事をしたい、もっと会社を大きくしたいという願望は0ではありません。戦国時代に例えると「領土拡大したい」という気持ちはあります。
ただそれ以上に現在の私たちを本当に信頼していただいているお客さまに対して満足いただけるような会社でありたいという思いの方が私自身は強いです。今できることをきっちりやって、将来振り返ってみるとこんなに成長していたんだと思うような形が望ましいのかなと思います。
あとは弊社には20代、30代の社員がいるわけではないので、若い方でこういう業界に興味がある方とチャンスよく巡り合えば、歩み寄りながら育てていきたいというビジョンは持っています。なにより最終的にやっぱり人だと思っています。「人と人とのつながりが先にあって、仕事をいただけている」と、この会社をやってきて実感しているところですし、その部分は今後も大事にしたいなと思っています。
取材日:2024年10月2日 ライター:藤木 彩乃
株式会社デザイン・グリッド
- 代表者名:清水 俊孝(代表取締役)、南野 眞行(取締役)
- 設立年月:2013年9月11日
- 資本金:500万円
- 事業内容:各種印刷物のデザイン・企画・製作・印刷、Webコンテンツの企画、バナー、ページ制作、広告宣伝代理業
- 所在地:〒606-0817 京都府京都市左京区下鴨西林町22
- URL:http://www.designgrid.co.jp/index.html
- お問い合わせ先:075-741-8478 / fax.075-741-8479